― アカデミー (カイルの部屋) ―  
 
 
「……と、いけないもうこんな時間か。マラリヤさんのペットにご飯をあげないと……  
蝙蝠くーん、ご飯ですよー、どこですかー! ……いないな、知らない人の部屋に預けられて  
緊張をしているのかなあ……」  
 
バタバタ! バタバタ!  
 
「ってうわあっ!? ドアに挟まれて……今助けます!   
よいしょ……ああ、よかった、ケガはないな……でもどうしたんですか?   
外に出たかったのなら窓から……え? ご主人さまがピンチ?大丈夫ですよ、だってマラリヤさんには  
サンダース君がついていますし……そうじゃない? サンダース君が危険? だからご主人さまがピンチ?  
……すみません、窮地に立っているのはどっちですか……?」  
 
 
 
 
 
白い肌を無骨な男の指が滑る。  
 
「……っ……は…ぁ…んぅ…ふぁぁっ…!」  
 
あぐらをかいたサンダースの膝の上で、後ろから抱きすくめられるような形で愛撫が行われている。  
マラリヤの白い肌に纏っているものはブラジャーとショーツの下着のみ。  
どちらも彼女の特徴を表す黒い色だ。  
 
「…く……ふぅ……んぅ……」  
丸みを帯びた肩、胸の豊かなふくらみ、白い腹、すらりと伸びた足、  
そして背中……あちこちに手を這わせ、快感を煽る。  
ただ触れるだけ、ただなぞるだけの非常に程度の弱い行為だけが、ずっと続いていた。  
 
「……ぁ…ぁ……ひぅっ!?」  
耳の裏を舌でなぞる不意打ちに、マラリヤの体がびくりとはねる。  
軽く耳たぶを噛んだあと耳紋を通って孔に舌を捻りこませる。喉からしぼり出される短くも鋭い嬌声。  
顔をそらして逃げられないよう、頭を手でしっかりと固定してさらに嬲った。  
 
「…あ、あ、あ……はぁん!?」  
「撫でるだけでもうこの反応か……なるほど、よく効く薬だ」  
「んっ……今日はずいぶん……繊細に動くじゃない……」  
マラリヤにとっては、理不尽ともいえる理由で犯される行為に憤りを感じていたのか、  
舌ったらずな口調で皮肉をぶつける。  
だがサンダースがその毒に気づくことはなく、ただの問いかけと実にのんきな解釈をし、  
崩れぬ態度で律儀に答えを返した。  
 
「聞くところによると、相手からのおねだりが欲しいのなら、できる限りじらすのがもっとも効果的らしい。  
しばらく前からある人物に、その手ほどきを受けた」  
「……誰よ……そんなろくでもない事を教えた人は……」  
「それは言えん。名前は伏せるが、その人物によると最初は局部を避け、じらすだけじらした後、  
集中的に責めるのがいいらしい、『思っているより時間をかけるのがコツやで』とも言っていたな……」  
「……伏せた意味ないじゃない……」  
 
最後の一言で、いともあっさりわれる正体。  
少なくともサンダースよりかはその手の経験が豊富であろう、独特の方言を使うあの男を思い出して、  
ただでさえ治まらない怒りがますます増幅される。  
 
(こんな状況でなければ……呪ってやるとこよ……)  
あるいは、もう少し怒っていたのなら、この状況でも始めていたかもしれない。  
取りあえず、呪われるはずだった男の運命はぎりぎりで回避されて……  
 
「ああ、ちなみに……」  
「…何……?」  
「イメクラなどの知識及び、DVDを含むその他の資料を提供したのも奴だ」  
 
 
 
 
― アカデミー (カイルの部屋) ―  
 
 
「良かった……取りあえず蝙蝠くんは落ち着いたようですね……」  
 
ドンドン  
 
「ノック……? 誰だろうこんな時間に? よいしょ……ああ、タイガ君」  
「カイル〜辞書かしてぇな。ジュースこぼして使い物にならんねん」  
「しょうがないですね、ちょっと待ってて下さい……あったあった、さあどうぞ」  
 
バタッ!  
 
「んなぁぁっっ!!? タイガ君!!?」  
「……か、体……動かな……」  
「ちょ、ちょっとタイガ君!? しっかりして下さい! しっか……うおわっっ!!?  
額になんかダビデの星みたいなのがうかんでるーーっっ!!? い、医者を……医者でいいのかな…?」  
「……かゆ……うま……」  
「感染してるーーーっっ!!? と、とにかく誰かぁーーーっっ!!?」  
 
 
「あ……くっ……!?」  
漏れ出す嬌声の数が多くなる。  
あれからどれくらいの時間が経ったのだろう。行為が始まった頃よりも、時計の長短の針の角度は  
大きく開いているのに、まだ下着は脱がされてはいない。  
薬と一つ隔てた中途半端な愛撫のせいで、いつもの時とは比べものにならないほど体が熱くなっている。  
 
「……あっ……!」  
「大分、進んでいるな……」  
ショーツ越しに女性の部分をなぞられて、一瞬、びりっとしたものが背筋に走る。  
股に挟まれた布はすでに充分に湿っており、軽く指で押すと微かに粘液が音をたてた。  
 
「そろそろか……」  
「……!」  
サンダースの呟きに、何かしらの合図を感じたマラリヤが、ビクリと体を強張らせる。  
……まずい。  
『さんざんじらした後、局部を集中的に』  
先ほどの説明通りにいくのなら、恐らく次は体の直接的な部分に、直接的な行動をするのだろう。  
今でさえ体が翻弄されないよう必死で耐えているのに、そんな行動に移されたらどうなるかは  
目に見えている。このままでは、サンダースの言った通りだ。  
何か方法を見つけなければ……何か……何か……  
 
「……あ、あ、あ……もうだめぇっ……!」  
 
突然、マラリヤの口から一際高い声があがり、驚いたサンダースの手が一瞬止まる。  
いきなりの変化にさすがのサンダースも戸惑いが生じたようだ。  
 
「……マラリヤ?」  
「……ねえ……お願い、意地悪しないでぇ……」  
艶のある声とその表情に、彼女を犯す男の心臓がはねる。  
そんな男の心情を知っているのかいないのか、腰をくねらせながら首を斜め上に伸ばすように  
後ろに振り向くと、瞳を潤ませた上目づかいで視線を注いだ。  
 
「……胸も……あの部分も……直接さわって……」  
普段の彼女からは想像もつかないような、艶かしい姿に思わず生唾を飲み込むサンダース。  
誘われるままにブラジャーの肩紐に手をかけ、隠されている部分をさらけ出そうとする。  
だが、その前に白い手が男の固く乾いた手に重ねられ、行為を止められた。  
 
「待って……」  
「どうした?」  
「ここじゃなくて、床の間でして……」  
マラリヤの要望にサンダースが、ああ、と何かを納得したように頷く。  
彼自身は別に茶の間でも良かったのだが、彼女の言う床の間なら、より深く楽しめるだろう。  
それに今はまだともかく、体を横に倒したときに彼女の背中を畳みで傷つける心配もある。  
太腿の下に腕をくぐらせて軽々と抱き上げると、すでに布団が敷かれてある部屋へと向かった。  
 
「……意外と早かったな」  
マラリヤを布団の上に寝かせながら、サンダースが呟く。  
もう少し時間がかかると考えていたからだろう、わりにあっさりと陥落をしたマラリヤに  
若干戸惑いが消えない。  
それでも、彼女の淫らな変貌に、内の興奮ははちきれんばかりに膨れあがり、  
それは下半身にも顕著になって表れる。目的を遂げようと、待ち焦がれている肢体に手をのばす。  
だが、またしても制止。  
 
「……その前に……あなたも脱いで……私だけじゃ犯されているみたいで嫌なの……」  
 
今までの中で一番甘い台詞と、とろけた顔。ドクンと血流が逆流したような錯覚に陥る。  
その声が、表情が昂ぶりを最大限まで押し上げた。  
追い詰めているのは自分のはずなのに、逆に理性をかき回される。  
早く事におよぼうと、己の衣類をとめている腰紐に手をかけ……  
 
と、マラリヤから大きく体を離した時だった。  
 
「!?」  
 
すぐそばの大気が大きく変化する。  
目に痛いくらいの眩しい光とつんざくような空気の弾ける音、そして衝撃、思わずサンダースが  
体を後ろに反らすと、再び激しい光が現れ体にぶつかる。  
今度は痛覚で光の存在を感じ取るはめになった。  
 
「……っ!?」  
なにが起こったのかもわからまま、背中から倒れるサンダース。自由になったこのチャンスを、  
マラリヤはもちろん見逃さない。無理やり、足に力を入れて立ち上がる。  
 
(……もう力が……早くここを……)  
なけなしの気力を集めて魔法を使ったために、もう単純な行動しかできない。  
横抱きで運ばれている間、ひそかに呪文を詠唱してできた雷光は、思っていたよりもずっと弱いものだった。  
恐らく、狙っていた気絶≠ワではできていないだろう。  
ならば彼のショックがとけないうちに、この場去る以外にもう道はない。  
 
よろけながら出口に向かって足を動かす、もう少しと微かな希望を胸にいだく。  
だが希望は、その小さなパーセンテージ分の効果以上の願いを叶えることはできなかった。  
 
「――あっ!?」  
背後から大きな気配を感じた時にはもう遅かった。  
後ろからのびた逞しい二本の腕に捕らえられ、再び体を束縛される。  
 
「……君が演技が達者であることを忘れていたようだ」  
低い声にこめられた、どこか脅迫めいたその鋭さに、思わずマラリヤがすくみあがる。  
体に巻きつく腕も、さっきまでのような拘束さだけの意味にとどまらず、  
今ある立場をわからせるための、彼の無言の主張のようなものになっていた。  
 
「――――んぅぅっっ!!?」  
マラリヤの顎をとらえ向きを変えると、そのまま薄い唇を唇でふさぐ。  
そして強引に舌を捻じ込むと、口内を思う存分に暴れまわった。  
 
舌で舌に絡み、上あごをなぞり、喉まで深く差し入れ、そしてまた絡ませあう。  
息ができない、苦しさにマラリヤの肺が悲鳴をあげる。  
だがサンダースは、必要量の酸素を求めて暴れる彼女を、気遣うつもりはまったくないらしく、  
逆に、彼女の後頭部に手を添え、めいいっぱい手前に引き寄せた。  
男のぶ厚い舌が小さな喉をふさぐ。  
 
「んぅっ! んーぅぅ――――っっっ!!!?」  
喉に舌で栓をされてからたっぷり数十秒、ようやく唇が離れた。  
気力を一気に奪われて、マラリヤの体がぐらりと傾く。  
しかし、そのまま倒れることはなく、今自分を閉じ込めている太い腕が、力を失くした足を  
無理に立たせていた。  
 
「悪いが、もう手加減はせん」  
「は、放して……!」  
一度は逃げ出した寝床に、再び引きずられる。彼女にできる抵抗は、もう何もなかった。  
サンダースがほとんど落とすようにして、細い体を仰向けに押し倒す。  
そして胸を覆っていたブラジャーをむしりとると、すでに固く尖っていた赤い頂点にむしゃぶりついた。  
 
「ああああぁぁっっ!!?」  
鋭い快感が頭から足先までを、一直線に駆け抜ける。  
しこった乳首をきつく吸い上げ、舌先、舌の根、舌の裏を使って表面を舐り、歯でその側面を擦る、  
胸の刺激がそのまま膣へと直接響く。  
たまらず声を張り上げ、身をよじって逃れようとするが、もちろん男はそんなことはさせない。  
体で体を押さえつけながら、より深く嬲り、反対側も同じように責める。  
 
「はぁんっ!! ああっあっ、イヤっ、イヤぁぁっっ!!!!」  
指で唾液にまみれた乳頭を両方同時に捏ねると、さらに高い悲鳴が部屋に反響した。  
突起をつまんでクリクリと左右に捻り、人差し指で上下に弾き、豊満な乳房を手のひら全部を使って  
丹念に揉みしだく、そしてまた先端を口に含む。  
 
抵抗も思考もこの快感に邪魔をされ、耐えることすら苦しい。  
その苦しさからあがる悲鳴はますます高くなり、よじる体の動きも大きくなる。  
そんな行動は、今自分を犯している男を余計に煽らせる結果に繋がることなどわかっていたが、  
力のないこの身でできることは何もない。されるがままに受け入れるしかなかった。  
 
「ひっ…!? あ、あぁ……!?」  
胸への意識に集中しすぎたせいか、いきなりショーツの中へと入ってきた手に不意をつかれる。  
茂みをわけいって手を深く差し入れ、ぐっしょりと濡れている割れ目から赤い芽を探り当てる。  
親指と人差し指でつまんで、無遠慮に芽をつぶした。  
 
「あぅっ! はああん!! 駄目……駄目ぇぇっ!!! イヤぁーーーっっ!!!!」  
片方の乳首を口でしゃぶられ、もう片方の乳首を捏ねられ、クリトリスを指の腹で擦られる。  
薬で弱らせた体に、鋭敏な部分だけを責めるこの三点責めは拷問に等しい。  
嬌声はもはや絶叫にちかいものへと変化していた。  
 
「―――あああぁぁっっ!!!!?」  
 
ぶるりと大きく震わせて、体が達する。  
大量の液が膣から吐き出され、下着を完全に使い物にならなくさせるほど汚す。  
しかし、愛撫の手は止まない。  
 
「え…!? 嘘……待って……!!」  
休ませてもらえるだろうと考えていたから、この仕打ちは全くの予想外だった。  
制止を呼びかけるも、サンダースからの返答はない。  
かわりに赤い芽をつぶしていた手が下へ移動し、イったばかりの秘唇の中へ指を入れられる。  
突然の異物の侵入に、膣口がぎゅっと縮んでそれを拒んだが、指はそんな抵抗などものともせず、  
根元まで深く差し込んだ。  
 
「ああっ!! 止めてっ……! …もう……止めてぇ……!!」  
「直接さわれといったのは誰だ?」  
珍しくサンダースが皮肉りながら、ぐちゃぐちゃになった彼女の内を指でかき回す。  
その顔はいつもと同じ憮然としたものだったが、眼の奥にははっきりとゆらめく欲の炎。  
視覚が淫らに暴れる彼女を捕らえるたび、聴覚が嬌声を聴き取るたびに、  
炎がその激しさを増していくのがわかる。  
 
(……もう……駄目……!)  
二度目の絶頂の到来を感じ取り、マラリヤがきつく目蓋を閉じる。  
敏感な部分ばかりを執拗に責められ続けたせいで、もう体が熱くて仕方がない。  
早く楽にしてほしい、祈りにも似た気持ちで解放されるその瞬間を待ち……  
 
「――――!?」  
その時、愛撫が止んだ。  
あまりにも突然に、あっけなく中断されたものだから、一瞬、時が止まったような錯覚を覚える。  
 
「…え……?」  
「――話によると、相手からのねだりが欲しいのなら、できる限り焦らしたあと、  
集中的に局部を責め、そして……」  
 
 
「達する寸前で行動を取り止め、陥落を促すのだそうだ」  
 
 
残酷な言葉が、えぐるように耳に届いた。  
 
「残念だが、今回は考えを曲げるつもりはない。君からのねだりを所望する」  
「…嫌……」  
「拒むというのか? ならばただちに行為を中止するがそれでもいいか?」  
「…嫌……」  
「どうして欲しいのか言ってみろ、要求がないのなら、これ以上の行動はない」  
「……嫌……嫌………――――嫌ああぁぁぁっっ!!!!!!」  
抑えていた気持ちが爆発する。  
こもった熱を逃がしたい、頭が真っ白になるあの瞬間が欲しい、苦痛をを感じるほど犯されるのは  
嫌だが何もしてくれないのはもっと嫌だ、もっともっとこの身に激しく……  
 
「…………て……」  
「うん……?」  
「……イかせて……お願い……」  
「達するだけでいいのか?」  
「……その先もして……」  
「その先? どこになにをして欲しいのかまではっきり言え」  
昨日といい今日といい、本当にろくでもない事ばかり覚えてくる。  
悔しい悔しい憎たらしい、いつだってリードをしてきたのは自分の方だし、精神的優位にたっていたのも  
自分だ。それなのに今は彼の言葉ひとつに怯え、表情ひとつで期待をし……悔しい悔しい、弄ばれて腹が立つ。  
 
だけど  
 
「……あなたのペニスで……私の膣を……かき回して……」  
弄ばされて気持ちがいい=Aそう思ってしまった気持ちを完全に否定などできなかった。  
恥ずかしくて泣きそうになりながら、それでも具体的な卑猥の言葉を口に出す。  
 
今夜の己の運命は、彼の思考で左右されるのだろう。  
恐らく、つき合ってから初めてであろう彼のリードが今まさに……  
 
「……本当に言うとは思わなかった……」  
「言えって言ったのは誰よ……!」  
 
……行われなかった。  
 
「いや……まあ、そうなんだが……でもまさか君が……」  
「戸惑っているんじゃないわよ……! 鬼畜になるのなら最後まで徹しなさい……!」  
望みどおり言葉を言わせたというのに、喜ぶどころか逆に狼狽するサンダース。  
恥ずかしさも相成って、マラリヤが少し声を荒げると、目の前の大男はさも申し訳なさそうに謝った。  
 
「すまん。よく考えてみたら、命令されるのには慣れているが、するほうはそれほど経験がない  
ことに気がついた」  
「……よりによって、なぜ今……」  
「本当にすまん、精進する」  
「……いいから、するならするで早くしてちょうだい……」  
あっさりと立場が逆転する。  
サンダースにとってはまだ手に負えない未知の境地だったのか、ろくに扱えないまま主導権が  
マラリヤへと移る。もちろん、嬉しくはない。  
 
「しかし、考えを曲げないと言っておきながら、このていたらくでは男が廃る上に君にも申し訳ない……  
うむ、ならば予定を変えて今から行為をイメクラへと変更するのはどうだろう? 町娘と悪代官で」  
「……お願いだから普通にして……」  
 
……さっきとはまったく別の意味で泣きたい。  
 
「普通か……少々物足りないような気もするが、君が望むのならその通りにしよう」  
「ま、待ちなさい! 何も今すぐ……!?」  
いきなりショーツを抜き取ろうとするサンダースを慌てて制する。  
だが一歩違いでショーツは脱がされ、さらに両足を左右に大きく開かされた。  
 
――ぐちゅりと入り口に昂ぶりが押し当てられる。  
 
「――――っ!? あぅっ……!?」  
不意打ちの刺激に、ゾクリとした悪寒が背筋を一直線に駆け抜けた。  
そのまま奥へと侵入するのかと思いきや、その剛直したものはただ当てていただけで、それ以上  
先へは進んでこない。  
もどかしさに、マラリヤが腰をくねらすと、昂ぶりはその淫らに赤く濡れた割れ目を、擦り付ける  
ようにして上下に動き始めた。  
 
「はぁんっ! あ、ああ……んぅ……いや……!」  
一度は治まりかけていた火が、再び燃え出す。  
わざと音をたてながら表面を強く撫でたあと、先のほうだけを中へと挿れ、膣に満たされた愛液を  
かきだすように浅い出し入れを繰り返す。それに合わせて、小さな口からこぼれでる嬌声の音量が、  
徐々に高くなっていった。  
 
「あああっ!? あっ! ……もう、これ以上焦らさないで……!」  
「『かき回して欲しい』という要望に応えたつもりなのだが……」  
どうやらサンダースのこの行動は、若干すれ違った意思の疎通ゆえの結果らしい。  
満足させているつもりが、逆に物足りそうに文句を言われ、再びサンダースが戸惑う。  
そんな彼の態度が余計に焦れるのか、五感の全てで苦しみを感じ取りながら、マラリヤの顔が  
苛立たしさと懇願で複雑に歪む。  
 
 
そしてついに彼女は体の本音を認めた。『もう我慢できない』と。  
 
「……を……!」  
「――?」  
「……奥を……もっと奥を突いて!! 早くめちゃめちゃにしてぇっっ!!!!  
お願いぃっっ!!!! 奥がいいのぉっっ!!!!」  
 
出せるだけ声をだす、言いたいことを恥じることなく口にする、言葉が部屋で反響する。  
その豹変ぶりに、さしものサンダースもある種の戦慄を覚えるが、気がつけば彼女の最奥まで  
自身を挿入し、激しく揺さぶっていた。  
 
「あああああっ! いいっ! お願いもっと……もっと激しく……ふあああああっっ!!!!」  
恍惚に目を輝かせ、涎を流すほどだらしなく口を開けながら、夢中で精を貪るマラリヤ。  
いつものあのクールで気丈な姿はどこにもない。  
ただ膣に与えられる衝撃だけを求めて、本能だけを解放する。  
 
「んんんんっっ!!! 深ぁ……深いぃぃぃっっっ!!!!」  
唐突にサンダースは開かせていたマラリヤの足をつかむと、己の肩へと乗せ、上から突き刺すように  
激しく埋め込んだ。若干苦しい姿勢だったが、それでも感じるのか、最奥をグリグリと擦られて  
歓喜のような悲鳴があがる。そして二度目の絶頂。  
 
「はあああんっっ!!! 苦しい!! でもいい!! 気持ちいいの!!!  
もっと!! もっともっと激しくぅ……!!!!」  
びゅるりと膣から透明な液が噴き出す、だが律動は止まない。  
むしろその液すらも利用し、滑りのよくなった内部をより深く、より強く責めたてる。  
ビクビクとはちきれんばかりに脈打つ剛直が、収縮する膣を押し広げ、膣もまた広がる壁を  
元に戻そうと昂ぶりごと縮める、そのくり返しが何度も続いた。  
 
やがてサンダース自身も絶頂を感じ、何度か往復したあと、一際強い衝撃を一番深いところに  
届かせるように腰を打ち付ける。最奥に熱が弾ける。  
 
「ああああ……ん……!! 気持ちいい……! 精子……熱くて……気持ちいい……!!」  
 
ほとばしる精を内部で貪りながら、どこかうっとりした表情で、全てを受け入れるマラリヤは  
この上なく淫らな雌だった。  
 
 
 
翌朝。  
 
 
「…………」  
「…………」  
互いに正面を向き合いながら、正座をする二人。  
よく見るとサンダースのほうは両手を畳みにつけている。  
 
「……いや…その、何というか……すまん」  
「……よくも散々な目に遭わせてくれたわね……」  
 
反省会だった。  
 
「……別に強引なことをするなとは言わないけど……それでも薬まではやりすぎね……」  
「……本当にすまん……まさかあそこまで変わるとは思わなかった……」  
「……まあ、いいわ。それより……」  
やれやれとお決まりのため息をつき、一泊おいてから改めて話題を変える。  
まだサンダースの頭は下がったままだ。  
 
「その手の趣味に目覚めたってわけではないのね?」  
「ち、違う! 断じてそんなことはない!!」  
不名誉な疑いをかけられて、さすがのサンダースも声を上げて抗議をする。  
いつもは表情に乏しい彼も、今は小さな子どものように、眉と口を大きく動かして自分の  
自尊心を庇っていた。幸い、それ以上の追求はなかった。  
 
「そう……ならいいわ……」  
ただ一言、肯定をした後は、特に何を言うわけでもなく黙り込む。  
つられてサンダースも黙るが、意図的に作られた沈黙は無言の文句を浴びているようで  
実に居心地が悪い。  
 
「……まだ、怒っているか?」  
「……許してはいないわね」  
恐る恐る尋ねると、余計恐くなるような答えが返ってきた。  
その憤りが表情に出ていないのがまた辛い。再び沈黙。  
 
「…………」  
「…………」  
空気の圧力はより濃くなっていた。  
なにも言葉を交わさないことが、どんな非難の言葉よりも胸にこたえる。  
それでも、ある一定以上の時間が経つと、もう一度サンダースは話を切り出した。  
 
「言い訳に聞こえるかもしれないが、それでも聞いてくれ……」  
真剣さがこめられているせいか、声質がいつもより若干硬い。  
マラリヤからは特に何の返答もなかったが、サンダースは構わず先を続けた。  
 
「私は常に、何をするにも最悪の事態を想定してから行動に移すようにしている。  
一定の安全とそして危険の回避ができない場合には、行動を止めることもしばしばだ」  
「…………」  
「私は特にそれをおかしいと感じることもなく、ずっとそのままの姿勢で貫いていた。  
だが、そんな私に変化が表れた……君とつき合い始めてからだ」  
「…………」  
「ことごとく調子が狂うのが自分でもわかった、安全も危険もその先に君に関する利があるのなら、  
なんの事はないように思えた。今まで私が起こした問題も、全てその狂いのせいだ。だが私はその狂いに  
対して不快な感情などまったく生じない、むしろここまで君に夢中なれることがひどく嬉しい……」  
「――!」  
「はっきり言おう、どんな問題も君という理由があれば私は喜んで取り組むだろう、  
それがどんなに、危険で安全に欠けるものであってもだ」  
「サンダース……」  
 
始めは全くの無表情だったマラリヤの顔が、呆気にとられたように緩んだ。  
サンダースの言葉によって胸に湧いた暖かいものが、朱へと姿を変えて頬に浮かぶ。  
 
「……どこで覚えたのよ……そんな映画だかドラマだかに出てくるような台詞……」  
「私だって言うときは言う。いつまでも口下手なままでは精進したことにはならん」  
照れ隠しにわざと素っ気なく接するマラリヤ、ふいと顔を横にそむけたが、赤い顔までは隠せない。  
まだサンダースは真剣な目つきでマラリヤを見ていた。  
 
「……まったく……一昨日から、ろくでもないことしか言わないんだから……」  
もう怒りなど、どこかに吹き飛んでいた。張り詰めていた、気持ちに余裕が生まれ始める。  
許してやろうか、だけど今は胸にあふれる愛しさのままの行動を起こしたい。  
抱きしめてもらおうと、彼のそばへと体を……  
 
バサッ! バサバサッ!!  
 
「――!?」  
「え……!?」  
秘めやかな甘い空気に、突然、乾いた雑音が邪魔をした。  
特に何かに触れたというわけでもないのに発生した物音に、二人は目を見合わせ共に訝しがる。  
ほぼ同時に音源らしき場所に目をやると、そこには一冊の本が落ちていた、どうもこれが正体らしい。  
本のすぐそばにはサンダースの旅行鞄があり、細々したものを入れるポケット口のチャックが開ききっている、  
恐らくここから落ちたのだろう。  
 
ちなみに本の題名は……  
 
 
『今日から使えるよりぬき名台詞・恋愛版 (映画・ドラマ編)』  
 
 
「……………………」  
「……………………」  
「……昨日、君が見た女性は実は私の妹で……」  
「……その言い訳は、浮気がばれたときに使うのよ」  
 
 
「失礼します。昨晩はよくお休みなられたでしょうか? ただ今、朝食のご用意を……」  
 
 
その朝、ある部屋を訪ねた仲居が見たものは、きゃしゃな乙女が屈強な男を  
右ストレートで吹っ飛ばす姿だったという……  
 
 
― アカデミー (食堂) ―  
 
 
「あなたとわたーしがゆっめの国〜〜♪ もーりのちいさな教会でぇ……あ、マラリヤ!」  
「ユリ……もう少し小さな声で歌ってちょうだい……」  
「帰ってたんだ! ねえねえ温泉どうだった?」  
「……精神を鍛えられたわ……」  
「……遊んでたんじゃないの? あ、それ昼食? おにぎりと紅茶って変な組み合わせ」  
「……パンと緑茶は当分口にしたくないの……」  
「ふ〜ん……それよりさ、サンダースとなんか進展した? ほら意外な一面みたとか……」  
「……そうね、取りあえず天然≠ヘ最強の鬼畜だってことを思い知らされたわ……」  
「……なんじゃそりゃ?」  
 
 
― アカデミー (図書館) ―  
 
 
「ふう……タイガ君の意識まだ戻らないな、心配だなぁ……と、サンダース君?  
もう帰ってきていたんですね」  
「昨日、行楽地から戻った」  
「そうでしたか、ところで帰った早々もうテスト勉強ですか? 熱心ですね……」  
「いや……これはマラリヤから……」  
「マラリヤさん?」  
「……マラリヤから、私のペットが魚か花のうちは、絶対に会わないと言われて……」  
「……喧嘩でもしたんですか?」  
「似たようなものだ」  
「た、大変ですね……でもマジックペットを変えるだけだったら、サンダース君の  
得意教科である、学問のほうがいいんじゃないんですか?」  
「学問には文学作品及びその他もろもろの芸術も入っている……  
……場合によっては反感を買うやもしれん……」  
「……あの、何があったんですか……? その顔の傷と何か関係が……?」  
 
 
その後、サンダースは必死の思いでペットの姿を変え、一週間かけてマラリヤからの許しを得た。  
なお、彼女の逆鱗に触れた男の呪いが完全に解けたのは、それから三日後のことである。  
 
 

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