「それでは、今日の授業はここまでです」  
リディアがそう言うと同時に、生徒達は口々にありがとうございましたー、と  
言って教室を飛び出して行く。普段は一人二人は質問の為に残るのだが、今日は  
それも無かった。  
 まぁ、仕方あるまい。連休前の、最後の授業。このマジックアカデミーは空中  
に浮いている為、結局この敷地内で過ごす事にはなるのだが、それでも楽しみな  
物は楽しみなのだ。それに連休中は、購買部が主催でさまざまな催しが開かれる  
し、生徒達も長めの休みを余すことなく使いきろうと必死に遊ぶ。なんともはや  
、若いエネルギーは閉鎖された空間にあっても、それを感じさせない環境を、工  
夫して作り出すものである。自分も学生の頃は、気も漫ろになったもの……。そ  
うしみじみ感慨に耽りかけ、ハッとした。危ない危ない。  
 こうやって過去の事を振り返るのは、年を取った証拠、だそうだ。そもそも、  
自分は担当科目からして若々しさに欠ける。少し前のカリキュラム変更で《雑学  
》から《ライフスタイル》と名前だけはスマートになったが、よくよく考えれば  
《生活一般》であり、余計に所帯染みてしまった。こないだ廊下を歩いていたら  
、生徒が知恵袋とか言ってるのを聞いた。その接頭語は、一つしか思いつかない  
。その生徒は、別に悪意があるわけでは無く、寧ろ好意を持って言っているよう  
だったが。  
 ――やっぱり私、そう見られてるのかしら、なんて思っちゃうと……。あぁ、  
ダメ、そんな事ないわ……。でも、そう思えない……。  
 エルフ族は長命であるため、リディアはまだまだ若い。容姿の方は抜群。少し  
幼めの顔立ちで、可愛らしいと美しいの、程よく中間にいると言える。だが、そ  
れをハッキリ言う人は居なかったし、元来思い詰める性質なのも災いして、彼女  
は今一つ自信を持ち切れていなかった。  
 押し黙ったまま、煩悶を繰り返すリディア。そこに、鐘が一つ鳴った。ハッと  
正気に戻る。誰も居ない教室。黒板消しを握りしめたまま、十分間ずっと立ち尽  
くしていたようだ。しかも、こんな些細な事で……。  
軽く頭をはたくと、リディアはササッと教室を綺麗にして、そこを出た。  
 あんまり考えないようにしよう。ああやって考えるのが、一番良くないの。若  
い内は、あーだこーだ考える物じゃないわよね。  
吹っ切った様に顔を上げる。だが、その奥に何かが淀んでいることは、否定出  
来そうも無かった。  
 
自室に戻り、シャワーを浴びて、ミルクを一杯飲んでから、ベッドに寝転がる  
。いつも通りの、リディアの睡眠前の行動パターン。ただ、普段は考える翌日の  
授業の事が欠落している。それだけで、気持ちはずっとずっと楽だった。教師と  
してあまりのんびりは出来ないけれど、後三日程はこんな調子で、完全な自由を  
楽しめる筈だ。のんびりとした気分が、全身を満たしていく。  
……だが、眠くならなかった。不意に、あの時自分に刺さった朿が、疼きだす  
。  
 私は、気にしてなんか――。  
気分が微かに陰る。どうしていいか、自分でも分からない。  
「……ひゃっ!?」  
だが、手は勝手に動いていた。身体の方は、悶々とした気持ちを、直接的な手  
段で晴らそうとしたようだ。指先が、寝巻の中に滑り込んで、下着越しに秘裂を  
まさぐりだす。  
「だ、ダメよ、こんな事――」  
 口から弱々しく漏れる言葉とは裏腹に、触れている指に、下着が湿っていく感  
触が伝わる。下半身に熱と疼きが増すたびに、それはどんどん広がっていき、最  
早それがなんだったのか分からなくなる位にグショグショになってしまった。指  
先がふやけそうだ。  
「あ、ダメ……脱がなきゃ、ショーツ、ダメになっちゃう……」  
だが、体が思うように動かない。左手は思うさま乳房を揉みしだき、時折遊ぶ  
ように乳首を転がす。その度に、弱い電流が背筋を掛け降りて、下半身を更に熱  
くさせる錯覚を覚える。右手は、最早用を為さない程に濡れたショーツを必死に  
掻き毟り、時折直に秘裂に侵入しては、秘芯を弄んでいた。  
「んっ……、ふっ、あ、はんっ……、あ、いや、ぁん、はっ……」  
 艶めく吐息と、嬌声が漏れる。その声に、一瞬理性が目覚めかけたが、すぐに  
快楽の波に消し飛んだ。  
 
「あ、はぁ……ん、だめぇ、よぅ……、こん、なのぉ……、んっ!わた、し、…  
…き、きょーし、なん、だか、はぁっ……ん……」  
 ぴちゃぴちゃと響く淫猥な音。リディアの両手は、既に下着を脱がしにかかっ  
ている。気付けば、彼女が身につけているのは、自分の浅ましさを体現したよう  
にべちょべちょになったショーツだけであった。それも脱いで、遂に彼女を飾り  
立てる物が無くなる。左手が放り投げたショーツが、床でべたりと音を立てた。  
「んひぃっ!?」  
右手の指は、彼女の制御を離れ、無遠慮に、顕になった彼女の秘裂を貪りだし  
た。溜った熱を掻き出すように乱暴に膣内で暴れ、昂ぶった欲を鎮めるように陰  
唇を優しく擦る。  
「ひっ……はっ……ぁ、こわれるぅ、そんな、ぁっ、しちゃ、ぁん、だめぇ……  
んっ」  
左手は再び胸を嬲っていた。裸の胸を握り潰すように捏ね回し、固く屹立した  
乳首を罰するように思い切り弾く。  
「あっ……はぁ……っ!ぅんっ……あ……ぁくっ、はぅぅ……ん……」  
 上も下も、彼女を最も良く知る手に責められ、既にリディアの言語野は崩壊寸  
前だった。吹っ飛びそうな理性を、細い糸が繋ぎ止めている。が、それも終焉が  
近かった。白い閃光が、彼女の視界に、脳裏に、ちらつきつつある。  
「や……っ!ぁ……!だめっ……、っく……、ぅ……!」  
先刻まで下半身に集まって淀んでいた熱と疼きは意識の外に落ち込み、胸から  
、秘部から、身体全身から、あらゆる刺激が至上の快楽信号となって、背筋を駆  
け昇り、理性の糸を灼き切ろうと脳髄へ流れ込む。電流がスパークする、途切れ  
る快感。  
「あ、や、……だめ、だめ、だめよ、ぁん、やだ、だめ、だめだめだめぇっ……  
あ、イっちゃ、やぁ、あ、やだ、イっちゃう、イっちゃ、あ、はぁっ……あひぁ  
ああああああああああああ!!!!!!!!」  
 白色の閃光が、世界を止める。  
 悲鳴のような絶叫と共に、リディアは果てた。ここまで深い絶頂は、彼女の経  
験にはない。身体中の力が抜け、目の焦点は何処にも合わず、目に涙、口からは  
涎、顔中のあらゆる器官が、液体を絞りだしていた。思考は紡ごうと紡ごうと意  
味を為さず、脳が全部溶けきってしまったのではないか、という恐怖すら覚える  
程だ。漏れる言葉も、無意識であって意味を為さない。  
「あ……は……。ひぃ……ふぁ……、んっ……ぁ……」  
 やがて――漸く、だ――働きだした脳の動きは、しかし信じられないくらい鈍  
かった。  
あ、ショーツ、洗わなくちゃ……。それに、このままじゃ風邪引いちゃう……  
。……でも、いいか……。いま、何もしたくない……。  
その時、視界の隅で何かが光ったような気がした。虚ろな目がそこへ向かうが  
、何もない。  
 気のせいだった。あぁ、なんか私、すごくねむい……。  
黒色の泥濘に、沈んでゆく。  
リディアは若い肢体に何も身に付けず、失神するように眠りについた。  
 

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