「はい、あーんってしてね、フランシスさん♪」
「あぁ、ありがとう。しかし君はサンダース君と付き合ってるんじゃないのかい?」
「んん、サンダース君は一緒にいてもあんまり楽しくないんだもの」
「君は酷い女だな」
「そう厳しいこと言わないでよ。ね?」
職員室にての一幕。
サンダースが風邪をひいてからの一連の恋愛劇は、ただミランダが若い男を誘惑して欲求不満を満たすためのものだった。
ミランダはフランシスと深い仲にあり、サンダースとは遊び程度のことだった、と。
ミランダはフランシスと昼飯を食べながら嬉しそうに語っていた。
確かに女にすれば嬉しいことだったろうが、彼女には誤算があった。
サンダースが、その会話を聞いていたのだ。
五時限目の授業―雑学だ―が始まる時間になっても、サンダースは教室に現れはしなかった。
サンダースがサボることは過去になかったため、リディアもクラスメイト達もサンダースはまた用事か体調不良で休むものだ、と思っていた。
サンダース以外にただ一人いない、マラリヤを除いては。
「ふふ。アナタがサボるなんて珍しいわね」
「やかましい。私とて人間だ・・・人並みの感情ぐらい持ち併せている」
ヒュウ、ヒュウと風がすさぶ屋上に、サンダースとマラリヤはいた。
ごろりと寝転んだサンダースは、その青い空の大きさに圧倒される。
今まで必死に繕ってきた自分が、あまりにちっぽけに思えて。
「ミランダ先生に・・騙されていたのね・・」
「・・・あぁ。やはり他人を易々と信じるものじゃあなかった」
「可哀想な人・・」
マラリヤはサンダースの頭を持ち上げ、座った自分の足の上に置く。
いわゆる膝枕、というやつだ。
「君は何のために私に近付くのだ?」
「似たもの同士、だからかしらね」
「変わり者同士、ということかな?」
「そういうことにしておきましょうか」
薄く微笑んだマラリヤは、サンダースの銀髪を優しく撫でる。
風もそれほどなく、陽の光を全身に浴びることが出来る屋上で、マラリヤとサンダースは確かに自然な笑みを浮かべていた。
サンダースもマラリヤも、二人ともアカデミーの中では浮いた存在だ。
太陽に隠れた月のような二人だからこそ通じられるのかも知れないわね、とマラリヤは呟く。
果たして、二人は陽の下穏やかな時を過ごした。