時計が午後9時を回ったころ、私はノートと筆記用具を持って図書室に向かった。大抵の生徒は寮の広間で復習などをするけれど、本が沢山置いてあるし、一人になれる図書室の方が私は好きだった。
いつも通りで、この時間帯は図書館には誰もいない。いつも座っている席にノートと筆記用具を置き、世界史の事典を本棚から持ってきた。
「…さてと」
呟いて黙々とペンを走らせる。勉強をしている時が、没頭出来て一番良い。何もかも忘れられて夢中になれるから。
眼鏡を掛けていて、いつも一人で勉強ばかりしているから、周囲からは避けられている気持ちは勿論ある(実際は取り越し苦労だが)。でも、勉強できることを、ある人には知ってもらいたかったから。
…カイルくん。
自分と同じく眼鏡を掛けていて、長身にブルーの長髪を後ろで束ねている。成績優秀で、誰にでも優しい。
何もしなくても目立ってしまう彼に、次第に惹かれていった。彼のことを想って、自慰に耽ってしまうことも何度もあり、それほどに彼への想いは日に日に強くなっていくばかりだった。
考え事をしていると、手が全く動いてないことに気がついた。
「…はぁ」
溜息をひとつついて、またノートに目を戻そうとした時、図書室の扉が静かに開いた。自分一人しかいない部屋に、その音は大きく感じられた。
誰だろう、こんな時間に…。と思っていたら、そこにいたのはカイルだった。
カイルもこちらを向き、自然と目が合った。彼は微笑みかけ、挨拶してくれた。
「…こんばんは、クララさん」
「こ、こんばんは…」
言葉を交わすと慌てて目をノートに戻した。確かに自分の顔は熱くなっている。胸からは押さえようもなく、ドクドクと鼓動が聞こえる。
カイルは、私の近くの本棚から本を選んでいる。
「クララさん、いつも図書館で勉強してるよね。偉いな、って。尊敬してたんだ」
「そ、そんな…。私は一人でいる方が集中出来るし、ここには本も沢山あるから。あ!でもカイルくんのこと嫌な訳じゃ…」
「本当?じゃ、ここ座ってもいいですか?」
「はい…。どうぞ…」
緊張しすぎて勉強どころではなかった。目の前に、想いを寄せる人が座っているのだ。先刻からずっと、頭の中は彼のことでいっぱいだった。
そっと目を上げて彼を盗み見た。そうしたらカイルと目が合ってしまい、私は俯いて反射的に謝ってしまった。
「ご、ごめんなさい…」
「…やっぱり、邪魔かな?」
彼を見ると、不安そうな顔で私のことを見ていた。そんなことない。ずっと傍にいてほしい。
「ううん。わ、私…」
…言おう。今しかない。先延ばしにして辛くなるのは自分なんだから。
震える手を握りしめて、私は口を開いた。
「…カイルくんのことが、好きだから…」
喉が渇いて言葉が上手くでてこない。それでも、言えた。顔は先ほどよりも更に熱くなり、涙が落ちそうになった。
「だから…」
「…クララさん」
カイルの真剣な顔がそこにあった。机の上にそっと彼の手が伸びてきて、私の固く組み合わせた両の手を優しく包み込んだ。
「僕も、です」
「…え?」
まさか。
「僕もクララさんのことが好きです」
その言葉に今まで堪えていた涙がぽろぽろと零れ落ちた。目尻を拭っていると、カイルが頭を撫でてくれる。
「…っく。ひくっ、カイル、くん…」
私は席を立って彼の胸元に飛び込んだ。瞬間彼は驚いたようだったが、強く抱き締めてくれた。彼に縋って、声をあげて泣いた。
「カイルくぅん…!」
涙を拭いてそっと顔をあげると、彼が微笑んでいた。こんなにも彼の近くにいることが、嬉しい。見つめ合っていると、彼が私の眼鏡を外して、机の上に置いた。
「クララさん、眼鏡なくても素敵ですよ」
「えっ、そんな…」
視界がぼやけて、カイルの顔が少し遠くなった。
またさっきと同じように心臓が高鳴ってくる。私は彼の肩に手を置いた。次第に二人の距離が縮まっていく。目を閉じると、温かく柔らかい、彼の唇が私の唇に触れた。
「ん…」
初めての感覚に体が震えた。彼の背中に手を回して抱き締めた。彼も抱き返してくれた。
…ファーストキスがカイルくんでよかった…
やがてつつき合うようなキスになり、そしてとろけるようなディープキスになった。
「ん、んぅ…」
舌に触れる感触に、頭の中がぼうっとなった。彼の舌が触れる度に甘い吐息が零れる。私も夢中で彼の唇を貪った。
「はぁ…」
唇を離すと、彼の胸元に縋った。温もりに包まれていると、太股に何か硬いものが触れた。それがカイルの性器であることに気がつくと、自分でも恥ずかしい想像をしてしまい、すぐにそれを打ち消した。カイルも、触れた瞬間ぴくりと体を震わせた。
「あ…ご、ごめんなさい…。これは…」
「カイルくん…」
男性は性的刺激の受け入れが豊かなので、こうなってしまうことは知識として学んでいた。
でも今はそんなことより、私と触れあっていることで感じてしまったことが嬉しかった。
私はもう一度、勇気を振り絞って言った。
「よかったら…、私を抱いて…ください」
「…!」
カイルの驚いた表情が目に入る。
「いいんですか…?」
「はい…。カイルくんなら…」
「クララさん…」
もう一度彼の腕の中にくるまれた。
「…僕の部屋、来ませんか」
「はい…」
制服のリボンを外され、上着を彼が脱がせていく。恥じらいで胸元を覆うと、スカートもするりと取られて下着だけの姿になった。
彼も着ていたものを全て脱いで、生まれたままの姿になった。あまり筋肉のない痩せている体型だった。それでも自分とは全く違う体つきは美しかった。
まじまじと彼の体を見つめていると、彼の手が背中に伸びてきて、ブラのホックを外された。
「あ…」
ブラを取ると、パンティも脱がされ、私も彼と同じ姿になった。
胸を隠していた手を取られて、口付けられた。
「んぅ…」
先刻と同じようなディープキスに頭がくらくらした。唇が離れたかと思うと、首筋に優しい愛撫を貰い、思わず声が出た。
「…あっ!」
体中が震える。もう一度口付けをし、私は自分から恥ずかしいと思うこともなく、激しく彼の唇を吸った。お互い激しく求め合っていると、彼の手が乳房に触れた。
「あんっ…」
最初は優しく、ゆっくりとした感覚が乳房を襲う。それだけでも充分感じてしまうのに、愛撫は次第に強くなっていった。乳房を強く揉みしだかれ、抑えていた声が口から次々に飛び出た。
「あぁっ…。ん、あぅ…」
「クララさん、綺麗な体してますね…」
「んっ!そんなこと、ない…です。ああっ!」
乳首を弄ばれ、くわえられ、また新しい快感が体中を駆けめぐる。セックスがこんなに良いものだなんて知らなかった。きっと、愛する人との行為だからこそ、そう感じるんだろう。
「い、あぁっ!カ、カイルくん…」
「…クララさんの胸、柔らかくて気持ちいいです」
今や両の乳房の先は、先刻とは比べものにならないくらい勃起していた。自分でも信じられない程の快楽に、私は酔いしれていた。
「クララさん、脚…開いてくれますか」
「はい…」
自分でもわかるほどに、秘所は潤っている。これから行われる行いに、淫らな期待をせずにはいられなかった。
カイルが静かに顔を埋めてくる。自分の汚い所を愛してくれる彼の行為が嬉しくてならなかった。
温かいものが自分の秘孔に触れ、腰がぴくりと動いた。なおも続く愛撫に、体の制御は出来なくなってしまった。
「んあっ…!あ、あぁ…」
更に秘孔から蜜が溢れ出てくる。押し寄せる温かい感触に、声をあげて悶えた。
暫くすると、今度は指がくちゅりと入ってきて、自分の膣で器用に動き回った。
「ふああ…!い…いい!あんっ…」
「クララさん…」
「あ…ああ…」
指が引き抜かれた。もっと欲しい、と思うと、カイルがこちらを見つめていた。
「入れても…いいですか?」
待ち望んでいたその言葉に、私は強く彼の腕を握る。
「はい…。でも、初めてだから…優しく、してください…」
「…わかってます。辛かったら、我慢しないでくださいね」
気遣ってくれて、またにこりと微笑む。その仕草はどこまでも愛しかった。
「…いきますよ」
ゆっくりと彼のものが押し入ってくる。やはり、少し痛む。でも彼とひとつになれるのなら、この痛みを堪えることぐらい何でもない。深層部に進むにつれて痛みは増していったが、私は必死で堪えた。
「くぅ…!」
「大丈夫ですか…?クララさん…」
カイルが不安そうに尋ねてくる。それと同時に膣の動きが止まる。
「大丈夫…です。止めないで…」
彼の手が乳房に伸びてくる。丁寧にこね回し、再び私を高ぶらせてゆく。そして私の膣にカイルが入ってくるのがゆっくりと感じられた。
「あぁ…。あんっ…」
「くっ…」
「あっ…。はぁ…」
彼のものが全て収まったようだった。漸く、彼とひとつになれた。
「カイルくん…」
私は彼を思いきり抱き締めた。こうして直に肌を寄せているととても安心する。
軽く口付けると、彼がゆっくりと私の膣で動き出した。
「んん…。あぁ…」
やはり、少し痛む。堪えようと、彼の背中に爪を立てた。
「くぅ…。クララさん…」
「はぁ…はぁ…」
ややもすると、大分慣れてきたのか痛みが薄らいでいった。徐々に快感が滲み出てきて、気がつくと大きな声をあげていた。
「あぁ…。あっ!あんっ、あんっ…!カイルくん、もっと…!」
為すがままに叫ぶと、彼の動きも少しずつ強さを増していった。カイルがもたらす快感に私はどんどん飲み込まれていった。
「クララさんの膣、気持ちいい…!」
「あうっ!わ、私も…!あんっ!カイルくん、カイルくん!」
自らも意識せずとも腰が動いてしまい、そしてカイルの動きは次第に激しくなっていく。きつく抱き合い、獣のように口付け合う。このまま、カイルとふたりで溶けてしまいたい。
「はぁ…はぁ…。あぁっ…!」
「クララさん…僕、もう…そろそろ…」
「はい…。来て…来てください…!」
「うっ…!あぁ…!」
「あぁ…!カイル…くん!あぁぁぁ!」
ふたりは力尽きベッドに倒れ、酸素を求めるように、暫く呼吸の音が部屋に満ちていた。
暫くすると彼に口付けられ、そっと抱き締められる。彼の温もりはとても温かく、私を包み込んでくれている。
私はいつも柔和な彼の純粋な瞳を覗き込んだ。彼の瞳も真っ直ぐ私を捕らえていた。
「カイルくん、これからもよろしくお願いします」
「…はい、こちらこそ」
幸せを感じながら、私は彼の腕の中で目を閉じた。