廊下の死角から覗き込むと、こそこそと男子棟へ歩いて行く二つの影が見える。
そこでマラリヤは、やっと心の荷が下りた。
(どうにか成功したみたいね……頑張ったのね、あの子)
伸びをして肩を軽く鳴らし、自分の部屋への帰路に向かう。
(これで上手くいかない訳が無い、と。そうね……私も、そろそろあの人に仕掛けてみようかしら……? ふふ)
足音も立てず、彼女はそのまま去って行った。
口の端に不敵な笑みを浮かべたまま。
ふと気付いたら僕の部屋でした。
僕は彼女に何と答えたのか、僕達がどこをどう通って帰ってきたのか。
全くさっぱり記憶に無いというこの状況。
「どうしよう……」
呟きに誰かが答えてくれる訳も無く、さぁぁぁ、という水の音が聞こえてくるだけ。
そう。彼女は今、僕の部屋のお風呂に入っています。
いつも鈍感だの朴念仁だの言われている僕だって、いくらなんでもこの状況とこの後の行動は分かる。
「……どうしよう」
そりゃ、僕だって男の子ですから、ヤンヤンさん可愛いなぁーとか、意外と大きいんだなぁー、とか思ったことはありますけど。
まさかいきなりこんな事になるとは思ってもいませんでした。
準備や心構え抜き、なおかつ“初めて”という事も合わさり、僕の頭は限界のようです。煮えてます。
「ど、どうすればいいんだぁぁ!」
「とりあえず、お風呂に入ればいいと思うアル」
「ぎょわっ!?」
「あ、上がったなら上がったと言って下さい……心臓が鼻から飛び出るかと」
「申し訳ないアル」
素直にぺこりと謝るヤンヤン。
その動きに合わせ、ひよこの色に似た長い髪が揺れる。
(うわぁぁ。髪降ろしたヤンヤンさん初めて見た。な、なんだか……)
「その、お、大人っぽい、です、ね?」
奥手な少年は、そんな小さな違いにもいちいち動揺してしまう。
「そうアルか? えへへ、何か照れるネ」
目を弓なりに、少女はぽりぽりと照れ臭そうに頭を掻いた。
「っじじじゃあ、僕もお風呂入ってきますね――って、あれ?」
おかしい。何かとても重要な事件を見逃している気がする。
何だ。何だ。何だ。……あ。
「っ!! 何でヤンヤンさんが僕のYシャツを着てるんですかっ!? しししししかも下に何も着けずに!!」
「やっと気付いたアルかー。これは家に代々伝わる『男を落とすてくにっく』の一つ、“肌華歪視奴”ネ!」
――――その昔、中国では騎馬民族が覇権を争っていた。
そして、ある英雄がその争いを征する。その名を『裸上着』(ら・じょうぎ)という。
その裸上着が得意とした技が、“肌華歪視奴”である。
まず上半身に外套だけを羽織り、その間から見える筋骨隆々の身体と、
肉体から立ち昇る闘気によって相手の注意を引き、その隙をついて奇襲する、というのがこの技の仕組みだ。
現代には、人知れずこの技を受け継ぎ、意中の相手を陥落させる女性も多数いるとされている――――
民明書房刊 『隠されし最終奥義』より
「いやいや男塾ネタでは無くてですね女性はみだりに肌を見せてはいけないと言うか何と言うかあーもうお風呂行って来ます!」
耳まで真っ赤に染めたカイルは、言うが早いか風呂場へと逃げて行く。
「はは、ちょっとやり過ぎたアルか……って、本当は私が恥ずかしがる物なのにネ?」
変なカイルー、と呟きつつ、ヤンヤンはベッドに腰掛ける。
その頬がうっすら色付いているのは見間違いでは無いだろう。
「本当に、しちゃうアルね」
とくんとくんと高鳴る鼓動。
不安はある。恐怖はある。
安堵もある。期待もある。
そして何よりも、嬉しさに満ち溢れている。
彼はどうあれ、自分の部屋へ私を連れて来てくれた。
私を受け入れてくれたのだ。
「これが嬉しく無かったら、女の子じゃ無いネ……」
かすかにこぼれた声は、風呂からの水音で掻き消される。
(まずい。あれは非常にまずい)
勢い良く冷水を被りながら、カイルは瞑想の構えをとる。
顔を引き締め、不動のままシャワーに打たれ続けるその姿は、まるで修験者の様である。
(いや多分彼女なりのアピールなんだろうけれどあれはまずい)
しかし内面では、年頃の男の子回路がフル回転中。
もやもやと、妄想が浮かんでは消えるを繰り返している。
それはさっきの格好で、とんでもない体勢になったヤンヤ――
(うおおおお静まれ第二の僕よ! いくらツボだからといって既に発射態勢になるんじゃ無いぃぃ!!)
頭を抱えごろごろと風呂場を転げ回るカイル。
彼の男の部分は、何と言うか、限界まで張り詰めてしまっている訳で。
頭を洗っても身体を洗っても冷水を浴びてもさっぱり落ち着いてくれない、聞かん坊っぷりを発揮していた。
(ああああこんな状態で行ったら絶対引かれる! 間違い無く“ヤル気”満々に見られてしまうって!)
凄まじい葛藤も空しく、一向に主張を続けるカイルの息子さん。
(! そ、そうだ、こんな時はロマノフ先生の事を考えれば……おお、一気にしぼんで行く)
カイルは老人の持つアンチ海綿体パワーに感謝しつつ、パンパンと自分の頬を叩く。
「さあ、一世一代の勝負です!」
戦場に向かう勇者の如く、威風堂々と彼は風呂を上がった。
薄い青の無地のパジャマを着て、部屋へのドアをゆっくりと開ける。
「あ、カイル上がったアルね。はい、お茶注いでおいたヨ」
居間の椅子にちょこんと腰掛け、足をプラプラ揺らしている彼女を見て、一回は押さえ込んだモノがまた持ち上がりだす。
「あどうもですすいませんお待たせしてしまってはははは」
完全体になる前に向かいの椅子に急いで座り、テーブルでなんとか誤魔化すカイル。
「? カイル、ちょっと変だネ? どうしたアル?」
「あ、いや気にしないで下さい」(って身を乗り出さないでー! 谷間が! 谷間が!!)
「そう? ……ん。やっぱカイルにお茶の入れ方は負けるヨー。少し苦くなっちゃったネ」
「あ、いや気にしないで下さい」(ここで舌を突き出すとは!? 狙ってるのか? 狙っているのか!?)
「やっぱ変アルね……? そ、そういえばカイルの部屋って全然汚くないアルね。やっぱり性格が出るアルか?」
「あ、いや気にしないで下さい」(あー! 横向いたら見えるようーなーじ! うーなーじ!!)
同じ言葉しか返さないカイルに、ヤンヤンは妙な異変を感じ取る。
「……カイル、もしかして緊張してるアルか?」
「へあっ!? そんな事は無いですよっ!? ほらこの通り一気飲みまで!」
「あ」
カラッカラに渇いた喉に、カイルは一気にお茶を流し込む。
それは確かに少し苦かったが、むしろその風味が自分を落ち着かせてくれた。
(そうだ、落ち着け。何をやってるんだ僕は)
すぅっと自分の中で何かが変わって行く。
(……多分、この流れだと、行く所まで行ってしまうだろうな。
だから、だからこそ冷静になるんだ、僕。こういう事は一生の思い出になる。僕にとっても彼女にとっても)
目の前の彼女を見つめ、彼の決意は言葉となる。
「ヤンヤンさん。僕から、伝えたい事があります」
いつに無く真剣な声音で告げる。
「あなたが入学してきてから」
手に背中に心に汗が。
「あなたの事を、ずっと考えていました」
脳は白く燃え上がり、想いを残らず吐き出させる。
「一目惚れって奴、ですね」
顔を上げ、瞳を見せて、彼は。
「あなたの事が好きです。大好きです」
慕う彼からの、いきなりの告白。
何が起きたのか解らない、といった表情から一転、ヤンヤンの目には涙が浮かび始める。
「う、うぅうぅぅぅ」
顔を真っ赤にして必死に堪えている様だが、一旦決壊した涙腺は止まらない。
ぼろぼろと溢れる大粒の涙は頬を伝い、テーブルの上で形を崩す。
「うぅぅ! カイルも、マラリヤも、何で急にこういうコト……!」
何度もしゃくりあげながら、彼女は必死に自分の気持ちを伝えようとする。
「ひっ、わたしも、うぅ、わたしも、カイルが大好きだヨぉ! ひぐっ、ひぅぅぅ」
Yシャツの裾でいくら拭っても、その滴は止まる事を知らない。
肩を震わせ、喉を震わせ、ヤンヤンは感情のままに嗚咽する。
――あの時、何故ああいう事をしたのかは、自分でも分からない。
カイルは彼女の後ろにゆっくり回りこむと、そのまま腕を首に回し、身体全体で抱き締めた。
その行為はとても静かなもの。
けれど、どんな言葉や仕草よりも、雄弁に心を伝えていた。
応えてくれてありがとう。
泣かせてしまってごめんなさい。
遅くなってすいません。
大好きです。愛しています。
だからもう、泣き止んで下さい。
恋人からのお願いですよ。
ね?
――でも、それで良かった、と思う。
そうじゃなきゃ、あんな思い出は作れなかっただろうから。
席を立ち、ベッドの前でもう一度抱き締めあう。
ヤンヤンはまだ少しぐずっていたが、カイルの胸元に顔を埋めるとそれもすぐに治まる。
ぽん・ぽん、と、緩く背中を叩いてあやしてやるカイル。
甘える猫の様に、顔を胸に擦り付けるヤンヤン。
「カイルぅ」
「はい? んむぅっ!?」
呼び掛けに応じてこちらを向いた彼に、口付けで奇襲する。
精一杯背伸びしての、唇同士が触れ合うだけのキス。
直後にぱっと身を離したヤンヤンは、ベッドにぼふっと飛び込み、真っ赤な耳を隠そうとシーツと格闘する。
「うやぁー!! は、恥かしぃーっ!!」
「……あ……」
お返しの奇襲を食らい、カイルの頭は悶々モードに再突入する。
(ぷにゅっとした柔らかい物が僕の唇をそれよりももっと柔らかい物が胸に押し付けられてああ僕はもう駄目みたいで)
鼓動の速さは限界に近く、続く拍動は全身を内から焦がす。
もう、止まらない。
二人分の体重を支え、ベッドが少しの揺れと小さな軋みを起こす。
カイルは布の擦れる音と共に、シーツを取り払う。
その下には、自分で自分を抱き締める様に小さく縮こまった少女が一人。
先程シーツと戯れる内に着ているYシャツもめくれてしまったのか、太ももや胸元がはだけてしまっていた。
それでもまだ見せたくないと言う様に、大事な部分だけでも手で覆い隠す。
火照った身体やその動作が、逆にいやらしさを引き立てるとも分からずに。
荒くなった息が漏れ、自分の頭の中が沸々と煮立つのが分かる。
心で暴れ狂う劣情は、股間の膨らみという形で表に出ていた。
「わ……」
パジャマを突き破りかねない勢いのシルエットを見て、彼女は驚きと好奇の溜息をこぼす。
「ちょ、ちょっと待って下さい。今脱ぎますから」
いつもなら絶対言う事の無い大胆な言葉で答えながら、わたわたと上のパジャマと薄手のシャツを脱ぎ捨てる。
外見では判らない、きっちりと引き締まった筋肉を纏った上半身。
無駄な物が殆ど見られない、正に男性の理想的な肉体である。
(うわうわわわわ……は、初めて見たヨ、男の人の裸)
赤い顔を隠した手の指の隙間から、しっかりと覗くヤンヤン。
昨日までは想像の内でしか見ていなかったものが、今現在彼女の目の前にある。
丁度、後ろを向いてパジャマのズボンを脱いでいる彼の腰から下にかけてがあらわにされていた。
緊張のあまり、ガチガチに固まった尻の筋肉が引きつって動いている。
ふっと好奇心が打ち勝ったのか、ヤンヤンは硬さを確かめるように、彼の今だひくひく波打つ臀部の筋肉に指先で突きを放つ。
「え、えいっ」
「はうッ!?」
屈んでズボンを脱ぎ終わろうとした瞬間、無防備な尻に何かが直撃する。
驚きの余りに海老反りながら前方へジャンプしてしまったカイルは、足首をパジャマにとられ 正 面 から派手に転倒してしまう。
しかも、手を床に突く事が出来なかったのだ。
さて、男性読者はお分かりであろう。
分からない方は、膨張した棒状の筋肉を、平面で急激にサンドイッチされる、と想像して欲しい。
めきょっ!
「―――――――――――――――――――――――――――――――――――ッッッッッ!!!!!!」
声にならない絶叫が口から放たれ、彼は股間を押さえてごろごろとカーペットの床を転げ回る。
作者もあんまり考えたくないタイプの痛みを味わい、一瞬で体中に脂汗が滲み出す。
唯一幸運な事といえば、中途半端な勃ち具合ではなく、腹に付きそうなほどの全開勃起状態だった事であろう。
とはいえ、一歩間違えば男性として終焉を迎えていたかも知れない事件に、カイルはパニックを起こしていた。
(あ、あれ? 何でお爺ちゃんが川の向こうで大漁旗を振っているんだろう? とりあえず手伝いに行かなきゃいけな)
「カ、カイル!? ごめん、大丈夫アルか?」
ぺちぺち背中を叩かれて、カイルははっと正気に戻る。
「ヤ、ヤンヤンさん……僕は、もう、もう……」
「わわ、お、落ち着くネ、カイル!」
ずりずり引っ張られて、ベッドに腰掛けさせられるカイル。
「本当に申し訳ないヨ。……痛いトコはどこアルか?」
ぺこりと謝るヤンヤンは、続けてカイルの身体中をまさぐり始める。
「わ、や、ちょ、ま、違、そこは、ひょわっ!?」
「あれ? どこも変になって無いヨー。……! も、もしかして……こ、ここ……アル、か?」
男性器を軽く握られ、かすかなうめき声と共にそこにまた血が集中し始める。
「うわ、硬くなって……お、おっきくなってきたヨ?」
カイルのソレは、常人よりも一回り程大きい、彼の体格に見合った代物であった。
先っぽはちょっと被ってはいたが。
「あ、あの、流石にそれはちょっと……あわわわっ!?」
両手で陰茎を掴み、こしゅこしゅとゆっくり擦り上げるヤンヤン。
カイルの弱々しい抗議や抵抗も、全く意に介さない夢中っぷりである。
「……かちかちで、すべすべで、ぴくぴくして、あっついアル」
彼女はごくりと生唾を飲み込み、ペニス全体のフォルムを撫でる様にして確かめる。
滑らかな女性の肌という物は、それだけで男に対しての特殊兵器となり得る。
その感触が、身体の中でもとびっきりに敏感な部位を這いずり回るというのだから、カイルにしてみればもう堪ったものではない。
「くぁ、はぁぁぁ……うう、く、ふぅぅ……」
しゅにしゅにと乾いた摩擦音を立てながら、股間をまさぐる彼女の手指。
自分でする時とは全く異なる思いがけない動きに彼は翻弄され、襲い掛かる快悦に声を漏らすだけ。
「びくびくが凄いヨ……そういえば、コレ、咥えると気持ちいいって聞いたアルけど……」
皮を後退させられ、赤く腫れ上がった切っ先を見つめ、呟くヤンヤン。
息を段々と荒げ、大きく口を開け、男根を咥内へ迎え
「あ…………やぁぁぁぁ!! やっぱ怖いアルぅぅぅ!!」
いれない。
反対に顔を背け、根元をぎちぎちと万力の如く握り締める。
「うあぁぁぁぁ!?」
ぬめぬめどろどろの快感を予想していたカイルは、予想外の強襲に思いっきり仰け反る。
ペニスの内圧が一気に高まり、微弱な空気の流れだけでも快感に痺れてしまう程だ。
(流れ……? ああ、これなら……)
「や、ヤンヤンさん……先っぽの所に、ふぅーって、してみてくれますか?」
薄白く濁った頭の中、そんな言葉が口から出る。
「え、え? こ、こうアルか?」
不思議な指示の意図が読めず、小首を傾げながらもヤンヤンは指示に従った。
凶悪な形状を持つ勃起のすぐ近くに、桜の花弁を二つ合わせた様な、小さな彼女の唇が寄せられる。
すごくいやらしい構図だな、と思ったのも束の間、潤みを含んだ熱波が頂点へ叩きつけられる。
「ふぅーっ……はぁーっ、はぁぁ……」
(く、ぁぁぁぁっ!! やっぱり、これ、凄いっ)
一撃目は表面を滑らかに通り過ぎ、二撃、三撃目はねっとりと粘膜に絡みつく。
それは、確かにただの吐息。
けれども、内側から弾けそうになっているソレにとっては、口淫を用いた愛撫と変わらない。
擬似的なフェラチオに、カイルは奥歯を噛みしめ、顔面の神経を引き締めて耐える。
そうでもしないと、もう一回された瞬間に、全部解放してしまいそうだから。
「はぁっ、はぁ、ふぅーっ、はぁぁ、はぅ、ふぁーっ、はふぅぅぅ……」
自分のやっている事が、どんなに淫らな事なのか、ヤンヤンは自覚している。
自覚しながら、目の前で熱く滾っている男に、大きく息を吹きつけている。
口でするのはちょっと、いや結構怖い。でも、これだったら大丈夫だ。
これでカイルが喜んでくれるなら、酸欠になったって気にはならない。
――そういえば、おとこのひとはきもちよさがげんかいになると『射精』するんだったね。
いつなんだろう。まだかな。もうすぐかな。とびでてくるのかな。
めのまえでおおきくふくらんで、あついあついなかみを『射精』するのかな。
まだかな。まだかな。ちょっとくるしくなってきたけど、かいるのためならわたしは――
正常な呼吸が保てなくなり、犬の様にはぁはぁと喘ぐヤンヤン。
その間も細指が根元や袋を弄び、カイルの射精への秒読みを早めさせる。
酸欠と羞恥で首元まで赤くなったヤンヤン。
日常の元気な表情と正反対な、淫蕩な笑顔での奉仕。
カイルはもう、この異常で非常な事態に我慢できない。
「もう、でっ……ますっ……ヤンヤン、さん……!! ひ、ぁっ! あああああぁぁぁあぁぁっ!!!」
最後の一言を言い終えるが早いか、カイルの肉柱は指を押し退ける位に一瞬で体積を増し、カリ首を広げ、先端から白濁を射出する。
ぶびゅぅっ! びゅばっ! びゅびゅ、びゅっ! びくん! びゅ、ぴゅる……
溜めに溜めた男のエキスを、一気に噴出す股間。
恐ろしいまでの快感は脊髄を瞬時に駆け上り、頭のど真ん中で爆発を起こす。
「ひゃ!? わ、わ! あ、っついっ!? やぁぁ!」
打ち上げられた子種は、放物線を描いてヤンヤンの顔面に軟着陸。
そのまま額や鼻筋、降ろされた髪、口元にまで飛び散る。
睾丸の中でぐつぐつ煮込まれた精液は、鼻孔を突き刺す程に濃密な男の匂いがした。
真っ白に染まった夢世界から、はっと意識が頭に戻る。
「はっ、はぁっ、ヤ、ヤンヤンさん、すいません……」
目の前には、顔に大量に付着した精子を指で拭い取ろうとしている彼女の姿があった。
掌に掻き集められたのを見ると、自分がどれだけ凄まじい量を出したかがはっきり分かる。
いくらなんでもこれは……。
「凄かったヨ……噴水みたいだったアル」
と、ヤンヤンはにこやかに微笑む。
その目元や頬は今だ上気していて、心の奥底がびしびし刺激される。
「これ……ちょっと舐めたけど、苦いし喉に絡むネ。あんまり好きにはなれなさそうアル」
「と言いながら何故指先でちょっと掬って舐めてますかー!? あの、何か猛烈に恥ずかしいのですが」
「そうアルか? うーん……」
カイルは気恥ずかしさを紛らわそうと、ティッシュを2、3枚とって彼女の顔を拭ってやる。
ちょっとペタつく気もするが、ネトネトした感触は大体取れた。
始末を終え、改めて二人は向き合う。
今日だけで何度となく繰り返した行為を交わし、ベッドへもたれかかる。
ヤンヤンは上から迫るカイルの唇に、舌を絡めて対抗。
唾液を交換、舌を接着。唇から口蓋、歯の裏までお互いに舐め回し、舐め回す。
自分とは違う味の体液を味わう。それは正に美酒で火酒。
身体は火照り、汗は吹き出す。
二人の世界は、未だ終わらない。
口付け、と言うには淫靡すぎるその行為の途中、カイルの手が恐る恐る彼女の膨らみへと伸びる。
ふン、と甘い声を漏らしながらも、ヤンヤンは震えるその手を拒まない。
むしろ触れやすいように、胸をぐっと突き出すようにする。
ぽふ、と膨らみに手が乗り、ヤンヤンは身体を小さく震わせる。
綿の硬い肌触りの上からでも、はっきりと自己主張をする柔らかい乳房。
小柄なヤンヤンには、やはり不釣合いな程の大きさである。
「ん……は、う……」
ふにっと指を沈ませたり、さわさわ撫ぜてみたり、ゆっくりと圧迫してみたり。
「ん、む……わ、わぁ……」
カイルはその初めての感触に驚きっぱなしだ。
そのまま、口付けとソフトタッチを継続する内に、より強い好奇心が湧いてくる。
――生で、見て、触って、揉んで、舐めてみたりしたい――
男として、これだけは譲れないポイントだ。
(急にやるのは何だかマズい気がします……ここは、じわじわと……)
カイルは手元をちょっとだけずらし、そろりそろりとYシャツの釦に指を掛ける。
かたつむりとデッドヒートをしそうなスピードで、一つ、二つと外されていく小さな留め具。
腹の上まで行くと流石にばれ、ヤンヤンにジト目で睨まれたが、カイルは申し訳なさそうな笑みでどうにか誤魔化す。
程無くして、Yシャツの隙間から赤みを増した肌色が覗く。
そのまま一番下の釦を外すと、ふるん、と支えを失った生乳が揺れ、綺麗な裸体が露にされた。
正直、カイルは言葉も出ない程驚愕していた。
綺麗。美しい。凄い。見惚れる。
そんなありきたりな言葉じゃあ、この素晴らしさは表現出来やしない、とカイルは思う。
誰が見ても、うっとりと溜息を漏らす様なヤンヤンの艶姿。
引き締まる所はきっちりと、膨らむところはゆったりと。
余す所なく、極上なボディラインを誇示している。
「カイル、あんまり見られると……恥かしいヨ」
局部は両手でしっかりと隠してはいるが、余計扇情的なポーズになっているのに彼女は気付かない。
「あ、そ、すいません……」
さっきからカイルは生唾を飲みっぱなしだ。
緊張を飛び越えて、ある種のトランスに近い精神状態のまま、カイルはヤンヤンの素肌へと触れる。
「ひゃう……!」
拒否なのか驚きなのか判別しがたい悲鳴もそっちのけ、カイルはおへその近辺を撫で回す。
温かく、滑らかでもちもちした柔らかい感触を、手の神経をフル活動させて感じ取る。
「カ、カイルぅ……」
「は、はい?」
どこか切なさを含んだ声で呼び止められ、カイルは何事かと視線を合わせる。
「ごめ、ごめん、見られるの……は、はず……恥かしいから、後ろから触って欲しいアル……」
――息を荒げた『お願い』。僕は拒否なんて出来ませんよ。そりゃあ。