「海だ・・・」  
「水着だ・・」  
『おっぱいだー!』  
「煩い黙れ」  
 
なんのかんのと事前イベントが多発した修学旅行だが、今しがた無事に現地に到着した途端、タイガとレオンがテンションに任せて暴走した。  
押さえはサンダース。  
この事で、レオンとタイガは少女たちにペアを切られ、修学旅行中男二人での行動のみと言う哀しすぎる仕置が待っている。  
 
 
んなこたどうでもいい。  
 
投げやり気味だが、今回の主役はあくまでサンダースとユリだ。  
 
 
で、その二人だが。  
サンダースはレオンとタイガに冷たく突っ込んではいるが、背にはサンダースとユリの分の荷物を背負っており、さらに飛行機内で眠りこけるユリを、お姫様だっこなどしている。  
起きていれば夢のような体験なだけに、寝ている事が非常にもったいないぞユリ。  
 
「君の荷物ぐらい持ってやるよ」  
「大丈夫だセリオス。この少女は軽い。荷物も然程ではないのでな」  
「そうか」  
 
セリオスの声かけにも笑顔で対応のサンダース。  
少女でなくて、ユリと呼び捨てにしてやってほしいのは、サンダースを想うユリを知ってのことか。  
サンダースのただ一人の親友として、セリオスは彼等を見守ることにした。  
 
で。  
 
一行は、今回の旅で滞在するホテル「魔時亜日」へと到着するやいなや、長旅の疲れもあって当てがわれた部屋で倒れていた。  
ユリを抱っこしていたサンダースも例外ではなく、『唯一』あったベッドに彼女を寝かせ、彼も暫くの眠りに身を委ねた。  
 
 
さてさて。  
飛行機の中から寝ていたユリは、当然の如くサンダースより先に目を覚ます。  
 
(うぅ〜ん、ここどこぉ・・・?)  
 
まだ重い瞼をこすりこすり、目を少しだけ開いたそこに・・・。  
 
「・・・・!!」  
 
眠気が一気に吹き飛ぶ。  
ユリの隣、唇が触れるか触れないか程の近距離に、サンダースの穏やかな寝顔があった。  
一定に保たれる寝息、全くの安全を信じきっている寝顔。  
そして、夕焼けに照らされる部屋を少し見て、ここが目的地のホテルだと理解した。  
 
(そっか、サンダースが運んでくれたんだ)  
 
飛行機内で眠気に負けた自分を、ユリは理解していた。  
そしてサンダースはユリの事を他人まかせにするほど冷たくない。  
 
(・・・キス、してもいいよね?)  
 
もう我慢出来ない。  
ユリは、そうっとサンダースの唇を奪った。  
 
そっと触れ合う唇と唇。  
夏休み最終日から抱き続けた切ない想いと、サンダースへの真っ直ぐな想いをいっぱいに伝えるかの如く、そのキスは長くて。  
 
(・・大好き。今はサンダースが寝てる時にしか出来ないけど・・)  
 
必ず、二人で遠慮もなくキスしあえる関係になってみせる。  
ユリがそう誓って、唇を離すと。  
 
「・・・・・」  
「・・・・え?」  
 
サンダースと、目が合った。  
何時もと変わらぬ無機質な目が、逆に痛い。  
・・・暗に、ユリを追い詰めている気がして。  
 
「・・・」  
「あの、その、ね?」  
「・・何だ、今のは?」  
 
人工呼吸か?とか間の抜けた台詞を吐くサンダースに、ユリは拍子抜けする。  
そして、そういえばサンダースはこんな男だったと再確認もしてみる。  
 
大きな深呼吸を一つ。  
ユリは、よし、と呟いて、サンダースに声をかけてやる。  
 
「あのね、サンダース。今のは、」  
 
顔が熱を増した。  
 
「キスって言ってね、」  
「鱚?あれが魚だと言うのか?」  
 
違うよ、と内心だけ否定してみる。  
ベタすぎてどうかと思うネタはあるが。  
 
「魚じゃなくて。うん、愛し合う二人の、愛の証みたいなのだよ」  
 
遠回しな告白。  
ユリの顔は茹で蛸の如くだし、胸だって壊れたんじゃないかと思うぐらいにドキドキしている。  
 
「愛の証?」  
 
サンダースが、小さく呟いた。  
呆れた様な、不思議な様な、困った様な声。  
 
「うん、そう、」  
「私と君は愛し合っていないはずだが?」  
「・・・うぅ」  
 
全くの正論に、ユリがうめく。  
だがヘコンでばかりもいられない。  
 
「それはそうとして!だって、私、サンダースが好きだし・・・」  
 
言った直後、ユリは手で顔を覆い、ぶるんぶるんと首を左右に振り回した。  
 
「君が、私を、好き?」  
 
こくんと頷くユリ。  
顔の熱が限界を越えて、燃え尽きそうだ。  
 
「私は、貴方が、大好きなの」  
「成程な。君の言い分は良く理解出来た」  
 
あっさりと。  
余りにもあっさりと理解されてしまった、ユリの恋心。  
はぅ、と両手で頬を覆う萌えっ娘恋愛ポーズをとるユリに、サンダースは『どーだすげーだろ』と言わんばかりに誇らしげだ。  
 
・・・で。  
 
「ふむ、冗談はこれぐらいにしようか。―私は酷く無器用だし、君を独占しなければ気がすまなくなる恐れがあるぞ」  
「それって、」  
「最終的な決定権は君に委ねよう・・・あぁ、もう夕食の時間か。食堂へと行こうか?」  
 
赤い顔をしたサンダースが、時計に顔を向ける。  
一人で部屋を出ようとするその背をめがけて、ユリは思いきりに抱きついた。  
後ろからのショルダータックルに、サンダースは思わず倒れてしまう。  
腰に抱きついたユリも同様に。  
 
「っ痛・・・」  
「ごめんね〜?」  
「いや、大事はない。無傷だ」  
「・・これが、私の答えだからね?」  
 
本来ならば抱きついてキス、とやりたかったらしいが、「抱きつく」が「タックル」になる辺りユリらしさがある。  
 
 
サンダースに馬乗りになったユリは、もう一度キスをする。  
サンダースが、そっとユリを抱き締めて。  
 
二人が結ばれた瞬間だった。  
 

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