どうしてこの様な状況に陥ってしまったのか。  
目覚めてから数分は経ったと思うが今だぼんやりとする頭では思考が回らなかった。  
辺りは暗闇。  
今だ慣れぬ瞳を凝らし動かす。  
明かりを燈そうと身を動かすが、そこで初めて自身が何物かによって捕われて居る事に気が付いた。  
どうやら鎖の様だ。  
感覚は判らなかったが、じゃりじゃりと金属の擦れる不快な音が耳障りで、嫌でも理解出来た。  
鎖に捕われた青年……ハルトは、ズレた眼鏡を戻そうとするが手が届かぬもどかしさと、自身の状況下における混乱で思い切り眉間に皺を寄せた。  
外れないものかと身を動かしてみるが、どうやらご丁寧に何重に、しかも拘束魔法付きでどうやら自力では外せそうに無かった。  
 
「くそ、何なんだ一体」  
がしゃがしゃと一層響く音を立てて一つ舌打ちすると、突然辺りに光が灯り、視界が開ける。  
強烈な蛍光灯の明かりが暗闇に目が慣れていたハルトに襲い掛かりハルトは思わず目を細めたが、薄目から飛び込んできた世界に直ぐに目を見開いた。  
撫子色の絨毯に、撫子色のソファ。  
目に飛び込む全ての物が撫子色と異様な景色を目の当たりにして、不覚にも目を奪われてしまった事を数秒後に後悔した。  
しかし見たことのない風景だった。  
室内の装飾品からして誰か、それも女子の物らしき個室だ。  
果たして、この部屋の主であろう人影が扉を開けこの室内へと入って来た。  
 
「気分はどうです?ハルトさん」  
「……言わなくても分かるだろう。最悪だ」  
両手に小さな桶を持ちにこやかな表情で姿を現したのは、ハルトも良く知る人物だった。  
医療科の制服を身に纏い、他の生徒からは白衣の天使、否、撫子の天使と肩書きまでされている少女。  
「メディア、一体何のつもりだ。俺は忙しいのだ。お前の部屋に連れて来られて、しかもこんな物まで巻かれる筋合いは無いぞ」  
「だって、ハルトさん怪我してるのに私に治療させてくれないじゃない?」  
むすぅと頬を膨らますメディアは、持っていた桶を床に置きこれまた撫子色のベッドに腰を降ろした。  
先程から気になっては居たがどうやら自分もそのベッドの上に寝かせられて居るらしい。  
だんだんと目の痛くなる光景に思わず眩んだ。  
「ハルトさん、今日は決勝で盥を受けたでしょ?ハルトさんは気づいて居なかったみたいだけど、おでこ、青くなってるわ」  
「ふん、この俺が誰かに情けを受けるとは実に滑稽だな」  
「別に情けなんかじゃ無いわ。怪我してる人を放ってはおけないだけ」  
良く言う。こんな乱暴な拘束魔法を掛けておきながら。  
そもそも今日の決勝で戦った時、目の前のクラスメイトも一緒に居たのだ。  
この自分を差し置き優勝したのも、このクラスメイトだった。医療科の生徒なのだから他人を治療するのは大変結構な事だが、正直有難迷惑だとハルトは思う。  
 
目の前のクラスメイトが苦手と言う事もあるのだが。  
「大人しく治療を受ければ解放してもらえるのか」  
「勿論よ。だからじっとしててね」  
と言う事らしいので、ここは抵抗せずに大人しく治療を受けるのが鮮明であろう。  
ハルトはメディアに判らぬ様な溜息を一つ吐き、目を閉じた。ベッドの下から濡れたタオルを絞る音を聞いた後、額にヒンヤリとした感覚を感じ思わず身体がぴくりと動く。見えないが確かに額の右側が痛んだ気がした。  
メディアはタオルの上から両手を添え、小さく何かを呟いた。  
ぱちんと音が響いた後、もう大丈夫よ、優しげな声が落ちてくる。  
目を開けてみれば声と同調した笑みが見えた。  
確かに、痛みは完全に引いているようだった。  
まぁ医療科の生徒なのだから当たり前か、とハルトは思い、そして安堵した。  
とにかくやっとこの鎖から解放される。  
恐らく、もう日付は変わって居るだろう。  
 
「メディア、約束の通りだ。鎖を外してくれ」  
「嫌よ」  
「………………は?」  
思わず素っ頓狂な声を発してしまった。  
「おい待て、話しと違うぞ」  
「嫌ね。確かに解放するって言ったけど、『鎖を』なんて一言も言ってないわ」  
あくまでにこやかに微笑んでくるメディアに異を唱えるが、一向に聞き入れようとする気配は無い。  
「ハルトさん、もう少し付き合ってもらうわ」  
何が撫子色の天使だ。本当を猫を被った悪魔ではないか。  
ハルトは眉間に皺を寄せてそう考えると小さく「くそっ」と呟いた。  
 
 
触りにくい、と理由から巻かれた鎖は外されたが、変わりに頭上で両手首を縛られる羽目になった。  
どうあっても拘束具を外すつもりは無いらしい。  
 
 
ちゅう、とわざと卑猥音を立ながら胸の小さな突起を吸う。  
「っ………」  
声を漏らさぬようにと唇を噛み締める。  
声を上げた瞬間頭の中で何かがちぎれそうな気がしたからだ。  
たくしあげられた制服が首元を掠めむず痒さを覚える。  
メディアの掌が右往左往し、先端の突起を捉えた。  
親指と人差指の腹でくりくりと捏ねくり反対の乳首は舌先で丹念に舐め回す。  
匂いを確かめる様にくんくんと鼻を鳴らしその度に撫子の長髪が揺れる。  
不意にメディアが顔を上げハルトの方へスカイブルーの瞳を向けた。  
「……気持ち良く無いの?」  
まるでねだられるような語調で問い掛けられる。  
視線が合うのを避ける様にハルトは顔を横に向け一言知らん、と答えた。  
明らかに動揺に似た感覚を覚える。  
普段は男性が女性にする行為では無いのか。  
自分ではそんなに性知識など無い為に判らないが。  
「ハルトさんって……不感症……じゃない、わね。だってここは正直なんですもの」  
密着していた上半身を離し妖艶な笑みを零した後下半身へと手を這わせた。僅かに膨らんだ中心部を指先で押さえ付ける。  
「縛られて胸舐められて、それでいてこんなに興奮しちゃって。ハルトさんって、本当は変態なんでしょう?」  
かぁと全身が熱くなる。  
横に向けていた顔を正面に向けて「違う」と反論しようとすれば、今度は唇に何が触れて言葉を発する事を許されなかった。  
がちん、と歯がぶつかる音が脳内に響く。  
くちゅくちゅと音を立てながら、舌が咥内に侵入し逃げ場のない舌にそれを絡ませる。飲み込めなかった唾液が端から垂れ息の出来ぬ苦しさに大きな鼻息が漏れた。  
「……鼻で息をするの。でないと苦しいでしょ?」  
諭す様な口調で言われた後再度唇を吸われる。  
右手は今だ中心部を捉えて離さない。  
無意識に今言われた事を実行する。  
確かに呼吸は苦しくは無いが別の部位がもどかしく、窮屈な感覚に苛まれた。  
布越しに触れられている下部が熱を帯び、感じた事の無い何かに思わず喉が鳴る。メディアが唇を離し顔が流れるように腹部を抜け、膨らんだ中心部へと辿り着いた。  
肉厚な唇で金属片を挟み、ジジジと器用に降ろしていく。  
開かれた制服の隙間から、下着を割って屹立した男根が顔を見せた。  
 
「うふ……大きい」  
メディアは垂れ下がった髪を耳に掛け小さく呟いた。  
餌を与えられ尻尾を振り上機嫌な犬ように笑みがこぼれ落ちる。  
まだ自分自身しか触れたことの無いそこに、肉厚の唇の隙間から覗く紅の舌が透明な液を溢れさせている先端に触れた。  
ぶつり、と、何かが裂ける音が耳奥で響いた。  
 
 
射精に恐れた訳では無い。  
このままではメディアの口に出してしまう事だ。  
だがいくら物を言おうと蛸の吸盤の様にきつく吸い付いた肉厚の唇はハルトの葛藤などお構いなしに、不規則な刺激を与え続けている。  
「う、ぁ……くぅ……!」  
血の滲むぐらいの強さで唇を噛み締める。  
徐々に沸き上がる射精感を痛みによって気を紛らわす事が精一杯だった。  
故意なのだろうか。  
メディアは掌で睾丸を揉みしだきながら、男根をくわえ込んだ口内では規則性の無い舌の動き、たまに歯を軽く立てて、痛みとも言えない奇妙な感覚を確かに伝えてくる。  
「……ひもち、ひい……?」  
「……そのまま喋るなっ……!」  
 
きっと意識して行っているに違いない。  
メディアの余裕そうな表情とは裏腹に、ハルトは臍辺りから陰茎全体にかけて、電流のような物が走ったような感覚に襲われ武者震いを起こした。  
溢れる液は量を増し、相変わらず淫猥な音を醸し出し膨れ上がった男根はびくびくと沸き上がる射精感に震えた。  
 
「メディ……ア、出……」  
その時、今までに無い勢いで吸引されて沸き上がる物に勢いを付けられた。  
ひっと小さく喉から空気が漏れた後、くわえ込まれた男根の鈴口からどくどくと白濁の液体が勢い良く吐き出された。  
「ん、ふ………んん」  
じゅるじゅるとわざと音を立てて、咥内に吐き出された精液を喉を鳴らして飲み下す。  
吐精を行いひくつく男根をくわえたまま、流れた精液を拭う様に裏筋をゆっくりと舐め上げる。  
敏感になった陰茎を絞られるようで何度も腰が浮いた。  
 
 
「ふふ……濃いくて、多いわ。相当我慢してたのね」  
はぁはぁと胸を大きく上下させ、霞んだ視界でハルトの見えたものは口の端から精液を垂らしながらにっこりと微笑むメディアの姿だった。  
本来飲料するべきではない物、しかも自身の物となると、羞恥の様な変な感じを植え付けられた。  
 
「ハルトさん……今度は、私を気持ち良くして?」  
たった今達したばかりだと言うのに、少し扱かれただけで陰茎は再度立ち上がりびくびくと震える。  
ハルトは初めて己の身体を呪った。  
 
そこは既に愛撫も必要無い程に湿っていて、メディアは下着を太股辺りまでずり下ろすと自身の指でそこに触れた。  
膨れ上がった女核をくりくり弄んではぁ、と甘い吐息を漏らす。  
そのまま腰を降ろして亀頭部を陰唇押し当て、膣口を開きながら先端をくわえこんだ。  
避妊具も付けていないと言うのに、そんな事お構い無しに熟したそこはすんなりと男根を受け入れて行く。  
肉茎が子宮の入口に強く押しつけられて思わずあはぁと感嘆の息を漏らした。  
ハルトの全てを飲み込み、予想以上に膣内を圧迫するそれに歓喜に似た高ぶりを抱き自然と腰が動き始める。  
腹に両手を付き、無我夢中で腰を振った。  
きぬ擦れが起きる度膣内の締め付けも強くなり、ハルトは腹部で乱れるメディアを眺め何度もその名前を呼んだ。  
彼女が愛しい訳では無い。  
ただ彼女のこの乱れ方に少々の恐怖を抱いた為だ。  
何とかハルトは理性と意識は保っていたものの、今のメディアは平たく言えば発情期の犬の様だった。  
「ハルトさんのっ大きくてぇ……好き、なのぉ……!」  
平然とこんな事を言えるのだから。  
 
室内にはベッドの軋む音と、結合部から発せられる水音。壁へぶつかって反射し、耳に嫌に響いて来た。  
気持ち良くないと言えば嘘になる。ただ複雑な蟠りを抱きながらハルトは二度目の吐精感に眉を顰た。  
今だ一個の雌として腰を振る彼女を見つめ、溜息を漏らした。  
「ハルトさ、イクのっ……?私も、そろそろ、きちゃうかもぉ……」  
途切れ途切れにメディアは呟く。  
大粒の汗と涙が光に反射してやけに美しく見えた。  
徐々に腰の浮き沈みが小刻みになっていく。  
熱く太い雄芯が雌筒に包まれて、それだけで大変気持ちが良い。  
自身で快楽の部位を熟知しているのか、時たま位置を変えながら挿入を続けた。行為で初めて彼女の表情に余裕が消えているのを悟った。そんな自分も、既に下半身は爆発寸前なのだが。  
感嘆の息が再び漏れたかと思えば、突然メディアがぴったりとハルトに抱き着いた。  
撫子の髪が汗とシャンプーの香りが混ざった不思議な匂いを漂わせて、鼻腔を付いた。  
 
「あぁあ、イっちゃう……!あぁぁぁ!」  
一瞬、メディアのハルトの制服を掴む力が弱まった。  
びくんと全身を震わせ、腰の動きが停止した。  
だが強烈な膣内痙攣に、同時にハルトも彼女の中に二度目の射精を行う事となってしまった。  
 
鼻歌を唄いながら、メディアは乱れた髪を櫛で梳かしていた。  
向かい合う鏡の向こうに、ベッドに座り頭を抱えるハルトの姿が映っている。  
「……最悪だ。最悪だ。最悪だ」  
呪文の様に呟くハルトに、メディアは手を止めて回転椅子をハルトの方へ向けた。  
「……私の事嫌いになった?」  
「……違う。そうでは無い」  
おおよそ貞操を奪われた事と中に吐精をした事で自己嫌悪に陥っているのであろう。  
 
確かに、少しやり過ぎたかしら、とメディアは考える。  
「……疲れた。俺は帰るぞ」  
すっかり精気の無くなっているようにも見えるハルトは眼鏡のブリッジを押し上げ、扉へと向かった。  
そんなハルトを見つめるメディアは立ち上がり彼の元へと向かう。  
ふと彼が立ち止まり振り返るものだから、メディアも釣られて立ち止まった。  
 
 
「……お前は他の男子生徒にもあぁ言う事をしているのか?」  
「…………」  
急の問い掛けに目を丸くする。が、すぐにいつもの表情に戻り、  
「……だったらどうするの?」  
逆に、問いた。ハルトは一瞬眉顰めさせ、「いや……」とだけ呟いた。メディアはその一瞬を見逃さなかった。  
前を向き直したハルトの腕を掴んでこちらを向かせると、背伸びをして彼の唇に自身の唇を重ねた。  
 
 
「嘘。私は好きな人しか、ああ言う事はしない主義なの」  
「っ……!!」  
ハルトはメディアの腕を振り払い、メディアに背を向けた。癪に障る事でも言ってしまったかしら、と一瞬焦るが、僅かに見える耳朶が赤みを帯びている事に気が付いて、思わず笑みが零れた。  
 
「ねぇハルトさん。怪我した時はまた、治療させて貰っても良いかしら」  
「……好きにしろっ!!」  
捨て台詞の様に吐いて、そのままハルトは乱暴にドアを開けて出て行ってしまった。  
 
笑みを浮べているメディアの視線の先に、ドアに背中を預けて、火照った顔を覆い隠すハルトが居た。  
 
 
 
(終)  
 

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