「…んっ……ちゅ……ふぅ……んぅ…」  
夜も更け、辺りに闇をたたえた暗い部屋の中。  
窓際の部屋の隅に据え付けられたベッドの上で、盛り上がった影が  
何処となく悩ましい音を立てながら、微かに蠢いている。  
「…ん…んん………はぁ…」  
蠢いている影――サツキは、四つん這いにしていた体を少し上げると  
不規則に乱れている呼吸を整えながら、さっきまで自分が覆いかぶさっていた  
「それ」に目を向けた。  
黒真珠の様な澄んだ瞳の見つめるその先には、…彼女の弟である、ユウの  
あどけない寝姿があった。  
「……はぁ…はぁ……ん……はぅ…」  
呼吸の調子が元に戻らないまま、サツキは再びユウの体に触れない様に  
四つん這いの姿勢で被さり、半開きで静かに息を繰り返している  
ユウの唇に、自分のソレを優しく重ねた。  
「…………ん」  
押し付けるのでも、絡ませるのでもない。ただ、重ねるだけ。  
それだけでも、ユウの柔らかな口唇の感触がサツキへと伝わっていく。  
(……ユウ君…)  
瞑っていた目を薄く開き、彼の寝顔をぼんやりと眺めながら  
サツキは胸の内でユウの名前を呟く。  
彼女にとって最愛の弟であり、…同時に最愛の男性でもある、ユウの名前を。  
 
 
 
 『気持ち』のきっかけは、とてもとても些細なものだった。  
彼女はある日、アカデミーでちょっとしたミスを犯し、担当していた先生から  
お咎めをもらった事があった。  
周りの生徒達からすれば程度の低いミスであったが、元々優等生で  
失敗らしい失敗もなく、そしてそれが当たり前だと考えていたサツキは  
それなりのショックを受けてしまう。  
そんな落ち込んでいたサツキを、ユウは慣れないながらも懸命に慰め、励ました。  
たったそれだけ。  
元からユウを弟として溺愛していた事もあってか、彼女自身  
始めは自分に芽生えた小さな感情に気付いていなかった様で、  
サツキはユウにそれまでと同じ様に接し続けていた。  
だが暫くするとどうだろう、ユウの無邪気な笑顔を見る事で  
温かくなっていた胸が、チクリと痛むようになる。  
ユウの同じクラスの女の子の友達の話を彼から聞いていると、胸の中で  
キュッと締め付けられる感覚に襲われる。  
彼女には理由が分からない。  
疑問に感じても答えが出てこない。  
もどかしくなり友達に相談したところ、「弟クンに恋しちゃったんじゃないの?」  
と冗談交じりに返された事で、ようやくぼやけていた疑問が浮き彫りになった。  
しかし、サツキは戸惑う。  
 
まさか。  
私が。  
相手は弟なのに。  
確かにユウ君の事は大好きだけど、それはあくまで  
弟だからだと、そう思っていたのに…。  
 
そんな考えとは裏腹に、彼女は友達に返された言葉を強く意識するようになる。  
その所為で、弟とのやりとりが何処かギクシャクとしたものになってしまう。  
それでいて、以前からの胸を刺す様な痛みや、締め付けられる様な苦しみは  
より一層強くなっていく。  
酷い時は、彼女の母にユウがじゃれているのを見ていると、母に対して  
僅かではあるが……嫉妬を覚えてしまう事もあった。  
日に日に強くなる胸の痛み。  
日に日に大きくなるユウへの感情。  
気付いたとか、理解したとか、最早そういうレベルの話ではなくなっていた。  
 
私は、ユウ君を……愛している。  
男の子として、男性として、異性として―――  
 
 
 「…はぁ…はぁ……ユウ…君……んっ……ちゅ……ふぅ…ん…」  
それから、彼女は週に一度、決まって夜遅くにユウの寝室に忍び込み、  
眠っている彼の唇を奪う……いわゆる、逆夜這いを掛けるようになった。  
「…ん…ん……は…む……ちゅ…」  
卑怯な事をしているという自覚はあった。罪悪感も感じている。  
知らない内にユウのファーストキスを奪い、彼の気持ちを無視した形で  
一方的に自分の愛情を振り掛ける事に対して。  
しかし、実の弟に「こんなコト」をしている非道徳感、いつユウが目覚めるか  
分からない緊張感、ユウが無抵抗だという事に、酷く興奮している。  
それも事実だった。  
「………んぅ…」  
いつまでこんな事を続けるつもりなのか……それは、サツキ自身も分からない。  
いつまで続けるのかは分からないが、いつまでも続けられる事ではないというのは  
理解している。  
いつかは、決着をつけなければならないのだ。例え結果がどうなろうとも。  
 
でも。  
サツキは考える。  
弟に私の本当の気持ちを伝えたとしても、受け入れてくれるとは到底思えない。  
自惚れでなく、ユウ君が私を姉として慕ってくれているのは分かるけど。  
一人の女性としての感情をユウ君に伝える事が出来たとしても  
ただ、混乱させるだけなんじゃないか。困らせるだけなんじゃないか。  
そう考えずにはいられない。  
それならば、いっそ――――  
 
 
 
「――お姉…ちゃん?」  
「!?」  
不意に、声を掛けられる。  
サツキは、はっとして思考を中断し目の焦点を合わせると、  
微かに目蓋を開けたユウが、真っ直ぐ彼女を見つめていた。  
「ユ、ユウ君……」  
「…どうしたの…? どうして僕の部屋に…」  
さっきまでの興奮が一気に冷めていく。  
サツキは慌ててベッドから体を離すと、早口で捲くし立てた。  
「あ、あのあの、えっとその、なんて言うか……そう! 実はお姉ちゃん、  
久しぶりにユウ君と一緒に寝ようかなって思って来たんだけど、  
あんまり気持ち良さそうに寝てたから思わず見惚れ――じゃなくて! えっと、  
声を掛けられなかったんだけど、もし良かったらどうかなって……ああ、勿論  
ユウ君が嫌だったら無理強いするつもりはないし、このまま自分の部屋で寝るつもり  
だけど、出来れば一緒に寝たいなぁって思って……ほら、昔よく一緒に寝てたのを  
思い出しちゃって、ユウ君も大きくなって最近は全然一緒に  
寝てないから、たまにはいいかななんて思ったんだけど、ああ、嫌なら別に  
いいんだけど、もしユウ君さえ良かったら、ど、どうかな?」  
微妙に苦しい言い訳で、…実際は黒だが、自分の潔白を晴らそうと言葉を  
並べていくサツキ。混乱の余り、話がループした事にも気付かない。  
そんな慌てふためいている姉の姿を見て暫く唖然としていたが、  
彼女の主張を理解すると穏やかな笑顔で、  
「うん、いいよ。それじゃ、一緒に寝よう?…はい」  
そう言って体を少し脇の方へと寄せ、掛け布団を翻した。  
 
 
 
 コチ、コチ、コチ…  
二人で一緒のベッドに入り、ある程度の時間が過ぎても、  
サツキは一向に寝付けないでいた。  
無理もない。  
特別に好意を寄せる異性と同じベッドの中にいるのだから。  
その異性が例え、実の弟であっても。  
(何とかあの場は誤魔化せたけど…)  
自分から言い出した事とはいえ、まさか本当に一緒に寝る事になるとは  
思っていなかった。  
 
最後に自分がユウと一緒に寝たのはもう随分と前の事だと、彼女は記憶していた。  
…否。若干違っていた。  
何年前の何月何日から、などという明確な線引きはなく、いつの間にか。  
気が付いたら、別々の部屋で、別々のベッドで寝るようになっていた。  
ユウが今より幼い頃は、サツキの後ろをちょこちょこと付いて回って、  
ご飯も一緒、お風呂も一緒、そして寝るのも一緒。  
それが当たり前だった。  
しかし、年を重ね成長するに連れて少しずつ姉離れしていって、  
その当たり前だった事が、当たり前ではなくなっていく。  
この事自体、当たり前と言えば当たり前ではある。  
反対に、時間の流れや心身の成長に影響されない、いつまでも  
変わらないものがあるのも事実だ。  
…サツキは考える。  
ユウの自分に対する存在感や感情、それはやはり  
いつまでも変わらない、「姉弟」のものなのだろうか。  
自分のユウに対するそれは、劇的と言えるほど変化したと言うのに。  
少しも、希望を持つ事は出来ないのかと――。  
 
 
 
 「…お姉ちゃん……起きてる?」  
「…?」  
二度目の不意打ち。  
起きていれば微かに聞こえる位の小声で、ユウがサツキに話し掛けてきた。  
「…ん、起きてるよ。どうしたの? ユウ君…」  
「なんだか、目がさえちゃって…。少しだけお話して、いいかな」  
その台詞を聞くと、寝付けない子供に絵本の朗読をせがまれている様で、  
思わず笑みがこぼれていた。  
「うん、いいよ。ごめんね、私が起こしちゃったから…」  
「ありがと。でもあやまらないでいいよ。寝付けないのは起こされたせいじゃ  
ないから…」  
「?」  
 
 「…お姉ちゃん覚えてるかな、昔、お姉ちゃんが学校から泣きながら  
帰ってきた時のこと」  
「………うん」  
はっきりとは覚えてないが、忘れもしない。落ち込んだサツキをユウが  
慰めた事で、微かではあるが、彼女がユウに初めて異性を感じた日なのだから。  
「その時もこうやって、一緒のベッドで寝たんだよ? お姉ちゃんは  
とっても悲しそうにしていて、僕はつられて泣きそうになるのを我慢して  
お姉ちゃんを元気づけようと一所懸命がんばったんだ」  
「…そうだったね。でも、結構前の事なのに良く覚えてたね」  
「……うん。だって…」  
「………」  
「…………」  
「……ユウ君?」  
不自然な間に疑問を感じて、ユウに背を向けていた体を寝返らせた。  
するとそこには、真剣な表情でサツキを見据えているユウの姿があった。  
そのただならない雰囲気にサツキは、思わず息を呑む。  
その実直な眼差しを崩さぬまま、ユウは気持ちを落ち着かせるかの様に  
一呼吸付くと、言葉を発した。  
「だって…その日は僕にとって………特別な日、だったから」  
「………………………………え?」  
 
一瞬、たじろぐ。  
ユウが、何を言ってるのか分からない。  
 
そんなサツキをよそに、ユウはゆっくりと静かに話し始めた。  
「……お姉ちゃんは、僕が小さい頃からよく面倒をみてくれて、  
優しくて、明るくて、カッコよくて、頼りになって、何でも出来て、  
でもちょっとだけおっちょこちょいなとこもあって、僕はそんな『お姉ちゃん』が  
大好きだった」  
「……………」  
「……でも、その日のお姉ちゃんはメソメソしてて、気が小さくて  
まるで、全然別の女の子みたいだった。いつもは明るくて頼りがいのある  
お姉ちゃんにこんな弱々しい一面があるんだって分かると、何でかな、  
…その、ふきんしんだけど、顔が熱くなって、すごく…ドキドキしたんだ」  
ほんの一瞬だけサツキから視線を逸らしたが、またすぐ元に戻す。  
その顔は、薄暗くてよくは分からないが、紅く、染まっている様に  
彼女には見えた。  
「その日はずっと胸がドキドキしてて、お姉ちゃんが落ち着いて寝た後も  
本当に無我夢中で、寝ているお姉ちゃんに体をくっつけると、  
頭がクラクラして、心臓が張り裂けそうな気分になった」  
「……………」  
ユウの話が進むに連れて、サツキの顔も徐々に朱に染まっていく。  
「その日から、お姉ちゃんとお話しようとすると緊張したり、  
お姉ちゃんの顔を見てると、何だか恥ずかしくなるようになったんだ…」  
「……………」  
「それで、何かおかしいと思って、この事を仲のいい友達に相談したんだ。  
そしたらその子に、『そのお姉さんの事、好きになっちゃったんじゃないのかな』  
って言われて…」  
「……………」  
まるで、何処かで聞いたような話。  
「……ごめんなさい、お姉ちゃん……変だよね? こんなの……気持ち悪いよね?  
…僕は、お姉ちゃんの弟なのに…」  
「……ユウ君」  
「…でも、こういう気持ちはいつか、ちゃんと伝えなきゃと思って、  
…お姉ちゃんに嫌われるのは嫌だけど、何も言わないままだと  
もっと苦しくて、もっと嫌だったから…」  
「……………」  
 
私は、今まで何をしていたんだろう。  
ユウ君が、こんなに思い悩んで苦しんでいたと言うのに…  
私に嫌われるかもしれないという恐怖を抑えてまで、  
自分の気持ちを告白してくれたと言うのに…  
私はといえば、自分の事で手一杯で、ユウ君の気持ちにも気付かず  
夜な夜なユウ君で自分の欲望を発散させて、気持ちの決着をだらだらと  
先延ばしにしてきただけ。  
今までのユウ君の台詞は、本当なら私の口から言わなきゃいけなかったのに。  
…自分が情けなかった。  
年下にここまで言わせて、何の行動も起こさないなんて野暮だ。  
だから―――  
 
 
 
 「…先、越されちゃったね」  
言いながら、サツキはユウの方へと身を寄せ、背中に手を回し  
柔らかく抱き締めた。  
「え…あ……お、お姉ちゃん…?」  
「ありがとう、ユウ君。ユウ君が私の事をそんな風に想ってくれてたなんて、  
凄く嬉しい…」  
「…でも、お姉ちゃんは……」  
「…ホントはね、今ユウ君が話してくれた事は、私がいつかユウ君に  
話さなきゃって思ってた事で……あんまり内容がそっくりだったから  
お姉ちゃん、ちょっとだけ驚いちゃった」  
「…え? そ、それって…もしかして……」  
「うん。その、もしかして。お姉ちゃんに本当の気持ちを話してくれてた  
時のユウ君、…カッコよかったよ」  
さっき、ユウが目を覚ました時の動揺ぶりが嘘のように、思った事が  
スラスラと口から流れていく。  
ユウをこうして抱き締めている今も動悸は激しく打ち続けているのに、  
心の中はとても落ち着いていた。  
「……愛してるわ、ユウ君…」  
そして、指先でユウの小さな顎を軽く持ち上げると、そのまま―――  
 
 
 「んっ……」  
顔を寄せ、唇を重ねた。  
「……ふ…ぅ……ちゅっ…ちゅ…ん…」  
さっきの、ただ重ねるだけのものより、少しだけ積極的なバードキスを繰り返す。  
「……はぁ……ユウ、君………んっ…ちゅぷ……はぅむ…」  
唇を重ねる角度を啄ばむ度に変えながら、次第々々にとその力加減を  
強めていく。  
「……ふはぁ、お、お姉ちゃん、少し、苦し…んむっ……」  
ユウが何か話しかけてきた様だが、ひたすらキスに没頭しているサツキの耳には  
遠くに聞こえている雑音の様にしか聞き取れない。  
「…ん……んんっ……ちゅぷ…ぷぷぷ…」  
暫くすると、啄ばむだけでは物足りなくなったのか、サツキは両手で  
ユウの顔を包むと、乱暴な接吻に息を荒げているユウの口唇の間を縫って、  
その中へと舌を侵入させた。  
「…っ!? んぅ! んん!! んっ……ぅ………」  
突然の侵入者に驚き、思わずサツキを押し退けようとするが、  
サツキの白魚の様な、しなやかで透明的な白さをたたえた指で頬を撫でられると、  
まるで力を吸い取られたかの様に、なよなよと抵抗を止めてしまう。  
「…ふふっ……ん……ちゅ……ちゅぶぶっ……んぅ……は…あぁ…」  
サツキは依然頬を撫で続けながら、すっかり大人しくなったユウの口を犯していった。  
唇を舐め回し、啄ばみ、甘く噛み、歯茎をなぞり、その奥に縮こまっていたユウの  
舌を捉え、それ同士を激しく絡ませる…。  
唾液で口元がベトベトになろうが、長時間のフレンチキスで唇の感覚が麻痺しようが  
サツキはまるで意に介さなかった。  
その、一心不乱にユウの唇を吸い続けるサツキの姿は、何処か病的にも見えるが…  
それは今まで、必死に抑えてきた愛欲や性欲が、反動で垂れ流しになっている所為かも  
知れなかった。  
「…はっ…はっ……お姉ちゃん…! んっ……ちゅっ…ちゅっ…」  
サツキの情熱的な求愛に感情が高ぶったのか、今までされるがままだったユウも  
姉の動きを真似る様にサツキの唇に吸い付いてくる。  
「ちゅ、ちゅぶっ、ぴちゃ…ふぁ…む…ちゅば…ちゅぅぅぅ…」  
サツキもこれに応じて、ユウの唇、そして舌の動きに合わせ、絡ませる。  
そうして、いつまでも終わる気配を感じさせない官能的な口付けを、  
長く長く続けていった。  
 
 
 
どれくらいそうしていたのだろうか。  
どちらからともなく密着させていた体を離し、荒い呼吸に肩を揺らしながら  
お互い非常識的な行為の余韻に浸っていた。が。  
しばらくすると、サツキが思い出したように上半身をムクリと起こし、  
ユウの体を仰向けにしてベッドへ押し付けた。  
「…ふぅ…はぁ…お…お姉ちゃん…?」  
「……はぁー…はぁー…っ…ユウ…君、私…ユウ君が欲しい…」  
「え…?」  
「(今まで、キスだけで何とか満足出来てたけど……ユウ君の気持ちを知ったら、  
私の事好きだなんて聞かされたら、もう、我慢出来ない…)」  
「お姉ちゃん…」  
「本当はいけない事なんだって分かってるの……私達は姉弟だから、  
体を交えちゃ…結んじゃいけないって。だから、……だけど………!」  
と。  
いつの間にか目尻を滴で滲ませていたサツキの視界が、急に暗転した。  
ユウが、サツキを抱き寄せていた。ちょうど、さっきサツキがユウにそうして  
あげたように。  
「…いいよ、お姉ちゃん」  
「え……」  
「僕の事は気にしないで。僕は、お姉ちゃんと一緒ならどうなってもいい…。  
お姉ちゃんの為だったら何でもするよ。  
だって、お姉ちゃんも今まで、僕にそうしてきてくれてたから。  
だから、今度は僕の番だよ……それに、僕も…お姉ちゃんの事……」  
「ユウ君……!」  
 
姉弟が一線を越える。  
言葉にするのは簡単だが、実際にそうなれば色々な問題、苦難が付いて廻る。  
そしてその関係が周囲に露呈してしまえば、もう、今まで通りの生活を  
送る事すら出来なくなる。  
二人共、それらの事は十分承知している筈だった。  
だが、目の前に互いに気持ちを確かめ合った愛しい人がいて、  
そしてその人が自分の全てを受け止めると言ってくれて、  
どうしてこの場で抑える事が出来るだろう。  
いや、出来る訳がない。  
感情は、今にも気が狂いそうなほど相手を求めて止まないのだから――  
 
目一杯の笑顔を浮かべながら、柔らかく、だが訴えかけるかの様な言葉遣いで  
サツキを受け入れようとするユウの額にぽろぽろと幾つも涙を落としながら、  
サツキはコクリと一回小さく頷き、ゆっくりと腰を沈めていった。  
 
グチュ……ズブブブ……  
ゆっくり、ゆっくりとユウのそそり立つ肉棒に自分を沈めていくサツキ。  
「…はっ…あ…あぁ…」  
深く沈めていくほどに、その表情が喜と楽に歪んでいく。  
やがて、彼女の性器がユウに密着する位に腰を落とすと、その間から  
薄紅色の液体が流れ、シーツを濡らした。  
「…お姉ちゃん、その…痛かったり、しない…?」  
「う…うん。私、初めてなのに…全然痛くない……なんでだろうね…?」  
心配そうに眉を顰めながら尋ねてくるユウに、釈然としないといった風に  
答えるが、すぐに表情を温かい微笑みに戻すと、  
「でも……私達これで…本当に一つになったんだね…」  
少しだけ涙にしゃがれた声で呟いた。  
「お姉ちゃん…」  
「ユウ君………動くね」  
 
 
「あっ、んあぁっ、ふっ、ぅん、あ、ふぁぁ!」  
ベッドをギシギシと軋ませながら、ユウの上でサツキが妖しく踊る。  
その腰の動きと嬌声は、たったさっき純潔を破いた少女のものとは、到底思えない。  
「…あっ……うぅ」  
サツキの激しい動きにつられて、ユウの口からも喘ぎ声が零れる。  
時折見せる痙攣したかのような下半身の動作が、その快感の強さを  
物語っているかの様だった。  
「あんっ、んっ、ユウ君の、あついぃっ、ふぁっ、はぁん!」  
サツキの膣内に無数に存在する肉襞が、自分を侵してくる肉の棒へ  
ネットリと纏わり付き、圧迫する。  
上下に、左右に擦れる度にサツキの頭の中を、真っ白に塗り潰していく。  
「あぁ! んあぁ! ユウ君……ユウ君! あっあっ、んっああぁ!」  
「…うぁ! …っ…っ…はぁ、おねえちゃん!……おねえちゃんっ!」  
ユウの名を、何度も何度も連呼しながら、腰の動きをどんどんと速めていく。  
それに応じて、ユウもまた姉の事を何度も呼びながら、サツキの動きに  
合わせる様に、自分自身をサツキの中へと繰り返し突き立てていった。  
「あ゙っあ゙っ! ユウ…くんっ! ふぁ! あ゙あ゙! んあ゙あ゙あ゙!」  
顔から涙と鼻水とよだれを垂れ流し、胴から粒の様な汗を振り飛ばし、  
秘処から泡を立たせながら愛液を溢れさせ、サツキは喘ぎ、よがり狂う。  
息遣いも大きく深いものから小さく断続的に刻む様なものへと変わり、  
ただでさえ速い腰を目茶苦茶に振り立て始めた。  
…限界が間近に迫っている証拠だった。  
 
そして…  
「あ゙あ゙っ! んあ゙、あ゙っ!! んぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」  
「……ああっ!」  
サツキは、折れるかと思うほど背を仰け反らせ、ユウはサツキの秘処を  
思い切り突き上げ、  
二人一緒に、高みへと登りつめた―――  
 
 
 
 コチ、コチ、コチ…  
「……んん、おね……ちゃん…」  
「…………………」  
咽る様な甘ったるい情事から、暫くの時間が経った。  
秒針の刻む音を遠くに聞きながら、サツキは既に眠りに落ちているユウを  
胸に抱き、やわりやわりとその頭を撫でていた。  
快感に溺れていたオンナの貌はすっかりとなりを潜め、その表情は  
いつも以上に優しく、そして穏やかなものに変わっていた。  
「……………」  
 
――――ユウ君は交わる前、私にこう言ってくれた。  
私と一緒ならどうなってもいい、私の為なら何だってする、と。  
当然、私だって同じ気持ちを持っている。  
そしてそれは、ユウ君と体を結んでから、より一層強くなった。  
これからどれだけ時間が経ったとしても、この気持ちは更に強くなる事はあっても  
弱くなる事は決してない。そう固く信じている。  
そう。  
もし仮にユウ君の身に何かあったとしても、私が守ってみせる。  
例え、この命を投げ出すような事になってでも、絶対に――――  
 
そんな事を考えながら、サツキも行為の疲れから来る睡魔に身を委ねて、  
ゆっくりと静かに、深い眠りへと落ちていった。  
 
 
 
 …彼女の考える通り、この先何があっても、二人の関係が壊れてしまう事は無いだろう。  
 
死が二人を分け隔てたとしても、彼らはそれすら何とかしてしまうかも知れない。  
 
二人は兄弟よりも恋人よりも、ずっと堅く強い絆で、結ばれているのだから――――  
 
 
end  
 

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