恋の呪い〜Curse of Love〜  
 
 
「ったく・・・。あいつ、どこいったんだ?」  
迷いの森の中ほどで、赤髪の少年、レオンがともにここに訪れた後輩を探していた。  
「本当にあいつにそっくりなんだよな・・・。」  
そう回帰しかけていたときであった。  
『きゃああああっ!?』  
森の中に、少女の悲鳴が響き渡る。  
「っ!?くそっ!!」  
レオンは間違いなくその後輩の悲鳴だと確信し、大急ぎでその声のしたほうへと向かっていった。  
「(無事でいてくれよ・・・!)」  
そして現場にたどり着いたとき、現実はその願いを裏切った。  
「あ、あ・・・。」  
『ギギッ・・・。』  
一人の茶髪の少女が立ちすくんだまま動けなくなっている。  
前に魔物がいたからだ。  
「い゛っ!?」  
その姿は先輩であるはずのレオンですら見たことのない異様なものだった。  
「な、何だよこいつ!・・・ええいっ!オレの大切な後輩から離れろっ!!」  
そして、レオンの周りに強大な魔力が発生し、必殺技が解き放たれた。  
『サンダーレオパルドォォォッ!!』  
雷が、まっすぐにその魔物を貫通し、一瞬で決着がついた。  
『ギイイイーーーッ・・・・』  
すさまじい断末魔とともに、魔物は消滅した。  
「アイコ、大丈夫か!?」  
「せ、先輩・・・。大丈夫・・・うっ!」  
アイコはレオンのセリフに、元気に見せかけようとするも、怪我をしたらしく、  
膝を押さえて声を上げた。  
「大丈夫じゃねえよ!早く・・・アカデミーに戻るんだ!」  
レオンがアイコに肩を貸して立ち上がらせる。  
この外出、実はアカデミーに対して無許可だったのだ。  
しかもアイコは何か呪いを受けてしまったらしく、どんどん辛そうな表情になっていく。  
「アイコ・・・!しっかりしろ!もう少しでアカデミーだ!」  
「は、はい・・・。」  
いつもは元気なアイコが、この時ばかりはぐったりとして、只事ではないことを物語っていた。  
 
 
「どうすればいいんだよ・・・。」  
その後、レオンは寮の自室にアイコを運び込んでベッドに寝かせた。  
普段、授業中は居眠りが中心ということもあって、彼の中には魔物についての知識が全くといって良いほどない。  
こうして、悩んでいる間にも、アイコの体調は悪化する一方で、息も荒くなっている。  
「くっそーーー!!こうなりゃ・・・。」  
レオンはアイコに寄り添い、こう言った。  
「アイコッ・・・たのむっ・・・!死ぬなっ!死なないでくれ!あいつに続いてお前まで・・・!しかも一生あえなくなるなんて・・・。そんなの許さねぇぞ!」  
そして、そのままアイコの背中を、少しでも楽になるようにとさすり続けた・・・。  
 
どれぐらいの時間がたったのだろうか。  
『せん・・・ぱい・・・?』  
「!」  
レオンはいつの間にか眠ってしまっていたらしく、耳元で聞こえたかすかな声で目を覚ました。  
「アイコ・・・!?」  
目の前には、たった今目を覚ましたと思われる、寝ぼけ眼のアイコが。  
「うにゃ・・・。なんか変です・・・。」  
目をこすりながらあたりを見渡す。  
「あ、心配するな。ここはオレの部屋だ。」  
レオンがフォローを入れる。  
「そーじゃなくて・・・。なんか体が熱いんです・・・。」  
アイコの体は呪いのせいか、軽く火照っていた。  
「呪いか!?」  
レオンはそのセリフを聞いた途端、アイコの額に手を当て、体温を確認する。  
「ん〜・・・オレは普段のお前の体温を知らねえからなんとも言えねえけど・・・。大したことはねえな。」  
「ふぇ!?そ、そうっすか!?」  
アイコは自分が感じている体温とレオンが言ってくれた体温との差に驚いた。  
「(それじゃあ、この感じている体温は何なんだろ・・・。)」  
そう思った彼女の答えは、十数秒の考量の後、脳内にはじき出された。  
「(私・・・。先輩のこと好きなのかな!?)」  
そのアイコの考えに気づいていないレオンは、これが大きなミスだったということなど、微塵も考えていなかった。  
 
 
「・・・にしてもどうすっかな・・・。」  
レオンは悩んでいた。  
と言うのも、『アイコをどうやって誰にも気づかれずに彼女の部屋まで戻すか』という重大な問題があったからだ。  
今帰そうにも、そんなに夜が更けておらず、まだ起きているであろう女子の誰かに見つかってしまうだろう。  
かと言って、登校のドサクサにまぎれて帰すとなれば、毎日アカデミーを丸々一周ランニングしているユリに見つかりかねない。  
そして、彼は男子として、ある意味究極の決断を下した。  
「(今夜は俺の部屋に泊めて、早朝に戻せば・・・!)」  
確かに、午前4、5時ほどなら、ユリもまだ夢の中で、見つかる心配はない。  
だが、当然そこは18歳の健全な男児。  
未だにレオンは心臓が激しく鼓動していた。  
「(・・・やるっきゃねえ!)ア、アイコ!今夜はオレの所に泊まってけ!未だと見つかる危険性が高えし・・・。登校の時  
だとユリに見つかるかもしんねえしな!」  
「先輩・・・。いいんですか!?ここ、仮にも男子寮っすよ!?」  
レオンの発言にアイコは激しく動揺した。  
『好き』かもしれない『男子』の部屋に『泊まる』のだから。  
「いいぜ!オレが何とか誤魔化すから!」  
「流石先輩!頼りになります!」  
こうしてアイコはレオンの部屋で、彼とともに一晩を過ごすこととなった。  
 
その夜中・・・。  
 
『はぁ・・・はぁ・・・。』  
深い眠りについているレオンのそばで、荒い息遣いが聞こえる。  
アイコだ。  
やはり彼女は先ほど、目を覚ましたときから異様に体が熱いと感じていた。  
そして、その熱はその度を増し、彼女の意識を朦朧とさせ、本能のままに動く女子生徒へと作り変えてしまった・・・。  
 
 

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