マラリヤは、小さな小さな瓶の半分にも満たない液体を眺めながら、しかしニヤニヤとしていた。  
長い長い研究と実験、バカにならない高額の材料を駆使した末に完成した、この液体・・・媚薬。  
惚れ薬などという雑な言い方をしたくはない。  
ただ一人、サンダースに自分だけを見てもらいたいがために、マラリヤは悪魔に魂を売ったのだ。  
 
「これで、彼は私のモノになるのね・・・私の、大切な、恋の奴隷・・・♪」  
 
夜明けも近いアカデミーの一室で、魔女と呼ばれたりする少女は、ただひっそりと笑っていた。  
 
 
 
マラリヤは、朝一番に食堂まで足を運んでみた。  
サンダースの朝は、アカデミー生徒の中でもずば抜けて早いと聞いてはいたし、あわよくばあっさりと媚薬を飲ませられるかも知れないのだ。  
 
 
「む、貴様か」  
 
案の定。  
サンダースは、一人で食堂のおねーさん(リエルと同じ学科らしい)にトーストを貰っていた。  
 
「あら、早いのね・・」  
「我輩はいつも通りだ。貴様が異常なだけだろう」  
 
トーストが二枚乗った皿に、オマケとばかりにもう一枚トーストが乗せられている。  
 
「貴方、朝から三枚も食べるのかしら・・・?」  
「いや、食わん。食えと言うなら吝かではないが」  
「なら、私が一枚貰うわ・・・」  
 
私はコーヒーを二つ受け取るから、とマラリヤが言うと、サンダースはうむと頷く。  
 
マラリヤは、小さく笑む。  
これで我が野望は達成出来たとばかりに。  
心が踊る。  
サンダースを想って自慰に浸った日々とはお別れだ。  
サンダースに力ずくで犯されてもいいし、私がじっくりねっとりと甘やかしてもいいし、と妄想する。  
顔に現さないのはマラリヤならでは。  
 
コーヒーとミルク、砂糖、そして片方のカップに媚薬を入れて、準備は万端だ。  
 
「はい、貴方の分のコーヒーよ・・」  
「すまんな。貴様の分のトーストだ」  
 
座ってマラリヤを待つサンダースに、カップを渡して。  
 
サンダースとマラリヤは、ほぼ同時に朝食を食べ始めた。  
 
 
マラリヤが自身の異変に気付いたのは、サンダースが朝食を終えて席を立とうとする前後だった。  
身体が火照る、マラリヤの女としての性が疼く。  
今すぐにでもバイブをワレメに挿入して、思いきりに自慰したい衝動に駆られる。  
 
「(この症状・・・まさか・・・ぁ)」  
 
間違いない。  
自分が媚薬入りのコーヒーを飲んでしまったのだ。  
 
「(これは・・はぁ、計算外よぉ・・)」  
 
余りの媚薬の強力さに、マラリヤは文字通り涙目になる。  
 
「では、私は一足先に部屋に戻るぞ」  
「ま・・まってぇ・・・」  
「む?」  
 
部屋に帰ろうとするサンダースを引き留める声にさえ力がない。  
しかしそのお陰でか、サンダースはマラリヤの異変に気付いたようだった。  
 
「顔が赤いぞ。・・風邪でも引いていたのか?」  
「ち、違うわよ・・・。貴方に、媚薬を、飲ませようと、したのにぃ、私が、飲ん、じゃったの、よ」  
 
切れ切れながら、理由を話すマラリヤ。  
間違いなく軽蔑されるだろうし、最悪見知らぬ生徒に対しても見境なく性交を求めるようになるのかも知れないが。  
 
「わたし、の、へやぁ・・・」  
 
マラリヤの精神が、蕩けて流れ出すような感覚。  
身体に力が入らず、椅子ごと後ろに倒れてしまい――間一髪、サンダースに抱き止められる。  
 
「その様子では、何か企みがあったらしいが・・・一度貴様の部屋に帰るぞ」  
 
サンダースは呆れかえった顔でマラリヤを抱っこ・・俗にいうお姫さま抱っこすると、マラリヤの部屋へと一目散に向かった。  
 
マラリヤの部屋に着いたサンダースは、まず彼女の部屋の中に驚く。  
黒魔術的な物が陳列し、用途さえ解らないアイテムが散乱するなか、ベッドと机の上、椅子だけは綺麗にされており。  
 
「我輩の写真?」  
 
机の上とベッドと枕元には、サンダースが珍しく笑顔の写真があって。  
 
「・・バレちゃ、たら、仕方、ない、んぅぅ・・・」  
 
サンダースにお姫さま抱っこされたままのマラリヤは、サンダースの首に手を回し。  
 
「んちゅ・・・」  
「!?」  
 
サンダースの唇に、柔らかいものが触れ。  
そのまま舌を絡められ、マラリヤに抵抗しないまま、彼女の為すがままにされて。  
 
そのまま、酷く長く感じられる一分弱が過ぎた。  
 
そぅっとマラリヤの唇がサンダースのそれから離れる。  
マラリヤの唇からは、二人の唾液の混じったものが糸をひき。  
サンダースは混乱する頭を落ち着けるために、まずはマラリヤをベッドに寝かせて。  
 
「・・貴様、何のつもりだ!?」  
 
凄んでいる訳ではない。  
ただ混乱の極致にある頭で、必死に状況と、目の前の美少女の意図を探らんとするサンダースの意識が、高圧的な声となった。  
 
しかし、マラリヤは全く動じず。  
 
「好きよ、貴方が好きなのよ、どうしようもないの、抑えられなくなってるもの・・」  
 
淫蕩な笑顔で、マラリヤは呟き。  
普段から着ている改造制服をはだけさせ、その白磁のごとき肌を露にした。  
 
マラリヤの肌を、汗が一滴、二滴と伝う。  
サンダースはこの異常事態、少なくとも彼が生きてきた過去に経験のないこの事態に、しかし興奮しつつもあった。  
 
「嫌われてもいい、軽蔑されたって仕方ないわ・・・」  
 
マラリヤがはだけさせた服から、窮屈そうにしていた胸がまろびでる。  
 
「それでも、私が初めてを捧げるのは、私が身体を赦すのは、貴方だけよ・・貴方一人っきりよ」  
 
マラリヤの肌が、桃色に染まり。  
そしてその細い腕が、サンダースに伸ばされ。  
 
「我輩とて、貴様は嫌いではない。美しいとは思うし、淫らな姿を見せられて欲情せぬはずがなかろう」  
 
マラリヤの腕が、サンダースの首にまわされて。  
 
今度はサンダースから、マラリヤの唇を奪い。  
マラリヤは抗わず、サンダースに身体を委ねた。  
 
しっとりと湿ったマラリヤの唇が、サンダースの心をかき乱す。  
 
「ん・・ちゅ・・」  
 
舌同士が、絡む。  
マラリヤの唇から、熱い吐息が漏れ。  
サンダースは更に深いキスを求めて、ベッドの上で仰向けになっているマラリヤにのし掛かるようにし。  
 
マラリヤの美乳が、くにゅりと形を歪められて。  
 
しかし、サンダースとマラリヤは、互いの唇を貪るように、キスに没頭していった。  
 
 
マラリヤの吐息が、悩ましいものに変わりかけた瞬間、二人の唇は分かたれて。  
サンダースは代わりとばかりに、マラリヤの胸を優しく、しかし強く揉みしだく。  
 
「貴様が、悪いのだぞ・・・」  
「そ、よ・・・、わた、しが、びやく、なん・・ひゃあんっ」  
 
サンダースに胸を揉まれ、蹂躙されながら、マラリヤは喜悦に満ちた笑みのまま。  
 
「すきぃ、すきなのぉ・・、もっと・・んふぅ・・なぶってぇ・・んあぁっ♪」  
「乳首をこれ程まで、勃起させて・・!貴様はとんでもない淫乱なのだなぁ?」  
「そ、よぅ・・んぅ、うぅん・・変態よぉ・・すきなひとにぃ、なぶられたがるぅ、淫乱変態魔女よぅ・・ひぃああぁっ♪」  
 
サンダースが強く乳首を摘まみあげると、マラリヤはビクビクと身体を跳ねさせた。  
 
「あたまぁ・・・まっしろになっちゃ・・ぁ♪」  
 
マラリヤの身体を、甘い痺れが伝う。  
紛れもなく、初めての絶頂――エクスタシー。  
今までの短い生涯で最高の快楽を感じた少女は、ただ頭を撫でて見つめる愛しい人に、身を委ねていた。  
 
 
 
それから、サンダースはマラリヤを寝かせたまま、教師たちに自分とマラリヤは今日は授業に出られないと伝えてまわった。  
元来真面目で通っているサンダースの言うことを疑う教師はおらず、また食堂で一部始終を見ていた女子生徒にも、口止め料を支払うことで、見なかった事にしてもらって。  
 
「お帰りなさい。口止めと休む連絡は終わったのね」  
「・・元に戻ったか?」  
「えぇ。お陰様で、スッキリしたわ」  
 
自分の部屋に戻ったサンダースを出迎えたのは、全裸にサンダースのYシャツだけを纏ったマラリヤ。  
不敵な笑み、頬の紅潮が引いている、つまり彼女が飲んだ媚薬の効果時間は切れたということだ。  
 
「もうしばらくはあのままの方が、可愛かったと思ったのだがな?」  
「貴方、サディストなの?似合わないと思うわよ?」  
「喧しい」  
 
こっそりと、サンダースの布団に潜るマラリヤを眺めながら、サンダースは机に付属されていた椅子に座り。  
 
「・・言っておくわよ?」  
 
マラリヤが、呟く。  
 
「私が、貴方を好きなのは、紛れもない本音よ。嘘も偽りも何もない、心底からの言葉だから」  
「知っている」  
 
サンダースの顔に、更に深い呆れの色が浮かぶ。  
マラリヤは珍しく、間の抜けた声を出してしまった。  
 
「貴様が媚薬を飲ませようとしたのは、本来我輩だろうが。まさか媚薬を飲ませて、私を苦しめるだけのはずがない。ならば、答えは一つだろうに」  
「・・驚いたわ」  
 
マラリヤの照れたような笑顔。  
つまり、サンダースは媚薬で可笑しくなったマラリヤではなく、本来のマラリヤを見ていたと、彼女は瞬時に理解した。  
 
 
「・・それでだ。教官たちには我々が本日休むと伝えてしまったが、どうする」  
 
行くなら早々に用意するぞと、サンダースはそこまで言わない。  
媚薬の効き目は切れているにも関わらず、マラリヤが艶っぽい微笑みで、サンダースを見つめていた。  
 
「久々に、サボってみるか」  
「当たり前よ?・・貴方は今から、私を孕ませないといけないんだから」  
「・・覚悟しろ。泣いて許しを乞うてもやめんからな」  
 
サンダースが、上着、シャツ、ズボン、そしてパンツを脱ぎ、マラリヤの待つベッドに横になる。  
 
二人の淫らな一日は、今から始まろうとしていた。  
 

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