クラスのムードメーカー的存在のレオンは明るくいつも人気者
そんなレオンは正反対にクラスメイトとの関わりを極力避け、放課後の実験室で新薬の調合にいそしむマラリヤ
接点のまるで無いふたりが出会ったのはある日の放課後―――
ガシャアン!!
夕方のマジックアカデミーの校庭に、
ガラスの割れる音が
響いた。
「あ…」
主犯格のレオンが、
間抜けた声を出した。
レオンの所属するガルーダ寮は、他の寮よりも特にスポーツに
力を入れていた。「賢者」という共通の目標を掲げているにせよ、各寮には担当教師の意向が少なからず反映されていた。
今もちょうど、近々開催されるガルーダ杯(サッカー部門)に向けて、レオン達は練習をしているところだった。
「あーあ。何やってんですかレオン君。」
クラスメイトのカイルが飽きれた声で咎める。
「フォーメーションの練習なんですからあんなに強く蹴る必要無いでしょう。
何なんですか、いきなり『俺の力をなめるなよ!!!』とか叫びだして…」
「う…うるせぇな。練習でも全力出してないといざという時に本領発揮できねーだろ?」
「…とにかく、ボールは君が取り戻してきて下さいよ?」
「わ…わかってるよ。」
レオンが全力で蹴ったボールはゴールの位置から大きく逸れて、
校舎の方に飛んでいった。
「どこの教室に入ったんだ…? まさか…」
レオンの嫌な予感は的中した。ボールの終着駅は実験室だったのだ。
「嫌な所に入り込んじまったな…。」
レオンはこの実験室が嫌いだった。
不快な薬品臭、グロテスクな人体模型、そして灰色をベースとした部屋全体から滲み出る不気味な雰囲気。
レオンが錬金術の授業に何となく出たくないのは、
この教室が原因のひとつであったことは間違いない。
もっとも、初めから勉強自体嫌いなわけだが。
更に実験室に近づいていくと、
やはりというか当然というか窓ガラスは盛大に割れており、
その破片が周りに散らばって悲惨な様相を呈していた。
「・・・こりゃあ言い逃れはできないな・・・。
仕方ない、ここは正直にガルーダ先生に謝りに行くかぁ・・・。」
俺も男だ、と自分で自分に喝を入れたものの、
ガルーダ先生の稲妻は他の先生のお仕置きとは比べ物にならない程痛い。
それを思うと、今から深い溜息が出てきた。
「えーと、ボールは何処に・・・げっ!!!」
最悪の展開。
よりにもよってボールは実験室の奥の奥まで転がってしまっていた。
夕方だという事を考慮してもあまりに薄暗い実験室の向かい側の影に、
レオンの探しているボールの一部分がチラリと見えた。
「・・・俺が一体何をしたっていうんだよ・・・」
誰に対して言った訳でもない弱気な愚痴を口にしながら、
レオンはおそるおそる実験室へと足を踏み入れた。
ゆっくり、ゆっくりとボールの方へ近付いていくが、
なかなか辿り着かない。
レオンにはいつもより教室が果てしなく広く感じられた。
その暗く長い道程も永遠に続く訳でもなく、
レオンは何とかボールの位置まで辿り着いた。
「まっ、ガルーダ先生も人情ってもんがあるだろうし、
正直者は誉められるって聞いたことがあるから別に大丈夫だよな。
ヒューストンだかクリキントンみてーに・・・」
ボールまで辿り着いて安心したのか、
レオンはすっかりいつもの楽天主義者に戻っていた。
そしてボールを拾い上げ、教室を後にしようとしたその時――――――
「それを言うなら、『ワシントン』でしょ」