ミンミンと鳴くことで蝉が命を燃やし、うだるような熱さがやる気を奪う季節である、夏。  
マジックアカデミーにも夏がやってきた。  
 
 
「生徒諸君!」  
 
 
緊急集会―12人の生徒と教師陣だけだが―と称して集められた人々は、眼前で熱弁開始寸前のガルーダにやる気無さそうな視線だけを送る。  
タイガやマラリア等は普段と変わらない表情だが。  
 
 
「いよいよ夏だ!・・よって合宿を行う!これはロマノフ殿、そしてリディア殿と私の三人で決めたことだ!」  
「・・・マジかよ!?」  
 
 
ガルーダの宣告に、教師陣―先の三人以外―と生徒達は一気気に笑顔になる。  
特にユリ・ルキア・レオン・マロンの四人は表情変化が著しい。  
 
 
 
出発は四日後、それまでは全ての授業を休みにする為準備に費やせ、とガルーダが追記気味に言うと、その集会は終りとなった。  
 
 
 
さて。  
こうなるとテンションが上がりっぱなしになるのが、マジックアカデミーのメンバーである。  
男女入り混じってわいやわいやと騒いでいる。  
 
 
だが、その中で唯一サンダースだけが浮かない表情をしたまま悩んでいる。  
元々孤立しがちな彼のこと、周りも気にしていなかったが・・・・。  
 
 
「――ロマノフ先生」  
 
不意にサンダースがロマノフに声をかけた。  
 
 
「この合宿、私は不参加にしていただきたい」  
「―む?」  
 
 
周りの生徒達、教師達は耳を疑った。  
合宿とは名ばかりのバカンスであることは先刻承知の話だし、日常のほとんどをアカデミーで過ごすすため、休日に街に買い物に行くぐらいのリフレッシュしか出来ない。  
しかし、この合宿は一気に心身の回復を図れるものであり、悪いところなどないはずなのだ。  
 
「私がいけばきっと―きっと皆に不快な思いをさせてしまう」  
「ふむ。君が行かないと言うのならば引き止めはしないが」  
「自分勝手で申し訳ない」  
 
サンダースはロマノフに会釈をすると、寮の自室に戻っていく。  
その様子を、なかば呆れたような顔で生徒達が見ていた。  
 
 
さてさて。  
サンダースが不参加とは言っても、別段彼と親しい者はいないし困りはしない。困りはしないのだが、一人だけが別行動というのがきに入らないと言う熱血漢風の生徒は数人いて。  
それがレオン・ルキア・ユリの三人だった。  
 
 
「おいサンダース!お前いい加減にしろよ!自分勝手過ぎるぞ!?」  
 
 
レオンとルキアの声にもサンダースは動じない。  
反応と言えば鬱陶しい、と言わんばかりの冷たい視線と呆れたという溜め息。  
 
「おいコラ!?」  
「ふむ。話す・・訳にもいくまいし仕方あるまい」  
 
サンダースはレオンの怒号を無視して口を開く。  
・・・レオンが少しばかり寂しそうにしてるぞ。  
 
「覚悟のある者にのみ見せようか」  
「何をよ」  
 
ユリがじれったそうに言う。  
真実イライラしているのだろう。  
 
サンダースはおもむろに制服を脱ぐ。  
ユリやルキアは顔を赤らめながらもそれを注視していたし、レオンは興味深そうにそれを見ていたが。  
 
「・・うげ」  
 
レオンが小さく呟いた。  
サンダースの躯には幾多の切傷、縫い後が残っていた。  
傷だらけの躯を晒したサンダースは、ふぅ、と溜め息をつくと苦笑する。  
 
「やはりそういう反応か・・・・予想は出来ていたのだが」  
「・・・何なのよあの傷跡は?デタラメじゃない」  
「この傷跡は、私が一流の軍人になるようにと父が躾ようとして・・剣の稽古をしていた時についたモノ」  
やはり寂しそうに笑いながら、サンダースはぽつぽつと呟き出す。  
 
「この様な傷跡を晒して彼等や君達の気分を害する様ならば、私はここに残り予習復習に励んだ方が良いと思っていたのだ・・・」  
 
 
サンダースの独白の後。  
彼を無理にでも連れていこうと思っていた三人は、半ば打ちのめされたような思いを抱いていた。  
思えば彼は物事の悉くに於いて人目を気にしていた。風呂に入るのも最後、自ら他人をけなすような言動の多さ。  
それさえ自分達に気をつかっていての行動動だとすれば・・・。  
 
 
「何か・・やりきれないよなぁ・・・」  
「右に同じく。サンダース、怒っただろうな・・・」  
 
レオン・ルキア・ユリは、どんよりとした顔付きで自室に戻る。  
レオンとルキアは、隣室のタイガ、アロエがそれぞれ気をまぎらわしてくれたが、ユリの隣室のクララは既に寝てしまった後らしく、物音の一つもしない。  
 
「サンダースに謝った方がいいよね・・・」  
 
許してくれるかどうかは兎も角、取り合えず謝っておこうとユリは考える。  
もしかしたら襲われるかも知れないし、殴られたりなどはされて当然の覚悟でユリはサンダースの部屋に再度走った。  
 
サンダースの部屋の前で。ユリは頭を抱えて悩んでいた。  
確かにサンダースに謝ることは曲げようのない決心だが、要のサンダースがいないのか・・部屋の鍵が閉まっている。  
明日は朝早くからユリ・アロエ・シャロンと共に買い物に出掛ける予定なため、ここに来るのは遅くなる。しかしもしサンダースが明日に泊まりがけでどこかに行ってしまえば、謝るのは合宿後になってしまう。  
 
(どうするどうする私・・・・)  
 
「私の部屋の前で何をしているのだ?」  
「へ?」  
 
ユリが必死で悩んでいると、上から冷たい声がかけられる。  
間の抜けた返事をしたユリは、混乱する頭のどこかで彼がサンダースだと把握したようで。  
しゃがんだまま、立つサンダースの顔を見上げてみる。  
普段通りの無愛想な顔に、手に持つのは彼の制服一式が入っているらしい手提げ袋。  
寝巻きも機能性重視っぽさが伺えるのは、彼がサンダースだからだろうか。  
 
「ごっ、ゴメン!邪魔だった?」  
「割とな」  
「あう・・・・」  
 
歯に衣着せぬサンダースの物言いに、思わずたじろぐユリ。  
各種定期テストでも彼より上の順位なんてとった覚えもないし、言いくるめられるのは目に見えていた。  
 
「全く。かような深夜にそのような薄着で出回っていると、幾ら夏とて風邪をひいてしまうぞ」  
「・・・うん」  
「入れ。茶でも飲んで体を暖めてから帰るがいい。上着ぐらいは貸してやる」  
 
サンダースの部屋に招き入れられたユリは、サンダースに勧められるままソファに腰を下ろし、ちゃっちゃと湯を沸かし茶葉の用意をしていくサンダースを眺めている。  
日頃敬遠がちなため、彼のことは詳しくしらなかったが、なかなかどうして片付いた部屋ではないか。  
本棚には年期の入った参考書やファッション誌が一冊も乱れることなく並んでいるし、机の上にも筆記用具やノートが丁寧に片されている。  
部屋のすみにぽつんと置かれたテレビにパソコンも、まぁ綺麗なままだ。  
 
(生真面目って言うの、彼のための言葉じゃないかなぁ・・・)  
 
「殺風景な部屋だろう」  
「ん・・綺麗すぎるね」  
 
サンダースが盆にのせてきた茶を遠慮なしにもらいながら、ユリは苦笑する。  
このマジックアカデミーは何より自身の探求心と好奇心で成績が決まると言って過言ではない。  
その点に於いて、これほどまでの資料を擁するサンダースに勝てる相手はいるまい。  
「しっかし・・・」  
 
ユリは小さくうめいた。  
頭もいい、家事も出来る、後は顔と性格にある難を少しばかり直せば彼はマジックアカデミー一の男になりえる素材だ。  
 
「そういえばさ」  
 
サンダースが上着を貸してやる、とクローゼットを開いていると、ユリが不意に声をかけた。  
 
「サンダースって好きな人はいるの?」  
「いるわけがあるまい」  
即答。  
マジですか、とユリは呆れたような顔をした。  
 
マジックアカデミーには自慢ではないが、美男美女が揃っているとユリは断言することが出来る。  
まさかとは思うが、全く好みが合わないなどということはないはずだ。  
 
「もしかして好きって感情が分からなかったりして」「よく分かったな。私は人を愛したことも好きになったこともない」  
 
軍人に愛など要らぬと教えられた、とサンダースは寂しげに微笑んだ。  
ユリは、それが真実だというならとても悲しいことだと思う。  
自分達は―セリオスは微妙だが―恋愛して、悲しんだり楽しんだりして学ぶことも多かった。  
なのにただの本で知る知識でしか愛や恋を知らないと言うのは、余りに哀れだ。  
「あったぞ。これはまた今度返してくれれば・・」  
「サンダース、誰かを好きになりたいって思わない?」  
「む?・・興味はある」  
 
突然のユリの問いに、サンダースは苦笑混じりに返す。  
サンダースにとっては冗談に過ぎないのだろうが、ユリは本気らしい。  
 
「じゃあ、私が『愛』を教えてあげるっ」  
 
微笑みを浮かべたユリは、しゃがんでいるサンダースにそっと近付き――そして優しくキスをした。  
 
 
一瞬唇が触れ合うだけではあるが、ユリは確かにサンダースにキスをした。  
柑橘類のコロンがサンダースの鼻孔をくすぐり、改めて理性を奪おうとする。  
 
「――何をっ――!?」  
「私は、サンダースが好きなの」  
「っ馬鹿な!?」  
「残念だけどホントよ」  
 
ふふーん、驚いた?  
得意気な顔をするユリに、サンダースは呆然とするしか出来ない。  
何故だ。  
何故この娘が私を好きになるというのだ。  
ただ傲慢なだけでその実何もよいところがない自分を何故好きになる?  
 
「・・・コラ。また何か自虐的な事考えてる」  
「痛っ!」  
 
サンダースの額がペチン、と音をたてる。  
ユリはデコピンをした指をそのままに、サンダースに優しく微笑みかける。  
普段の勝ち気で負けず嫌いな彼女からは考えられない優しい表情。  
イタズラっ気な笑みでも大きな声をあげて笑うでもない、優しい笑み。  
 
「サンダースは覚えてないだろうけど、私サンダースに沢山助けられてるんだよ?」  
「・・・・む?」  
「ほら、宿題とかでも見せてくれたり」  
「あのぐらいよくあるだろう?」  
 
「それにね?」  
 
ユリはさらに続ける。  
 
「私とルキアとアロエ、サンダースがいなかったら今頃アカデミーにいられなかったんだよ?」  
「・・意味が分からん」  
 
知らないとばかりに首をかしげるサンダース。  
だがユリの話は実話だ。  
数週間前にユリ達が街に買い物に行ったとき、彼女等はタチの悪い不良に絡まれたのだ。  
アロエがいなければ走って逃げることも出来ただろうが、生憎ユリとルキアは友達思いで、襲われる一歩手前でサンダースに助けられたのだ。  
資料収集のために本屋に行っていた、と言う彼は、しかし圧倒的な力を持ってして不良達を蹴散らした。  
軍人となるべく育てられたサンダースには、不良など取るに足らない相手に過ぎなかった。  
 
「一目惚れ?・・何か違うけど、兎に角私はあの時サンダースに惚れたの!」  
「そうなのか・・・」  
「そういうこと♪」  
 
にこりと笑いながら、ユリはサンダースにしなだれかかる。  
ユリの整った体を抱きとめたサンダースに、ユリは追い討ちとばかりに口を開いた。  
 
「据え膳食わねばなんとやら、だっけ?私がここまで迫ってるんだから、女に恥はかかせないでよ?」  
「そう・・・・だな」  
「ん、よろしい。・・・じゃあキスしようよ、ね」  
 
ユリの手がサンダースの頬に当てがわれる。  
そのまま瞳を閉じたユリは、サンダースに再度キスをする。  
唇同士が触れ合った刹那、サンダースはユリを思いきり抱き締めた。  
何故だろうか、キスされた時に彼女に酷い愛しさを感じて、頭で思う前に体が動いていた。  
 
「・・・・・♪」  
 
サンダースに抱き締められたことに気を良くしたか、ユリはそのスレンダーボディを彼に押し付けた。  
アクティヴなユリの体は、余計な肉が全くない健康的なもので、グラマラスな女性が結構多いマジックアカデミーの女性達の中でも割と通用しそうなものだ。  
 
「・・・あぁ」  
 
サンダースがユリの胸を撫でながら顔をしかめる。  
ユリはそれに気付かないまま、サンダースの胸にしなだれかかっている。  
比較的白めの肌は桃色に染まり、吐息も心なしか甘さを増しているようだ。  
 
「ユリ嬢、私も服を脱がなくてはいけないのか?」  
「はぁ・・・ふぇ?」  
「あんな見苦しいモノを見せるのは・・・極力避けたいのだが・・・」  
「・・・何バカ言ってるの?」  
 
サンダースの憂鬱に、ユリは呆れ声で返す。  
 
「私は、ありのままのサンダースが好きなんだから。だから、全部受け止めてあげるわよ?」  
 
ユリはやっぱり笑顔のままで。  
だがその笑顔に、サンダースの固い心は溶かされていくような気がして。  
 
 
「君に、なんと言えばいいのか分からないな・・」  
「好きって言ってくれれば嬉しいな。出来れば、ずっとずっと隣でね」  
「あー・・分かった」  
 
へへ、と声を漏らすユリ。これ以上の雑談は興冷めになるか、とサンダースが言うと、ユリも同意どばかりに頷く。  
 
 
先ほどからユリの胸を撫でていた手は、徐々に下がり臍(へそ)や股間に移りつつあった。  
手で愛撫している最中にも、うなじや耳にキスを与えるサンダース。  
ユリは普段の元気をすっかり失い、初体験の快楽に溺れる寸前だ。  
 
「ユリ嬢、そろそろ脱がせるぞ?」  
「ん、お願い・・・」  
 
ユリの肯定を聞いたサンダースは、さっとユリのパンティに手をかけると、脱がすのではなくずらすように下に下げる。  
簡易の拘束衣みたいな感じで足にかかるパンティは、しかしユリの愛液で濡れており、真ん中に濃い染みが出来ていた。  
 
「・・・愛撫だけでこれだけ濡れているのか・・」  
「恥ずかしいからぁ・・・じっと見ないでぇ・・」  
「・・そうだな。では少し激しくいくぞ」  
 
ユリの答えも聞かずに彼女の秘部に指をさしこんだサンダースは、彼女がびくんと震えたことに軽い満足感を得る。  
 
 

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