「それでね、この前の大会で……」
男子寮の一室から、少女の楽しげな声が間断なく聞こえてくる。
本来のこの部屋の住人がひどく愛想無しであることを考えると、少々異常ともいえるこの事態について、
しかし一番驚いているのは誰であろうサンダース本人であった。
……本当にこんなことになるとは。
入学当時から妹のように可愛がってきた彼女と正式に恋仲になったのは、丁度今から一ヶ月前のこと。
口下手な自分の人生始めての告白は、聞き取りがたいわ要旨がはっきりしないわで、自身ですら「最悪だ」と言い切れる出来だった。
けれど、それを聞いた彼女はいつもの心を蕩かせる笑みに若干の恥じらいをプラスした顔つきで答えてくれたのだ。
「ありがとう。アロエもお兄ちゃんが好き」と。
そのときの喜びをどう表現したらいいか、あいにくにしてサンダースには文才がないのでうまく言い表すことはできないのだけれど、
少なくとも十数年間生きてきた中で最も嬉しかった瞬間であるとだけは確実に宣言できる。
――彼女への想いに気づいたとき、頭の中では犯罪とか変態とか色々な単語が飛び交っていた。
言わないほうがいいのかとも思った。言わずに、『優しいお兄ちゃん』の立場を守り通すほうがいいのだろうかと。
けれど、鈍感な自分が恋心を自覚したころには、全身もうその想いでいっぱいいっぱいになっていて、告げずにいることは不可能だったのだ。
あっけなく玉砕していい思い出にでもしようとでも最初から諦めていたところに、彼女のオーケーは予想外すぎた。
だって、彼女のような女の子が惹かれるのは、もっと顔も性格も良いまともな男だと思っていたから。
たとえば明るくリーダーシップのあるレオンや温和で面倒見のよいカイルのような、王子様然とした男達。
自分とは百八十度違う、そんな男達に恋をするのだと思っていたから。
……だからまさか、自分のように不器用で無愛想な人間を好きだとは思ってもみなかった。
仏頂面を崩さぬままでそう考えるサンダースの向かいでは、いまでは恋人であるアロエが天使のようににこにこと微笑んでノートを広げている。
自分の質素なノートとは違い、色とりどりのペンやシールでカラフルに彩られたそれがあまりに彼女に似合っていて、思わず苦笑する。
「今、笑った?」
「いや」
「うそ、笑ったよ! ふんっ、どうせお兄ちゃんも子供っぽいとか思ってるんでしょ!」
言いながら、目を吊り上げてべっと舌を出す仕草が何よりも可愛らしい。桃色の舌はまるでミルクを舐める子猫のそれのようだ。
「笑ってなどいない。もしそうなら……いや、何でもない」
途中まで言いかけてやめたサンダースの言葉に興味を持ったらしいアロエが、続きを聞こうとにじり寄る。
互いの吐息まで感じる距離にまで近づかれてサンダースが鼓動を早める一方で、まだこういったことに頓着しない年齢らしいアロエは少しの動揺もない。
「なーに? 気になるよぉ」
「……下らないことだ」
「ずるい。言って?」
唇が重なりそうなほど接近された上、上目遣いでお願いのポーズをとられては、さすがのサンダースにも逃れる余地はない。
できる限り彼女の顔を見ないよう顔を背けて、蚊の鳴くほど小さな声でぼそりと呟く。
「……もしそうなら、お前が可愛らしすぎるせいだ、と言おうとしたんだ! これでいいか!」
耳まで朱に染めてそっぽを向いてしまったサンダースの背中に、アロエがくすくすと鈴の鳴るような笑い声を放つ。
「わ、笑うな!」
「だってぇ……」
まだ笑いが抑えきれないアロエが、反対側を向いてしまったサンダースを振り向かせようと背中に寄り添う。
後ろから背中にぴったりと身体を付けたまま首に腕を回して、愛しげに声をかける。
「ありがとう、お兄ちゃん」
「…………」
ますます顔を赤くするサンダースへ、アロエが更に全身をきゅぅっと密着させる。
子供特有の高い体温が背中に広がっていくのを心地よく思う一方で、押し付けられる胸のふくらみに戸惑う。
いまだ凹凸に乏しいとはいえ、アロエは確かに女の子の体つきをしているのだ。
本人は悪気なくやっているつもりでも、されている男からすれば甘美な拷問に等しい。
「……アロエ、離れろ」
「どうして?」
「どうしても、だ」
命令を聞こうとしない彼女を無理やり背中から離すと、向き直ってもう何度目か分からない説明をする。
「あんまり男にべたべたするな。たとえ俺であっても」
「何で? 恋人なのに」
これまた何度目か分からない質問を投げかけるアロエに、サンダースはふっと表情を消し明後日の方向を見据えて告げる。
「……お前の身体に触れたくない」
――本当は、あまり触れていると自分の理性に自信がなくなるからなのだけれど、そう正直に言うには心が咎めた。
目線を合わせようとしないサンダースに、アロエが戸惑いがちに口を開く。
舌ったらずな口調で言葉にしたそれは、しかしサンダースを驚愕させるのに十分な破壊力を持っていた。
「じゃあ、お兄ちゃんはアロエと『せっくす』しないの?」
「……なっ」
絶句するサンダースには構わず、アロエは言葉を続ける。
「その、ユリお姉ちゃんがね『恋人同士ならするものだよ』って。お姉ちゃんは毎日タイガお兄ちゃんとしてるよって、そう言ってて……」
どこか恥ずかしそうに目の下を赤く染めながらも、真面目な顔で尋ねるアロエ。
その問いに、サンダースは喉から搾り出すような声で言葉を返す。
それは傍から見れば愚直なほどに禁欲的な決断だったが、以前から自分の中では決めていたことだった。
「……少なくともお前がアカデミーを卒業するまで、それをするつもりはない」
「……どうして? お兄ちゃんとアロエは恋人なんでしょう? それともお兄ちゃんはアロエのこと恋人だと思ってないの?」
縋るような目つきで問いかける少女の表情は痛いほどに真剣で、サンダースは心臓を握りつぶされたような気がした。
丁寧に撫で付けられた銀の髪をぐしゃぐしゃとかき上げると、大きく嘆息して口を開く。
見つめる先にいる少女の純粋な瞳に気後れしながら、己の本心を素直にぶつけた。
「……お前を壊してしまいそうで……怖い」
その言葉に、けれど当のアロエは気にしていないと言いたげな顔で首を横に振る。
子供そのままの小さな掌でサンダースの逞しい肩をそっと抱きしめると、泣き出しそうに潤んだ目で彼の顔を見上げる。
「どうして? どうしてそんなこと言うの? アロエは平気だよ。お兄ちゃんになら何されたって……」
「馬鹿を言うな」
ぴしゃりと嗜めて、サンダースは苦々しい思いを抱きつつ眼前の少女に笑顔で告げる。
「お前に苦しい思いはさせたくない。お前がもっと大人になるまで、我慢するさ」
その言葉に、アロエが強く首を振って語気荒く反論する。
「そんなの我慢できるもん。アロエ、平……」
――ばしっ。
サンダースの鋭い平手が、アロエの頬を音がするほど強烈に打つ。
突然襲われた痛みに目を見開く彼女に対し、むしろ叩いた本人のほうが驚いた表情を作った。
自分でも気づかぬうちに振り上げられていた腕と、その結果好きな相手を傷つけてしまった事態とに、どうすればいいか分からず戸惑う。
ただ自身の右手からアロエの顔へと、焦りに満ち満ちた瞳のまませわしなく視線を動かすだけだ。
「……す、すまな……」
平時の堂々ぶりとはうって変わったおろおろと弱弱しい口ぶりで謝りの言葉を口にするサンダースに、しかしアロエは頬を押さえたまま叫ぶ。
「お兄ちゃんの馬鹿っ! アロエ、もう知らない!」
「アロ……」
走り去る彼女の後姿にかけた声は、ばたんという乱雑にドアを閉める音のせいで途切れてしまう。
引き止めることすらかなわなかった自分のふがいなさに仰々しいため息を吐いて、握り締めた拳を床に思い切り叩きつけた。
鈍い音が室内に響き渡り、それと同時に血の滲み出るじゅわりとした熱い感触が掌に広がる。
指先がじんじんしたけれど、先刻アロエが感じた痛みはきっとこんなものではなかったろうと思うと、
もっともっと自分を傷つけなければいけない衝動に駆られて、二度三度と握った手を床に打ち付けた。
表面の皮膚が裂け、流れる血液の間にピンク色の肉が覗き見えるようになってやっと、たまらない虚しさに居たたまれなくなって行為を終わらせる。
もう手の痛みは感じなかった。
それ以上に、きりきりと締め付けられる心臓が痛くて張り裂けそうだった。
あいつは分かっていないのだ。
それがどういう意味を持つ行為なのか。
それがどんな痛みを伴う行為なのか。
知らずに、ただ俺への好意を示すため手を出そうとしている。
そんな彼女の単純なまでの純粋さが愛しい。
可愛くて可愛くて、――そしてだからこそ恐ろしい。
一度してしまえば、きっと自分はその行為に溺れてしまう。
今でさえ毎夜のように夢の中で彼女を陵辱しているというのに、実際にその身体を手にしたらどうなるか、答えは明白だ。
あの小さな、まだ幼女と呼ぶべき身体にかける負担も忘れて、昼も夜もひたすら彼女を啼かせることだろう。
欲望だけに忠実に、相手が嫌がって暴れてもお構いなしで延々と責め続ける自分。
上から下まで精液で塗れさせて、それでもなお足りずに突き上げる自分。
疲れて倒れ伏せようとする彼女に眠る自由すら与えない、鬼畜で下劣な自分。
――それが分かりきっているからこそ、彼女に手を出せないでいるというのに。
――お願いだから、これ以上俺を誘惑しないでくれ。
勢いに任せて部屋を飛び出してしまったアロエが、いまだ赤く痕の残る頬のまま男子寮の廊下を駆け足で走りぬける。
「……お兄ちゃんの馬鹿馬鹿馬鹿っ!」
言いつつ俯きながら疾走していた彼女は、曲がり角の向こう側に突如現れた人影に気づくことができなかった。
急いで立ち止まろうとしたときには既に遅く、思い切り相手にぶつかってしまう。
ばさばさっと激しい音がして、廊下に何冊もの分厚い教科書が散乱する。
本の山を運んでいた当人は、散らばるそれらを微塵も気にせずに、焦った様子でアロエの前に手を伸ばした。
「すみません! 大丈夫でしたか?」
ぺたんと尻餅をついてしまったアロエがその声に見上げれば、そこに立っていたのは自室に戻る途中のカイルだった。
彼の腕を素直に掴んで立ち上がると、アロエは頭を大きく下げて謝る。
「ごめんなさい!」
「いえ。僕も前を見ていなかったですから」
優しげにそう言ったカイルがアロエの顔に視線を移し、うっすらと腫れた頬に気づいて一瞬言葉を失う。
「……ほっぺた、どうかしましたか?」
「う、うん、なんでもないよ。ちょっと転んじゃっただけ……」
明らかにでまかせだと分かるその言葉に、カイルがはぁと溜息を吐いて頭を振る。
「僕の部屋来てください。手当てしますから」
「え、でも……」
「いいから」
落とした本をかき集めて無理やり片手に抱えると、カイルは空いた右腕で少女の手を掴んでてくてくと歩き出す。
その手に半ば引きずられるような体勢で、アロエは彼の部屋まで連れて行かれた。
「今、少し散らかってまして……。ベッドに座っててもらえますか」
「うん」
そう言われてベッドの端に腰を下ろしたアロエに、カイルが真剣な口調で尋ねる。
「それ、本当はどうしたんです」
「これは……」
事実を言うのが憚われてつい口を濁してしまうアロエに、しかしカイルは重ねて理由を問う。
「まさか、サンダースにやられたんですか」
「う、うん……」
咎めるような口調で訳を訊かれて、嘘を吐く事のできないアロエは正直にそう告白してしまう。
それを聞いたカイルは苦々しげに顔をしかめて嘆息すると、彼女の両肩に力強く腕をかけた。
ずしりとした重みとともに、真摯な二つの瞳がアロエをまっすぐに捕らえる。
「何があったんです? 何なら、僕から彼に言ってあげますから」
「ううん、アロエがいけないの。サンダースお兄ちゃんは悪くないから……」
しばしの逡巡の後、それでもきっぱりと言い切った彼女に対し、カイルが僅かに顔を曇らせる。
自分を傷つけた筈の相手を悪くないと言う少女が、なんだか妙に癇に障った。
「……どうしてあいつを庇うんです」
どこか虚ろな瞳でそう呟いたカイルに、アロエが不審そうに小首をかしげる。
人を疑うことを知らない少女は、この時点でもまだ友人の顔をよぎった暗い影に気づかない。
けれど、最早眼前の青年はいつもの気のよい彼ではなかった。
「僕じゃ駄目なんですか」
「カイル……お兄ちゃん?」
「僕は、ずっと貴方が好きでした。入学したときから、ずっとずっと貴方だけを見ていました。
なのに、貴方は途中から転校してきた彼といつのまにか付き合い始めて……」
長い間、ただの友人とばかり思っていたカイルに突然告白されて、アロエはうろたえるしかない。
戸惑う彼女を横目に、カイルは胸に秘めていた想いを初めて本人の前に晒した。
「……僕だったら、決して貴方を傷つけたりしません。ねぇ、僕じゃ駄目ですか……」
肩にかかる力が強められる。指が食い込むほどの強さで押さえつけられた少女は、けれど自身が思うままを告げた。
「ごめんね。カイルお兄ちゃんは、アロエの『お兄ちゃん』なの。大好きだけど、そう言う『好き』じゃないよ」
「アロエさん……?」
「アロエは、やっぱりサンダースお兄ちゃんじゃなきゃ駄目なんだ。怖そうに見えるけど、ほんとは優しいんだよ」
へへっと頭に手を当てて笑いながらのろけるアロエに、カイルが呆然とした表情を作る。
彼女が自分に抱いていたのが、ただの親愛の情であることに。
所詮自分はアロエにとって『いいお兄ちゃん』でしかないという現実に、頭が破裂しそうな悲しみを感じる。
「……どうしてなんです。いつも『好き』って言ってくれたじゃないですか。僕のこと、『好き』だって……」
生気の見えない目つきでぶつぶつと呟くカイル。その異様さに、ようやくアロエが気づいたときには既に全てが遅すぎた。
「貴方が好きなんです……」
アロエの小さな身体をベッドに押し倒すと、カイルは素早い手つきで彼女の両手を頭の上にまとめ上げた。
胸のタイをしゅるりと引き抜いて、二本の手首をベッドの柱に器用に縛り付けてしまう。
かちゃりと音を立てて眼鏡を取ったその瞳は、鬼畜な色に支配されていた。
「やめて、やめてよお兄ちゃん」
「はっ、……どうせもうとっくに彼にやらせてるんでしょう?」
じたばたともがいて暴れる彼女には構わず、どこか諦めにも似た口ぶりでそう言うと、カイルはアロエの制服を力任せに真ん中から破り裂いた。
その下に隠れていた色気のない白い下着に、けれど陵辱者はひどく興奮した面持ちで指をかける。
ゆっくりとずらされたそこから小ぶりな胸のふくらみを暴かれて、アロエが両目をびくんと見開かせる。
「だ、だめ……」
「怖がらなくてもいいんですよ」
子供と変わらない板のような胸に目を細めると、カイルは広げた両手でやわやわと揉み抱く。
柔らかいその感触にカイルが嬉しそうに顔を綻ばせる一方で、アロエは恐怖に身を固くすくめている。
がちがちに固まった彼女に気づいたカイルは、彼女を乱れさせようと責めを与える箇所を変更した。
「あっ……!」
「ここ、感じるんですね」
胸の突起をそっと摘まれて、思わず声を漏らしてしまう。
その反応に気をよくしたのか、カイルはそちらを重点的に責め始めた。
固く尖った爪の先でぐりぐりと押しつぶされると、痛みと共にどうにもならない快感が全身を駆け巡る。
「……ひ、ゃあっ、あっ!」
びくびくと痙攣しながら漏れてしまう嬌声が恥ずかしくてたまらない。
口を塞ごうにも、括られた両腕は自由に動かすことすらままならない状態だ。
「あっ……ふ、ぁあっ……ひゃんっ」
アロエの眦から熱い涙がぽたぽたと流れ落ちる様を満足そうに見つめながら、カイルがアロエの首筋に唇を近づける。
細く息を吹きかけられてぞくりと背中を総毛立たせた彼女に、彼は笑顔で囁いた。
「乳首がいいんですか? なら、もっとしてあげますよ」
そう言って胸元に顔を寄せると、カイルは突き出した舌先でぺろりと先ほどまで弄っていたそれを舐め上げた。
既にぷつんと勃ち上がっていたそこは、先刻以上の刺激にあっけなく快楽を感じてしまう。
「ひゃ、あ、それ……それ駄目ぇっ!」
甲高い叫びに余計劣情を煽られて、カイルは熱くぬめる舌にますます力を込める。
激しくねぶり、口腔全体で強く吸い上げると、舌の上の粒がびくびくと固さを増すのが分かった。
「あ……んっ、はぁっ……あっぁあ」
顔を真っ赤にするほどに羞恥を感じながらも、舌が上下すると声を抑えきれない。
それでも何とか息を整えて、頭上に覆いかぶさるカイルに声を張り上げて願う。
「お、にいちゃ……もうやめ……っ! ……アロエ、こんなのいやぁ……」
涙目で嘆願する少女に対し、カイルはひどく幸せそうに微笑んで口を開く。
彼のその笑顔はいつもの温和なそれと紙一重なのに、どこかが完璧にずれてしまっていた。
「駄目ですよ。だって僕、今更やめられないですから」
そう言って自身のズボンを下ろすと、カイルはそこから雄雄しく猛った性器を曝け出させた。
「ほら、アロエさんの可愛いところを見てこんなになっちゃいました。だから、もう途中じゃやめられません」
「おにいちゃん……」
愕然とするアロエに、カイルはにっこりと笑みを浮かべて残酷な言葉を吐く。
「それに、貴方だってこんなに気持ちよさそうじゃないですか」
言いながら、指先を足の間へと侵入させる。
下着を剥ぎ取って、胸への責め苦で既にとろとろに愛液を漏らしていたそこをさわりと撫でる。
びっしょりと濡れたそこは、カイルの言葉を確かに肯定してしまっていた。
「ほら、すっごくぬるぬるしてますよ。気持ちよかった証拠でしょう」
絡めとったぬめりをわざと顔の前に見せ付けられて、耐え切れなくなったアロエが思わず目を閉じる。
その瞳を無理にこじ開けることはせずに、カイルは濡れたそこを舌で弄び始めた。
ぬちゃぬちゃと音を立てながら鋭敏な突起に吸い付くと、身体の下のアロエが我慢できずにすすり泣く。
「……ぁっ、やぁ……やぁああっっ!」
部屋全体にこだまする一段大きい喘ぎ声に、ここがアロエのもっとも弱い所なのだと分かる。
包皮から姿を覗かせたそれを尖らせた舌先でチロチロと嘗め回すと、嬌声とともに苦しそうな短い息を吐いた。
「ひ、あ、ぁあっ」
ピンピンと指で弾いてから二本の指できゅっとひねり上げて、思い切りサディスティックに爪を立てる。
そのままがしがしと擦り立ててやると、アロエは全身を跳ね上げる様に痙攣させた。
「そろそろイっちゃますかね」
もう一度強く舌を押し付けて容赦なく愛撫する。
軟体動物のような舌がぬめぬめと上下左右に激しく動き、アロエのそこを蹂躙した。
その眩暈がするほどの快感に、アロエは自我を失って泣き叫ぶ。
「――あ、や、ぁぁあっつん!」
その絶叫と共にぱたりとベッドに伏せて気絶してしまった彼女の身体を、カイルがそっと抱き起こす。
その手つきはまるで王女を抱きかかえた従者のように優しく、見つめる眼差しもひどく切ないものだった。
「……許しては、貰えないですよね」
その瞬間、彼はいつもの優しい青年に戻ったようだった。
聞く相手のいない呟きは、腕の中の少女への愛情のみに満ち溢れている。
「僕は最低だ」
カイル本人も、自分の行為の愚かさくらい存分に分かっていた。
けれど、最早どうしようもなかった。
サンダースを、大切な親友だと思っていた。
愛想なしでくそ真面目で、苛立つくらいに何に対しても一途で。
そんな彼を尊敬する傍ら、けれど同時にひどく憎んでもいた。
彼が転校してくるまで、アカデミーの成績は自分がトップだった。
賢者になるため、一回でも多く勝ち抜くために、日々勉強を怠ったことはなかった。
でも、彼が来てから全てが変わった。
彼は自分に、努力ではどうにもならない才能の差を思い知らせてくれたのだ。
全てのジャンルにおいて彼の知識は自分の数段上を行っていて、何度戦ってもとても敵いはしなかった。
だからカイルは彼への嫉妬を、唯一彼に勝てるだろう分野に対する優越感で塗り隠していた。
――それは恋愛。
不器用で無愛想な彼に意中の相手を振り向かせられるはずなどない。
カイルは勝手にそう確信していた。
だからこそ、またもや自分から大切なものを勝ち取った彼が、憎くて憎くて仕方なかった。
彼が転校してくるまで誰よりも自分に懐いてくれていた、一人の少女を奪い取った彼が。
「……んっ」
長い睫を震わせて目を開いたアロエが、眼前のカイルにびくりと肩を強張らせる。
彼女がしっかり目を覚ましたのを見計らって、カイルが頭上から声をかける。
「おはよう、アロエさん」
「あ……」
がたがたと震えるアロエに、カイルは優しい瞳のまま不思議そうに尋ねる。
「どうしたんです? いつもみたいにおはようって言ってくれないんですか?」
その表面だけ見ればひどく温かな笑顔に、アロエが表情を凍らせる。
目をそらせたまま沈黙を続ける彼女へ、カイルはとても悲しそうに言った。
「僕には挨拶もしたくないんですね。前はお兄ちゃんお兄ちゃんってうるさいくらい纏わりついてくれたのに」
暗い瞳で呟いて、アロエの両足をおもむろにがばりと左右に開かせる。
まだろくに陰毛も生え揃っていないつるりとしたそこを愛しげに見つめて、既に大きく勃起した自身の性器と見比べる。
そこに彼の人並み以上な大きさのものが入るとは到底思えなかったが、深くは考えなかった。
「や……お兄ちゃん、見ないで……」
最も恥ずかしい所を視姦されているのに耐えられず、アロエがいやいやと首を横にする。
嫌がる仕種が逆に男を興奮させてしまうことを、幼い彼女は知らないのだろう。
「ほら、くちゅくちゅいってる」
伸ばした人差し指を秘所にそっと差し込んで、中を思い切り掻き回す。
ぐちゅぐちゅと嫌らしい音を立たせながら、痛みに顔を歪めるアロエの表情をつぶさに観察する。
「あっ……おっ、にいちゃ……」
震える声で拒絶する彼女をもっと痛めつけたくなって、カイルはそっと中に入れる指の数を増やす。
二本の指でぎちぎちと目いっぱい押し開かれたそこは、カイルのそれを痛いほどに締め付けてきた。
その感触をもっと別のもので感じたくなって乱暴に指を引き抜くと、十二分に濡れた入り口に男性器をぎゅっと押し当てる。
見せ付けるようにゆっくりと、彼女の中へそれを挿入していく。
「っ……ひ、ぁーっ!」
小さい身体には、やはり先端だけ入れるのが精一杯だ。
それでも、きゅぅきゅぅとカリ首を締め付けられる感覚は眩暈がするほどに気持ちよかった。
無理やりにでももっと奥まで征服したい欲求に駆られて腰を進めようとしたカイルが、ふとあることに気づいて表情を変える。
「……まさか、初めて……なんですか」
怯えた目でこくりと頭を縦に振るアロエに、カイルが呆気にとられたように目を見開く。
その表情は、だが徐々に心底嬉しそうなものへと変化していく。
「……へぇ」
くすくすと声を上げて笑うと、カイルはアロエをベッドに深く押さえ込み、いきなり下半身に力を込めた。
熱い楔がずぷずぷと卑猥な音を立ててアロエの体内に押し込まれていく。
「ぁっ、……いたっ……い、たい……っ」
内壁を抉られる初めての感触にアロエが髪を振り乱して叫ぶ一方、カイルは一人虚空へ向けて言葉を放つ。
「やっと……やっと勝てたんだ。それも、彼が一番負けたくないだろうことで」
ははっと乾いた笑いを響かせながら、乱暴にアロエの中へ太い幹を根元までねじ入れる。
最奥まで犯しきったことに満足しつつ激しい出し入れを繰り返し行うと、アロエは身体を弓なりに反らせて苦しそうに呻いた。
「あっ……ぁっ、や、やぁっ……」
一物が往復するたびに、高い声で淫らに啼くアロエ。
涙のこぼれた彼女の瞳にもう生気はなく、まるで上等の人形のようだ。
そんな少女の身体を、カイルは本能のままに突き上げる。
その動きには相手を労わる心などなく、自分が射精することしか考えていないものだった。
腰を回転させ側壁に沿ってぐるりと円を描くと、中の襞がうねうねと吸い付いてくる。
その感覚を貪欲にむさぼろうと、カイルはひたすらに腰を前後左右に動かした。
そうしていると、カイルの先走りとアロエの粘液とでぐちゃぐちゃに濡れたそこは、豊富な潤滑液のためか次第に抽挿をスムーズにしていく。
ぐんぐんと突き動かす衝撃はいまだ少女には強すぎるらしいが、始めよりも格段に楽になっているようだ。
その証拠に、アロエの嬌声は痛みよりも快感を叫び始めていた。
「……ふ、ぁっ、んんっ」
奥の感じるポイントを突かれて、思わず快楽に身体を震わせる。
そこをカイルが激しく責めてやると、アロエはぽたぽたと涙を落としながら喘いだ。
「はっ……ん……いや……」
「嫌じゃないでしょう?」
言って、カイルはさらに腰の動きを強める。
肩を掴んで一層強烈に揺り動かすと、ごぷっと白い粘液が少女の中に飛び散り、どくどくと奥へ注がれていった。
「ぁ……やぁっー……!」
叫びとともに、アロエは中に注入される感触の気色悪さと精神的なショックとで再び気絶してしまった。
倒れた彼女をそのままに気だるげに立ち上がると、カイルは掠れる声で呪文を唱える。
それは、アカデミー生なら誰でも使えるような、ごく初歩的な通信の魔法だった。
一瞬遅れて、室内にカイルのものではない低い声が響く。
「……何だ?」
妙に気落ちしているような相手の声音にはやる心を抑え、ポーカーフェイスを崩さずに話しかける。
「あぁ、サンダース? 実はちょっと見せたいものがあるんですよ。僕の部屋に、来てもらえませんか」
「今でなければ駄目か」
「ええ。できるだけ早いほうがいいんですが」
「……分かった」
サンダースが面倒そうにそう言って通信を切った数分後、カイルの部屋の扉がこんこんと丁寧にノックされた。
その音に、内側からカイルが抑揚のない声で返事をする。
「どうぞ。開いてますよ」
「ああ、邪魔す……」
ドアを開けて室内に踏み入れようとしたサンダースが、言いかけた言葉を途中で切らした。
そこにある光景に目を見開いて、カイルへ尋ねる。
「……何を、している?」
「見れば分かるでしょう、SEXですよ。それとも、こんなときまでクイズのつもりですか?」
その問いに、カイルはへらへらと笑いながら、ぐったりと倒れたままのアロエの身体を嫌らしい手つきで撫で回した。
制服が無残に引き裂かれ、ベッドの端に縛り付けられたその身体は正視に堪えかねた。
「ア、ロエ……?」
名を呼んでも起きる気配すら見せない彼女の姿に、サンダースへ絶望の波がゆっくりと押し寄せてくる。
その苦悶に満ちた表情を楽しそうに眺めながら、カイルが露わになったアロエの胸を見せ付けるように揉みしだく。
発達しきっていない薄い胸が上下に揺れるたびに、意識のないはずの口元から熱っぽい吐息が漏れる。
ひどく扇情的な、けれど多分に現実離れした光景に、サンダースは理解が追いつかない。
しかし、次にカイルが口にした言葉が耳に届いた瞬間、全身から血の気が引いていくのが分かった。
「すみませんねぇ。貴方があんまりもたもたしてるから、アロエの初めて、僕が貰っちゃいました」
「……何、を……」
級友のその言葉に、信じられないと言いたげな顔のサンダース。
だが悪夢のようなその台詞は、気を失ったアロエの周囲に広がる血液交じりの白濁液を見れば疑いようのない事実だった。
「――殺す! 殺してやる!」
叫んだサンダースが、カイルの元へと突進する。
先刻割れた拳はまだ痛々しさを保っていたが、そんなことを気にする彼ではない。
頭の中を占める思いは、ただ目の前の男を死ぬまで殴り続けることそれのみだった。
しかし、近づいたサンダースに対しカイルは逃げることすらしなかった。
彼は、自分の絶対的な優位を確信した顔でサンダースに向けて宣言する。
「どうぞお好きに。まぁ、僕をどうしようが、起こってしまったことは変えられないんですがね」
「貴っ様ぁああっ!」
怒りに任せた渾身の一撃をカイルの頬にぶつけると、相手は派手な音を立てて床に転がった。
カイルがそのまま立ち上がろうとしないのを確認すると、サンダースはアロエの身体をそっと抱え上げる。
自分の制服を脱いで彼女に被せると、起こさないよう慎重に自室へと連れ帰る。
目を覚まさない彼女をベッドに寝かせて、自分はその脇に腰を落とす。
何も信じたくなかった。
全て夢ならいいと思った。
けれど目の前にあるのは紛れもない現実で、
――サンダースは一人、声を押し殺して、泣いた。
止め処なく瞳から流れる涙が頬を伝って落ち、足元の床に小さな水溜りを形作る。
「……っ、私が……私の責任だ……」
空ろな瞳で呟く彼の言葉を遮ったのは、傍らで眠っていたはずの少女だった。
自分の声で起こしてしまったのかと顔を曇らせたサンダースに、しかしアロエはいつも通りの屈託のない笑みで問いかける。
「お兄ちゃん、どうしたの?」
「アロエ……!?」
その無邪気な表情に、尋ねられたサンダースのほうが戸惑ってしまう。
恐る恐る名を呼び返すも、アロエは不可思議そうな顔をするだけだ。
驚きに駆られるサンダースの心中など知らぬアロエは、彼の目元に残る濡れた跡を見つけ、心配げな顔で訊いた。
「もしかして泣いてたの? 何かあった?」
「いや、私はなんでもない」
鉄の精神で無表情を通すサンダースに、アロエがそれならよかったと言わんばかりにほっとした顔をする。
その安堵しきった表情があまりに痛々しくて、サンダースは再び胸を苦しめた。
――先ほどのことを覚えていないのか!?
むしろそうであってくれと願うサンダースの思惑は、だがすぐさま崩れ落ちた。
「なんか、お腹痛い……」
ベッドから起き上がろうとしたアロエが、下腹部を襲う鈍痛に思わず顔を歪める。
そこに手を当てようとして初めて、アロエは素肌の上からサンダースの上着を羽織っただけという己の格好に不思議そうに首を捻った。
「あれっ? アロエ、どうして自分のお洋服、着て、な……」
途端、アロエの表情ががらりと一変した。何かに怯えるように瞳を限界まで見開いて、びくりと全身を震わせる。
その変化にサンダースがはっとした時には、彼女はもう全てを思い出してしまっていた。
夜中に幽霊を怖がる子供のような顔でサンダースを見上げ、その制服にひっしと取りすがる。
「サンダースお兄ちゃん……」
身体を強張らせて自分の上着にしがみ付く彼女の背中に、サンダースはそっと両腕を回した。
その刺激に、小さな身体がびくんと揺れる。
「カイルお兄ちゃんに……お部屋に行こうって言われて……。それで、それでアロエ、ついて行って……」
焦点の合わない瞳のままどこか遠くを見つめて言葉を放つアロエを、サンダースがぎゅっと抱きしめる。
腕の中の身体はあまりに脆く、ほんの少し力を込めればそのままくず折れてしまいそうだった。
「何も言わなくてよい。思い出さなくてよい。今は、ただ休め」
「あっ……っ……あぁっ……」
その言葉を契機に、アロエの両目から大粒の涙が零れ落ちる。冷たい滴がサンダースの肩をぽたりと打った。
「こわかった、こわかったよぉ……」
大声でそう泣き叫ぶアロエの髪をそっと梳くと、サンダースは彼女の肩を固く抱いた。
もう二度とこの手から離さないと誓うように、固く固く抱いた。