「今日はとっても楽しかったですねぇ」
「うむ。有意義な休日となったな」
夕暮れの道を、サンダースとリエルは歩く。
サンダースは両手に紙袋やエコバッグを持っているため、手を繋げないのがリエルとしては残念だったりするが。
「明日は何か用事があるんですか?」
「明日は知人の女に呼ばれている」
「女の・・・人?」
リエルの胸が、ズキンと鈍く痛む。
しかし、そんなことはおくびにも出さず。
「そうだ。・・戦友の姉でな。共に墓参りをする予定だ」
「戦友・・・」
「数年前の戦役で、我輩を庇って逝った友だ。気さくないい奴だった」
懐かしげな顔で語るサンダースの姿は、リエルも初めて見る。
いや、それよりも。
「そのお姉さんとは・・何か特別な関係なんですか?」
「一度、将来に結婚しないかと言われた事があるぐらいだが・・何か?」
「け、けけけけ、結婚!?」
「無論、断ったがな。・・どの面を下げて結婚などするのだ」
サンダースはそこまで言って、小さく息を吐いた。
「我輩を好きになるものなど、いない。いてはならない。いるはずもない」
「そんなこと、ないです!」
思わず悲鳴のような声を上げたリエルは、サンダースの真正面に向かい合うように立つ。
「どうした、リエル嬢」
「私は、サンダースさんの事が好きです。サンダースさんが昔どんなのだったか知らないけど・・・」
「・・・・冗談と笑い飛ばせる雰囲気ではないな」
「はい、冗談じゃありません。三ヶ月ぐらい前からですが、大好きなんです」
「正気か?・・全くそんな感じはしなかったが」
「正気ですよぅ」
勢い任せではあるが、言いたいことを言ったらしいリエルは、すっきりとした面持ちで、サンダースに背伸びして見せる。
んーっと、まるで雛が親鳥に餌を求めるような仕草で。
「私とお付き合いしてくれるなら、そっとでいいですから・・・キス、して欲しいです」
「・・・・・・・・正気か?」
「駄目なら、はっきりと言っていいですよ?でも・・」
リエルは二の句を告がずに、言葉を途切れさせる。
これ以上の言葉は要らないと、そう思ったから。
一方、目を瞑ったリエルを見つめて、サンダースは一瞬悩む。
ここで断っても、彼女は明日になれば何時もの様に接してくれるだろうと。
しかし、その答えに逃げるのは、情けないことだと、サンダースは思って。
何よりも、リエルと一緒にいると心地いいのだ。
誰よりもリエルと一緒にいたいと、サンダースは彼女を抱き寄せる。
「・・・ぁ」
「・・・・・・」
小さなリエルの声は、すぐにかき消される。
彼女の持っていた荷物が地面に落ちる音と、互いの胸の鼓動だけが、二人の耳に聞こえていた。
かくして二人は、恋人への第一歩を踏み出すこととなったのだった。