「ある晩のこと」  
 
第1章     
 
 夜の帳もすっかり下りて、なおも昨日から降り続く雨のせいで仄かに灰色の空。  
雲の隙間から途切れ途切れに見える月の光は、いつもより少し妖しく見える。  
 既に生徒のほとんどが寝静まり、寮内にはただ二人ばかりの足音が響くのみ。  
その一つの主――ユウは、その小さな手に持ったノートの切れ端をいぶかしげに  
眺めながら廊下を歩いていた。  
 どんっ、という何かにぶつかった衝撃でふと我に帰る。  
「あいたっ」  
「ユウではないか。前を良く見て歩け。それはそうと、こんな夜分に何をしているのだ」  
 とっさに紙切れを隠すユウ。  
「あっ、ごめん。え、えーと、ちょっと呼び出されちゃって。サンダースは?」  
「我輩は今から自室に戻って寝るところだ」  
「そっか。じゃあおやすみー」  
「ああ。何の用か我輩には知ったことではないが、夜間の外出はくれぐれも気をつけろよ」  
「うん、わかった」  
 そんな他愛もない会話を交わした後、再びユウは歩き出す。  
「それにしても、こんな時間に何の用なんだろう…」  
 先ほどから手に持っているその紙切れ――彼がこんな時間にどこかへ向かっている理由  
なのだが――には、ユウくんに話したいことがあるから、今夜11時に寮の裏庭の倉庫前に  
来て欲しい、といった旨が、おそらく女子の手で書かれていた。その紙切れに書かれた可愛らしい  
文字を見れば、男なら誰でも「いい感じの」展開を予想してしまうだろう。ユウも年は幼いとは  
いえ、それくらいのことは思っていた。  
 頼りない白熱灯が所々に灯る暗い廊下を抜けて、裏口からこっそり抜け出し、寮の裏庭、  
普段はほとんど誰も使うことがなく、昼間でも静まり返った一角に、目的地はあった。  
「ユウー、こっちこっち」  
「……遅かったわね」  
 待っていたのは、意外にも二人だった。ユリ、そしてマラリヤ。二人はユウのクラスメート  
だが、今までユウに気があるような素振りは見せなかったはず。ユウは少し戸惑いながらも、  
二人のもとへ歩み寄る。  
「ごめんね二人とも、待たせちゃって…それで、何の用?」  
「あのさ、ユウ」  
 切り出したのはもちろんユリだ。  
「サツキ先生のことなんだけどさ」  
 予想していたのとは全く違う話題に、ユウの困惑は大きくなるばかり。しかし、暗闇では  
よく見えないものの、ユリが笑顔で話していることは分かったので、少し安心して会話を続ける。  
「うん、お姉ちゃんがどうかしたの?」  
「弟のユウから見て、どんな先生だと思う?」  
 身内についての感想を求められ、少し言葉に詰まる。  
「あ、うん、えっと……とっても親切に教えてくれるし、優しくていい先生だと思うよ。って、  
何だかこんなこと言うの恥ずかしいね。身内だし……」  
「そっか、それはなによりだね。でもさ、」  
 一息置いて、なおもユリは続ける。  
「あたしたちも、サツキ先生に教えてもらいたいのよね」  
「う、うん」  
 ここでマラリヤも口を挟む。  
「……それなのにサツキ先生に質問に行っても、いつも貴方にばかり教えている……」  
「そういうこと。ねえユウ、やっぱりいくら姉と弟だからって、そういうの良くないとは思わない  
かな?」  
「そ、そうかもしれないけど、僕も分からないところたくさんあるし……」  
「お姉さんなんだから、そんなの放課後にでもゆっくり教えてもらえばいいじゃない!あたしたちはね、  
すぐにでも質問したいの!はっきり言ってね……」  
 ユリの笑顔は、明らかに怒りを含む笑顔に変わっていた。  
 
「ユウが邪魔なの」  
 ユウは耳を疑った。しかし無常にも、ハッキリと空気の振動となって発せられたその短い  
フレーズが、彼の頭の中を駆け巡る。とっさに身の危険を感じたユウは、もと来た道を戻ろうと振り返る。  
 だが、既に遅かった。振り返った彼の目の前には、既にマラリヤが立ちふさがっていた。前後  
から挟まれ、もはや逃げ場は無い。そうだ、ここは魔法を使って……そう思ったユウは、簡単な呪文を  
唱える。しかしそれも、マラリヤによって無効化されていた。  
「……無駄」  
 マラリヤがそう小さく呟いたのがユウの耳に入るのと同時に、後ろから何者かによって強く引き倒された。  
突然の感覚に少し怯んだ後、再び起き上がろうとするが、全く体が動かない。暗闇の中目をこらして見ると、  
それは地中から伸びた太い蔓だった。  
「マラリヤさん、どうしてこんなこと……」  
「……おしおきよ」  
「そーそー。ユウが今後お姉ちゃんに甘えないように、ちょっぴり大人のおしおきをしてあげるんだよ」  
「お、大人の……?」  
「……やってみれば、わかるわ」  
 マラリヤが言い終わらないうちに、ユリがユウのズボンを脱がせていく。  
「ちょ、ちょっと、何でこんな……」  
 ユウは必死に抵抗しようとするが、蔦で完全に縛られていて身動きが取れない。  
「……それから、これを」  
 ユリがズボンを脱がせている間に、マラリヤは奇妙な目つきでユウの顔に迫る。かと思うと、いきなり  
ユウの口にドリンク剤のビンと思しきものをねじ込んだ。  
「んっ!や、め……げほっ、ごほっ」  
「……安心して。ただの栄養ドリンク」  
「げほっ、ちょ、待っ……うぁ」  
 ごくん、と、その「栄養ドリンク」が彼の喉を通過するのを確認すると、マラリヤは彼の口からビンを外し、  
近くの草むらへ投げ捨てた。  
 そうこうしている間に、ユリはユウのズボン、そしてパンツを引きずり下ろし、ユウの下半身は夜風に  
晒される状態になってしまった。  
「やっぱり、男の子なんだね」  
 そう呟くとユリは、ユウのモノを左足でぐいっと踏みつけた。あまりに突然のことに驚き、ユウは一瞬、  
自分が置かれている状況を理解するための時間を要した。  
「えっ?ちょっと、そんなとこ、踏まないで……」  
 ユリは無視して、なおもその足でぐいぐい踏みつける。  
「お姉ちゃんに、甘えすぎた、おしおき、だよ!」  
 リズミカルに踏みつける足に、ユウの本能は早くも疼き始める。  
「うぁっ、ごめんなさい、許してよぉ……」  
「ほぉーら、大きくなってきた」  
「だ、だめだよぉ……それ以上は、……んっ」  
 次第に大きくなっていく、まだ幼い皮を被ったユウのそれを横目に、マラリヤは一人、こう呟いた。  
「……そろそろ、効いてくる頃かしら」  
 その間にも、ユリは足だけではなく手までも使って執拗にユウを責め続ける。  
「ほらぁ、ユウ、気持ちいいでしょ?」  
「ハァ、ハァ、……だめ……恥ずかしいよぉ」  
「じゃあ、もーっと恥ずかしがらせてあげるから」  
 責める手はより激しくなる。  
「ん、っ……!ハァ、ハァ、なんか、頭がぼうっとしてきた……」  
「ふーん。それで、何かあたしたちに言うことなーい?」  
「……ごめんなさい、ねえ、ごめんなさいってば。許して……」  
「やだって言ったら?」  
「そ、そんな、こと、言われても……」  
「まだ言いたいことあるでしょ」  
「……」  
「ほーら、言っちゃいなって」  
 
「……もっと、してください……」  
「ほらきた。ユウってホントにえっちなんだね」  
「だって……だって」  
 ユウの幼い眸には、既にかすかに光るものがあった。その光景を見て、暗闇で密かにほくそ笑む紫の髪。  
「じゃあ、そろそろいこうか」  
 言うが早いか、ユリは彼のそれを口に咥えた。そして舌を使って弄び始める。  
 
 不思議と悪い気はしなかった。寧ろ快楽に果てた本能的な悦びと甘い罪悪感に酔うような、  
ぼうっとした感覚だけがユウの思考を支配していた。  
「んっ……ぷはぁ」  
 ユリもようやく顔を上げた。ちょうど雲の隙間から差し込んだ月明かりに照らされたその顔は、  
形容しがたい――強いて言うなら、黒い笑みをたたえたままで。唇から糸を引く白い液体が、月光  
によってますますその妖しさを増した。  
「ユウ、これでおしおきは終わりだから」  
 何故か無機質な声でそう言い残すと、ユリは足早に闇へと消えていった。紫の少女は、いつの間にか  
消えていてそこにはもういなかった。  
 
 ユウが目を覚ましたのは、保健室のベッドの上だった。既に太陽は高く上り、昨日までの雲は  
跡形も無く消え去っていた。  
「あら、ユウくん。目を覚ましたのね」  
 声をかけたのはミランダだった。  
「あの、先生、僕昨日……」  
「いいのよ、もう。何も気にしなくていいの。忘れなさい。今サツキ先生呼んでくるから、ちょっと  
待っててね」  
 保健室に一人取り残されたユウは、昨晩のことを思い出した。何故あの2人は僕にあんなことを  
したのだろう。僕がお姉ちゃんに甘えているせいだろうけど、それでも……  
 不意に、保健室のドアが音を立てて開いた。  
「ユウ!」  
 その声に目をやると、随分と取り乱した様子の姉が立っていた。  
「おねえちゃん……」  
 サツキは弟のベッドへ駆け寄り、彼の手をしっかりと握った。  
「ごめんね、ユウ。私のせいで……」  
「いいんだよ、お姉ちゃんは気にしないで」  
「ユウ……ごめんなさい、ごめんなさい……」  
 ただただそう言って涙を流す、今までに見たことが無い姉の姿を見て、ユウも悲しい気持ちになった。  
「お姉ちゃん泣かないで。お姉ちゃんが泣いてると僕まで悲しいよ……?」  
 言い終わらないうちに、ユウのつぶらな眸からは大粒の涙が溢れていた。2人はしばらくの間、  
寄り添って泣いた。  
 
 
第1章 〜完〜 第2章へ続く  
 

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