淀みなく澄み渡る青空の下、多くの人が行き交う日曜日の街の広場。
広場の中央にある噴水の縁に腰掛けて行き交う人をただ眺める。
なんとなく時計を確認してしまう。これでもう何度目だろう。
これじゃあなんだか…
(デート、みたいだな…)
いや、女の子とこんな「いかにも」な場所で待ち合わせしているのだから、「みたい」ではなくデートと言って問題ないだろう。
同年代くらいのカップルも見受けられた。もっとも、べったりと寄り添う男女を見ると、やっぱり俺はこういうのは駄目だと感じるのだが。
いつもより少しだけ気を使って選んだ、シンプルかつ少しだけお洒落な服装。
なんだかんだ言っても相手を意識している自分に気づき、小さくため息を吐くと立ち上がって軽く伸びをする。
再び座るとごく自然に時計を確認し、見飽きた群衆を避け足下へと目を移す。
首筋が暑い。
二度目のため息が口から漏れたとき、照り返しの眩しい視界が影に覆われる。
影の主が不満げに言葉を投げかけてくる。
「私とご一緒することがそんなに憂鬱かしら?」
「滅相もございません。光栄の極みにございます、お嬢様」
にやりと笑って立ち上がる。
「大きなため息をついてた方に言われても嬉しくありませんわ」
「まぁそういうなよ。可憐な女の子がなかなか来てくれなかったらため息も出るって」
手を広げて大げさにいうレオン。
「こ、こういう時女性は遅れてくるものですわ」
着ていく服を悩み抜いた末に時間に遅れたのはここだけの秘密だ。
結局、白を基調とした服を選んで着てきた。ブロンドの髪にはいつもと違う青いリボンが栄える。
難しい顔をしたレオンの視線が足下から上がってきて顔まで来て止まる。女性としてジロジロ見られるのは気分のいいものではない。
とっさに視線から両手で体を庇う。
「あ、あまり見ないでくださる?」
「ん?あぁ悪い。なんかいつもと違うからさ」
(いつもと違う…ってそれだけですの!?この場へ来るために私が二時間もかけて選んだんですのよ?レオンさんの為にここまで悩まされたと言ってもいいくらいですわ。それなのに「いつもと違う」だけですの!?)
シャロン法廷第一審…被告レオンは「おしおき」百回の刑。
「…でも何着ても似合うんだな。驚いた」
シャロン法廷第二審…被告レオン、無罪。
レオンの二回目の逆転勝訴だった。
「そ、そんなの当然ですわ。それより早く行きますわよ」
恥ずかしくてつい背を向けてしまうシャロン。
「そっちじゃないぞ」
レオンをおいて歩き始めたシャロンに声をかける。
「…わかってますわ」
ピタッと止まって耳まで赤くなったシャロンが振り返る。アカデミーで凛とした顔で優雅に歩く彼女とは違い普通の女の子といった感じだ。
「ははっ…OK、わかってるって。じゃあ早速案内させていただくとしますか」
そんなシャロンについつい頬が弛んでしまうレオン。こんな気分になったのは久しぶりな気がする。
対するシャロンはいつもなら(あり得ない屈辱…!)となるところが屈託のないレオンの態度に何故か恥ずかしさでいっぱいになる。
清々しい気分で真っ直ぐ前を見て歩くレオンと、レオンの真横より少し後ろを顔を赤らめ俯き加減に歩くシャロン。
二人の運命の歯車が静かに回りだした。
・
・
「本当にこんなとこでも良かったのか?」
軽く食事をとった二人が向かいあっている。
若者向けな雰囲気と手頃な値段のため、学生の間でわりと有名な店。
「『でも』ではなくてここが良かったんですの」
レオンが予定していたそれなりに値の張るような店はシャロンにあっさりと却下された。最初「もう一桁違うようなところじゃないと納得しないのか!?」と焦ったがどうもまったく逆のようだった。
「まあシャロンがそういうなら俺はいいんだけど…」
腑に落ちない、といった感じのレオン。
逆に興味深げに周りを眺めるシャロン。彼女にとって「学生同士の普通の付き合い」の方が値段だけ高い店なんかよりも遙かに魅力的だった。小さい頃から自分は周りと違ったから。
昔はそれで良かった。自分は他の人と違うということを自分が優れているからだと思っていた。大人に囲まれた中で暮らしていたから、同じ年頃の友達なんて馬鹿らしく思えた。
(でも、本当は──)
少し大きくなれば自分が他の人と違うのは両親の身分、肩書きであって自分の力ではないということくらいわかる。
だから人知れず努力した。「自分自身」を評価して貰いたかったから。勉強もお稽古事もした。
(私が本当に望んだのは──)
だけど、周りの目は違った。「さすが〜〜家の娘さんだ」、「やっぱり親御さんと似て…」
出てくるのは家の名、親の名…そこに「シャロン」の名はない。
私はただ…
(ただ私を一人の人として見て貰いたかっただけなのに──)
アカデミーに入ってから同性のクラスメート達とは仲良くなった。だけど…
「やっぱり私なんかとは育ちが違うね〜」なんていう悪意のない言葉を耳にする度に、自分の存在を否定されたような言いようのない虚無感に襲われる。
(「私」に存在価値はあるのかしら…)
そんなことまで考えるようになった。
優れている、どころではない。「私」というものには価値すらないのかもしれない。
だって私という人間を見てくれる人がいないのだから。
…いや、いなかったのだから。
*
その男は突然やってきた。
赤い髪の同年代らしい少年はシャロンにも見覚えがあった。
クラスの男子が集まって騒いでいるときのリーダー格、そんな程度の認識ではあったが。
「えっと…今日、暇?」
正直、驚いた。今までシャロンを誘いに来たのは妙に仰々しい態度だったりしたものだったのに対し、この男はまるで挨拶でもするかのように訊いてきた。
「えぇ、時間はありますわ」
「そっか。良かった。じゃあ放課後俺の部屋に来てくれ。場所はこれ。じゃ」
言うだけ言ってメモを渡して立ち去る男。
「あ…」
呼び止めようとするが名前がわからずに呟いてしまう。
「ん?」
首だけこっちを向く。
「じ、時間はありますがお相手するとはいってませんわ」
「駄目なの?」
「駄目…ではありませんけど…」
「じゃあ気が向いたらでいいから」
無言で男の背中を見送る。
近くにいたクラスメートが物珍しげに近づいてくる。
「珍しいね〜シャロンが誘いを蹴らないなんて」
珍しいどころか実は初めてだったりする。今まで誘いを持ちかけた男はことごとくその場で「お断り」であった。
「あの方、名前はなんていいますの?」
「…知らずに受けたの?…まあいいけど。レオンくんよ。よ〜く覚えときなさい」
自分から人の名前を訊いたのは初めてだった。
その十数分後にはレオンの部屋の前に立つシャロンの姿があった。
・
・
興味本意で来てみたら早々に醜態を晒す羽目になった。
赤面しながらなんて失礼な男なんだろう、とも思い憤った。
だが、そこには今までのような「無価値な自分」に対する憤りはなかった。
言いたいことを気兼ねなくここまで言えたのは初めてのことだったと思う。言えた、と言うより言わされてるという感覚だったが。
普段ならある程度のことを言われても声を荒げることのないシャロンが、なぜかレオンと話していると本音が漏れてしまう。
その度に表情に出てしまったのだろう。何度となく笑われてしまった。
彼が紅茶とクッキーを持ってきたことすら忘れて話し続けた。
そういえば、といった感じでレオンが尋ねてきた。
「この前のテスト、どうだった?」
一瞬、嫌な言葉が脳裏をよぎった。
「もちろん満点ですわ」
レオン次の言葉は大体予想がつく。
「…マジで?」
「え、えぇ当然ですわ」
少し予想とは違う答えが返ってくる。「当然」と強がってしまうのは彼女の生来のものだ。
「当然…ってなんで?」
…どうして当然なんだろう。
「そ、それは私の家の名にかけて…」
シャロンが呟くのを遮ってレオンが問う。
「じゃあ…お嬢様に生まれたやつはみんな生まれたときから頭いいってことなのか?」
「え…?」
「俺はてっきり、私にはこのくらい簡単ですわ〜とか言うもんかと思ったんだけど」
「ぁ……」
「あ、ごめん。別に悪い意味じゃなくて」
突然黙り込むシャロンに不安になったのだろう。レオンが弱い口調で言う。
「構いませんわ」
今までで一番の笑顔で答える。
「ですけど、レオンさんの前でそんなこと言ったらレオンさんに失礼ですわ」
下から数えた方が早いレオンも笑いながら答える。
「はははっそれもそうだな」
すっかり温くなってしまった紅茶を飲みながら、二人の談笑はその後しばらく続いたのだった。
*
自分の肩書きに囚われていたのは自分自身のせいだったのだろう。
レオンに問われた時、自分が何のために努力してきたのか答えられなかった。
自分自身が気付かないうちに「家名に負けないように」、「両親に負けないように」と生きてきた結果なのだろう。
今目の前にいる赤髪の少年がそれを教えてくれた。
レオンのことだから何の気なしに発した言葉の一つなのだろうが、シャロンにとっては自分を肯定してくれた唯一の言葉だった。
そんなレオンの為に、今日までの間レオンの情報を聞き回った。なにか自分にできることはないのか、と思い至ったのだ。
自分でもなぜここまでしようと思ったかはわからない。だけどそうしないといけないような気がした。
そんな時興味深い話を耳にしたのだった。
「レ、レオンさんは…」
「ん?」
さん付けに僅かに違和感を覚える。そう言えば名前で呼ばれたのは初めてかもしれない。
「悩み…はありませんの?」
「……」
一瞬言葉に詰まる。
「いや…特にないけど」
できるだけいつも通りに答える。
「……ッ」
レオンの言葉を聞いた途端何かを堪えるように俯いてしまうシャロン。
「…では訊きますわ。最近友人の方とも顔を合わせずに帰ってしまうのはどうしてですの?」
感情を抑えながら静かに質問を投げかける。
「……」
「ご友人も『何か思い詰めたような顔をしてる』…と心配されてましたわ」
「俺は別に…」
周囲の喧噪の中しばしの沈黙が二人を支配した。
「私では…駄目ですの?」
シャロンの呟きが沈黙を破る。
「え…?」
初めて自分を見てくれた人。そんな人の為に、何でもいいから何かしてあげたかった。
友人達から最近の彼の話を聞いた。レオンが何かを悩んでいるのは明白だった。
彼の悩みを聞いてあげることができれば、そう思った。
だけど──
「…私は相談を聞いてさしあげることすらできないんですの?」
今にも消えてしまいそうな、その儚さがレオンを不安にさせる。
「違う!」
一瞬、レオンに視線が集中するのを感じたが、そんなことは問題ではなかった。
今は目の前の少女が大事だったから。
「確かに俺はシャロンに話せないようなことがあるかもしれない。けど…」
不安げなシャロンの瞳を見据えてゆっくりと続ける。
「シャロンには話せないんじゃない。話せないんじゃなくて話さない。誰にも話さない…俺が自分で決めたことなんだ」
最後にごめん、とだけ付け足す。
しばらくの沈黙の後、ふぅ、とわざとらしくため息を付くと、
「…仕方ありませんわね」
と無理していつものように言った。
言ってから、やっぱりレオンにはバレてるんだろうなと思うと、なんとなく恥ずかしくなってしまった。
「ごめん…」
なんとなくもう一度謝ってしまうレオン。
「まったくですわ。最初に『特にない』なんて言ったのはどこのどなたですの?」
いつも通りに振る舞おうと強がるシャロンがなんだかとても可愛らしい。
「だから悪かったって。謝ってるじゃん」
そんなシャロンを見ながらつい軽口を叩いてしまう。
「悪いと思っているなら嘘をついた罰として…つ、付き合ってもらいますわよ」
顔が真っ赤である。
「……は?」
耳がおかしくなったのだろうか、と疑ってみる。
「で、ですから…罰としてこの後私とショッピングをご一緒していただきますわ」
「……」
「に、荷物持ちとしてですわよ!?誤解なさらないでくださいます!?」
(なにも言ってないんだけど…)
「先に言っておきますけど、レオンさんに拒否権はありませんわよ!」
なんだかだんだんムキになってきているように見える。
「あぁ…そんなことでいいんだったらいくらでもお相手させてもらうけど」
収拾がつかなくなる前にとりあえず返事をしてからあることに思い至る。
「シャロンの申し出を断るな」というのはこのことなのか、マロンはどこまで予測しているのだろうか…と。
その後、二人の会話を聞いていたと思われる同年代の客に好奇の目で見られながら店を後にするのだった。
・
・
「そういやなんで俺に悩みとか訊いたんだ?」
気になっていたことを訊いてみる。
「えっ!?べ、別に意味なんかありませんわ…」
何故か歯切れの悪い答えを返すシャロンに再度訪ねる。
「だってわざわざ人から聞いたんだろ?」
「それは…偶然ですわ!そう、たまたま話してるのを聞いただけですわ!」
「…まあいいけど。それにしても…まさかあの店の中に知り合いはいないだろうなぁ…」
あんな会話を聞かれていたら、次の日には噂になってアカデミー中を駆け巡ること間違いなしだ。
いつからかレオンの真横を歩くようになったシャロンも口にはしないものの赤面している。
「あんな恥ずかしいセリフ、よく人前で言えるな」
「レ、レオンさんこそ…ああ、もうっ!そんなことより着きましたわ。しっかり働いてもらいますわよ」
ショッピングに付き合う、ということでとりあえず服を見に行くことになった。レオンはファッションに特にこだわりはないのでシャロンが先導している。
ご立腹のシャロン嬢に追随しながら、こういうのも悪くないな、と思うレオンだった。
・
・
人生には時として不自由な選択を迫られることがある。
そう、まさに今のように。
「これもいいですけど…こっちも捨てがたいですわ…レオンさんはどちらがいいと思いますの?」
人がどっちがいいか、と聞くときは自分の中で答えが出ている。それでいてあえて聞くのだから始末が悪い。自分の答えと一致しなかった場合機嫌を損ねる恐れがあるからだ。
「う〜ん…」
真剣に見比べるレオン。
一つは黒がメインのシックで高級感溢れる(実際高いのだろう)デザイン。
もう一つは逆に白がベースのワンピース。なんていうのか知らないけどヒラヒラしたのがついてて可愛らしい。
イメージにあうのは前者だろう。しかし…
レオンの脳内にシックでちょっと色っぽいシャロンと、無邪気に白い衣装を翻すシャロンが現れる。
「……………こっち」
悩んだ末にレオンが選んだのは明るく笑顔を振りまく白い天使(注!イメージです)だった。
「あら…意外ですわ」
「アカデミーだと制服ばっかりだからさ。明るいのも見てみたいと思って」
「それは貴方の趣味ではなくて?」
ジトっと見られながらしまった、といいわけを考え始めるレオン。
「いや、だってシャロンって何着ても似合うと思うからどうせなら…」
「仕方ありませんわね。そこまで言うならこちらにしておきますわ」
仕方ない、といいながら上機嫌なシャロンであった。
試着してくるというシャロンに「そうか」とだけ答えると、むっとして、不満ですわと言わんばかりな顔をして一人で行ってしまったが、何か悪いことでも言ったのだろうか。
シャロンの姿を見たいとも思ったけど、「着替えたら見せてくれ」と言うのは恥ずかしいし、それに何故か分からないが怒ってるように見えたから大人しく待っている。
ぼんやりと外を行き交う人を眺める。
することもなく、なんで今ここにいるんだろう、と何気なく考えてしまう。
見知らぬ顔が通り過ぎていく。
なにか考える度に必ず同じ結果にたどり着く。分かりきったことだった。
ふぅ、とため息。最近ため息ばっかりだな、と改めて思う。
そのとき、通り過ぎていく人の中に、忘れない顔を見た。
(あれは…)
何かに操られるように外に出た。
辺りを見回す。休日のためか、かなりの人で溢れている。
いない…確か向こうに…
何故探さねばいけないのか…それはなんとなくそんな気がしたから。
とにかく前に進む。手段と目的はすでに逆転している。
早足で歩く。人にぶつかるが今はそれどころじゃない。
…どうしてここに?
人の隙間を縫って早足で歩く。
心拍数が上がっているのがわかる。
人をかき分けて強引に前に進む。
この道は横幅は広いが一直線だから必ず見つかるはず。
しかし…
見間違い、か?
「…レオンお兄ちゃん?」
今まさに自分が探していた声が背後から聞こえた。
振り向いた先には私服でも変わらず特徴的なリボンをつけた少女。
「…アロエ」
忘れるはずがない、この少女を。
いつも明るくて元気な少女「だった」。
俺をお兄ちゃんと呼び、俺も明るく答えて「いた」。
それをすべて過去のものに変えてしまい、弱々しい、今にも折れてしまいそうな彼女にしたのはのは他ならぬ自分なのだから。
「「…ぁ」」
二人同時に呟いて、二人して俯いてしまう。
「あのね…レオンお兄ちゃん、誰か探してたみたいだから…」
お前、何言ってんだ…お前は俺になにされたか忘れたのか…?
「あの、アロエで良ければ…手伝うから…」
なんだよこれ…なんでそんなことするんだよ…バカじゃねぇか…
「ねぇ…お兄ちゃん…」
俺をまだ『お兄ちゃん』なんて呼ぶのか、お前は…
「…泣いてるの?」
「…ぇ?」
言われて、初めて気づいた。
涙が一筋、頬を伝う。
「なにか悲しいことがあったの?」
違う。そんなことじゃない…
「それともアロエはおせっかいなのかな…?」
ああ、ホントにおせっかいだ…なんで俺なんかに話しかけてるんだよ…
「アロエでよかったら…話して」
…でも、お前なんかより俺の方がもっと馬鹿野郎なんだ。
言いたいこともあるのに言葉が出ない。
気が付くと俺は何度も何度もごめんと呟きながら久しく忘れていた涙を流し続けていた。
・
・
結局、年下の(しかもかなり)女の子にあやされるという、みっともない姿を公衆の面前で晒してしまった。
人を待たせてるということで、人通りの少ないところで立ち話だけさせてもらうことにした。
とにかく、一番言いたかったことを真っ先に口にする。
「…ごめん」
シンプルな文句だが、上辺だけ飾っても仕方ないから、これが一番いいとおもった。
しばらくなにやら考えてからアロエが言う。
「それは前にも聞いたからもういいよ。それより、どうしてアロエを探してたの?」
あっさりと「もういい」と言われ、しかも「前も聞いたから」といいのはどういうかとかわからない。
「…いや…なんとなく。言いたいこと、というか謝りたいってのもあったし…」
とりあえず、質問にだけ答える。
「あははっ!やっぱりお兄ちゃんはお兄ちゃんだね」
なぜかすっかり元気になった(無理してそう見せてるのだろうか?)アロエが屈託のない笑顔で言う。
「さっきお兄ちゃんに話しかけるとき、すっごく怖かったけど…やっぱりお兄ちゃんは変わらないよ」
「……」
何も言えないレオン。
「あのね…もしかしてお兄ちゃん好きな人、いる?」
「………ああ、いる」
やっぱり、とにこっと笑うアロエ。
「え〜と…もしかしてシャロンさん?」
おそるおそる聞いてくる。
「なんでそう思うんだ?」
「うん…さっき、一緒にいたから、そうかなぁ〜って」
アロエもこっちに気づいていたらしい。
「…いや、違う」
「やっぱり!」
呆気にとられるレオン。
「お兄ちゃん、マロン先生が好きなんでしょう?」
「え……い、いや、まぁ…」
アロエは何故か楽しそうだ。
「前からそうだと思ってた〜……あ、でもそれじゃあシャロンさんが可哀想だよ」
「何で?」
もはや話が読めず呆然して、愚直に聞き返すが、笑って誤魔化されてしまう。
「…アロエはさ、いつから知ってたんだ?俺が先生のこと…」
ふと真剣な顔になるアロエ。
「女の子はね…男の子が誰が好きか、とか結構わかるんだよ……特に好きな子のことは」
時が止まった。
そう、感じた。
「それって…」
「アロエにあんなことしたんだから、ちゃんと責任とってね。じゃあ、アロエも用事があるから」
くるりと身を翻して人混みの中に消えていった。
・
・
シャロンのもとに戻るまで、時間にして15分もなかった。
女の子というのは、妙に化粧に時間をかけたりするらしい。どうにも試着にもそれなりに時間をかけていたらしく、怪しまれることもなかった。
一度「お披露目」に来たらしいがトイレに行っていたということで誤魔化した。まあ、そのせいで再び不機嫌になっていたりするのだが。
「わざわざ私がレオンさんのお目にかけようと…」
「へぇ〜…そんなに見てほしかった?」
シャロンの言葉を遮ってつい意地悪く言ってしまう。
「そ、そんなわけありませんわッ」
「そりゃ残念。んじゃ、次回にでも見せてもらいますか」
「ふふっ…それはデートのお誘いですの?」
いい加減レオンのペースにも慣れていた。
「はははは。今度の罰ゲームの罪状は何なんだ?」
まだレオンのほうが一枚上手なようだった。
会計を済ませて、外を歩く。ちなみに会計はシャロン持ち。結構な額だがそれでももちろんレオンは格好良く払うつもりでいたのだが、「レオンさんはあくまで荷物持ちですわ」という良くわからない理由で却下された。
彼女らしいと言えばらしいのだが。
その後、他に目的がなかったので、レオンの「じゃあ普通に散歩でいいんじゃねぇの?」案が採用された。
取り留めのない会話を続けながらブラブラと散歩をする。
汗ばむ日差しに晒され続けていたが、今日一番充実していることを感じるのだった。