「くっ……このわたくしがっ!?」
最初の罰ゲームを受る事になったのは、意外にもシャロンだった。
しかも、答えが分かっていたのに、パラレル(クイズ用語で言うところのひっかけ問題)に
引っ掛かり、何でもない4択を外してしまった故の敗北。
自らのミスで自爆するという、シャロンにとってもっとも屈辱的な負け方であった。
レオンが生唾を飲み込む音がはっきりと聞こえ、サンダースが冷静を装いつつも汗をかいている。
これから始まる罰ゲームに、場の緊張感が嫌でも高まった。
「ふんっ……罰ゲーム程度、潔く受け入れますわ!一枚くらい、丁度良いハンデだと思えばっ……」
そのまま上着を脱ごうとするシャロンを、マロン先生が制した。
「はい、ストップストップ、先生の話を聞きなさーい!まず、シャロンちゃんが脱ぐ必要は無いの」
「はぁ!?」
いきなり大会のルールを否定するような発言に、一同が静まり返るが……
ミランダ先生のみ、落ち着いた表情をしているところを見ると、どうやらこの事態が初めてではないらしい。
「この広い会場で本当に脱いだら風邪ひいちゃうでしょ?だから、こうするの!!」
マロン先生がステッキを一振りすると、シャロンのスカートが色を薄め……
みるみるうちに、透明色と化し、消えていった。
「………き、きゃぁぁあーっ!!わたくしのスカートっ……どうしてっ……」
「透明化の魔法で見えなくなっただけで、ちゃんと存在してるから安心でしょ?
これなら寒くないし、風邪もひかないし、オールオッケー!!」
「どうして下から脱がすんですかっ!!」
「わたしの趣味♪あと、レオン君がお部屋に隠してるえっちな本が、そういうタイプのだったから……
ちょっとしたサービスよ。これで冷静に普段の実力が出せたら本物よ、レオン君」
「ちょっ……なんで俺の部屋にあるお宝倉庫を知ってるんですかマロン先生!?
それに、お、俺は別にそういうの【だけ】が趣味なワケじゃ……」
苦し紛れに否定するが、いざ目の前でシャロンの下着が見えると、己の分身が即座に反応する。
ストッキング越しであるが故に、白いシルクの高級感が際立ち、シャロンの形の良い尻を強調する。
加えて、上半身は普通の制服姿なのに、下半身がストッキング越しの下着姿という、
何ともいえないフェチズムを感じさせるビジュアルは、かなり彼のツボにはまったようだ。
「うーん、シャロンちゃん自慢の脚線美……羨ましいわぁ」
「あの、ミランダ先生……教師としてもっと他に言うべき事あるんじゃないですか!?」
面白ければOK、というのが信条のこの人に、多くの常識的な観点は期待できない。
脱衣が始まってしまった以上、もう誤魔化しようの無い事態に、アメリア先生は必死に魔力障壁を張り、
通行人の視点を逸らしていた。
一応、一般生徒の視点に干渉できるが、魔力の強い生徒や先生が通りかかったら……
想像しただけでも血の気が引くが、できる事はすべてやっておきたかった。
そうでもしないと、この教師2人は果てしなく暴走すると分かっているから。
「ふん……どうしたレオン?女人の下着程度で集中力を乱すなど、未熟な証拠であるな」
「うっせぇ!!てめぇこそ必死こいてケツをつねって注意を逸らしてるじゃねぇか?」
「ふ、ふん、知らぬ!!シャロン女史の下着ごときでどうにかなるヤワな精神はしておらぬ!」
「ちょっと!!『ごとき』とは何よっ!!わたしの魅力と色気をもっとちゃんと見なさいっ!?」
「知らんな!その細かい2段のレース模様も、真ん中の高級そうなリボンも興味無い!」
「しっかりそんな細かいところまで見ないでよっ!汚らわしいっ……」
「……シャロンちゃん、言ってる事が支離滅裂だよ」
アロエが突っ込みを入れた瞬間だった。
会場に『はずれ』を意味するブザーが鳴り、マロン先生が嬉しそうに全員に不正解の×印を振った。
「な……ありかよそんなん!?」
「ふっふーん♪油断したね。決勝戦ではいかなる場面でも気を抜いちゃダメなんだよー」
レオンが審判の先生達に目で抗議するが、ミランダ先生は笑顔を崩さずに抗議を却下した。
アメリア先生に至っては、生徒に『勘弁して』と拝み倒す始末。
彼女の決断は、この2人を下手に刺激せず、なんでもいいからさっさと決勝戦を終わらせる事。
たとえ、その理由の根本が『マロン先生が魔法少女アニメの放映に間に合うように』という、
少々教員として問題のある行動であったにしても。
全員が、はじかれた様に問題に向き直り、決勝戦が再開された。
そして、大方の予想通り次に罰ゲームとなったのは、シャロンの下半身に意識を取られまくったレオンだった。
「お……俺のゴールドメダル……」
女生徒の恥じらいがどれほどのものかは知らないが、苦心した末に取ったゴールドメダルを没収されるのは、
どうにも言えず悔しく、本能とはいえシャロンの下着にばかり気を取られる自分が情けなかった。
もしも目の前でシャロンやアロエがトンデモナイ事になったら、冷静でいられるだろうか……
なんて事を考えたが、それ以前にシャロンが一枚脱いだ程度でここまで集中力を乱されているのだから、
もっと修練を積まなくてはならない。
決勝戦のルール自体は問題大ありだが、生徒達の真剣さはこれまで見た事も無いほど高い。
図らずしもマロン先生の建て前どおりになった様相を見て、アメリア先生は改めてここにいる生徒達の
秘めた可能性の広さと潜在能力の高さに驚かされた。
生真面目に授業を進めるだけでなく、時には刺激を与えて生徒達を伸ばす。
マロン先生とミランダ先生が始末書の多さに反して優秀な卒業生を多数輩出している理由が、
この状態を見ていると何となく分かるような気がした。
「……だからって、真似しようとは絶っっっ対思わないけど、ね……」
アメリア先生の苦悩をよそに、決勝戦は進んでいく。
このまま行くと、一番動揺しているレオンが最初にメダルを全て失くすと思われたが、
神の助けか悪魔の悪戯か、アロエの苦手とする芸能問題が集中したおかげで、
レオンはあとメダル一個の時点で命拾いし、変わってアロエがはじめて罰ゲームを受ける番になった。
「あらら〜残念!苦手ジャンルに当たるとこんなものよねー」
マロン先生は何故かアロエの方を見ず、悪戯を仕掛けるような気体に満ちた表情でサンダースを見た。
「お楽しみタイムのはじまり〜♪リリカル、マジカル……」
魔法をかける対象面積が多いためか、いつもより詠唱が長い。
それもそのはずで、アロエの制服は上下一体型……というかスカートをはいていない。
故に、一枚脱いだだけで大変な事になる。
アロエは注射を耐える子供のように、きゅっと目を瞑って恥ずかしさに耐える中、
マロン先生の詠唱により、少しずつ服が透明度を増し、消えていった(ように見えた)
「おい……軍人もどき。鼻血が出てるぞ」
「だ、黙れ未熟者!これは汗だ。時折こんな色の汗が出るのだ!!」
「……思いっきり苦しい言い訳ね。まぁ、あんたのストライクゾーンは思ったより広かったわけね」
「し、知らん!まだ決勝戦は終わっていない!無駄口を叩く暇は無いぞ」
「ひゃうぅ……何だか、服は着てる感触があるのに、下着姿なんて……恥ずかしいですぅ……」
最初は、衣服の少なさゆえに不利と思われていたが、意外にも服の中は枚数が多く、
お腹を冷やさない目的での厚手のパンツに、キャミソールタイプのシャツ。
少なくともあと2回は負けてもいいと思われる服装に、レオンの崖っぷち感は嫌でも強まった。
……だが、それ以上に集中力を乱されまくりな男子生徒が約一名、いた。
「……落ち着け、わたしは世界を制する軍人、婦女子の裸などに……」
心の中で必死に言い訳をしながらも、汗が滝のように流れる。
アロエの下着姿を見れば嫌が応にも意識し、見なければ頭の中がアロエの裸で一杯になり、
問題が一切入ってこない。
上級魔術師とはいえ、精神の修練を積んでいない若者ならある意味当然の反応だった。
そのままサンダースが本来の調子を取り戻せるはずも無く……
得意とするスポーツ関連の問題も落とし、ズルズルとメダルを失った。
もはや、クイズではなく欲望と闘いながらの決勝戦だったが、そんな余計なものと戦っていては
勝てるはずも無く、シャロンが上下の制服を失ったストッキング込みの下着姿、
アロエが暖かい毛糸のパンツを脱ぎ(消え?)下のショーツ姿を見せた時点でサンダースは負けた。
メダルを全て失っての最下位確定だった。
「くっ……止むをえん………退却だ」
4枚目のメダルを差し出し、会場を後にしようとするサンダース。
しかし、マロン先生はそれを許さなかった。
「決勝戦はまだ終わってないよー!最下位のものは、罰としてそのままフリーズの刑ね♪」
「な……せ、先生、せめて手くらいは自由に……」
「だーめ♪目を瞑る事も却下だからね。終わるまでそのまま頑張ってね〜」
いつものように【やすめ】の体勢で金縛りにされるサンダース。
手を動かせないので欲情の証である股間を隠す事は出来ず、
服の上からでもはっきり分かるほどに怒張したものが皆の目に晒される。
それを見たシャロンは目を逸らし、アロエは真っ赤になりながらも目が離せない。
「あらら〜、サンダース君、体形どおり御立派ねぇ♪」
「……もう、どうでもいいから早く終わって……下手すると全員停学一ヶ月ものよ……」
冷静に辺りを見回せば、半裸の女生徒に股間を起立させている男子生徒。
上級魔術師の高レベルな知力の応酬とはとても思えない。
アメリア先生の泣きそうな表情を無視して、マロン先生は出題準備に掛かった。
リリカルリーフの放映まで……あと3時間の出来事だった。
■3位決定戦へ続く。