『BAD BOY BASS!!』
「ふわ〜、眠(ねむ)…」
登校中の廊下。
アタシと一緒に教室へ向かうタイガが欠伸混じりに呟く。
「シャキっとしなさいよ、朝っぱらから、もう…」
アタシもため息混じりにボヤく。
「お前はえぇわいな、あんだけ声あげた上に、早よ寝てもうてんねんから…」
「…うっさいわね…」
アタシはタイガの脇を肘で小突き、少し赤くなる。 昨夜はコイツの部屋に『お泊り』してたから…ね。
「おっはよ〜、ユリ…とタイガ」
朝から元気な声で、アタシの親友でクラスメイトのルキアが声を掛けてくる。
「おはよー」
「おはようさん……って、俺だけ取ってつけたみたいな挨拶やな、自分」
「いーじゃん、アンタ、おまけなんだし」
「そやな、俺お邪魔虫やし…って、おいコラ、ユリ、シバくぞ!」
「そんなベタなノリツッコミはいいってば…って、朝から何か嬉しそうねぇ、ルキアってば」
バカは放っといて、ルキアに水を向ける。
「クス。 まあね」
少しはにかんだような表情。 アタシは何となくピンときた。
…レオン(この娘の彼氏ね)といいコト、あったんだな。
「…な〜んや、ま〜たデカなったんか、その乳」
いきなり、タイガがスケベな目つきで、スケベなことを言い出す。
「キャ、やだ、えっち」
慌てて両手で胸を抱えて、ルキアがジトッとタイガを睨む。
「この、ドスケベーーーーーっ!!」
気が付いたら、アタシはそう叫んで、タイガを殴り飛ばしていた。
「どわっ! ……い、痛いがな、思っきしグーパンチやんけ!」
「アンタが悪いんでしょ! ゴメン、ルキア、こいつ大バカのドスケベで」
「無茶苦茶言いよる…」
「自業自得! まだ殴られたい!?」
「…ユリ、もういいよぉ。 彼がえっちなのは今に始まったことじゃないし」
「ひどっ!? お前もそこまで言うか!?」
「「自業自得っ!!」」
ボヤくタイガにルキアとアタシがハモる。
「…あっと、そろそろ急がないと遅刻しちゃうよ、ユリ。 先、行ってるから」
ルキアがまたニッコリと笑って先に教室に向かっていった。
「ほら、さっさと立ってよ、アンタのせいで遅刻なんて、やってられないから」
「そんなん言うんやったら、いちいちシバくなや…」
「アンタが悪い! そもそも何よ! ルキアをそんなスケベな目で見て! 浮気者!」
「い、いや、悪い…けど、あんだけ見事な乳してたら、目移りしたかて、しゃあないやんか…」
「このバカ! アタシじゃ不満だっての!?」
「ち、違う(ちゃう)って! ほ、ほら、早よ行かな、遅刻や」
肩をいからせ、拳を固めたアタシを見て、タイガが慌てて教室へと駆け出す。
「待て〜、この!」
脱兎の如く駆けていくタイガを追いかけながら、アタシは鞄の中から辞書を掴み出した。
…勢いよく投げつけた辞書は、見事、タイガの頭にクリーンヒット。
少しだけスッキリしたアタシは、辞書を拾い直すと、前のめりに倒れたタイガを放ったまま、悠然と教室に入った。
「…ああんっ! タ、タイガぁ、イッちゃうよおおおっ!」
「クッ、ユリ、俺も…!」
「…あああっ!」
高い声を迸らせて、アタシはタイガと同時にイッてしまった。
「…はあ……はあ……はあ…」
お互いに荒い息を整えることもせずに、抱き合って吐息と、汗と、鼓動を感じている。
いつも通りの、彼とのセックス。 慣れた肌が、やっぱり心地良い。
「…ほれ、頭乗せや」
覆いかぶさっていた体を離して仰向けになったタイガが左腕を差し出す。 アタシは素直に腕枕に乗っかる。
「ありがと、タイガ」
天井を見上げている彼の横顔に囁く。
「………………」
「どしたの?」
しばらく黙ったままの彼に、アタシは小さな声で問いかける。
「…いや、やっぱユリ、かわええな、思て」
軽く微笑みながらこちらを向く彼の顔が何か照れくさくて、アタシはソッポを向く。
「…バカ。 どーせ、アタシなんか、ルキアより胸ないわよ…」
「アホ。 まだ気にして疑ってんのか。 確かにアイツも可愛らしいけど、別に、彼女を乳で選ぶ趣味ないわ」
言いながら、リボンを解いたアタシの髪を撫でる。
「俺が好きなんは、ユリ、お前だけやって…」
「…ほんと、バカ…」
…今までだって、何度もおんなじようにこう言ってもらってるのに、どうも恥ずかしい。
アタシはスッと起き上がる。
「? どないしたん?」
「シャワー浴びてくる」
アタシは振り返らず、そう言って部屋を出た。
…今の赤くなった顔を見られたくない。 エッチの時の顔を見られてるから、今更と言えば今更なんだけど。
シャワーで手早く汗を流し落として、バスタオルを体に巻き、香水をひと吹きする。
こないだのアタシの誕生日に、タイガから貰ったものだ。
『もう一回』を期待しながら、鼻歌交じりに部屋に戻ったアタシの眼の前に、信じられない光景があった。
…タイガが既に寝息を立てている。
その間、たったの15分。
「こらー! バカ! タイガ、起きなさいよぉ!」
「…zzz…」
アタシが揺らしても、起きやしない。
「起きろぉ!!」
気が付けば、声を荒げて、思いっきり平手で頭をはたいていた。
バチンと気味のいい音が部屋中に響いた。
「ふがっ!? な、何やねん、いきなり!?」
寝ぼけ眼でタイガがアタシにかみつく。
「何だ、じゃないわよ! なんで寝てんのよっ!」
「しゃーないやんけ、こっちかてバイトとかしてんねんから、眠い時かてあるがな!」
「たった15分くらい、我慢しなさいよっ!」
せっかく、こっちだって盛り上がってるってのに! アタシは激昂する。
「ま、待てや! 何でそんなキレてんねん!?」
「可愛い彼女が、シャワー浴びてるってのに、その態度は何よ!」
「いや、そこは謝るけどや、普段、シてからすぐ寝てるの、お前やん!?」
ぐっ、確かにそうだけどさ…でも!
「そんなの関係ないのっ! よりによってこんなタイミングで寝るアンタが悪いんだから!」
「無茶言うなや!?」
「そもそもねえ、アタシを何だと思ってんのよ!?」
「へ!? いや、大切な彼女やなかったら、何やねんな?」
「嘘ばっかり! じゃあ、何で、今アタシがシャワー浴びてきた意味、わかんないような真似すんのよ!」
「いや…それはスマンって謝って…」
少し済まなさそうな彼の声も、今のアタシには届いていない。 それどころか、今までの記憶が蘇って、ますます頭に血が昇る。
「大体ねえ! タイガ、いっつもいっつも他の娘にばっかり色目使って!」
「は!? 何やそれ!?」
「今日だって、ルキアに見とれちゃって! こないだも、マラリヤの体を舐めまわすように見て!」
「おい、ユリ…」
「いつかだって、リエルのお尻も撫でてたじゃない!」
「ええ加減にせえ! 言い掛かりも甚だしいわっ! リエリエのは、脚立から落ちかけてたん支えたっただけやっ!
つーか、年上やねんから呼び捨てしたんなやっ!?」
タイガもキレ始める。 わかってる。 言い掛かりなのは。 でも、アタシは止まらない。
「うるさーいっ! いいわよ、タイガっ! アンタがその気だっていうんなら…」
「その気って何や! 俺、ちゃんと謝ってるやろ!」
「謝ってなんかないじゃない!」
もう売り言葉に買い言葉。 でも、アタシはやっぱり言葉を止められない。
アタシはバスタオルを取っ払って、床に脱ぎ捨てた服を着始める。
「おい、ユリ?」
「…もう遅いわ。 アンタが本当に反省して謝るまで、一緒にいるのはお預けよっ!」
「なっ!?」
「せいぜい、涙流して後悔するのね」
「…お前、本気で言うてんのか?」
「当たり前でしょ! 仏の顔も三度よ! 謝るまで、アンタに挽回のチャンスはもうないわっ!」
「アホかっ!? 仏の顔もって、アホ吐(ぬ)かせっ! 誰が泣いて謝るかっ! そっちこそ後悔しなや!」
「何を後悔するってのよ?」
「どうせ2,3日したら、淋しゅうなって甘えてくるんやろ! その図が目に浮かぶわ」
何故か得意げに反論するタイガに、アタシはついに本当にキレた。
着替え終わったと同時に、枕を掴んでタイガの顔に思いっきり叩きつける。
「言ったわね!? いいわ、さっさと出て行きなさいよ!」
「俺の部屋やっちゅーねん!」
「じゃ、アタシが出るわよ!」
「当たり前や!」
「じゃあね! せいぜい毎晩後悔しながら泣いたらいいのよ!」
アタシは言い捨てて、ドアを激しく軋らせて部屋を出て行った。
…甘い顔も最後なんだから!
「…あのアホ…ま、2,3日でケロッとするやろけど…さて、始めるか…」
1人部屋に残されたタイガは少しボヤくと、肌着を羽織って、デスクに向かった…
次の日。
「おっはよー、ユリ」
ルキアに声を掛けられる。
「おはよ」
「あれぇ? タイガは?」
「アイツ? 放っておいたらいいのよ、あんなヤツ」
「…ケンカ中?」
「ま、そんなとこね。 あんのバカ、許さないんだから」
「ユリ、顔怖いよ…」
ルキアが心配そうに眉根を寄せる。
そこに、能天気な声が聞こえる。 あんな西の方の訛りがかった声、アイツしかいない。
「おはようさん、アロエ」
「おはようございまーす、おにーちゃん」
「ハハ、アロエはかわええなあ。 大きゅうなったら、絶対モテモテのええ娘になんでぇ」
あのバカの声に、鈴を転がすような笑い声が伴う。
…イラッ。
タイガがこっち―忌々しいけど、アタシの席の近くがアイツの席なのよね―に来る。
「おはようさん」
イライラするほど、いつもどおりの口調。
「おはよ」
「………………」
ルキアは挨拶を返すけど、アタシはガン無視を決め込む。
タイガは軽く肩をすくめただけで、自分の席に座った。
…その日の授業が終わると同時に、アイツはサッサと教室を出て行った。 アタシを無視して。
…その強情が、いつまで続くかしら? 謝るなら、今のうちなんだからね!
2日目。
アイツの挨拶は軽く手を挙げただけだった。
そして、クラスメイトのレオンやカイルに、にこやかに声を掛けている。
……イラッ。
「…ユリ? どうかなさったの? そんな鋭い目をして?」
シャロンにそう声を掛けられたのに気づくのに5秒かかった。
そして、今日もアイツは授業終了と同時に、アタシには目もくれず、教室を後にする。
いい根性してるわね…。
テキストを鞄に戻す手に軽く震えが走る。
3日目。
アイツの挨拶はなし。
…単純にアイツが遅刻したってだけなんだけど。 ばーか。
授業中もテキストを盾に居眠りしている。
先生、コイツに鉄槌を下して!
「…じゃ、この問題を…タイガくん、答えなさい」
エリーザ先生、なーいす!
「…ふぁ? それは…『八ッ場(やんば)ダム』でんな? センセ…」
「はい、正解」
なんで答えちゃってんの〜!? コイツ!?
………イラッ。
「……自分そっくりの二重体は何かしら? これを……ユリさん、答えなさい」
…はい〜っ!? 不意討ちだよ、エリーザ先生!
「えーと、んーと、どっぷり…なんとか?」
「不正解! いけません!」
「ぎゃぼー!」
…な、なんでアタシに鉄槌が落ちるのよぉ!?
で、今日もまた、アイツはサッサと教室を出て行った…
1週間後。
アタシはタイガを無視、アイツもアタシを無視。
土日もお互いに会わずじまい。 すれ違っても会釈程度の関係みたいに白々しい冷戦状態。
アタシのイライラはかなりのものになっている。
実際、あまり眠れていない。
アイツが折れないことと…アイツが隣にいないことにイライラして。
考えてみりゃ、ケンカするまで、3日と空けず、アイツと逢って、肌合わせてたんだから。
5日目くらいから、体の疼きが始まった。
この土日だって、四六時中疼きっぱなし。
でも、最大級の努力で、アタシはいろんな衝動を堪えた。
だって、アイツが謝るまで…という意地だってあるし。
それに…オ…オナニーなんて惨めな真似に走りたくなかったし。
でもそんな状態でまともに眠れるわけもなく。
「おっはよー……って、ユリ? だいじょぶ?」
「………おはよ…ルキア…」
「…目の下、クマできてるよ?」
「…だいじょぶ、だから…」
そんなアタシに、またも声が聞こえる。
「おはようさん、クララ」
「あ、タイガさん、おはようございますぅ。 これ、この間のお礼です」
「ええんか、クララ? …お、うまそうやん」
「タイガさんのアドバイスのおかげですよ。 うまくできました」
…今度はクララ!? あのドスケベめ……!
ただの挨拶だっていうのに、今のアタシには、そう判断する冷静さは、ない。
アタシは反射的に机の上の辞書を掴んでいた。 そして大きく振りかぶって、
(こんの大バカぁっ!)
心の中で絶叫して、アイツの顔面めがけて辞書を投げつけていた。
…顔面に辞書をめり込ませてひっくり返っているタイガに目をくれないようにして、アタシは教室を出る。
「ユ、ユリ!? 授業は!?」
「…自主休講」
…そう言ったアタシを見るルキアはかなり怯えてたなぁ…ゴメンね。
10日後。
先日のアメリア先生の試験結果が返ってきた。
…惨憺たる成績だった。 いや、いつも大して良くもないんだけど、教室で最下位はヒド過ぎる。
「なお、今回のトップは…な、なんと、タイガくんでーす!」
アメリア先生のセリフが耳に届いて、理解するのに10秒かかった。
…な、何ですってぇぇぇっ!?
「嘘だろ…」
「すげえ、結構キツかったのにな、今回の試験」
クラスメイトのざわめきが何か遠く聞こえる。
アタシの中で、何かが音を立てた。
次の瞬間、アタシは自分の席を蹴って、タイガに向かって叫んでいた。
「……………! …………!!」
自分でも何て叫んだのか良くわからない。
そのまま、アタシは意識を失って倒れてしまったから。
「…おい、ユリ!?……」
血相を変えたタイガの声だけが、ほんの一瞬、意識に流れ込んできた…
ふと、視界が明るくなる。
「…目ェ覚めたか?」
「ふぇ? タイガ…? ここ、どこ…?」
「お前の部屋や。 もう、夜の10時やで。 朝の授業で倒れて、12時間くらい寝っぱなしやったんやで、お前」
「そんなに…?」
でも、体が軽くなってる。 気絶していたのもあるけど、しばらくぶりかもしれない。 こんなに眠ってたのって。
「ほんま、アホやな、お前。 なんでそんな寝不足になっとんねん?」
ケンカして、あれだけ逢わずじまいだったっていうのに、タイガは普段どおりに話しかけてくる。
「………」
わかってんでしょ、バカ。 だって…
「…もう、つまらん意地張んなや。 な?」
「………」
…言いたくない。 タイガに言わせたいから。 でも。
「もうええやろ、ここいらで、ユリ」
少し困ったような顔をして、気遣うような声。 …もう、ダメ。
気が付いたら、アタシはベッドから跳ね起きて、彼の胸に縋るように抱きついていた。
「…抱いて…タイガ…アンタが…欲しいの……」
思いっきり駄々をこねて謝らせようと思ってたのに、出てきたセリフは、自分でも驚くほどか細くて、見当違いだった。
見当違い? そうじゃない。
「………」
タイガは何も言わずに、アタシを強く抱きとめてくれる。
そのぬくもりと、その香りがアタシに伝わった瞬間、アタシは全身の力が抜けた。
「タイガ…」
首だけを少し上に向けて、タイガの顔を見る。
…唇が覆いかぶさってきた。
「んっ……」
自分から舌をタイガの口に潜り込ませて、彼の舌に絡ませる。
彼の舌も、力強く、ねっとりと絡みつく。 10日ぶりの感触にアタシの体が知らず、戦慄く。
「…ぷあっ……」
一旦唇が解かれる。 視線の先の彼の顔が少しぼやける。
「…アホ。 俺かて…堪えんのん、大変やったんやで…」
そう言って、さっきよりさらに強く、深くキスをされる。
「くうぅん……んっ…」
アタシの声が鼻にかかって、甘く裏返る。
もっと、もっと欲しくって、自分から舌伝いに、タイガの唾液を啜り取る。
アタシたちが立てる水音が、高く低く部屋に響く。
彼の舌が粘膜をくすぐる度に、甘く痺れ、熱を帯びてくる。
粘った音を立てながら、ようやくお互いに唇を離す。 名残を惜しむように、唾液が糸を引いている。
「もっと…」
「ああ、ナンボでもしたるで…」
言いながら、軽くついばむようなキスを顔のそこかしこに落としてくれる。
それはそれでくすぐったくて、心地いいんだけど。
10日間溜めたアタシの衝動は、もっと激しかったみたいで。
一旦力が抜けていた体と腕に力を込めて、タイガを抱きしめると、
「お、おい、ユリ!?」
アタシの方から彼をベッドに投げ落とすように押し倒す。
目を白黒させているタイガに構わず、アタシは半ばむしり取るように彼の服を脱がせる。
「我慢なんて、もう、できない…!」
浅ましいセリフを吐いて、アタシは彼の首筋に唇を強く押し付け、何度も何度も、執拗に吸い上げる。
タイガの肌に赤黒く痕をつけたのを確認すると、さらに下に唇を滑らせて、同じように痕をつける。
「…こっちもや」
と言って、寝ていた時も着ていたアタシの制服のリボンを抜き取ろうとする。
でも、アタシはその手を押しとどめる。
「ダメ」
「? そりゃないやろ?」
「…アタシが先なの!」
タイガの顔をキッと見つめて、有無を言わせないように、アタシが強く求める。
「……わーったわ」
思ったよりあっさりと、柔らかい表情を浮かべながら、伸びていた彼の手が下がる。
「けど、脱がせにくいやろから、こっちは自分でやるわ」
そう言って、一旦体を起こしたタイガがズボンを下ろし、全て脱ぎ捨てる。
既に興奮してくれているのだろう、タイガのアレ、もう硬くなってるのが見える。
「クス」
アタシは微笑むと、再び彼を押し倒して、またぞろ胸板に強くキスの雨を降らせる。
「…我慢してるの……辛かった…」
思わず呟いた言葉に、タイガの手がアタシの頭に添えられる。
「言うたやろ…俺もやって…」
頭を撫でられ、アタシは興奮してボーッとなりそう。
でも、頭の心地よい感触を振りほどいて、アタシは一気に彼の下腹部まで顔を持っていく。
そして、そっと彼のアレを手のひらで包み込む。 体の他の部分よりも、熱い。
「うっ……ちょ、待ったれや、ユリ…」
少し苦しそうなタイガの声が、切なげに聞こえる。
「…待たないもん…」
彼に聞かせるでもない独り言をアタシは呟き、手のひらに彼の熱を感じる。
そして、熱く脈搏つソレを見たら、今までだってそこまで感じた事なかったのに、愛しさと衝動がこみ上げてきた。
アタシは躊躇わなかった。
タイガのアレに軽く頬擦りすると、硬くなったソレの先端にキスする。
「そ、それは……!」
珍しくタイガがうろたえたような声を挙げるのがまた愛しくなり、アタシは自分の口で先端の膨らんだ箇所をくわえ込んだ。
熱い。 そして強く香る、オスの香り。
アタシの中で、何か弾けた。
今までにも、ほんの何回かは、口で触れる程度に愛撫してみたことはあるけど、その時とは全然違う。
彼のアレを通じて伝わる熱と感触が……純粋に気持ちいい。
「うあっ、ユリ…!」
少し苦しげなタイガの声。
そんな声が、もっと聞きたくて。 もっともっと感じて欲しくて。
アタシはさらに深く、彼を呑み込む。
そうしておいて、舌を差し出し、感触を味わう。 細かく節くれだった表面から、明らかにさっきよりも早い鼓動を感じる。
「んんっ、むぅ……ふぅ………んっ…」
アタシは目を閉じて、口をいっぱいに使って、彼を愛撫する。
「くっ……お、おい…ユリ……」
切ない吐息を挙げながら、タイガがアタシの名を呼んで、アタシの頭に触れる。
アタシは、返事の代わりに、上目遣いに彼を見やる。
「………!」
彼が息を呑む。 …今のアタシはさぞ、淫らに映ったのかもしれない。
構わない。 今は淫乱に思われても。
タイガをもっと感じて、犯して、気持ちよくさせたい。 その気持ちに嘘はつけないもん。
驚きと気持ちよさ(と思いたい)に圧倒されている風にタイガを少し満足げに見つめ、アタシは再び愛撫を始める。
根元まで咥え、舌を存分に這わせ、先端まで戻す。
くびれた箇所に舌を絡め、また深く呑み込む。
ますます、彼のアレが太く硬くなり、熱を帯びるのがわかる。
そして、アタシも、自分のソコが熱くなってきているのを感じている。
欲しい、欲しい、もっと欲しい。 そして、もっともっと感じて欲しい。
「あ、あかん…!」
途切れるような彼の、絶頂を求める声。 彼の腰が震え、アタシの頭に置いた手に力が籠もり、引き剥がそうとする。。
(いっぱい、いっぱい出して…!)
アタシは視線で彼にそう訴えかけ、逆に頭を密着させて一際深く吸い込んだ。
「ああっ…ユリ……!」
アタシの口の中で、彼が弾ける。
口といわず、喉といわず、彼の射精(だ)した熱い液体がアタシを打ちつけ、満たす。
むせ返るような彼の香りごと、アタシは全て飲み干した。
「……はあ……はあ…」
タイガの荒々しい息づかいが聞こえてくる。
アタシも半ばボーッとしながら、自分の唾液と彼のモノに塗れた唇を舐めている。
「…良かった?」
「見たらわかるやろ…ただでさえ、ヌイてへんかったのに、そこまでされたら…」
「…そこまでされたら?」
我ながらはしたない質問だわ。
「…自分の彼女にそうまでして貰(もろ)て、嬉しいに決まっとるやろ」
照れくさそうに顔を少ししかめて、タイガがボソリとそう言ってくれる。
「…良かった」
アタシが少しホッとしてそう呟いた瞬間。
「キャッ!」
アタシは力強く押し倒された。
「攻守交替や。 お前も気持ちようなりぃや」
言うが早いか、タイガはアタシの制服と下着を半ば乱暴に剥ぎ取る。
あっと言う間に、アタシの体に残った衣服は、髪のリボンとロンググローブと、ソックスだけになった。
「…全部脱がさんのも、色っぽいのぉ、ユリ」
欲情した表情でタイガが呟く。
「やだ、これ、恥ずかしい」
「あかん、ソレがええんや」
アタシの軽い拒絶の言葉は見事にスルーされた。
「もう、バカぁっ!」
「バカで結構や」
そうあっさり切り返して、タイガはいきなりアタシの下腹部に顔を埋め、既に濡れたソコに舌を這わせた。
「あああんっ! いきなり、やああっ!」
アタシは絶叫する。
「…けど、お前かてそないしてくれたやん。 それに、もうこんなんなってるで…」
タイガは取り合ってくれない。 それだけ言ってまた舌を動かし始める。
「あんっ!」
その刺激にアタシは甲高い声を立ててしまう。
ただでさえ10日も触れられていないところに、散々昂ぶってしまっているアタシには強すぎる衝撃。
でも、アタシの体は素直すぎた。 勝手に腰を浮かし、タイガの口に、舌に、ソコを押し付ける。
「…あ……あっ…いい…よおっ…!」
タイガの舌の動きの一つ一つに、甘い声を挙げてしまう。
不意に、彼の舌が鋭くアタシの中に挿し込まれた。
「ああああっっ!」
彼のモノを挿れられたのに等しい快感に、アタシは喉も、体も反らせてしまう。
ダメ。 もう…意識が、トビそう…
アッという間に訪れたその瞬間を待ち焦がれるように、体の震えを自覚しながら、高い声を出し続ける。
ふと、彼の口が離される。
「ぁん、もう……」
「もう、どないしたんや?」
微睡んだような目を向けるアタシに、タイガがイジワルなセリフをぶつけてくる。
「ちょう、だい…タイガの…」
ねだる。 でも。
「…ユリがイくの、見てから、や」
そう言って、アタシの中に指を潜り込ませ、激しく掻き回す。
「やああんっ! くうぅっ…!」
激しい快感に翻弄され、アタシは絶叫する。
「いい! のぉ! あっ…あっ……!」
絶頂の到来を感じ、声を限りに快感を訴え、身をよじる。
タイガの指がアタシの中の敏感な箇所と、クリを同時に苛んだ瞬間。
一際大きい衝撃がアタシを貫き、頭の中が白く染まる。
「ああああああっ! ―あ…ああ…っ!」
体中の空気を全て振り絞って、絶頂の悦びの声を挙げて、アタシはベッドに沈み込んだ。
…アタシの中から、大量の透明な液体を迸らせていたことに気づいたのは、少し後。
頬に、柔らかい刺激。
少しの間、白い靄を泳いでいたアタシの意識が戻る。
「……ふぇ?」
締まらない声を出し、我に返る。
いつの間にか、座らせるようにアタシの体を起こして、後ろから抱きとめたタイガの顔が横にある。
もう一度、頬に柔らかくキスされる。
「気ィ付いたか?」
「うん…」
「また派手にイキよったな……」
タイガの視線と指が示す先を視線で追って、アタシは顔が熱くなる。
「み、見るな〜〜っ!」
…シーツがグチャグチャに濡れている。 まるでお漏らししたみたいに。
慌てて脚で隠そうとするけど、タイガの手がそれを押さえ込む。
「…違(ちゃ)うって、からかう気ィやなくて、その…嬉しいやん?」
『淫乱と思われてもいい』なんてさっき考えたけど、やっぱ、それはやだ。
「体も、気持ちも許してくれて、イッてくれるんやから…冥利に尽きるってもんやで」
「…こんな時だけウマい事言って、もう…」
気恥ずかしさで少し頬を膨らませるけど、アタシも…嬉しいよ。
「違うで。 いつかて俺は、ユリが好きで、欲しくてしゃあないからや」
そう言ってまたアタシの脚の間に手を潜らせて、敏感なソコを指でなぞる。
「あっ…くぅん…」
触れられただけなのに、また甘く疼くアタシの体。 掠れた甘い声が漏れてしまう。
自然と、脚を開いてしまう。
イッたばかりのアタシを気遣っているのか、さっきみたいに激しくはないけど、アタシの奥底に響くような愛撫を続けるタイガ。
アタシの体も素直に反応して、また新たな蜜を吐き出し始めてる。
ニチッ、と粘りっ気のある淫靡な音が響く。
「あ……タイガぁ…それ、いい…」
少し枯れた声でアタシは快感を伝える。
「ほな、これは?」
割れ目に沿って動いていた指が離れ、アタシのクリを軽く抓む。
「あああっ!」
体を硬直させて、アタシはのけぞる。 再び体中に熱がこもる。
「もっとエロい声、聞かせてぇな…」
タイガがそう言って、ますます指を強く動かす。
全身に響く疼きに、もう、アタシは限界だった。
「あん…もう、ちょうだいよぉ…挿れてほしいよぉ…あ…ん…」
たまらず、またもや彼にねだる。
「…お願いや、チャンと言うてくれへんか? 何が欲しいんか…」
またイジワルなセリフ。 でも、さっきと違って、彼の声も切なげに掠れている。
腰のあたりに、硬くて湿った、熱い感触。
…タイガもやっぱり、もう欲しいんだ…
そう思うと、ますます全身が熱くなる。
アタシは掠れる声を絞り出し、聞こえるようにこう囁いていた。
「タイガの…おっきいお○○○んを、挿れて欲しいの…アタシの…中に…いっぱい、ちょうだい…!」
形振りなんて、もう必要ない。 だって、そもそも彼を欲しがったのは、アタシ。
そして、彼も、アタシを求めてる。 ただそれだけ。
その言葉を聴いて、タイガが指を止め、体を一旦離し、再びアタシを押し倒す。
アタシはされるがまま倒されながら、脚を大きく開き、指で濡れそぼったソコを押し開き、彼を導く。
「奥にぃ、奥までちょうだいっ…!」
今、出せるだけの声で彼を求める。
タイガはもはや声も掛けず、硬くなったアレをあてがい、アタシの腰を掴むと、一気に奥まで貫いてくれた。
「ああああんっ!! タイガぁっ……!」
彼を受け入れた瞬間、全身に鳥肌が立ったと感じる間もなくアタシは軽くイッてしまう。
それでも、アタシの奥は、彼の逞しい昂ぶりを求めて、細かく震えている。
「…ふああぁっ…あん…」
「また、イッてもうたんやな…」
言葉にならない吐息を漏らすアタシに、動きを止めたままのタイガが気遣うように囁いてくる。
「…はぁ…はぁ……ジッとして…ないで…来て…」
でもアタシは腰をくねらせてせがむ。
「けど、イッたばっかしで、まだ体、エラい(しんどい)やろ?」
「…ぁ、はぁぁ…もっと……ほしい…のぉ…」
しどけなく潤んだ目でタイガの顔を見つめて、アタシはなおもいやらしくおねだりする。
タイガが固唾を呑む音が聞こえる。 …淫乱に映っちゃったかな?
けど。
「…ほな、いくで…」
低い声で囁き、腰をゆっくりと引く。 彼のアレがアタシの襞を引っ掛ける刺激に、また腰が震える。
「きてぇっ…!」
なんか、泣いてる時みたいに濡れた声でアタシは促す。
その声に反応してくれたみたいに、ギリギリまで引き抜かれていた彼のアレが一気に押し込まれる。
「あああっ!」
アタシは高い声を挙げてのけ反る。 もう何度だって受け入れてきたってのに、今日の快感はそれ以上。
たまらず、彼にしがみつく。
「…はぁ、はぁ、ユリ……えぇわ…」
何とか薄目を開けて、タイガの顔を見ると、彼の顔も切なげに歪んでいる。
彼のこんな顔だって、何度か見てきているのに、一段と愛おしい。
「ア…タシも……すごく、いい、から……してぇっ! 激しく、してぇっっ!」
なんだか思考が暴走してしまったみたいに、アタシは淫らに叫ぶ。
それを合図にしたように、タイガが強く腰を打ちつけ始めた。
その度に、アタシの奥を強く抉り、その刺激でアタシは甘く痺れてしまう。
「そうよぉ! それが…いい、のぉ! あん! ああ…!」
彼の逞しさに満たされて、アタシも全身をくねらせる。
「…そない、動かれたら、俺…」
アタシの腰を掴んで激しく貫きながら、タイガが首を下げる。
アタシは無我夢中で彼の頭をかき抱いて、強く引き寄せながら、
「まだ、ダメぇ……もっと、お…犯してぇ……!」
愛しおしさを感じていられる今のうちに、それだけを叫ぶ。
不意に、アタシの下半身が持ち上がるような感覚。
タイガがアタシの脚を折りたたむように肩に担ぎ、覆いかぶさるように上からアタシを深く貫いた。
「あああん、苦しい……よぉ! でも…いい…タイガ…ぁ…!」
窮屈に圧迫されるけど、それすらも、アタシにとっては快感を高めるアクセント。
「あん! 壊れ…壊れ、ちゃうううっ!」
「どや、ええんか、これが、ええのんか!」
「すごくいい! タイガ、もっと、それぇ……ちょうだい…壊してぇえぇ!」
いつも以上にむき出しになる、タイガの、雄。
獣のように貪られ、壊れそうな快感に、アタシはなけなしの理性を、捨てた。
アタシはもはや、タイガに組み敷かれ、貫かれて、絶頂を貪りたいだけの雌。
「…はあ…はあ……あかん……もう…いくでぇっ…!」
タイガが苦しそうに絶頂の到来を告げる。
アタシの中で、彼のアレが一際膨らみ、奥を強く抉る。
「来てええええっ! タイガの、いっぱい出してええええっっ!」
うわごとのようにアタシは叫び、不自由に上を向いた脚をタイガの腰に強く絡め引き寄せる。
「くっ! ユリ……大…好き……や…!」
途切れ途切れに耳に飛び込んでくるその声と共に、アタシの奥底に甘く激しく響く快感の衝撃。
「あああああんっ! お○○○んが硬くてイイのぉ! イッちゃうのぉおぉぉっ!」
絶頂が欲しくてアタシは叫んでいる。 何て叫んでいるか、自分でもわかってないけど。
彼が射精(だ)した熱い迸りを感じた瞬間、アタシの視界が白く染まる。
「…で、出てるぅぅ! はああぁんっ! あああっ………!」
…甘く歪んだタイガの切ない表情だけ焼き付けて、堕ちるような快感に、アタシは意識も手放した…
程なくしてから。
「ユリ…好きや…」
甘い囁きに合わせて、唇にキスの感触。
「…あ、タイガ…アタシ…」
ようやくアタシは意識を取り戻す。
アタシは、タイガに抱きしめられるように横たわっている。
「大丈夫か?」
もう一度キスをしてくれる。
「うん…ありがと、好きよ、タイ……」
そこまで言いかけて。 アタシは思い出し、プイと顔を背ける。
「…なあ、なんでそんなフテてんねん?」
「だってさぁ…」
「…折角久しぶりだったってのに、自分がイッたとこ、覚えてへんからか?」
「バカぁ! 違うわよぉ!?」
なに見当違いなコト言ってんのよ、もう!
「…アンタから、謝らせたかったのに…」
「…やから、それ、こないだから俺、お前がキレる前に謝ってるやん」
「ぶぅ…それにしちゃ、ケンカしてた間だって、アロエとかクララにも気のあるような話し方してたじゃん…」
「あのな、アロエのんはいつもの挨拶やん。 クララのんは、たこ焼きの作り方教えたったお礼だけやって」
「じゃあ、何でアタシを無視してサッサと帰るようなマネしたのよ!?」
「あんなキレた顔されて、どないせえちゅうねん。 聞く耳もたへん顔してたやん」
「アタシはいいのよ! アンタの事!」
「…バイトや。 もう、クリスマスやろ? お前にプレゼント買うためのカネ稼ぎしとったんや」
「…はい?」
「遅うまで働いとったさかい、お前に声掛ける間もなかったし、ケンカしとったから、電話も出んやろ思ったし…」
「じゃ、じゅ、授業であんないい成績取ってたのはなんでよ!?」
「…いつまでもアホやっとれんさかいな。 バイト上がりにヤマ張って予習したら、当たりやっただけやがな」
…え!? これじゃ、ただアタシがバカみたいにヤキモチ焼いただけじゃん!?
「最初から言ってよぉ!?」
「いや!? それ、俺が責められるとこか!?」
「何よ!?」
思わずまたタイガに振り返る。 …しまった。
「…笑わないでよ」
少しニヤけたタイガの顔がある。
「…すまんの、お前を妬かせてしもてたんやな」
…悪いわね、赤くなってて。 …でもその通りだわ。
「…バカ」
でも、また、プイと顔を背ける。
ギュッ、と体に柔らかい抱擁。
「…ああ、俺がバカやった。 かわいい彼女、放っといてしもてたんやから、な」
「…フン、もういいわよ…」
拗ねてみるけど、まるで締まらない。 ついさっきまで、あれだけエッチに甘えてたら、無理もないわね。
「機嫌直してぇな。 なんぼでも謝るから…」
「じゃあ…」
アタシはまた振り返り、不意討ちのキスをタイガに見舞う。
「…今回は許したげる。 でも…」
言って、タイガの体を撫でる。
「…10日もお預け食らわせたんだから、もっと、愛してちょうだい!」
「…へいへい」
タイガの暖かい体にまた包まれる。
…アタシ(タイガも、かな?)が満足して眠りに落ちたのは、白々と夜が明ける頃だった。
「ふあぁ〜あ、眠(ねむ)…」
次の日(ちなみに今日はクリスマスイヴ)の登校時の廊下。
アタシと一緒に廊下を歩くタイガが一際大きい欠伸をしながら呟く。
「シャキッとしなさいよ、もう」
アタシはやや呆れて溜息をつく。
「……つーか、大して寝てへんのに、何でそんな元気あんねん?」
欠伸涙を浮かべた目でタイガが呆れている。
ちなみに、彼もアタシも、てか学校の全員が支給されたサンタの格好をしている。
「いいじゃないの」
アタシはタイガの脇を小突く。 …彼女の気持ちも考えてよね。
「…おはよ、ユリ…と…ふあぁ〜…タイガ」
いつものようにルキアが挨拶してくる。 …あれ、やたら眠そうね?
「おはようさん」
「おっはよー、ルキア! …って、どしたの? そんな眠そうにして?」
「もう……」
憮然と眉を下げたルキアがアタシに耳打ちしてくる。
『…あんなに派手にあんな声聞かせないでよ、もう。 眠れないじゃないのよ〜』
…あ。 隣、ルキアの部屋だっけ。
『…ゴメン』
さすがにアタシも気恥ずかしくって、耳打ちで返す。
『……あ〜あ、私もレオンの部屋に行けばよかった……』
少し呆れたようにルキアが微笑んでそんなことを言う。
「何のヒソヒソ話や?」
「「な・い・しょ」」
タイガの問いかけにアタシたちの声がハモる。
「じゃ、先行ってるね、ユリ」
そう言ってルキアが先を急ぐ。
「ほら、ボケた顔してないで、アタシたちも行くわよ」
「…へいへい」
やりとりが呑み込めずにポカンとしてたタイガのお尻をカバンで軽く叩いてアタシたちは教室に向かう。
…教室は見事なまでに赤色と白色でにぎやかだった。
「…おはよう、ユリさん」
そうアタシに挨拶してきた少女がいる。 確か…えーっと…
「…あ、おっはよー、ライラ…だよね?」
そうそう、こないだ編入してきた娘だ。 黒色がすっごく似合う、『清純』という言葉がピッタリな娘。
「…わからないのか、そうか…」
と少し寂しそうな表情になるライラに、
「違うって、黒い服のイメージ強かったからさぁ、想像以上にそのサンタのカッコ、似合っててかわいいんだもん」
そう取りなす。 いや、実際すっごい可愛いんだけど。 チラリと覗く白いお腹がセクシーだし。
「…いや、正直恥ずかしいのだが…この格好は…」
「そんなことないよー」
「せやせや、艶っぽいのー、眼福やわー」
タイガのセリフが割り込んでくる。 …このバカ! また他の娘をそんな目で見る!
思い切り殴り飛ばそうとしたアタシの機先を制するように、タイガにいきなり腰を抱き寄せられる。
「…けど、ユリがいっちゃん(一番)エエけどな。 お先にプレゼントや」
そんなセリフを吐いて、すかさず頬にキスされる。
「な………」
あまりにいきなりで対応できないアタシを置いて、タイガは他の男子たちの輪に入る。
(このスケベ! ごまかされないもん!)
我に返ったアタシはすかさずカバンから辞書を取り出す。
「…仲がいい恋人同士なんだな。 ユリさんと、タイガさんは」
ライラの呟きにアタシはピタリ、と止まる。 教室のあちこちから、冷やかしと好奇の視線がアタシに刺さる。
…アタシは顔を赤らめ、投げようと辞書を構えた腕を下ろす。
…もう! 今日だけは許したげるわ! 今日だけ、ね!
― Fin. ―