マジックアカデミーにも春が来た。
日は四月一日、桜舞い散る中に包まれる校舎も今日に限ってはきらびやかに見え生徒達の目を釘付けにさせる。
そこを歩く一人の少女シャロン、金髪の長髪をなびかせ桜吹雪にたたずむ姿は絵になる以外に言い表せる言葉がないほどだ。
シャロン(やはり季節は春に限りますわね、それも桜の満開の季節。それに加え私の美貌、これはいくら普段の色気ない男子生徒諸君でも私を認めざるを得ませんわ! オホホホホ……)
内心何を考えているかなどは知ったこっちゃないが……。そこへ、体育会系青髪少女のユリが息を切らして走ってきた。
ユリ「シャロ〜ン!」
シャロン「あら、ユリではありませんか。どうしたんですの? そんなに息まで切らして……汗だくですわよ?」
ユリ「それどころじゃないって! 大変なんだよシャロン、レオンがシャロン呼んでこいって。ずっと言いたいことがあったんだって! 絶対告白だよ!?」
シャロン「レオンが? 私と釣り合うとでも思っていらっしゃるのかしらね、まぁいいわ。話だけでも聞いて差し上げますわ」
ユリはそれを聞くと、シャロンの手を取りレオンの待つ校舎裏に連れていった。そこには紛れもなくレオンが立っていた。考え事をしているのか、ぼんやり桜を見上げている。
ユリ「レオン! シャロン連れてきたよ!」
レオン「ん? あぁ、サンキュ。もう行ってて良いぞユリ」
ユリ「はいは〜い、頑張ってねぇ♪」
ユリはものっそいご機嫌な様子で走っていった。二人残されたレオンとシャロン、少しうつむくレオンに自信満々のシャロンと相対した状態である。
シャロン「さ〜てレオン、ユリの話だとこの私に聞きたいことがあるらしいじゃないですか?」
レオン「あ、あぁ。言って良いものか迷ってんだが……騒ぐなよ?」
シャロン「えぇ、承知ですわ」
レオンはスウッと深呼吸をして、一歩一歩シャロンに近付く。平静を装うシャロンの胸も、少しずつ高鳴っていく。そしてレオンは意を決した。
レオン「じゃあ聞くぜ……シャロン、お前バストいくつだ?」
シャロン「……?? 何とおっしゃったのかしら? もう一発言ってみやがってくださいませんか!? んん!?」
レオン「シャロン、バストいくつだ? ルキアみたいにデカ過ぎってのとは逆に、小さい記録ってのも知りたいもんだと思ってな」
シャロン「一回くらい死んできたらどうですの!? いーや、私の手で葬って差し上げますわ! オオオリャアアアア!!」
レオン「ちょっ、シャロン! おちつけ、軽い冗談だ! 待て、ハンマーはヤバイってシャロ……ギャアアアアア!」
レオンの断末魔は隣町まで響き渡った。シャロンの目の前には、目が逝っているレオンの亡骸(寸前)が転がっている。
シャロン「はぁ、はぁ……安らかに永眠(ねむ)るが良いですわ」
レオン「あぁ、きれいなお花畑が……きれいな川が……誰か手招きしてる……あははは」
シャロンは不機嫌そうに校舎裏から出てくると、真っ先に玄関に座るユリに突っ掛かった。ユリの制服の胸元をひっつかむと、ギャースカギャースカ喚いた。
シャロン「ユリぃ! レオンの言いたいところのどこが告白なのかしら!? その辺りはっきりしていただかないと、私も納得しませんわよ!?」
ユリ「落ち着いてってシャロン。今日は何の日?」
シャロン「四月一日がナンボのもんですの……四月一日?」
ユリ「またの名を?」
シャロン「……エイプリルフール。ハメられましたわ」
ユリ「ハメたなんて人聞き悪いなぁ、私だってレオンが何を聞きたいかは聞いてないの。それに春の日に校舎裏に呼び出しなんて、そんなロマンチックなやり方は告白しかないでしょ♪」
シャロンはユリを責めるに責められず、不機嫌のまま歩いていった。
すると、シャロンの前に次はユウが現れた。
ユウ「しゃ、シャロンさん。少し……時間良いですか?」
シャロン「あなたもですの? ……エイプリルフールのからかいとかじゃありませんわよね?」
ユウ「思われても不思議じゃないかもしれませんけど、それじゃないのは確かです」
シャロン「……あまり長いこと時間は取れませんわよ?」
ユウはシャロンの言葉にコクンとうなずき、手を引いていった。
引いていった先は、トーナメントの決勝でも使われるモアイの高台。ほとんど人気がなく、人の目を避けるにはもってこいの場所だ。
ユウ「この辺りなら誰も来ませんよね」
シャロン「誰も来ないって……ユウ、あなたまさか私に○○○したり××××したりとかする気じゃないですわよね!?」
ユウ「……そんな事しませんよぉ、物凄い発想力。もとい妄想力ですね」
シャロン「余計なお世話ですわ! それでユウ、私に話したいこととは何ですの!?」
シャロンの言葉に黙り込み、赤面するユウ。シャロンはあまり無理矢理言わせる気にもならず、少し待つことにした。レオンならもう殴る蹴るだが、さすがにユウにそれは大人げないからだ。
しばらくすると、ユウは顔を真っ赤にしたまま上げた。するとそこには涙の痕があった。
シャロン「ゆ、ユウ。何で泣いてるのかしら? 私、何も怒ってませんわよ?」
ユウ「い、いえ何も。じゃあ……言いますよ? 僕、シャロンさんが好きです! 付き合ってください!」
ユウの声が高台に響き渡る。さすがのシャロンも言葉を失い、答えを探すように視線が泳ぐ。それとは対照的に、ユウの目はシャロンを捉えて離さない。シャロンは一度咳をすると、顔は真っ赤だが普段通り強がって言った。
シャロン「言ったはずですわよユウ、エイプリルフールのようなからかいは受けないと……」
ユウ「冗談なんかじゃありません! 僕……本気でシャロンさんが好きなんです!」
シャロン「じゃあそれをどうやって説明しますの? 生半可な覚悟は、私は受け付けませんことよ?」
シャロンの言葉をきいて、ユウはさすがに黙り込んだ。説明しますのと言われても、説明のしようがない。あるにはあるが、シャロンに失礼かもしれないとも考えていた。
しかしユウは吹っ切れた。途端にシャロンの方へ駆け出すと、猫のようにシャロンに飛び掛かりシャロンを押し倒した。
シャロン「いったいですわね、何しますの!?」
ユウ「証明します!」
ユウはシャロンの後頭部に腕を回し、抱え上げるようにしてシャロンの唇に自らの唇を重ねて目を閉じた。シャロンは驚きのあまり目が点である。もちろん二人にとって、これがファーストキスである。
しかし初めてとは思えないほど、二人のキスは長く深い。さすがに苦しくなったか、シャロンがユウの背中を軽く叩いた。ユウは自分の行動に驚いて、すぐにシャロンを離した。
シャロン「はぁ、はぁ……ま、全くもう! いきなりされるなんて、たまったものじゃありませんわ!」
ユウ「ご、ご、ごめんなさい。本当に僕、酷い事を……でも僕の気持ちは本物だって事、分かってもらいたくてそれで……」
シャロン「もう十分分かりましたわよ、私の初めての唇をかっさらったんですもの。それなりに覚悟が出来てなければ、途中で蹴り飛ばしてますわよ」
ユウ「へっ?」
シャロン「分かりませんの? 私の初めてのキスの相手として認めてあげますのよ。しかし、もちろんこれから先私を捨てる事も許しませんし、私を助ける事が出来ないなんてのも許しませんわよ。覚悟してなさいな」
ユウ「じゃあ……」
シャロン「そうですわね、ユウ。あなたの彼女とやら、ならせていただきますわ……違いますわ、あなたを私の彼として認めて差し上げますの! ありがたく思いなさい!」
ユウは思いきりガッツポーズを作ると、もう一度シャロンに飛び付いて言った。
ユウ「シャロンさん、大好きですから絶対一緒にいてください! 離しませんし助けますから!」
シャロン「あなた次第ですわ」
身長差からか、ユウをシャロンが抱き抱えるような親子のような絡み合いで二人はしばし戯れていた。
〜終〜