時刻は夕方四時を回った頃の、マジックアカデミー図書室。昼間には人が多いところではあるが夕方になれば人はおろか人の気配すら皆無な空間。
今図書室には、青髪の少年カイルがいた。頭脳明晰、成績も優秀で人当たりが良いことで知られるいわゆるマジックアカデミーの優等生の一人である。
「まだ来ませんねー、もしかしたら忘れられてたりしませんかね?」
一人ぼやくカイル。一人図書室にいる理由は、ある女性に抱き続けた想いをそのある女性に告げるためだった。一応来るようには言ったのだが、正直来ないかもしれないとカイルは覚悟していた。
放課後図書室に来るようにと伝えた女性を待ち続け、もはや一時間が経とうとしていた。それでもカイルは帰る気配も見せずに、じっと待っていた。そこへ……
「ご、ごめんなさいカイル君。遅れちゃって……わぁ!」
「あ、アロエさん、大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫。ありがとう、カイル君」
図書室に入ってくるなり、いきなり転倒した少女アロエ。ピンク色の長い髪とリボン、それにワンピース型に着こなされた制服が特徴の少女だ。
実はカイルが想いを伝えたかったのはこの少女、少し前になるがマジックアカデミーでの宿泊研修の際にお決まりの好きな子の言い合いが始まったのだ。
レオン「よ〜し、カイル! お前好きな女の子誰だよ?」
カイル「え? 僕ですか。僕はいませんよ、好きな子と言う枠組みを作ってしまっては順位をつけるようで申し訳ないですしね。全員平等に接したいんです」
タイガ「おーおー! 優等生は言うことが違うのぉ! 耳が痛うて敵わんワイ!」
カイル「た、タイガさん。そう言う言い方やめてくださいよ」
レオン「じゃあ好きな子じゃなくていいからよ、気になってる女の子ぐらいいるだろ?」
カイル「いませんって」
レオン「いないのか……じゃあ強いて言うなら?」
カイル「(う〜……女子生徒さんごめんなさい)誰にも言わないで下さいよ? あ、アロエさん」
レオン「子供好きだな〜、カイルは。まぁ教えてもらってまた情報が増えたよ、サンキュー!」
と言うわけでその場しのぎに言ったはずのアロエだったが、それ以降変にアロエの事が気になり始めてしまい遂には好きになってしまったのだ。
カイルはアロエに傷がないのを確かめると、一安心してため息をついた。アロエは服をはたくと、不思議そうにカイルを見て言った。
「ねぇカイル君、遅くなっちゃったけどアロエに何か言いたいことがあったんじゃないの?」
「あ、そうでしたそうでした。本題を忘れてしまうところでしたね、いや〜みっともない」
カイルはひょいとアロエを担ぎ上げると、一番近くにあった読書用の机の上にアロエを座らせて両肩を持った。カイルはアロエの目を見て、アロエはカイルの目を見た。
二人の視線がぶつかった瞬間、カイルはゆっくりと話始めた。
「あの……アロエさんって好きな人っていますか?」
「す、好きな人? う〜ん、好きな人って言うと何か違う気がしちゃうけど……気になってる人ならいるかも」
「そ、そうでしたか……」
カイルはガックリと肩を落とすが、一度伝えると決めたこと! と自分自身に喝を入れて想いを伝えた。
「アロエさん、無理を承知で言います。僕……アロエさんの事が好きです! 前々からずっと、アロエさんの事が好きでした。気になってる人がいて言うのも難なんですがね……」
「……カイル君はアロエの事が好きなんだ〜?」
「え? え、えぇ……まぁ」
アロエの舐めるような上目使いの視線をまともに受けたカイルは、思わず目線を下に落として合わせないようにした。
するとアロエは、カイルの首筋に腕をスルリと回し下から伸び上がるようにしてカイルの唇に自らの唇を重ねた。
「……!?」
その図書室の空気が変わった、まるでカイルとアロエの二人の部位だけが切り取られたかのような、別世界に飛ばされたようだった。カイルは数秒後、我に返ってアロエを引き剥がした。
アロエは恨めしそうにカイルを見て言う。
「カイル君、何で引き剥がしちゃうの〜? もしかして嫌だったの?」
「い、嫌とかそう言う問題じゃなくてですね……だってですよ、アロエさん!? さっき、本当についさっきアロエさん自身の口で気になる人がいるって言ったばかりでしょう!? それなのにこんな事するのはおかしいと思いませんか?」
「おかしくなんかないよ、だってアロエの気になる人はカイル君だもん。大人っぽくて〜、頭も良くて、格好いいカイル君が大好きだもん! そんなカイル君に好きって言われちゃったら、もうチューしか無いでしょ?」
カイルが完全に固まった。どれ程の難問を大会で迎えても表情をそれほど変えなかったカイルが、わずか11歳足らずの少女に表情を崩されていた。カイルは確かめるようにアロエに尋ねる。
「あ、アロエさん? さっきの言葉に嘘はないですね?」
「もちろん。アロエもカイル君大好きだから……今度はカイル君からして?」
「……えぇ」
カイルは言われるがまま、アロエに唇を重ねた。三つ年下の少女にリードされるのに違和感を抱かざるを得なかったが、今はカイルは幸せの境地にいた。
二人は数十秒唇を重ねていたが、やがてカイルが再びアロエを引き剥がした。
「ねぇカイル君、本当はアロエの事嫌いなんじゃないの? 二回も引き剥がして……」
「そんな事はありません、断じてありません。しかしアロエさんこそ、苦しくて涙目になっていたでしょう? 僕はアロエさんを苦しませるような真似、したくありませんから」
「涙目になる位深いきすが普通なんじゃないの? そこから男の人と女の人が服を脱いで、男の人が女の人と一つに……」
「アロエさん、それはもう少し大人になってからの話ですから今は気にしないで下さい。ちなみに誰から聞きましたか?」
「レオンお兄ちゃん」
「なるほど、レオンさんでしたか……フフフフ」
黒い笑みを浮かべるカイルに、アロエは多少不安を感じたがもう一度カイルに尋ねた。
「ねぇカイル君、結局どうなの? 私は……カイル君の彼女にしてもらえるの?」
「喜んで受け入れます、改めてよろしくお願いします」
「こちらこそお願いします」
「じゃあ約束!」
アロエはそう言って右手の小指を立てた。一瞬その行動に戸惑ったカイルだったが、すぐにアロエのしたい事を理解して、自分も右手の小指を差し出して絡ませた。
「ゆ〜びき〜りげ〜んま〜んう〜そつ〜いた〜らは〜りせ〜んぼ〜んの〜ます、ゆびきった! 約束だよカイル君、う……浮気とかしないでね?」
「しませんよ、僕はアロエさんがいてくれれば十分ですから」
二人は夕方の図書室で小指を結び、約束を交わした。
翌日(オマケ)……
カイル「あ、いたいた。レオンさ〜ん、少しいいですか?」
レオン「ん? 珍しいなカイル、お前から俺に話し掛けるなんて。んで、どうした?」
カイル「レオンさん、アロエさんに何か吹き込みませんでしたか?」
レオン「あぁ、セッ○ス教えた。ああいう知識は幼い頃からの積み重ねが物を言うからな」
カイル「歳を考えてください、アロエさんはまだ11です」
レオン「もう遅い、オ○ニーとかレ○プとか○女とか色々教えちまった(笑)」
カイル「……あなたバカですかー!!」
レオン「お、おいカイル、落ち着け! 悪かった! 俺が悪かったから! 頼むから漢和辞典五冊重ねないでくれ、ギ……ギャアアアアア!」
カイル「もう変なこと吹き込まないと誓って下さい!」
レオン「分かった、誓う。この……流血に……な」
ちなみにこの後、二、三日レオンは学校を休んだらしい。