春の宵口、風もなく暖かい空気が薫る。  
アカデミーの桜並木を僕とマラリヤは並んで歩いている。  
手には、ノンアルコールのシャンパンやサンドイッチ―アカデミー内の花見で振舞われたものの余りだ―を持っている。  
「夜桜見物もいいかな、と思って」  
と僕が言うと、彼女は意外そうな視線を僕に返す。  
「…変かい?」  
「…セリオスらしくない、かしら…」  
「何も、勉学ばかりじゃないよ、僕だって。…あ、こっちだよ」  
言いながら僕は、桜並木の方面を外れ、庭の奥に歩みを進める。  
「…?桜は、そっちじゃないわよ?」  
訝るマラリヤに、僕は悪戯っぽく笑みを返し、  
「見つけたんだ。とっておきの場所」  
言って、彼女の手を取り、草を踏みしめながらどんどん進む。  
通りをかなり外れた頃合に、周囲の樹木とは雰囲気を異にする1本の小ぶりな桜が姿を現す。  
七分咲き、といったところだが、周囲とのコントラストで美しく映える。  
「どう?」  
「…こんな所に。誰が植えたのかしら?」  
彼女の興味は、まずそっちだったらしい。…まあ、マラリヤらしいよね。  
「多分、この2人じゃないかな」  
僕は反対側の幹に廻り、指し示す。  
薄暗い闇に目を凝らすと、樹皮の模様とは明らかに違う傷のようなものが走っている。  
よく見ると、一筆書きの傘―いわゆる「相合傘」だ。  
さすがに名前の部分は見て取れないが、かつて、この桜が、この恋人たちの橋渡しをしたであろうことは容易に想像がつく。  
「…じゃ、準備しようか」  
僕は地面にシートを敷き、四隅に重しをかける。  
マラリヤも、シートにあがり、グラスや紙皿を出し、シャンパンを注ぐ。  
「じゃ乾杯」  
「…乾杯」  
淡い炭酸が、甘く喉を灼く。  
 
「どうかな?」  
僕の問いが唐突だったのか、マラリヤは首を傾げる。  
「この夜桜、気に入ってくれたかな?」  
「……綺麗」  
彼女は、普段変わらぬ口調だが、表情から、素直に感動してくれているようだ。  
僕は彼女に寄り添って、囁く。  
「マラリヤにそう言ってもらえて嬉しいよ」  
彼女も僕の肩に頭をしなだらせてくれている。  
「…私も、嬉しいわ。こういうのって、初めてだから…」  
視線が合う。…僕は顔を寄せて、淡いピンクの唇にキスをする。  
軽く唇を合わせ、一度離す。そして、もっと深く彼女の唇を貪る。  
舌を挿し込み、彼女の舌に絡ませ愛撫する。湿った音とともに、甘い吐息が混ざりだす。  
「……ん、はぁ…」  
唇を離し、彼女と目を合わせる。彼女の瞳が潤みを帯びている。顔にも紅がさし、うっとりしたような表情だ。  
「マラリヤ…」  
僕は、彼女を抱きすくめ、唇から耳殻、そして首筋へとキスの雨を降らせる。  
彼女はされるがまま、僕のキスを受け入れている。  
キスを続けながら僕は、服の上から彼女の胸を撫でる。  
「んっ、あぁっ……セリオス…」  
マラリヤの声が、普段より甘くなり、トーンが上ずる。  
「…脱がせても、いいかな…?」  
「ん…恥ずかしいわ…」  
僕の問いに、彼女は軽く抵抗する。確かに、ここは屋外だ。誰が見ているや知れない。  
が、彼女への愛情と、春の夜桜にあてられた僕は止まらない。  
 
「大丈夫さ、誰もこないよ…」  
言いながら彼女の上着をたくし上げる。一瞬、彼女が震えたが、僕の行為に素直に従い、両手を挙げる。  
上着を取り去り、そして背中に手を回して、ブラのホックを外し、脱がせた。  
…マラリヤの抜けるような白い肌が露わになる。普段から綺麗だと思ってはいるが、こうして夜の月光を照り返しているのを見ると、陳腐な誉め言葉しか見当たらない。  
そして均整の取れた形の良い乳房のたたずまい、その頂にある、桜色の乳首―  
「綺麗だよ、マラリヤ」  
僕は、何度目かのキスをして、今度は直接、彼女の乳房を揉みしだく。  
「あぁ…っ!」  
マラリヤの声が跳ね上がる。上半身が軽く反る。  
「…感じるんだね」  
僕は乳首に唇を寄せる。そこは、既に硬く尖りつつあった。強く吸い、舌で転がし、  
唇で甘噛みする。  
「あっ、あっ、…あんっ!」  
息を弾ませ、彼女が喘ぐ。僕の背に手をまわし、強く抱きしめる。快感が走るたびに、  
僕の背中に爪の感触が刻まれる。  
「はぁ…ん、セリオス…気持ち…んっ、いいわ…そろそろ…お願い…」  
マラリヤが瞳を潤ませ、陶然とした声でねだる。  
僕は彼女のスカートとショーツを脱がせ、自分もスラックスと下着を下ろす。  
普段の僕たちなら、そのまま体を重ねる―といっても、セックス自体まだ片手で足る回数しかしていないが―のだが、  
「…マラリヤ、お願いがあるんだ」  
僕は、ある事を思いついていた。少し前に、図書館の禁書でふと見つけた『愛の事典』に記された内容―  
 
「…何かしら?」  
僕を待つマラリヤから、一旦体を離して、僕はこう囁く。  
「花見だし…君のグラスで、シャンパンを飲みたいな」  
僕の発言の真意を掴みかねているのがありありと判る。  
僕は傍らのシャンパンを手元に寄せ、『愛の事典』に紐解かれた内容を伝える。  
「昔の日本に伝わるらしい、女性の…下半身に酒を張り、飲み干す、というのがあって、一度…」  
「…呆れた…恥ずかしいわ、汚らしいし…」  
さすがに彼女も呆れたようだ。  
「汚いなんて事、ないよ。僕はマラリヤを愛してる。だから、君には全てをさらけ出したい」  
「…」  
「もちろん、ヘンなお願いしてるのはわかってる。でも、これも僕なんだ」  
「…」  
「…でも、独り善がりだったね。ごめん…」  
言っているうちに、僕も冷静になってくる。  
彼女がくすり、と笑う。  
「…ふふ、こんなことにも勉強熱心なのね。…どうすればいいのかしら?」  
僕は嬉しかった。こんなわがままを受け入れてくれた彼女。ならば、僕のするべき事は…  
「マラリヤ…」  
幾度目かのディープ・キスをする。  
「まずは、2人で飲もうよ」  
傍に置いていたシャンパンを手にし、少しだけ口に含む。そして、口づける。  
深く口づけながら、口移しにシャンパンを流し込む。舌伝いに少しずつ、少しずつ…  
彼女も戸惑った動きながら、僕の舌を啜るようにシャンパンを受ける。  
「…美味しいかい?」  
「…ええ。とても甘くて…。私も、飲ませてあげるわ…」  
彼女もシャンパンを含み、今度は僕が唇を貪られる。  
彼女の吐息とともに甘い味の液体が流しこまれる。僕は陶然とした。  
「…すごく美味しいよ」  
そして、僕は彼女を横たえ、彼女の腿を閉じさせる。  
彼女の淡いデルタとクレバス地帯に、即席のグラスが形づくられる。  
「ちょっと冷たいかもしれないけど…」  
と僕はシャンパンをボトルからグラスに移し、ゆっくりと彼女へと注ぐ。  
「…んっ」  
冷たさと炭酸の刺激に、彼女は少し身震いする。  
「足、強く閉じててね」  
僕は注ぎながら肌を撫でる。  
…想像した程の量は注ぎ込めなかったが、即席のグラスの中で、淡いヘアが軽く揺らめく。  
「できた。じゃ、飲むね」  
彼女が頷くのを確認してから、僕は彼女の体の横から顔を寄せ、即席グラスからシャンパンを飲みだす。  
最初は表面から啜るように、そして思い切って深く顔をうずめ、地肌ごと舐め取るように口を動かす。僕の舌先に、ヘアが絡むが構わない。シャンパンの甘さと、それとは別の甘さが僕の口を支配する。  
「…あぁ、セリオスぅ…、なにか、変」  
頭上からも甘い声がする。  
 
全部飲み干し、一旦顔を上げる。  
そして、彼女の正面に向かい脚を押し開く。彼女は素直に従っている。  
…この暗がりにも、彼女のラビアが軽く充血し、鮮やかに色づいているのが判る。  
そして、シャンパンよりも遥かに甘く粘る液体で濡れているのも…  
「こっちも、飲み干すね」  
言って、顔を寄せ、薄く開いたラビアに口づける。  
「ひぃゃあっ…!」  
マラリヤが高い声を出す。僕は丁寧に舐め続ける。彼女のヴァギナからはとめどなく蜜が溢れだし、僕の口を満たす。  
僕は貪欲に、蜜を啜り、より深く求めてクレバスの奥に舌を挿し込む。  
「あん、あん、…あぁんっ!セリオス、だ、だめぇ…」  
マラリヤの声が高く切なく快感を訴える。  
僕の舌と唇は、ラビアを食み、ヴァギナの奥で踊る。その度に、彼女の奥からとめどなく蜜が溢れ出す。  
「…あっ、セリオス…気持ちいい…よぉっ!」  
彼女が喘ぎながら、僕の頭に両手を強く添える。  
僕は一旦舌を抜き、美しく尖りほころぶクリトリスを転がす。  
「……!」  
その瞬間、声にならない喘ぎとともに、彼女の手がさらに強く僕の頭を押さえ込む。  
僕は、唇でクリトリスを強く噛んだ。  
「…い、いやっ、あああぁっ…!」  
悲鳴のような高い声を発して、彼女は体を激しく反らせて、達した。  
 
「…もう…」  
マラリヤが、うっとりしたような、それでいて拗ねたような視線で僕を見つめる。エクスタシーの余韻で、まだ息が荒い。  
「一方的だったかな、ごめんね。…でも、かわいかったから…」  
僕は、彼女の頬に軽くキスをしながら言う。  
「…じゃあ、次は2人で…」  
「ええ…」  
僕は、マラリヤを起こす。そして、僕は桜に凭れかかる形で腰を下ろす。  
「…いいかな?」  
僕の問いに、彼女は黙って微笑み、僕と向かい合わせになり、腰を沈める。  
先ほどから、限界まで滾っていた僕のペニスが、ゆっくりと湿った水音をたてて飲み込まれる。  
彼女の潤った襞が僕のペニスに柔らかく絡みつく。  
「くっ…、あ、熱い…!」  
僕は堪らず声を発する。  
「あん、セ、セリオスのも、熱くて…大きい…」  
僕のペニスを奥まで迎え入れたマラリヤも、声をあげ、体を震わせる。  
座って向かい合ったまま、僕は体を動かす。彼女も僕の上で踊るように体を揺する。  
その度に彼女の美しい乳房が揺れ、ヴァギナは変幻自在に僕のペニスを甘く責め立てる。  
桜の幹に背中が擦れるが、そんな事に構わず僕は体を揺すり、彼女の胸を揉みしだく。  
「うっ…気持ちいいよ……く、マラリヤっ…」  
「わ、私も…ああんっ、き、気持ちい…いいっ…!」  
2人とも大きな快感にうち震えながら、互いの体を貪るように求める。聞こえるのは互いの喘ぎ声と、湿った水音だけ。  
2人の震動と鼓動が伝わったかのように、桜の幹と枝が細かく揺れ、ひとひら、ふたひらと花びらが散る。  
「はぁ、はぁ…愛してる、愛してるよ…マラリヤっ…!」  
「ああっ、セリオス…っ!」  
あまりの強い快感に、僕は限界を迎えようとしている。彼女も同じようだ。ヴァギナが収縮し、さらに奥に僕を誘う。  
「あん、あん、ああっ!セリオス、もう…来てっ!」  
「うっ、…い、いいっ…いくよっ!」  
僕のペニスが一際奥まで飲み込まれた瞬間、強烈な快感が僕の脳髄を貫く。彼女のヴァギナも激しく収縮と弛緩を繰り返し、最後の快感を受け止める。  
「ああああああっ…!」  
「うっ、マラリヤっ…!」  
僕のペニスが弾け、激しく彼女の奥底を打ちつける。互いに強く抱き合い、2人は同時に深い快楽の海へとダイブした。  
荒い呼吸を繰り返す僕たちに、幾片かの桜の花びらが舞い降りてきた。  
 
「…ちょっと違うお花見になっちゃったね、ごめん」  
僕が言うと、マラリヤは僕にキスをして、僕の胸に頭を置く。  
「いいえ、良かったわ…」  
「…ありがとう」  
そして体を離して、身づくろいを済ませる。  
「…戻りましょう」  
マラリヤが声を掛ける。  
「ちょっと待って」  
僕は訝る彼女を置いて、桜の幹にかがみこむ。そして、先ほど見つけた相合傘のあたりにこう刻み込んだ。  
『月下の桜の下、君への醒めない愛に酔う』  
「…何を書いたの?」  
マラリヤが覗き込む。…正直照れくさい。  
「…私にも、貸して」  
そして、僕の傍らにこう刻み込んだ。  
『貴方への尽きぬ愛、全て飲み干すわ』  
「…!」  
僕が初めて目にする、彼女の情熱的な言葉。そっと彼女を抱きしめる。  
「ありがとう、マラリヤ…」  
そして、熱くキスを交わし、2人寄り添って寮へ向かって歩き出す。  
…夜空の下、桜はいよいよ満開の刻を迎えようとしている。  
 
 

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