ようやく新年のおめでた気分も街から消え、もうすぐ暦の上では春になろうという時期のある日。
春近しといえども、気候はまだまだ「厳寒」なんて言葉が似合うほど。教室に臨時で設置された暖炉には、
休み時間になるたびに生徒が集まる。
「うー、寒いー」
誰でも言いそうな言葉をはじめに言うのは、おしゃべりさんの特権である。
「そりゃユリ、そんなヘソ出しルックじゃ寒いだろうがよ」
「あっ、言ったなレオン!格闘科の生徒はみんなこれなんだよ?」
「じゃあここは格闘科か」
「……うー、何をー!」
レオンとユリの間で何らかのボルテージが高まっていく。
「お前、やる気か?」
「ええ、臨むところよ!」
「ああっ、二人ともケンカはダメだよー」
止めに入ったのは何故かマロンだった。
「「あっ、先生見てたんだ……」」
「もうすぐ入試の時期なんだから、教室で暴れて汚さないでよ?」
「入試だって。俺もそんなの受けた時期があったんだなぁ」
「ってことは、もうすぐあたしたちの後輩が……」
「だな。まぁ後輩って言っても、サンダースみたいなのが入学してきたらちょっと引くけどな」
「む?我輩がどうかしたか?」
「うわ、サンダース聞いてたのか。いや、ちょっと入試とか聞いて懐かしくなってさ」
「ふむ。入試と言えば、興味深い資料を入手した」
「何なに、見せて」
言うが早いか、その「資料」は既にユリの手の中だ。
「なにこれ、今日の新聞?」
「17面を見るがよい」
そこに載っていたのは、各地で行われている入試の募集人数や倍率をまとめたものだった。
「へー、入試速報ねぇ……ちょっとレオン、うちの学校探してよ」
「はぁ!?自分で探せよ……」
そう言いつつも、上から順番に目を通していくレオン。
「えーと……あったあった。マジックアカデミー普通科、倍率が3.61倍だってよ。って、高っ!」
「さっすが伝統校!ってやつ?あたしたちもそんな激しい入試を勝ち抜いたんだねー」
「……格闘科は1.43倍だが」
「うっ……」
「つまりお前は、倍率の低い格闘科に入学しておいて、後からコネで転科したと、こういうわけかぁ」
「言ったなこらー!」
レオンの方に向き直り右腕を勢いよく突き出すユリ。
「っしゃ来いやー!」
応戦体勢に入り、同じく右腕を振りかざすレオン。
二人の右腕同士はがっちりと組み合わさり…
「うぉぉ……この気迫、まさに魂の勝負!我輩も立ち会おう!レディー、ファイト!」
サンダースの一声で腕相撲が始まりましたとさw