「いや、すまんな」
サンダースの低い声が、いつもより少しだけ高く聞こえる。
神父の衣服をまとったサンダースが、存外にも普段より穏やかに見えて。
「三連休のうち、二日も我輩の用事に付き合わせてしまって、本当にいいのか?」
「もう、私は良いって言ってるんだから、少しはそれに甘えて欲しいわ?」
シスターの衣装をまとって微笑んでいるのは、マジックアカデミーの教師の一人であるリディアである。
サンダースが軍に在籍していた頃からの戦友に、二日だけ教会の留守を預かってほしいと頼まれたことが切欠で、サンダースはそれをあっさり承諾してしまった。
しかし、教会など入ったこともないサンダースである。
まずは教会に関する知識をとリディアに相談したところ、手伝うと言い渡されて。
サンダースとリディアで、二日の間ではあるが教会の留守を預かることになったのだった。
来訪者が全くない中、サンダースとリディアは雑談に花を咲かせていた。
リディアの問いにサンダースが答えて、というループばかりではあったが。
本来サンダースが饒舌な人間でないのは、リディアも知っているのだ。
ただ、こうやって二人きりで話すことなど今まではなかった。
「サンダース君は、好きな娘とかいるの?」
「家庭的で我輩より頭が良いことが最低条件だぞ?・・・いると思うか?」
「なんで・・・?そんな条件、まずいないわよ?」
「だからこそだ。不可能なほどに高い理想を持つからこそ、それに相応しくあろうと努力も続くものなのだからな」
そういって聖書に目を落とすサンダースを眺めながら、リディアは小さく苦笑する。
眼前の青年の誇り高さと、そして不器用さに。
二人きりの時間は、まだまだ長いのだ。
この二日間で、サンダースの意識改革もやってしまおう。
リディアは苦笑の中で、そんなことを思っていた。