『Spring comes around』  
 
新学期。 といっても、ここマジック・アカデミーでは、階級ごとのクラス分けがされていて、季節単元で必ず昇級するわけじゃないけれど。  
「…はぁ」  
私はすっかり春模様の窓を眺めながら、それに不似合いな溜息をつく。  
「…アさん、ルキアさん!」  
呼びかけられて、私は声の方を振り返る。  
声の主は、緑の髪と尖った耳が特徴的な、優美なエルフの女性。 アカデミーでの教師で、雑学を担当しているリディア先生だ。  
「問題、もう一回言いましょうか?」  
しまった。 今は授業中だった。 私は慌てて、  
「ご、ごめんなさい、先生…」  
と謝る。  
リディア先生は困ったような笑みを浮かべて、噛んで含めるように私に質問を投げる。  
「タイ料理に欠かせない、このハーブは、何かしら?」  
私は固まる。 た、確かあれは…えーっと…香菜(シャンツァイ)…いやこれは中国での呼び名だっけ…予習していたのに、出てこないよ。  
「…ごめんなさい、忘れました」  
「…あらあら、残念ね…痛いの行くわよ!」  
正答できなかった私に魔力が集中する。 次の瞬間、雷撃が私の体を貫いた。  
「いったーい!」  
賢者を目指すこの学校の授業はキツい。 もちろん生半可な知識だけで賢者になれるはずもないけど、現在の階級に見合わない成績になったり、誤答する生徒には容赦なく雷撃(といっても本物の雷ではなくエネルギー波)による『スパルタ指導』が待っている。  
普段はとても優しいリディア先生でも、教師である以上はこのように手加減抜きで『指導』する。  
「…正解は『パクチー』ね。 ここのあたりは、次の大会での出題範囲だから、きっちり復習しておくようにね。 ルキアさん、座っていいわよ」  
「はぁい…」  
涙目で私は着席する。  
授業は続く。 しかし、私の耳には全く入らない。 視線は隣の空席をさまよう。  
…今は主のいない席。  
「…レオン…」  
思わず、その名が口をつく。  
 
レオンが恋人になったのは4ヶ月前。  
世間がクリスマスで騒がしい時期に告白された。  
『ルキア…今さらこんなのって照れくさいけど…お前の事が好きなんだ。 俺と付き合ってくれないか…?』  
飾り気も何もない告白。  
唐突に切り出されて、理解するのに数秒かかった。 レオンの告白が私に染み込み…私は耳まで赤くなっているのを実感しながら、  
『私なんかで…いいの? …でも嬉しいよ、レオン、私も…好きっ!』  
活発な彼には出会ったときから何故かずっと魅かれていたから。  
2人して人目はばからず抱き合って素直に気持ちをぶつけ合った。  
…そしてレオンが休学したのも4ヶ月前。  
行方不明となっている父親の足取りが、故郷付近で確認されたという連絡が入って、彼は即座に休学届を担当教師のガルーダ先生に提出し、即受理された。  
私がそれを知ったのはクリスマスイブの前夜。  
当然、私は涙を流して激しく抵抗した。 好きな人がいきなり長い間いなくなるのだから。  
『すまねぇ、ルキア…親父の事だけは…放っとけないんだ。 長いこと、家空けやがって…わがまま言うけど…』  
彼が高名な賢者である父親を尊敬しつつも、複雑な心情を抱えているのはクラスの中でも周知の話だった。  
なおも駄々をこねる私に、  
『3ヶ月だ…必ず戻るから…心にケリつけて、ルキアの所に戻るから…』  
苦しそうな表情で諭され、私は泣きながら抱きつき…結局承諾した。  
そして、約束の3ヶ月は空しく過ぎた…  
 
「ルキアさん、どうしたの? 先程から…」  
シャロンの声で我に返る。  
とっくに授業は終了し、クラスメートであるシャロンたちとカフェテリアに来ていたんだけど、それすらも忘れるくらいぼーっとしていたみたい。  
「あ、ごめんごめん! …で、何だっけ?」  
ボケ倒した私の返事に、同席しているシャロン、クララ、マラリヤ、ユリが溜息をつく。  
「てか、ルキアさぁ。 そんなんで大会、大丈夫?」  
ユリが呆れる。  
アカデミーでは、定期的に日頃の鍛錬の成果を全校で競う『クイズ大会』がある。  
普段の対戦試験と異なり、特定のテーマを重点的に競う形式だ。  
先程の授業でリディア先生が言ってた通り、今度のテーマは『タイ王国』である。  
「そうですよ。 でも、最近のルキアさん見ていると…何か辛そうで…授業も試験も…」  
クララが継ぐ。  
「ケアレス・ミスが目立つわね。 集中できていないわ」  
シャロンも合わせて言う。  
確かにこの1週間、私の成績はかなりヒドい。 しかも、得意教科やわかっている問題での取りこぼしばかり。  
「そだね…で、でもあと1ヶ月あるし、なんとか頑張るよ」  
「…無理ね」  
元気を振り絞った声を、マラリヤに否定される。  
「今の貴方の原因…レオンでしょう? しかも、最初の3ヶ月はそれ程なんとも無かったのに、この1週間がひどい有様。 …我慢の限界でしょ?」  
ずばり指摘されちゃった。  
「彼から連絡はないのかしら?」  
「…うん、この1週間近く…」  
「ありえなーい」  
「そんな…」  
そう。 最初の3ヶ月は2日と空けず、手紙でレオンからの連絡はあった。  
しかし、ここ1週間、ぱたりと途絶えた。 しかも、休学期限は切れている。  
彼に何かあったのか? 不安ばかりが私の頭の中で冬の曇り空のようにのしかかる。   
そんな状態で集中できるわけない。  
「…レオン…」  
みんなの前なのはわかっていた…けど、彼を想い、私は泣いた。  
 
結局、皆に迷惑をかけたまま部屋に戻った。  
郵便受けを見る。 …やはり連絡はない。  
私服に着替えて、私は机に向かい、今日の授業の復習と大会に向けての予習に取り掛かる。  
…けど、ものの30分もしないうちに、手が止まる。  
どれだけ集中しようとしても、頭の中はレオンのことばかり。  
机の引出しを開け、彼からの手紙を出して、日付順に整理された手紙を最初から最後まで読む。  
今現在、彼の心情と状況を伝える唯一のもの。  
読み返し、また目が潤んでくる。  
この1週間、毎日こんな事の繰り返しだ。  
「レオン…逢いたいよ…」  
心が寒くて、机に突っ伏して私は再び泣いた。  
暫く泣いた後、ベッドに入る。 夕飯を食べていないけど、今日は食欲もない。  
手紙を枕元に、レオンへの想いを胸に、私は横になる。  
「はぁ…」  
もやもやとしたまま、眠りに落ちた。  
…私の部屋のドアがいきなり開く。  
『ただいま!』  
明るく、少し照れくさそうな、そして私が待ち焦がれた声。  
『レ…レオン!』  
私は跳ね起きて、彼に駆け寄り、一目散に抱きつく。  
『今までどうしてたのよ! 心配…心配してたんだからぁ!』  
『ごめん…ほんとごめん、ルキア』  
抱きつきながらボロボロと涙をこぼす私を抱き締め返し、レオンが謝る。  
そして、私にキスをする。  
久しぶりのキスに私は我を忘れそうになる。 私も彼の唇を貪る。  
ふと気がつけば、私はベッドに横たえられている。 いつのまにか、一糸まとわぬ姿になっている。  
『ルキア…愛してる』  
それだけ言うと、彼は私の体を愛撫し始める。  
『ま、待って…』  
私の言葉を無視して、彼は私の乳房を激しく揉みしだく。 荒々しい感触だが、頭がクラクラする。  
確実に私の理性を剥ぎ取る甘い刺激。  
悩ましい吐息をあげながら、私は彼の愛撫を受け入れる。  
レオンは言葉もなく、私の乳首に口を寄せ咥えこむ。 彼の口の中で私の乳首は硬く大きく育つ。  
鋭い悲鳴のような嬌声が私から漏れる。  
一心不乱に愛撫を続けるレオンは、次第に私の乳房から下半身に移る。  
『やだ、恥ずかしい…』  
私の力無い抗議は無視され、彼の力強い手が私の両腿を押し開く。  
未だ、誰にも許していない私の秘所が、彼の眼前に晒される。  
不安と期待が入り交じり、熱く火照っている。  
レオンは無言のまま、乱暴な手つきで私の奥を弄る。  
『い…いやっ…!』  
喘ぎではない。 思わず悲鳴をあげてしまう。  
しかし、彼は何も聞こえないかのように、そのまま、私に覆いかぶさる…  
 
「いやっ!」  
自分の悲鳴で、目が覚める。 時間は深夜2時を回っている。  
…夢。   
やっと気づく。 夢の中のできごとだったってことを。  
ひどく喉が渇いて、私はベッドを降り、冷蔵庫からミネラルウォーターを出し、一息に飲み干す。  
水の冷たさに頭に少し冴えが戻る。 体はまだ火照っているけど。  
こんな夢をみたのは、レオンの手紙を持って泣き伏したためだろうか。  
しかも、ここまで淫らな形で噴出したのは初めてだ。  
夢の内容を反芻する。 またしても、頭がクラクラする。  
レオンに逢いたい。 口づけたい。 そして…  
体の芯が熱くなる。  
ベッドに戻り、横になる。 彼の名を思い浮かべただけで、ますます体が熱く疼く。  
私は服を脱ぎ捨て、一糸まとわぬ姿になる。 先程の夢と同じように。  
我ながら無駄に発育の良い乳房を見やる。 夢の刺激に呼応して硬くしこり、重力に逆らうかのようにツンと上を向いている。  
夢に準えて、自分で強く揉みしだく。  
「はぁ…レオン…」  
硬く実った乳房から全身に甘い快感が疾り、私は堪えきれず彼の名を囁く。  
そして、両手でさらに激しく揺さぶり、硬く大きく育った乳首を摘む。  
「はぁああ…んっ!」  
嬌声が抑えられない。 レオンに愛撫されているみたい。  
…本物の彼の手で弄られたら、どれほどの快感なのだろう。  
そして私は、右手を下腹部へ滑らせる。 左手は乳首を弄ったまま。  
息を乱しながら、私はそっとクレバスに指を当てる。  
…未だ男を知らないそこは、しかし敏感に反応していて、蜜がしたたり潤みきっている。  
「…くっ…!」  
電流が走るような感覚に、私は痺れる。  
そして、蜜で濡れた指先を、敏感な蕾に触れさせる。  
「ぁっ…! 気持ちいい…よぉ…レオン…!」  
私はまた彼に呼びかける。 そして私の中指が奥へと滑り込む。 軽い抵抗感を覚えつつも自分の指を受け入れ、締め付ける。  
「…! ぁ…ん…き、来て…!」  
私の指は独立して、自らの秘部を激しく擦る。 快楽を求めてとめどなく動く。  
「あぁ、レオン、レオン…っ!」  
愛しい名をひたすら叫び、両手を動かし、快感を貪る。  
そして、その時が来る。  
襞の奥の敏感な部分を強く抉った瞬間、全身がわななく。 腰が激しく動き、体が弓なりに反る。  
「あ、愛してるわ、レオンっ! ああああっ…!」  
私は絶叫して、絶頂を迎えた。  
…快感の余韻に微睡む。 しかしそれも一瞬のこと、急速に感覚が現実に引き戻される。  
こんな独りよがりな快感が欲しいわけじゃない。 レオンが欲しい。  
でも、レオンはここにはいない。  
行き場の無い、私の指と、体と、心。   
寂しくて虚しくて、涸れることなく、私の目から涙が溢れ落ちた。  
 
翌朝、自己嫌悪たっぷりの最低の目覚めを迎えた私は、シャワーを浴び、制服に着替え、重い足取りで食堂へ向かう。  
クロワッサンとミルクだけの軽い朝食を所在なげにとる。  
「ルキアお姉ちゃん、おはよ〜!」  
猫耳リボンの小柄な同級生、アロエが元気にあいさつしてくる。 実際、私たちより3歳年下だけど、愛くるしいいでたちや口調とは裏腹に、天才少女の通り名を持っている。  
風邪で授業を1週間程休んでいたが、回復したらしい。  
「おはよ。 アロエちゃん、風邪は治ったの?」  
「うん! もう大丈夫! …あれぇ? お姉ちゃん、目が腫れてるよ?」  
まさか、昨夜の話をするわけにもいかない。 目にゴミが入った影響、ということにしておく。  
「こすったらダメなんだよ〜。 あ、ここ座ってい〜い?」  
ちょこん、と私の隣に座る。  
パンをちまちまと齧る様子は小動物みたいで、本当、可愛らしい。 私はしばらくぶりに微笑んだ。  
「あ、そーだ、ルキアお姉ちゃん、これ」  
一通り食べ終えた後、アロエが一通の封筒を私に差し出す。  
「アロエが寝込んでた間に、アロエのポストに間違って入ってたの。 お姉ちゃん宛のお手紙だよ」  
アロエから封筒を受け取り、差出人を見る。  
…見間違いようのない、元気な文字。  
『LEON』とある。  
消印はちょうど1週間前。  
思わず、封筒を抱き締めてしまう。  
「…お姉ちゃん?」  
不思議そうにアロエが私を覗き込む。 今の私の表情は、さぞかし奇異に映るだろう。  
「ありがと、アロエちゃん」  
お礼をいい、封切るのももどかしく、便箋を開く。  
…なにか生硬で小難しい文章が続いている。 レオンらしくない。  
なぜか最後に宛名があった。 その名前を見て、私は突っ伏した。  
『GARUDA』と認められていた。  
「…何でガルーダ先生宛の手紙を私に送るかなぁ…?」  
私は呆れた。 …が、ふと気づく。   
何故、レオンがガルーダ先生に手紙を送っているのかしら?   
手紙を送る理由があるとなると、私宛ての便箋に間違って入っていたのは、単なるレオンのドジ。  
つまり、私宛ての手紙は…  
「…あーーーっ!」  
思わず、大声をあげてしまう。 周りの視線が痛かったけど、今はどうでもいい。  
食事のトレイも、アロエもそのままに、私は食堂を飛び出した。  
「…どうしたんだろ?」  
キョトンとするばかりのアロエだけがそこに残された。  
 
ガルーダ先生の部屋のドアを、ノックするのも忘れて私は派手に開ける。  
授業の準備に余念のなかったらしいガルーダ先生は驚いたみたいだけど、私が手にした封筒を見て一瞬で用件を察したみたい。  
「…やっと来たのか、ルキア」  
「はぁ、はぁ、や、やっぱり、そちらに届いているんですね」  
「すぐ飛んでくると思ったが?」  
「間違って別の所に配達されてて…で、ついさっき中身に気付いて…って言うか先生、何故知らせてくれなかったんですか!」  
私は、筋違いなのを棚にあげてまくしたてる。  
「すまんな、ちょっと意地悪だったな」  
ガルーダ先生は豪快に笑う。  
「さて、お前の用件はこの手紙だな」  
私から、本来の手紙を受け取ってから、ガルーダ先生は私宛の手紙を寄越す。   
折りたたまれた紙を開くのももどかしく、私は一息に読んだ。 短い手紙。  
 
『 ルキアへ  
 
3ヶ月とか言っときながら、約束より遅れちまった。 ゴメン。  
で、結局、親父には会えなかった。 俺がたどり着いた1日手前で他へ移動したらしい。  
でも、収穫はあった。  
訪れた町全てで、親父は感謝されたらしい。  
涸れ井戸を復活させたり、病気の子供を治したり…といった具合だけど。  
で、町の目立たない一角に、魔法で書き置きがしてあった。  
…俺宛ての内容。  
中身はまあ、俺への激励かな。  
うまくは言えないけど、それ見て、「ああ、親父なりには気に掛けてんだな」って思ったよ。  
 
あ、俺はもうすぐアカデミーに戻るよ。  
この手紙を投函して1週間後に。  
…長かった。 やっと、やっとルキアに逢えるんだな。  
急いで戻るから、待っててくれよ!  
                                               レオン』  
 
はしょりまくりで、話が見えない部分も多いけど、これだけははっきりとわかる。  
…レオンが戻って来る!  
 
「吉報のようだな」  
「先生のイジワル! …でも嬉しいです、ありがとうございます」  
「ま、親父さんは見つからなかったようだが、何かは見つけて来れたようだな」  
ガルーダ先生は、私が渡した手紙を一読しながらそう言った。  
私は気持ちが浮き立つのを抑えられないんだけど、ある疑問を先生にぶつける。  
「先生、レオンは何故先生に手紙を?」  
「俺が義務づけた。 休学中も知識が落ちないように、手紙と一緒に俺が渡したペーパーテストを返信するようにな」  
通信教育を義務付けられて、渋い顔をするレオンが目に浮かび、思わず微笑む。  
「ま、大事な俺の生徒だしな。 落第させるわけにもいかん。 …というのは表向きだ。 あいつにも言ってないんだが、もう1つ理由がある」  
ガルーダ先生が続ける。  
「全くの私事だが、俺はあいつの親父さんとは因縁があってな」  
言って、腕輪を指し示す。  
「はるか昔、俺の故郷で出会ってな。 当時の俺は魔力だけ高くて、コントロールのまるで効かない奴だった。   
親父さんは、魔力に任せて暴れていた俺をブチのめした後、こいつをくれた。 『魔力を制御して、その力を正しく使え』とな。   
それからすぐだ、俺が故郷を離れ、修行を積んで教員の資格を取ったのは」  
リストバンドみたいな腕輪は、魔力を制御する魔具だったのか。  
「で、その時にレオンの話を聞いていてな。 あいつが入学してすぐ気が付いた。 名前といい、親父譲りの赤い髪といい、な」  
ガルーダ先生ほどの実力者を叩きのめす赤い髪の賢者? …引っかかるものを感じたけど、思い出す間もなく話は続く。  
「だから、あいつが親父さんを探す、と言ってきて休学届を出した時、俺は引きとめなかった。 親父さんの消息を知りたいのは、俺も同じ、って事だ」  
「…そうなんですか」  
そんないきさつがあったとは…と私が聞き入っていると。  
「そんなことよりも、ルキアよ、いいのか、レオンの出迎えは? 手紙によると、戻りは今日なのだろう?」  
口(クチバシ?)の端に薄く笑みを浮かべて、ガルーダ先生が言う。 …あ! そうだった!  
「で、でも、私、今日は先生の授業なんですけど」  
「…ルキアは体調不良で今日は休み、と…」  
先生は、苦笑しながらもエンマ帳に事も無げに記入している。  
「…あ、ありがとうございますっ! じゃあ、失礼します!」  
「…補習は後日受けてもらうぞ」  
私はお礼だけ言って勢いよく部屋を飛び出した。  
 
春の香りが全開の校門前に私は息せき切って駆け込む。  
改めてレオンの手紙を見る。 戻ってくる日は今日だけど、時間は書いてないからわからない。   
でも、私はずっと待つつもり。  
頭の中に、彼の笑顔を思い浮かべて。  
…しばらくもしないうちに、アカデミーと下界をつなぐ魔法陣から魔力の励起を感じる。  
誰かがこちらに移動してくる証だ。  
魔法陣に姿が実体化する。 …紛れもなく、赤い髪の少年。  
「…おかえりっ、レオン!」  
彼の姿を認めた時には、私は飛ぶように駆けつけ、抱きついていた。  
「うわっ!? ル…ルキア…だよな? …ただいま!」  
いきなりの抱擁に仰天したっぽいけど、すぐにレオンは私を抱き締め返す。 両手の鞄がドサリ、と床に落ちる。  
「…逢いたかったよぉ、レオン…!」  
私は人目もはばからず―授業中でもちろん周りに人はいないけど―泣きじゃくりながら、ぎゅっと強くレオンを抱き締める。  
「ごめんな、ルキア。 遅くなっちまった… 俺も逢いたかったよ」  
私を胸に抱きとめながら、レオンも想いをぶつけてくれる。  
「…いいの、もう」  
いろいろ言いたかったはずなのに。 彼の顔をみたらそんなことは頭から消えてて。  
私は一言そう言って、背伸びをして、キスをした。  
レオンも応えて何度も啄ばむようにキスを繰り返す。  
しばらくして、  
「…ルキア、そろそろ部屋に戻らないか?」  
再開を惜しみながらも、彼の言葉に従い、私は彼から離れて涙を拭い、鞄を片方持ってあげる。  
「いいよルキア、自分で運ぶから」  
「ううん、手伝ってあげる」  
鞄を持って、私が先行して歩き出す。 レオンももう一つの鞄を拾い上げ、私と並んで歩きだす。  
私はぴたり、とレオンに寄り添って歩く。 彼も顔を少し赤くしながら歩幅を合わせてくれる。  
…何て愛しいんだろう。 あなたの存在が。  
3ヶ月離れて、今日再び逢って、改めて私は思った。  
春の風が私たちを優しく包み込む。 私たちの再会を喜ぶように。  
 
「あー、久しぶりだなぁ、この部屋も」  
ガルーダ寮にあるレオンの部屋。 一応、私が定期的に掃除していたから、埃くさいとかそんな事はない。 彼が出て行く前とほぼそのまま。  
「お疲れ様」  
私は鞄を床に置いた。  
レオンは上着を脱いでベッドに腰掛ける。  
私は改めて、まじまじと彼の顔を見る。 人懐っこい笑顔に、少し精悍さが増したみたい。  
「そんなに見るなよ」  
少し顔を赤らめ、彼は照れくさそうに言う。  
そんな表情が愛おしくて、私はクスリと笑う。  
「でさぁ、どうだったの? あの手紙じゃ、何がなんだか…」  
「うーん、一言では言えないけど、要は『俺を乗り越えろ』って事」  
「…わかんないよぉ」  
「ま、俺の親父も知っての通り、有名人だしさ。 俺としては、尊敬もするけど、コンプレックスの対象でもあったんだよな」  
確かに、優秀な親を持つ子供の見えない重圧は測りしれないものだろう。  
「俺も、アカデミーでは決して優秀じゃないしさ。 『あの親にしてこれかよ』って声と内心戦ってたんだ。   
けど、俺の親父はそんな評価軸に既にいないんだよな。 名声も評価も関係ねえ。  
向こうに戻って、足跡追っかけてて、書き置きでそれがわかって…」  
私は相槌もうたずに聞き入っている。  
「俺はまだ今の時点じゃただのガキ、賢者見習い。 だけど、いつか追いつき追い越してやるよ。  
名声なんかじゃなくて、人を幸せにできるような賢者になって、さ」  
拙い説明だけど、決意が伝わる。   
「…一緒に頑張ろうね」  
それだけ、私は言葉を挟む。  
「ありがとな、ルキア。 で、親父はこんな事も書いていたんだ。 『守るべき者がいれば、必ず強くなれる』ってさ」  
いって、レオンはゴソゴソと鞄をまさぐる。 そして小さな箱を私に差し出す。  
「お土産。 …てか、俺の、ささやかな気持ち」  
差し出された箱を私は開ける。 中には、ハートを模したプラチナベースのイヤリング。 小さくルビーが嵌っている。  
「…! これ…」  
「クリスマスの時に渡せなかったし、さ」  
目を見開く私に、恥ずかしそうに顔を赤くしながらレオンがそう言う。  
「…俺、今はまだ強くない。 でも、ルキア…お前の事は守りたい。 大事にしたいんだ…」  
私の見開かれた目から涙が溢れる。  
「レオン…レオン……!」  
夢中で彼に抱きついていた。  
「レオン、ありがとう…! 私、私…!」  
嬉しくて、嬉しくて、言葉がいくつも頭を駆け巡るのに、口から出てこない。  
ただ嬉し泣きをしながらレオンを抱き締めているだけ。  
レオンも私をしっかりと受け止めてくれている。  
服越しにレオンの暖かい体温と鼓動を感じる。 …次第に聞こえてくる鼓動が早さを増している。  
ようやく抱擁を解いて、改めて向かい合い、口にする。  
「私も、ずーっと…レオンのことを見つめていたい…」  
「…ありがと、ルキア」  
レオンの顔が再び近づく。 優しくキスをされる。  
そして、レオンの手が私の後頭部に添えられ、…ゆっくりと体をベッドに押し倒される。  
 
ベッドの上で仰向けの私と、上になったレオン。  
これから何が始まるのか、聞かなくたってわかる。 そして、私もそれを期待している。  
「…いいか?」  
わずかに上ずった声が聞こえる。 私は頷く。  
レオンは唇に軽くキスを落とすと、私の制服のリボンをほどき、服の上からゆっくりと私の体を撫でる。  
最初は胸。 触れられた瞬間、私は身を強張らせてしまう。   
私の緊張が伝わったのか、レオンは一旦手を離す。  
そして少しぎこちなく微笑みながらもう一度キスをする。 今までの軽いキスから一転して、深い。  
ゆっくりとレオンの舌が私の口の中に入り込む。  
息が詰まりそうになりながら私も舌を絡ませてみる。  
ふと、両手を握られる。 …彼の手もじっとり汗ばんでいる。 鼓動が早鐘のように鳴っているのも伝わる。  
唇と両手が同時に解放される。  
レオンの両手が、私の髪をすくように撫ぜる。 優しく、優しくあやすように。  
私の体から余分な力が消えていく。 もちろん、初めての体験に不安もあるけど、彼に…身を任せよう、と改めて決めた。  
「ごめんね、レオン、気を遣わせちゃって…」  
「初めてなんだもん、しょうがないさ。 って俺だって初めてだけど、さ…」  
私が謝ると、彼は頬を指でポリポリ掻きながらそう言ってくれる。  
「…怖いけど、レオンとだから…大丈夫」  
と言うと、彼もコクリと頷き、  
「じゃ…続けるよ…イヤだったり、痛かったら、無理しないで言ってくれよ」  
と言い、再び私の首筋から胸、脇腹へとゆっくり手を滑らせていく。  
そして、腰のあたりで一旦手を止め、私の制服の上着の裾に手をかける。  
一瞬ピクリと震えてしまうけど、すぐに体をゆっくり起こす。 横になったままじゃ、脱がすのに手間取るから。  
丁寧に上着を脱がされる。 そして、少し躊躇った間の後、レオンの手が背中に廻り、ブラジャーのホックを外す。  
枷を外されたように、私の乳房が露わになる。 恥ずかしくて、両手で覆い隠す。  
レオンが私の肩と後頭部に手を置き、再び私を押し倒す。  
胸を隠した私をそのままに、優しくキスをする。 そして手はスカートに伸び、するりと下へ滑らせるように脱がせる。  
そして、ブラジャーと揃いのパンティに手が掛かる。  
「…んっ」  
キスに酔わされながらも、私は思わず胸元の右手を下ろし、レオンの手を止めるような仕草をしてしまう。  
レオンは唇を離し、次は首筋に唇を当てる。  
暖かく痺れるような感触に私はゾクリとし、甘い溜息を漏らす。  
「はぁん…」  
首筋と同時に、私の下半身にあったレオンの手が胸元を優しく撫でる。   
私の手が緩んで、隠していた乳房から離れる。  
首筋を丁寧に舐め上げながら、レオンの手が乳房に触れる。 軽く電気が走るような感覚に私は、  
「あっ…あ…」  
と声をあげる。  
首筋を遡上したレオンの唇が私の耳にたどり着く。 耳を吐息が擽り、耳をあげる殻の裏にキスが落ちる。  
同時に彼の指が小振りな乳首を刺激する。  
「んっ…! あぁ…っ!」  
高い声をあげる。   
そして、彼の手は私の肌を滑るように下に降りる。   
パンティに再び手が掛かる。 今度は私も何の抵抗もせずなすがままになり…私は一糸纏わぬ姿になった。  
 
「…綺麗だ、ルキア…」  
体を離したレオンが、溜息をつくように私を見ながら言ってくれる。  
…でも、恥ずかしい。  
私はレオンから目をそらし、右腕で乳房を、左手で下半身を隠してしまう。 脚は内股に強く閉じる。  
「…あんまり、じっと見ないで…そんな綺麗じゃないし…」  
レオンは、私の顔を向かせると、  
「そんなことあるもんか。 誰が何と言おうと、ルキアは綺麗さ」  
そして額にキスされる。  
…レオンもシャツを脱ぎ、ズボンも下ろして全裸になった。  
スポーツで鍛え上げられた、見かけ以上に無駄のない引き締まった体。  
思わず私の視線が下がる。 …彼のものが大きくなっているのがわかる。  
「…俺だって、ぶっちゃけこんなもんだぜ」  
「…ううん、レオン、逞しいんだね…」  
「んなことないって。 で、ルキアを見て…こうなってんだから」  
テレながら彼が言う。  
私は体を起こし、素肌で彼をそっと抱き締める。  
「…ありがと…」  
自分で目が潤むのがわかる。 もう、迷わない。 もう、余計な言葉も言わない。  
「ルキア…」  
レオンも余分なセリフをはさまず、私の名を呼び、私を横たえる。  
一度軽いキスをしておいて、彼の手が乳房を掴む。  
「ああっ…!」  
鋭い声が私の口から漏れる。  
彼の手が乳房を強く揉み、優しく乳首をくわえ転がす。  
その度に、間断なく甘い感覚が私を包み、声をあげてしまう。  
彼が乳首をさらに強く刺激すると、固く尖りだし、快感を訴える。  
「くぅっ…はぁ…」  
強い快感に、頭がクラクラしてくる。 昨夜の淫夢やオナニーとは比較にならない。  
彼の情感が私の中で強く波を立てる。  
乳房への愛撫を続けながら、彼の手が下へ伸びる。  
さっきから、微妙な熱を感じている私のスリットの奥に指が届く。  
「んっ!」  
私の体がピクン、と跳ねる。   
「…すごい、もうこんなに…」  
レオンがつぶやく。 そこはもう濡れている。 レオンの指が静かにスリットを往復して滑っている。  
そして、ゆっくりと奥に入り込む。  
「あっ!」  
私は敏感に反応する。 無意識のうちに、手がシーツを掴む。  
躊躇いがちに、レオンの指がさらに奥に入ってくる。 圧迫感と快感に、自分の意思とは関係なくレオンの指を強く締め付ける。  
「レ、レオン…あ…っ」  
乳房とスリットへ同時に刺激を与え続けられて、私自身高まってくるのがわかる。  
指が抜き取られ、スリットの上部の蕾を強く押えられると、  
「くっ…! 痛…!」  
痛みとも快感ともとれる強すぎる刺激に、両手を彼の背中に強く廻し、爪を立ててしまう。  
「ご、ごめん…痛かったか?」  
レオンは愛撫を中断し、心配そうに私の顔を覗き込む。  
「ううん…平気」  
私はレオンの顔をまっすぐ見つめて微笑む。 そして、視線で訴える。  
…もう、そろそろ…  
 
私の無言の訴えを察知したのか、レオンは私の足元に体を移動する。  
私は両膝をゆるく立てて彼を待つ。  
ゆっくりと私の脚を押し開きながら、  
「…できるだけ、優しくしてみるけど、辛かったら、言ってくれよ…」  
と心配そうに言う。  
私は首を振って、微笑む。  
「ありがと。 …お願い…」  
ゆっくりとレオンの体重がかかる。   
彼のものがじわじわと入り込む感覚がする。 …濡れているはずなのに、軋むような感触に私は眉をしかめる。 思わず内腿に力が入る。  
「大丈夫か…?」  
動きが止まる。 私は返事の代わりに、大きく深呼吸してレオンを改めて見つめる。  
「じゃ…行くからな…力、抜いて」  
レオンが再び腰を押し込んでいく。  
私の奥で一瞬の抵抗。 抵抗を切り裂いて彼のものが強く侵入する。  
痛い…!  
「ああああああぁっ! い…っ…!」  
「くっ…!」  
堪えきれず、高い悲鳴をあげてしまう。 強く瞑った両目から、涙が幾筋もこぼれる。  
レオンも顔をしかめて呻く。  
つながった箇所に熱い感触。 私の奥底から血が流れているのだろう。  
私は涙を流したまま、レオンの背中に強く腕を廻した。  
レオンは、私をそっと抱き締め返し、涙を拭うように両頬にキスをしてくれる。  
…やっと、結ばれたんだ…  
破瓜の痛みが続く中、ようやく実感し、また涙が溢れる。  
レオンの荒い息遣いと鼓動とかすかな震動音だけが聞こえる。  
 
「大丈夫か?」  
何度目かのレオンの同じ質問。  
「うん、もう…大丈夫。 嬉しいの…」  
痛みはまだ退いていない。 でも、愛する人と結ばれた感動の方が大きい。  
「俺もだよ…」  
レオンはそう言って、私の髪を撫で上げながら唇をふさぐ。 そしてキスを続けながら、優しく乳房を揉みしだく。  
しばらくその姿勢のまま、互いにキスと愛撫を繰り返す。  
そうしているうちに、私の奥にむずがゆいような感覚が走る。  
その微妙な感覚をレオンも感じたのか、  
「そろそろ…動くぞ…」  
と囁き、ゆっくりと腰を往復しはじめる。  
「…んっ…!」  
擦れる刺激はまだ少し痛みが伴う。 悲鳴がまた出てしまう。  
「まだ、キツいか…?」  
「…いいの、動いて…」  
もう心配はかけたくない。 私はレオンの気遣いに嬉しく思いながらも、次のステップを要求する。  
「…わかった」  
再び動き出す。 むずがゆく思えた感覚が次第に痺れるような快感に変わってゆく。  
「あ…ん、レオン、何か、ヘンな…感じ」  
私の訴える声が甘みを帯びる。 つながった箇所からも、水音が聞こえてきだした。  
レオンの表情からも緊張が消えていく。  
彼の動きが強くなる。 往復のピッチが上がり、単調だった動きにも強弱が加わる。 私の奥も、私の意志を離れて蠢きだす。  
「くっ…ルキア、すげぇ…気持ちいいよ」  
「わ、私も…あっ…気持ちい…いいのっ!」  
彼の声に、私は悩ましい声で応える。  
レオンの動きから遠慮が消える。 上体を起こし、私の両足を持ち上げ、さらに深く私を貫いた。  
「やっ、あ、あ、あんっ! レオン、すごい…っ!」  
私は憚ることなく快感を素直に訴える。  
レオンも荒々しい吐息で応え、激しく動く。  
「レオン、レオンっ…!」  
愛しい名を私は連呼する。 両手をはるか上にあるレオンの両頬に触れさせる。  
そして体へと引き寄せる。 レオンが前傾し、彼のものが子宮口に当たる程飲み込まれる。  
「くっ…!」  
レオンは呻きながら、私の両脚から手を離し、私の乳房を激しく愛撫する。  
一気に快感が昂まっていく。  
「あんっ、あんっ、あああっ…! レオンっ…好きよ…っ!」  
彼の背中に爪を立て私は喘ぎ続ける。  
「お、俺も、愛してる…ぜ、ルキアっ…!」  
レオンも応え、貪るように私に体をぶつける。  
「あ…お、落ちそう…! はぁん、レオン、私、私…!」  
私の奥で、濡れそぼった襞が淫らに蠢き、最大級の快感を要求しだすのがわかる。  
「俺も…そろそろ…我慢でき…ねぇっ!」  
「ああっ、レオン…! い、一緒に、一緒に…!」  
私はうわごとのように叫びながら、両脚を彼の腰に絡みつけた。 その瞬間、レオンのものが一際硬く膨れ上がり、私の奥の敏感な襞を激しく突いた。  
頭の中を極彩色の渦が巡る。 そして…弾ける!  
「やっ!? あああっ! レオン、レオンっ…!」  
一際高い声で私は絶叫する。 その声に導かれるようにレオンも叫ぶ。  
「ル、ルキアっ!」  
互いに強く抱き締めあって、同時に絶頂を迎える。  
彼のものが奥で弾けて、暖かいものが私の奥に幾度となく注がれる。  
天空から堕ちるような快感に脳裏が焦げて、私は体を痙攣させた。  
…互いに力の抜けた腕で抱き締め合い…私は瞳を閉じる。  
 
 
「痛かったよぉ…」  
しばらくして。  
体の感覚が現実に戻り、私は下腹部の疼痛を実感した。  
「…わりぃ、あんま、優しくできなかったな…」  
レオンが本当にすまなそうに謝る。  
「あ、ごめんね。 そーじゃなくって…今まで想像してたのを超えてたから…」  
「女の子って、やっぱ痛いもんだろし…なぁ…今さらだけど」  
言って、視線を落とす。 シーツの上には、純潔の証が記されている。  
「でも、嬉しいんだよ。 大好きな人に抱かれたんだから」  
私はレオンにぴったり寄り添って言う。  
「…そう言ってくれて、俺も嬉しい」  
レオンも私の頭に優しく手を置いて、はにかむようにそう言う。  
「…疲れたろ? 少し休みなよ」  
と、レオンが右腕を横に伸ばして、私の頭を乗せる。  
「…ありがと、レオン。 大好きよ…」  
腕枕に抱かれ、私はしばらく微睡んだ…  
 
 
翌日。  
いつもより早く目が覚めた。 大きく伸びをしてベッドを抜け出し、シャワーを浴びる。  
私の肌に刻まれたキスマークを見て、昨日のことが夢ではないことを実感する。  
内腿のあたりもまだ少し痛みに疼く。  
バスルームを出て制服に着替え、私はカフェテリアに向かう。  
クロワッサンとハムエッグとミルクを手に席を探すと、レオンが既に食事している。  
「おっはよー」  
「お、おぅ…おはよう」  
照れくさそうな顔でレオンがあいさつ。  
隣の席に腰掛けて朝食をとる。  
「よく眠れた?」  
「ま、まあな… で、アレ、夢…じゃないよな?」  
私はクスクスと笑う。  
「何言ってんのよ。 ぜーんぶ、現実だよ。 ね、レオン?」  
「…何だよ?」  
「これからも…よろしくね」  
私の両耳でハート型のイヤリングが揺れた。  
レオンは顔を真っ赤にして、  
「あ、ああ、ルキア…俺のほうこそ…」  
と言いかけた時。  
「あー、お兄ちゃん、お姉ちゃん、だいじょーぶ?」  
突如、アロエに声を掛けられる。  
「おはよう、アロエちゃん。 …って、大丈夫って何かしら?」  
よくわからないあいさつに私は戸惑いながら、アロエに笑顔であいさつを返す。  
「えーっと、ルキアお姉ちゃん、これ、マラリヤお姉ちゃんから」  
と、アロエが差し出したのは、何かの薬瓶だ。  
「なーに、これ?」  
訝る私に、  
「あのね、痛み止めだって。 今のルキアお姉ちゃんに必要だから、って…」  
「…?」  
「昨日、アロエがラスク君のお部屋に行く途中に、レオンお兄ちゃんのお部屋の前を通ったら、  
ルキアお姉ちゃんの悲鳴が聞こえて、それで慌ててマラリヤお姉ちゃんの所に…」  
私とレオンが同時にうろたえる。  
「き、聞こえたの!?」  
「う、うん。 で、お怪我したのかと思って、マラリヤお姉ちゃんに説明したら、  
 『大丈夫よ。 恋人同士なら一度経験することだから』って言ってて…  
アロエ、よくわかんなかったから、教えてもらったの。 …あれって、『せっく…』」  
「ストーップッ!」  
私は顔を赤くしながら、慌ててアロエの口を塞いだ。  
「アロエちゃん、それ以上は言わなくてもいいわ。 優しいのね。 ありがと。   
マラリヤには後で私からお礼言っておくから、この話はここだけで止めて、ね?」  
「う、うん…でも…さっき、リディア先生に、お薬の事聞かれて話しちゃった…」  
私は眩暈がした。 レオンは突っ伏している。  
「リ、リディア先生にも私からは、話しとくから…お願い、この話はもうやめて…」  
「ルキアさん、レオン君!」  
…リディア先生だ。 私たちは頭を抱えた。  
 
 
「アロエちゃんから聞いたんだけど…本当なの?」  
リディア先生の教員室。  
問答無用で連れてこられて、二人して並んで座らされている。  
「…は、はい」  
レオンがあっさり認める。  
リディア先生が溜息をつく。  
「…まあ、二人とも恋人同士なんだし、野暮は言う気はないけど、気を付けなさい」  
「はい…」  
私は小さくなる。 レオンも返す言葉もない。  
「…ルキアさん、これを飲んでおきなさい」  
と一粒の丸薬を渡される。  
「万が一、ということもあるから。 恐らく避妊してなかったんでしょう?」  
…そこまでお見通しですか。  
私はその場で素直に飲む。  
「あ…あのぉ…俺たち、何か処罰されるんすか?」  
「まさか。 別に犯罪を犯したわけでもなし。 でもね、レオン君」  
心配そうに尋ねるレオンにリディア先生は言う。  
「ルキアさんを本当に大事に想うのなら、これからは彼女の体も考えなさい。 セックスをするな、とまでは言わないけど、愛情表現はソレだけじゃないわよ」  
「「はい…」」  
二人してしょげ返る。  
「さて、私からは以上。 この話はここで止めておくわ。 で、来週から大会だから、二人とも勉強も忘れちゃだめよ」  
…とりあえず解放されて、二人して歩く。  
「参ったな…」  
「うん、でも」  
と私は言う。  
「バレたのはビックリだけど、後悔はしてないから」  
「俺だって」  
「じゃ、これからも、普段どおり、堂々としときましょ」  
「…だな」  
「あ、そろそろ授業始まっちゃうよ。 行こ、レオン」  
私はレオンの腕を引っ張り、教室へ向かう。  
レオンも私に引きずられるように、照れながらも笑顔で一緒に小走りに向かう。  
…未来までも、この眩しい笑顔と一緒だよ。 レオン。  
 
― Fin.―  
 

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