「はぁ〜、なっさけない」
一人湖の桟橋に座り込み、湖に手につく小さな石を投げ込んでいく少女ルキア。
マジックアカデミーの生徒の一人でありいつも元気なのが取り柄……のはずだが今日は元気がない。少しからかえば、今にも子供のように泣き出してしまいそうな程の哀愁が漂っていた。
「テストにも失敗して、成績はなれの果てだし……そうかと思えばトーナメントは初戦敗退かぁ」
彼女の哀愁が漂う理由はそこにあった。
普段なら成績は中の上は確実に確保しているし、トーナメントでも三回戦より前で負けることなど有り得なかったのだ。言わば優等生格の存在。
しかし最近は全くのスランプ、成績もガタ崩れでトーナメントは勝てない。お陰で魔法石数もクラスで下から数えた方が早いくらいだ。
するとそこへ、赤い髪をした少年のレオンがやってきた。
「ルーキア、どうしたんだよこんなところで? こんな人気のないところに、何か面白いもんでもあんのか?」
「ひゃっ! ビックリしたぁ、驚かさないでよレオン。別に何でもないし何にもないよ、レオンこそ何でここに来たの?」
「別に何も、強いて言ったらルキアがここに来るのが見えたからな。普段なら連中と町に降りてくのに、今日は何でか湖の方が良かったのか?」
レオンはルキアの横に腰掛けながら質問したが、ルキアはそれに答えずそっぽを向いた。実はルキア、レオンに想いを寄せている。それも短い期間ではなく、かなり前からの話。
しかしその想いを伝える事は出来なかった。
ずっと友達感覚でいたレオンに対して、突然好きだなんて言ったら今のような関係が崩れてしまうのではないか……そう思っていたから、応えてくれたらそれでいいかもしれない、しかし断られたら今のような関係に戻れはしない。それなら今のままでいいと思っていた。
「んで、本当にどうしたんだよルキア? かなり思い詰めてる感じだぜ?」
「ほ、放っといてよ。レオンには関係ないでしょ!?」
「なくはないだろ? 同じマジックアカデミーに通う仲だし、同じクラスメートだし。まぁ……大方勉強の成績が落ちたとかそんなんだと思うけどな」
「ギクッ!」
図星だった。何でそんな簡単に分かるのよ! ルキアは心の中で絶叫した。しかしそんなルキアの胸中とは逆に、レオンは相当ニヤニヤしながら答える。
「図星だな? 簡単に分かるぜ、だって見てたからな。テストの点数も見たし、トーナメントも一回戦敗けだったしな。それも最近始まったことじゃないと来た」
「レオン! アンタ私を怒らせるためにわざわざ来たわけ!? 何が……何がしたいのぉ?」
「ルキア……お前何泣いてんだよ? 泣くことねぇだろ?」
「そんなの私にも分かんないよぉ、泣きたくないのに涙が出てくるのよ。理由は何となく分かるけど……情けないのよぉ!」
それを言った瞬間、ルキアの目からせきを切ったように大粒の涙が溢れ出した。思わずレオンもたじろいだ。そしてルキアは口のせきも切れたのか、我慢していたことを一気に吐き出した。
「レオンの言う通りよ! 私はずいぶん前から急にテストの点数も落ち始めたし、トーナメントでも二回戦行けなくなり始めた。情けないと思わない!?」
「……別に俺もそんなんだから良いんじゃねぇか? まぁルキアの良いと俺の良いは違うかもしんねぇけど」
「情けないのよ! こんなんじゃ人を好きになっても、振り向いてもらうことすら出来ないじゃない! レオンだって……頭が悪い女の子は嫌いでしよ!? 私みたいな女の子、嫌いでしょう?」
「……ルキアは俺が好きなのか?」
ルキアはハッとすると、突然顔を真っ赤に染めた。そしてグシグシと目を擦ると、再びレオンに背を向けた。レオンはゆっくり立ち上がり、ルキアを抱き締めて言った。
「頭が悪いとか、情けないとか……男はそんなんで誰も女は選ばない。少なくとも俺はそうだ、ルキアがバカだろうが頭が良かろうがルキアはルキアだろ? 俺はルキアが好きだからな、自然体のルキアが一番だ」
「……!! ほ、本当に?」
「あぁ、本当だ。ルキアがそんな事で悩むなら俺が解決してやる、勉強は手伝えねぇけど励ましてやれる。今ルキアが泣いてるのだって止めてやる。
なぁルキア、情けないから何なんだ? お前はルキア、ルキア以外何者でもねぇ。だからもう自分を責めるな、泣きたい時くらい俺に男らしくさせてくれよ。な?」
「う……うん、うあああああ!」
その日ルキアは涙が枯れるまでレオンの腕の中で泣き、レオンはルキアが泣き止むまでずっとルキアを抱き締めていた。