『MY GIFT』
1.8月4日(Fri) 3:00 P.M.
「そういや、みんな来週からどうするの?」
「うーん、アタシはタイガと旅行、かな。 ツーリングと食い倒れになりそうだけどね。
そういうルキアは?」
「私? 実家に一旦戻ってから、テキトーにブラブラするつもり」
「あれ? レオンは放っとくの?」
「アイツも実家。 ま、戻ってきたら、夏祭りにでも行くわ。 マラりんは?」
「…その呼び方やめなさい…」
「えー、かわいいと思うけどなぁ」
「………。 私も実家。 家の手伝いと、地元の祭に顔を出すから…」
「セリオスは連れて行くの?」
「勿論」
周りに誰もいないカフェに座って、お茶を飲みながら、つれづれに休みについての井戸端会議。
マジック・アカデミーは既に夏休み。 生徒は早々に実家に戻ったり、補習を受けたりと、思い思いに過ごしている。
今この場にいるルキア、ユリ、マラリヤ、クララの4人も今週いっぱいは寮で過ごしている。
ちなみに、アロエは既に実家に戻り、ラスクとユウは2人(?)でリゾートへ旅行、
ヤンヤンは寮に残って自習とバイト漬け、といった按配である。
また、シャロンも避暑地の別荘で過ごしている。 半ば強引に招待されたサンダースも一緒だ。
「私も実家ですね…めったに戻れないですから」
「そーいや、クララの実家って、結構遠いんだよねぇ」
「でも、転送陣を使えるから、まだ楽ですよ」
「カイルとは旅行とかしないの?」
「カイル君も、久々の実家みたいなんです。 出発は一緒なんですけど」
「カイルといえば、来週早々誕生日じゃなかったっけ?」
「はい、一応その日は2人で街へお出掛けします」
少し頬を染めて、クララは返事をする。
「へー、やるねぇ、クララ。 で、プレゼントとかは決めたの?」
「手作りのお菓子とか…」
「料理上手だもんね、クララ…って言いたいとこだけど」
とルキアとユリが意地悪く笑いを浮かべる。
「折角だから、『私を食べて♪』 とか迫っちゃいなよ」
クララの顔が爆発したように真っ赤になる。
「そ、そんな…」
ウブな反応を楽しむかのように、ルキアとユリはさらに茶々をいれる。
「ほら、ハダカにリボン巻いて『プレゼント♪』とか」
「逆にカイルに襲いかかっちゃうとか…って、初めてじゃ、ムリか」
「………」
「…何を馬鹿言ってるの…この娘、もう処女じゃないわよ。 相手は勿論カイル君ね…」
黙ってしまったクララにマラリヤが助け舟(?)。
「マジ!? いつ?」
「ってか、何でマラりんが知ってんの!?」
クララは赤くなったまま俯いている。 マラリヤは一瞥して、
「…クララの誕生日の翌日かしら、痛み止めを処方したから…すぐバレるわよ」
「うっそー、こないだ!? クララ、やるじゃん!」
「…でもさぁ、その割に全然フンイキ変わんないよねー、2人とも。
恋人同士ならもっとアツアツな感じになるもんだけど」
クララ当人をよそに盛り上がる3人。
「…あ、あのぅ…」
ようやく、声を発するクララ。
「あ、ゴメン。 ちょっとからかい過ぎたね」
ユリが謝る。
「…いえ、それはもういいんですけど…ひとつ皆さんにお聞きしたい事があるんですけど…」
相変わらず顔が赤いままだ。
「なーに?」
「皆さん…あの…2回目って…どうでした?」
「はい?」
「ですから…その…」
内気な彼女らしく、なかなかはっきりとは言えないらしい。
「…初めてシてから、次いつシたか、って事?」
ユリが尋ねる。
恥ずかしそうにコクリと頷くクララ。
「うーん、どうだろ、私は1週間ぐらいしてからかなぁ、確かデートの後の流れだったし…」
「そうなの? アタシ、その日から向こう、ほぼ毎日なんだけど…」
「…やり過ぎよ…私はルキアと似たようなものかしら…」
ルキア、ユリ、マラリヤがそれぞれ応える。
「そ、そうなんですか…」
少しヘコんだように言ってまた俯く。
「…クララ、ひょっとして、誕生日の時以来…してないの?」
ルキアが尋ねる。
「…はい」
「ありえなーい! カイルって、甲斐性なし!?」
「でも、カイルなら有り得るよ、ソッチ淡白そうだし、優しすぎてなかなか手が出せないとか…」
「…セックスに甲斐性って変だけど…それはともかく、セカンド・ヴァージンってわけね…」
「でもさぁ、クララとしては、それでいいの?」
「いえ…正直、不安なんです。 もちろん、それが全てではないし、カイル君も優しくして
くれているけど、本当にそれでいいと思っているのか…」
「いや、カイルじゃなくってさ、クララ、あなたの事。 カイルの事好きなんでしょ?
ユリみたいに毎日、とは言わなくても、彼とエッチしたいんでしょ?」
「一言余計だよ」
「黙って。 クララ、そこんとこ、どーなのよ?」
不安な様子のクララにルキアはストレートに畳み掛ける。
しばらく沈黙した後、か細い声で、
「……はい……」
クララが応える。
「じゃあさ、カイルの誕生日なんだし、いい機会じゃない?
まぁ、クララの性格だから、ガッつくのって難しいとは思うけど、押しの一手で迫っちゃえば」
「…直球がいいかはわからないけど、ここでウジウジしてるよりはマシね。 何か必要なら応援はするわよ」
「そーそー、頑張れ!」
次々に後押しするようなセリフが出る。
「…ありがとうございます。 いえ、迫る覚悟はできているんですけど…その…」
「ちょっと、なら悩む必要ないじゃん!」
「…その中身が問題、というわけね」
「…は、はい。 皆さん、応援いただけるということで、少しお手伝いいただきたい事が…」
まがいなりにも気持ちを少し吐き出したためか、クララの声と内容に力が戻っている。
「中身によるけど…なーに?」
「実は…」
声を潜めて紡がれるその内容に、3人の目が大きく見開かれた。
…恋する魔女たちの茶会が終了したのは、そこから更に2時間以上経ってからだった。
2.8月7日(Mon) 4:00 P.M.
「ふぅ、今日はこれくらいにしますか」
カイルが図書室で独りごちる。
時計はそろそろ夕方4時を指している。
図書室での自習は、予習と復習のプログラムを日々繰り返すカイルにとって、もはや日課である。
夏休みということもあり、人気はない。
2時間ほど前に、ルキアが本を探しがてら、課題でわからない点を彼に質問してきたくらいで、
彼女もほどなく電話で呼び出されたのか、既に図書室を立ち去っている。
「さて、明日ですか…」
ふと、自分の誕生日が頭をよぎる。 寮に入ってから特に意識はしなかったが、今年は特別だ。
恋人となったクララと2人で過ごす誕生日である。
約2ヶ月前のクララの誕生日の夜、ここで告白された。 自分自身、彼女が好きだったから、
内気な彼女の泣きそうになりながらの決死の告白に、精一杯の勇気で応えた。
…まさかその日のうちに彼女を抱くとは思ってもみなかったが。
そして表面上は普段変わらぬ関係を続けている…が、カイル自身悩んでいる。
このままでいいのか、もっと恋人然としていいのか。
しかし、元来気が優しすぎるカイルは、まず、クララのことを考える。
この恋によって、クララの賢者修行の足を引っ張る事になれば、本末転倒だ、と。
しかし、自分自身無理にでもそう制御しないと、おそらく彼女への色情に溺れるだろう、とも思う。
実際、夜毎に頭のなかであらぬ欲望を巡らしているのは事実だ。
「…詮の無い話ですね」
思考を打ち切る。
夕飯の準備にかかろう。 ロマノフ寮にある自室へゆっくりと戻る。
自室の鍵を開け、カイルは、不思議な香りを感じた。 フローラルなジャスミンの香り。
普段変わらぬ整った自分の部屋だが、芳香剤の類は置いていないし、アロマの趣味はない。
「誰か来たのですかね?」
鍵を掛けた部屋に入ることのできるのは、合鍵を持つクララ以外にはないだろうが、
彼女は、今日はマラリヤ達と外出している筈だ。
不審に思いながら、自分の机にノートと書物を置こうとして、淡いピンク色の封筒に気付く。
『カイル君へ』
紛れも無く、クララの文字だ。
封を開ける。 1枚のグリーティング・カードが入っている。
『1日早いけど、プレゼントです』
短い文字。 よく見ると、その文字列は不自然にカードの上方に書かれている。
そして、すぐ下に矢印が書かれているが、矢印の先は余白があるばかりだ。
「? 何でしょうかね」
部屋を見回す限り、プレゼントとおぼしき物はない。
まさか、このカードとジャスミンの香りがプレゼントでもないだろう。
キッチンを見る。 朝方と何ら変わりは無い。 冷蔵庫の中身も今日の夕飯の材料があるだけだ。
飲みかけのボトルのミネラルウォーターを少し飲んでから部屋に戻り、そして寝室へ。
ベッドとサイドテーブルとクローゼットのみの部屋。
カイルは、眼に飛び込んで来たものに、しばし呆然とした。
ベッドの上には、クララが眠っている。
しかし、彼女は全裸である。 しかも、両手を上にして枷を取り付けられベッドに固定されている。
さらに言えば、アイマスクで目を、ヘッドホンで耳を、テープで口を塞がれている。
あまりに現実離れした光景に理解が追いつかない。
「…! ク、クララさん! 大丈夫ですかっ!?」
ようやく我に返り、慌ててクララのもとへ駆け寄り、戒めを解こうとして…携帯電話が鳴る。
とりあえずタオルケットを彼女に掛けて、電話を見る。 見覚えのない番号だ。
「…はい」
『カイル君だね、1日早いがお誕生日おめでとう。 プレゼントは気に入ってもらえたかい?』
「!?」
聞きなれない低い声。 男の声のようにも聞こえる。
『どうした? そんなにポカンとして? 君が大事に想っているクララをプレゼントしてるのに』
「誰ですか、あなたは? クララさんに何をしたんです! いや、どうやって僕の部屋に…」
電話の主の正体もわからない、どうやってこの状況を作りあげているかもわからず、カイルは混乱する。
しかも、自分が戻ってきた頃合いを見計らったような電話。
電話を持ちながら、忙しなくカイルは部屋を見回す。
『まぁ、落ち着きなよ。 別に彼女に危害は加えてないよ。 ただ、君の返事次第では…』
「…目的は何なのですか、一体!」
『…話が早い、と言いたいが、最初に言った通り、バースデー・プレゼントといったろう?
で、早速プレゼントで楽しん…』
「ふざけてるのですか? クララさんを物みたいに…!」
電話の主の発言に、カイルはいきりたつ。 恋人に蔑ろなマネをされて黙ってはいられない。
『気に召さなかったかな? ただ、カード見ただろう? 彼女が自分で書いたものだよ。
君の部屋に入れたのも、彼女の協力あってこそさ』
「…クララさんが自分から? 信用できませんね」
『信用する、しないは勝手さ。 で、プレゼントが気に入らないなら…こうするけど?』
低い詠唱。
クララが眠っている上で、気流が発生し、先程掛けたタオルケットを無残に引き裂く。
再び、クララの裸体が露わになる。 カイルは青ざめるとともに、しかし、一方で、体の奥が不思議な熱さに囚われる。
『…次は体を狙うよ』
「ま、待ってください! 僕にどうしろと?」
相手はクララに危害を加えようとすればできる状況のようだ。 明らかに見られている。
相手の出方がわからない以上、まずはクララの安全確保が第一、とカイルは考える。
そのためなら、自分の体が傷つくくらいはなんでもない。
しかし。
『簡単なことさ。 据え膳食わぬは何とやら、って言うだろ? 君は君の思うままに、クララとセックスすればいいのさ』
「…は?」
あまりの展開にカイルはまたしても混乱する。
バースデー・プレゼントといってクララを拘束してみたり、呪文をぶつけて脅してみたり、挙句、抵抗も敵わない彼女とセックスしろ、だ?
「何をわけのわからないことを…」
『何を躊躇うんだい? 恋人同士だろ? たまにはこんな刺激もあってもいいだろ』
「そんな趣味はない!」
『…フフ、君はそうだろうね。 でも、彼女はどうかな? 本当はこんな感じで犯されたい、と思ってんじゃない?』
低い声がからかうように続ける。
『知っているんだよ。 君が、初体験してからこのかた、彼女に手を出していないことは。
もう、かれこれ2ヶ月だよな? クララも不安がってたよ。 愛されてないのかってね。
でも、内気な娘だから、自分からセックスをねだれないじゃない? で、こっちがそのお手伝いしてるってわけ』
電話の声は正確に2人の関係を把握している。 誰だ。
『無理やりにクララを拘束したんじゃないよ。 ほら、服だって几帳面に畳んであるだろ?』
確かに、丁寧にクララの制服やらが畳まれて置かれている。 破られたり、ボタンが綻んだりはしていない。
「でも、こんな無理強いめいたマネまでして、僕は彼女を抱きたくない! 普通に僕から誘いますよ!」
『でも、実際、してないよな? 2ヶ月も。 その間、誘うチャンスはいくらでもあったのに』
「こっちの恋愛のペースにまで指図するんですか?」
『そりゃあ、恋に悩む女の子の方を応援するさ、朴念仁』
やりとりを続けながら、カイルは自分の急速な異変に気付いた。
熱い。 脳の奥も、口の中も、体も、そして…ペニスも。
動作がそぞろになったのを見透かしたのか、電話の声がこう言う。
『ほら、そろそろ効いてきたね。 さっき飲んだ水に、ちょっと仕掛けをしたんだ』
「…一服盛ったんですね…」
『不本意だけどさ、こうでもしなきゃ、君はソノ気にならんだろ?』
「卑怯だ!」
『彼女を放っておく方もどうかと思うよ? さ、胸の奥にしまっていたクララへの欲望、ぶつけちゃえば?』
そのセリフに従うように、カイルの視線がクララへ再び注がれる。
拘束されている事を除けば、焦がれてやまないクララの裸体がそこにある。
奥底が熱を帯びる。 …いや、だめだ。 こんなのは…
心の中の葛藤を突き崩すように、声がする。
『本当は、彼女と爛れるような刻を過ごしたいんだろ? 頭の中で犯していたように、さ』
…その通りだ。
『さ、もう我慢する事はないさ。 ぐちゃぐちゃに犯して、彼女を啼かせてあげなよ』
………。
「………」
カイルの脳裏で何かが爆ぜた。
…ごめんなさい、クララさん。 僕は、弱くて下劣な、最低な男のようです。
操り人形のようにカイルは、クララへ近寄る。
3.8月7日(Mon) 4:30 P.M.
『やっとソノ気になったみたいだね』
楽しそうに、しかしどこか安堵したような声がする。
「…まだ、電話は切らせてもらえないんですか?」
欲情に濡れつつも、抑揚をなくした声でカイルが言う。
『いや、本番が始まったら切るよ。 そこまで野暮じゃないしさ。 ただ、その前にいくつか注意事項を伝えたいから、少し待ってくれ』
「手短にしてください」
『ハハッ、素直だね。 まず、耳のヘッドホンと口のテープは外していいよ。 手枷とアイマスクはそのままだ。 で、あと、声は変えておけ』
「…最後に抱き締め合いたいんですが」
『気持ちはわかるが、それは辛抱してくれ。 で、そこにある小箱に色々入ってるから』
カイルは小箱を開ける。 どう見ても、媚薬の類いが揃っている。
『1つだけ、挿れる前にそのチューブの膏薬だけは塗ってあげてくれ。 まだ妊娠させたくないだろ?』
チューブを見ると、どうやら避妊薬のようだ。 互いの局部に塗布するらしい。
『他は使うなり何なり好きにしてくれればいい。 副作用はないから大丈夫さ』
「…そんなことより、その後、どうしろと?」
『また電話で指示するさ。 電話は切るけど、見てるから。 じゃ、プレゼントを堪能してくれ』
電話は切れた。
カイルは電話をサイドテーブルに投げ出した。
そして、もどかしげに服を全て脱ぎ捨てる。
ベッドに飛び乗るように移動して、クララを見つめる。 まだ眠ったままだが、心なしか、肌が上気しているようにも見える。
「まずは、と…」
ヘッドホンを外し、口のテープをはがす。 薄紅色の唇が姿を現す。 安らかな呼吸音。
上質な人形のようなたたずまい。 しかし、手枷とアイマスクのアクセントが淫らで、黒い劣情を催す。
小箱を改めて見ると、喉用の噴霧薬のようなものがある。 ラベルを見ると変声効果があるようだ。
噴霧。 苦い刺激。 普段の柔和な声が一変して、低くしわがれる。
「…起きてもらいますか」
なにか、別の人格を持ったような気分である。 そして、頭の中が欲望で塗りつぶされる。
あとは、思うがまま、彼女の体を、弄ぶだけ。
薄く開いたクララの唇。
カイルは、覆いかぶさるようになり、両手で軽く彼女の顔を挟む。 そして一息にキスをする。
普段の優しく愛情を込めた軽いキスではなく、欲望に忠実なディープキス。
口腔内に舌を侵入させ、激しくかき回す。
「!?」
眠っているはずなのに、まるで待っていたかのように、クララの舌が的確にカイルを迎撃する。
不意打ちに動揺しながらも、カイルは負けじと舌を絡め、上顎を舐める。
「…あ…ふ…ぅ…」
クララの吐息が艶っぽい音を立てる。
キスだけでも痺れそうな快感がカイルに疾る。 このままキスだけで溶けてしまいたくなる。
名残惜しそうに、キスを解き、カイルはそのまま唇を首筋から胸元へ滑らせる。
「…んっ…」
まだ目を覚ます風ではないが、寝息は甘い。
唇が乳房にたどり着く。 やや小ぶりだが、美しい丘を形成している。 そして、頂点では乳首は控えめながら尖り始めている。
一旦唇を肌から離し、カイルはクララの乳房を強く揉みしだいた。
クララの体がビクリ、と震える。 それでもまだ目は覚まさない。
激しく揉みながら、カイルは左の乳首を丁寧に咥えて転がす。 そして右。
彼女の乳房が固く張り詰め、小さな乳首がこれ以上ないくらいに尖り、存在を主張する。
「あ……んっ……えっ」
ここに至り、ようやくクララが目覚めたようだ。
「な、何…?」
「お目覚めですか、お姫様」
事態をまだ把握しきれていない様子のクララに、カイルは芝居っ気を込めて声を掛ける。
「だ、誰…?」
…違和感。 電話の声は『クララの協力のもと』と言っていた。 しかし、彼女にそんな様子は微塵もない。
騙され…たか?
しかし、すでに行為に没入していたカイルはその考えを振り捨てる。
「気持ちよくして差し上げますよ、お望みどおりに、ね」
自分の発言だが、自分の声ではない。
クララの問いは無視して、さらに愛撫を続ける。
すでに欲情して熟れている乳房を擽るように弄り、乳首を摘む。
「あうんっ!」
クララの声が半オクターブは跳ね上がる。 乳首をこねる度に、彼女の体がベッドで跳ね、身をよじる。
その反応に妙な征服感を味わいながら、カイルは臍のあたりに唇を落とす。
「…あんっ…」
控えめながら、上気した彼女の声。
唇を下へ滑らせながら、緩く開いた彼女の両足を持ち、一気に押し開く。
「きゃっ!」
激しく体をよじる。 反射的に手を下ろそうとしたのだろう、手枷が鈍い音を立てる。 無論、拘束された手はその位置を変えない。
カイルはまじまじとクララの秘部を見る。
すでに感じているのだろう、ラビアが充血している。 そして、既にそこは蜜で溢れている。
怯えとも快感ともつかぬ吐息をついているクララにさらに嗜虐的に欲情していくのがわかる。
「さて…」
カイルは次のステップへ移行する。
カイルの指が充血したラビアを開く。 蜜に溢れ、てらてらと妖しく光っている。
「…きれいな色だな…」
飲まされた薬も手伝ってか、口調をややぞんざいにして呟く。
「い、いや、見ないでぇ…」
クララが懇願するが、言っている側から、ヴァギナの奥から新たな蜜がとめどなく湧き出るのがわかる。
「見られただけで、これかい…」
言って、指を外し、ラビアに舌を這わせる。
「あああんっ!」
一際大きい声で彼女が啼く。
舌で無遠慮に舐め回す。 その度に、ぴちゃぴちゃと粘った水音を立てる。
「あっ、あっ、ダ、ダメぇ…あん!」
視界が利かないのも手伝うのか、クララの反応は激しい。 普段の可愛らしいトーンと無縁の淫らな声だ。
啼き声を堪能しながら、しばらくラビアを往復した舌を、ヴァギナへ挿し込んだ。
「あんっ!」
腰が高く跳ね、カイルの顔に押し付けられる。
「…ここが、いいんだね…?」
意地悪く言って、カイルは舌で鋭く突き刺したり、突き入れだ舌を泳がせて蹂躙する。
「ふぅ…あ……あむんっ…」
返事の代わりに喘ぎ声。
舌を抜き、紅玉のように濡れ輝くクリトリスを唇で挟む。
「い、いやぁっ!」
悲鳴にも似た啼き声。 もちろん、言葉と裏腹に、彼女は腰を突き出し、内腿までしとどに蜜で濡らして快感を示している。
ふ、とクリトリスへの刺激を止める。
「……え…?」
戸惑い気味にクララが声を発する。
「嫌なんだろう? しょうがない、止めますか」
「え、あ…そんな…」
「では、どうしたらいいのかな? 言ってごらん」
反応を楽しむように、言葉で責めてみる。
クララの顔が紅潮している。 次の言葉を待ち、一切の愛撫を止める。
「………て、……ください…」
消え入りそうな声。
「聞こえないよ。 はっきり言ってごらん」
「…お願いです。 もっと弄って…いじめてください…」
本人の口から聞かされる、淫らなおねだり。
「…よく言えました。 では、お望み通り…」
カイルは愛撫を再開する。
舌ではなく、中指をゆっくり挿入する。 濡れているから、スムーズに侵入する。
きつい肉の締め付けと柔らかく溶けた襞の感触が同居している。
「あ…あ……んんっ…!」
鼻にかかった声でクララが快感を訴える。
カイルは指の動きを複雑にする。 深く突き立て、指先の関節を伸縮させ掻き回す。
「あんっ、あんっ、ああっ…!」
クララは指の動きに合わせて激しく悶える。
指を抜く。 吐き出された蜜が指先からしたたり落ちる。
「はぁ…はぁ…お願いです…から…も、もう…」
どこまでも淫らになるのか、クララが懇願する。
カイルは無言で、再びヴァギナに指を押し込んだ。 今度は2本。
クララの体に痙攣が走る。 深く挿し込んだ指を荒々しく往復させ、奥で捻る。
淫猥な水音が粘る。 そして、指を動かしながら、親指で限界まで腫れたクリトリスを同時に刺激する。
「あああっ、もう、もう…!」
クララが激しく息をついて喘ぐ。
中指の腹が、襞の敏感な箇所を擦る。
「…ああああああっ!」
クララが全身を震わせながら絶頂を告げる。
同時にヴァギナが激しく収縮して、カイルの指を噛む。
締め付けに逆らい勢いよく指を抜き去ると、後を追うように、大量の液体がクララの奥から迸り、シーツを染め上げた。
全身を紅潮させ、荒い吐息で胸を上下させているクララ。
カイルは、少し我に返り、絶頂に導いた指を見ている。 …どう考えても自分の業とは思えない。
少し罪悪感が込み上げる。
でも今更「ごめん」と声は掛けられないし、やめられない。
せめて、とカイルは、優しく体に触れ、荒い呼吸を繰り返すクララの唇に軽くキスをする。
今度は、こっちも気持ちよくなる番。
力が抜けたクララの足を押し開き、限界まで勃起したペニスを挿入…しようとして思い出す。
「…これを塗るんでしたっけ…」
膏薬を取り出し、少し絞り出す。 まず自分のペニスの亀頭部分に塗りつける。
粘膜に軽い刺激。 恐らく、本来の目的―殺精子剤―とは別の薬品も入っている。
そして彼女のヴァギナにも丁寧に摺りこむ。 クララの体がまた反応する。
準備完了。
「…行きますよ」
自由の利かない華奢なクララの体を組み敷くことに軽い嫌悪感を覚えながらカイルは囁く。
「…はい…存分に…嬲って…ください…」
快楽に従順な返事。
腹に当たる程猛り狂った自分のペニスを、コントロールに苦労しながらとば口に当てる。
少し腰を前に押し出すと、吸い込まれるようにペニスが呑み込まれる。
「あうんっ!」
クララの体が敏感に反応する。
まだ中ほどまでしか挿入していないが、彼女のヴァギナが奥へいざなうように蠢く。
その感触に痺れるような快感を覚えながらも、カイルは一旦ゆっくりと入り口あたりまでペニスを戻す。
そして、一気に体重をかけ、根元まで押し込む。
「あああああぅ…んっ!」
クララが絶叫する。
「うっ…!」
カイルも思わず呻く。 それほど甘い快感が走る。
その状態で静止して、カイルはクララの頬に手を当てる。そしてキスを落と…そうとして、
アイマスクからこぼれる涙に気付く。
「痛い…のか…?」
少し不安になるが、クララはゆっくり頭を振る。
「いいえ…こ、こんなに…気持ちいい、なんて…ぁはぁ…」
いわゆる「よがり泣き」というものらしい。 軽い驚きを禁じえない。
しかし、淫らな色に塗りつぶされた彼女の声に、嘘はない。
しかも、じっとしていても、彼女の襞は間断なく、カイルのペニスを悦ばせるかのようにうねっている。
激しく動きだしたい衝動に駆られるが、恐らく、そうすれば自分はあっさり臨界点を迎えることは明白だ。
それほど淫靡な感触が粘膜を伝っている。
唇に軽くキスを落とし、カイルはゆっくりと律動を開始する。
「はぁん、あん、あん、あんっ…!」
動きに合わせてクララが啼く。 結合部からはぐちょぐちょと粘った水音が響く。
クララの華奢な体が不自由に舞う。 たまらず、乳房を鷲?みして揉みしだく。
「もっと、もっと…奥まで、突いてっ…!」
はしたないセリフで強くせがむ。
その言葉に導かれ、カイルはさらに深く早く、クララを貫く。
その度に、ヴァギナはスムーズにペニスを呑み込んだかと思えば、引く際には絡み付いて離さない。
熱く絡みつかれて、カイルは次第に込み上げてきた。
(…まずい、こちらが先に終わりそうだ…)
一旦奥に突き立てたペニスをのろのろと引き抜く。 ビクビクと脈打ち、蜜の糸を垂らす。
「あん…ぬ、抜かないでぇ」
クララの口から、普段からはまずありえないほどの浅ましいくらい淫らなセリフが零れる。
「…最後は、こうしてあげる…」
必死にセリフで芝居して、カイルはクララをうつぶせ気味に反転させる。
もちろん、手が拘束されているから、枷と頭の位置を調節してあげて、何とかうつぶせさせる。
そして、臀部を高く掲げさせて、後ろからインサートした。
「ひぅうっ! いい、それ、いいっ…!」
そこにいるのは、普段の内気な優等生のクララではもはやなかった。
被虐の快感を心ゆくまで享受する、淫らな一匹の、雌。
そして、後ろから快感の赴くまま責め立てるカイルも、柔和な秀才ではなく一匹の、牡。
そう自覚した途端、視界と脳が灼けてくる。
「はぁ、はぁ、クララ…いく…よっ!」
カイルは彼女を初めて呼び捨てる。
「あん、あぁ、もう、来て…っ! い、いいっ!」
クララももう快感で何も考えられない状態だ。 すぐにでも昇りつめるだろう。
カイルはピッチを早めた。 ヴァギナが激しく収縮し、ペニスを甘く締め上げ、突き崩す。
「も、もうダメっ、い、いっちゃうぅっ! ああああっ……!」
全身を痙攣させ、口から涎を垂らせて、クララが絶頂を迎える。
「くっ……!」
同時に、カイルも呻き、激しく精液を噴き上げた。 彼女の奥底で、何度も、何度も。
最大級の快感が、2人の足場を消失させ、2人は同時に崩れ落ちた。
4.8月7日(Mon) 6:00 P.M.
「はぁ、はぁ…」
激しく息をつきながら、カイルがようやく体を起こす。
クララは深い快感に失神しているようだ。 弛緩した口元といい、力なく投げ出された体といい、淫らで、愛おしい。
そっと、抱き締める。 緩んだ口元の涎を舐め取るようにして、口付ける。
しかし、目を覚ます気配はない。
(…これで、良かったんだろうか…)
薬による極度の興奮状態から醒めて、カイルは急速に冷静さを取り戻す。
そして、一度はかなぐり捨てた、罪悪感。
…電話が鳴る。 先程と同じ番号だ。
『…改めて、誕生日おめでとう。 いいものを見させてもらったよ』
「…悪趣味ですね」
カイルの声は元に戻っている。
『…さて、一旦服を着て、部屋を出てほしい。 そうだな、図書館で1時間ほど時間をつぶしてくれ』
「このままいたら、駄目なんですか?」
『後始末はこちらでする。 で、図書室に『スイーツ一覧』という本があるから、それを読んでくれ』
「…よくわかりませんが、従えば、クララさんは無事解放されるのですね?」
『もちろん。 というか、そもそも誘拐したわけじゃないし。 じゃ、最後に、明日の誕生日は仲良く過ごしなよ』
言うだけ言って電話はまた切れた。
カイルは手短にシャワーを浴びて服を着替え、図書室へ向かった。
図書室の鍵を借りて入る。 そして、『スイーツ一覧』を探す。 本はすぐに見つかった。
「この本が何なんだろう?」
明日のケーキのレシピでもあるのか、とやや的外れな事を考えながら、表紙を開くと、そこには封筒があった。
『カイル君へ』
クララの文字だ。 急いで封を開くと、かわいらしい便箋にクララの文字が走る。
『 カイル君へ
今日はありがとう、そして、ごめんなさい。
今日のこの一件は、全て、私のシナリオによるものです。
電話の主は、私の信頼する友人です。 私が無理にお願いしました。
ですから、友人には何の悪意も罪もありません。
責められるのは、他ならぬ私自身です。
『なぜこんな回りくどい事を』とお思いでしょう。
私から抱いてください、といえば済む話ですから。
でも、私は、こんな女です。
愛する人に犯され、弄ばれ、悦ぶ。 そんな女です。
でも、そんなこと、言い出せなくて。
もし、愛想が尽きたのなら、そのまま私を突き放してください。
もし捨てられても、私の気持ちは変わりません。
…願わくば、私の勝手なわがままを、許してください…
クララ 』
「………」
カイルは声もなく短い手紙を繰り返し眺める。
確かに、電話の主は本当のことを言っていたのだ。
そして、クララは全て承知で、見知らぬ他人のフリをした自分に抱かれたのだ。
カイルはしばらく茫然と立ち尽くしていた…
またもや電話が鳴る。 あの声だ。
『もう部屋に戻っていいよ』
「………」
『ショックだった? でも、彼女を責めないで…』
「…責められるのは、僕でしょう」
『カイル、自分を責めるのもやめておいたら? 部屋に戻って、もう一度カードを読んで』
それだけ言って電話が切れる。
「………」
力なく自室へ戻る。
もちろん、クララの姿はなく、彼女の服もない。 ベッドも乱れた様子は消え、普段の自分の寝室に戻っている。
机の上のカードを読む。 先程の余白に、新しい筆跡。
『今日はありがとう。 嬉しかったです。
そして、誕生日おめでとう』
一言、クララの文字。
不意にドアが開く。 振り返ると、そこにはクララがいる。
「あ、あの…」
カイルが言葉を紡ぐより早く、クララが胸に飛び込んできて、顔を埋める。
「…ごめんなさい」
うっすらと涙を浮かべてクララが囁く。
「…いいえ。 僕に勇気がなかったばっかりに、苦労を掛けました…。 責められるのは僕です」
カイルがおずおずとクララを抱き締め返す。
「…!」
クララが弾かれるように顔を上げる。
「カイルくん、自分を責めないで…カイルくんのことを考えなかったのは私だから…」
「クララ…さん…」
これ以上傷つけたくない。 それほどに彼女が愛しい。
「こんな僕を…許してください」
強く抱き締める。 勝手だが、この気持ちには何も代えられない。
クララの目から涙が溢れ落ちる。
「ううん、私こそ…こんな不束な私でも…」
クララの言葉を遮り、カイルは深くキスをした。
そしてそのまましばらく時が過ぎる…
「…クララさん、これからも、よろしくお願いします」
「…私こそ…あと、クララ、って呼んでください…」
― Fin. ―