「・・・腹立たしいですわね」
シャロンはぼそりと呟いて、ハンカチを握り締める。目の前には、仲良く朝食をとるサンダースとルキア。二人は恋仲であることを固くなに否定していたが、周りから見ればベタベタの恋人同士である。
しかも成績は下がるどころか上昇している。
これはサンダースの性格から考えれば容易く分かる理由だろう。
「羨ましいよなー」
「結構可愛いしね」
「いっそ寝取ったろかな・・・・いやすまん冗談や」
レオン・ラスク・タイガは、口々に文句を言っている。
正直哀れなのだが、サンダースとルキアは気にせず雑談に興じている。
ほんの少し染まったルキアの頬が、恋する少女の動かぬ証だった。
その日の夜。
シャロンは密かにサンダースの部屋に潜入することにした。
ってゆーか、課題で分からない所があったから聞きに行くだけなのだが。
「失礼しますわ」
コンコン、とノックをして一言入れて、シャロンは無遠慮に部屋に入る。
室内にはルキアが一人。
サンダースは時間からして風呂なのだろうか。
「シャロン?珍しいね」
「ルキアさん。サンダースさんは?」
「サンダースならお風呂だよー」
「・・・・どうして貴方がここにいるの?」
「勉強教わってるの。すっごく分かりやすいんだよー」
それにサンダースの入れる紅茶、好きだしね。
ルキアがそう付け加えるが、シャロンの耳には入っていない。
「ルキアさん」
シャロンが珍しく(?)物凄く真面目な顔をしてルキアの肩を掴む。
ルキアは軽く驚いたが、とりあえずシャロンの話を聞くことにした。
「ルキアさんはサンダースさんが好きなのでしょう?」
「な・・・・何言ってるの・・・?」
いきなり核心に迫られたルキアは、明らかにテンパった。
頬が真っ赤に染まり、視線があっちこっちに向き、どもる。
非常に分かり易い反応だ。ならば追い討ちをとシャロンは大きく息を吸い。
「力ずくで奪えば」
「なにを力ずくで奪うのだ」
シャロンは続きをつむげないまま、口を開いた間抜けな顔で固まっている。
色々問題がありそうな状況な気がして、声の主兼部屋の主なサンダースは溜め息をついた。
「ふう・・・」
煎れたての紅茶を飲みながら、サンダースは溜め息一つ。
ルキアがサンダースに恋してる、という箇所は伏せ、二人はサンダースにことのあらましを伝えた。
「力ずくで、というのは解せないが、まぁ資料を借りに来たのなら追い出したりはしないさ」
「失礼しましたわ」
「はは・・」
苦笑いを浮かべるルキアは、しかしきちんと手を動かしている。
真面目というよりはサンダースの評価を求めてのことなのだろうが。
シャロンはサンダースに勉強を教わっている。
ほんの少しシャロンとサンダースが近すぎる気がして、ルキアは少し嫉妬した。
数時間後。
流石に疲れが限界に達したか、ルキアとシャロンは欠伸を量産し始めた。
「眠いのか」
「うん・・・」
「流石に疲れましたわ・・・・」
トロンとした瞳のまま、サンダースの問いに答える二人。
眠気というものに逆らってまで無理する必要があるのかとサンダースは考え、結果彼女らを自身のベッドに寝かせることにした。
ベッド自体がわりと大きかったことが幸いして、彼女らはすっぽり収まり。
(私もそろそろ寝ようか・・・・)
まだベッドに余裕があったことと、眠気で思考がにぶっていたため、サンダースは二人の眠るベッドに身を寄せた。
「ん〜・・・」
寝ているルキアがもぞもぞと寝返りをうつのに反応して、シャロンは目を醒ましてしまう。
窓からは既に太陽の光が差し込んできている。
(そうですわ・・・私)
夕べはサンダースさんの部屋に泊まったんですわね、と反芻してみる。
なるほど、寝間着姿で部屋を訪れ勉強を教えてもらい、眠気が最高潮に達したためにベッドを借りたのだ。
「サンダースさんは・・・・あらあら」
部屋の主の姿を探したシャロンは、自分のとなりに眠る少年に気付き、苦笑する。
普段からピリピリしているサンダースが、まるで子供の様なあどけない顔をして寝ているのに、ルキアが無意識なのだろうがサンダースに抱きついている。
(妬けますわね・・♪)
シャロンはどこか羨ましいと思う気持を押さえ付け、勉強道具を持ってサンダースの部屋を出た。
とりあえず分からない箇所は克服出来たと思うし。
(それに、これ以上ルキアさんの邪魔はしたくありませんものね)
サンダースは気付いていないようだが、ルキアのサンダースへの入れこみ方は恋程度で済むレベルではなくなっている。
アクティブで胸がおっきくて、積極的で、面倒見がよくて・・・。
(貴方なら、サンダースさんも受け入れてくれる・・はず・・ですわ・・)
何かもやもやとしたものを感じながら、シャロンは無人の廊下を早足で歩いていった。
実は、シャロンが起きたときにルキアは既に目を醒ましていた。
というのも、実はいつも通りの時間に起きたルキアが眠気と布団の温もり、サンダースに抱きつく口実を得たとばかりに再度眠りについたことがあった。
しかし先程までのような深い眠りとは違い、薄目を開けたような浅い眠りだが。
(シャロン、行っちゃった・・・)
ルキアは内心ほくそえんだ。
嫌な女と思われるかもしれないが、しかしルキアはサンダースと一緒にいられるならそれもいいと思えている。
(パジャマのボタンをはずして・・・えいっ♪)
ルキアはパジャマの胸元のボタンを外し、豊満なバストをちらりと見せ、サンダースにぴたりとくっつく。これも彼女の戦略なのだ。