「・・・むぅ」
二月にしては暑く、寝苦しい夜。
サンダースはスポーツドリンクを飲むべく食堂へと出向いていた。
夜のアカデミーは不気味で、人外のものが出ても不思議ではない。
「・・・そう言えば人外が一人いたな」
色々変わりものが集まるアカデミーに幽霊と少年のコンビが転校してきた時は、流石のサンダースも驚きはした。
最も表にはそれを出さないではいたが。
「・・・」
サンダースが家庭科室の前を通ろうかと言うとき、家庭科室の中から少女たちの声が聞こえてきた。
恐らくは実習前の特訓だろう、と思いはしたが、時間が時間だ。
一応注意だけはしておこうかとサンダースが家庭科室のドアを開けた瞬間。
思わず吐気がするような異臭が立ち込める。
サンダースは過去に何度か毒物を扱ったことがあるが、その何れとも違う臭いだった。
「くっ・・これは・・」
「あれ!?サンダースじゃない・・?」
「貴様ら・・何をしている」
調理台から顔を覗かせた少女たち、その代表格のルキアが間の抜けた声をかけたが、サンダースはそれを無視し、鼻を摘んだ。
「酷い臭いだ・・・何をしている?」
「・・チョコを作っているのですわ」
「全ッ然駄目だけどね」
あはははは、と照れた笑いを浮かべるユリと恥ずかしげなシャロンの頬につく茶色い物体。
成程、それはチョコレートのようだった。
「そういうサンダースはどうしたの?」
「喉が乾いてな。ドリンクを飲みに行こうと思っていたのだが」
サンダースは家庭科室をぐるりと見渡す。
ユリやルキアを始め、ヤンヤンやマラリヤまでいるのにチョコレートの一つも出来ない辺り、彼女らは本気で料理が出来ないのだろう。
サンダースは顔をひきつらせ、溜め息混じりに呟いた。
「・・・チョコレートの一つも作れないのか。・・情けない話だ」
その瞬間。
確かにピシリと空気が氷ついた。
絶対零度。
そう言っても過言ではない程に。
「・・・へぇ、サンダースはチョコレートが作れるんだ・・」
「無論だ。その程度、出来ないはずがない」
「・・・」
「ではな。私は食堂に行かねばならん」
ふ、と笑い、立ち去ろうとするサンダース。
だが、妙に足が重い。
「・・・何の真似だ」
「お願い、私たちにチョコレートの作り方を教えて・・・!」
どうやらユリがサンダースの足を掴んでいたらしい。
不出来なクラスメイトに、サンダースはもう一度呆れの溜め息をついた。