「残機はそれぞれシャロンちゃん3、アロエちゃん2、レオン君1かぁ…男の子、頑張れー♪」
「ざ……残機?」
マロン先生が今の状況を、とある会社伝統の横スクロールSTGに例えて説明するが……
当然、アメリア先生に分かるはずも無く。
「ほら……何だっけ?マロン先生のお部屋で一緒にやったゲームよ」
ミランダ先生の補足説明を受けて、ようやくおぼろげな記憶が蘇る。
「えーと……何か、複雑なコマンドを覚えさせられた記憶が……
確か、上、上、下、下、訴訟、権利、訴訟、権利、B、Aでしたっけ……??」
「全然違う!!それはリディア先生が冗談で作った風刺問題!!
次回の試験問題にうっかり提出しちゃって謹慎処分になったトラウマ問題だから忘れなさい」
生徒達が賢者を目指すこの学校だが、教師達も理事会側と色々大変らしい。
今はひとまずその話を置いといて……現在崖っぷちにいるのはレオン。
今度負けたら自分の3位が確定し、さらにはマロン先生にどんな罰ゲームを言い渡されるか。
しかもシャロン、アロエ双方共に気まずくて視線を合わせられない。
ここで彼が苦手とする雑学系のキューブクイズあたりを引いたら状況は絶望的だ。
(くそっ……どうする?ここはやはり、スポーツ系の並べ替えを選んで勝負か……)
3位決定戦を前に、それぞれが希望ジャンルを選ぶターンとなり、ここでは各人の戦略性が出る。
おおまかに自分の得意ジャンルで得点を伸ばすか、またはライバルが苦手なジャンルで妨害するか。
無論、自分の得意ジャンルを選んだ方が確実な得点を見込め、やりやすいのは事実。
しかしながら、もしも会場の空気が読めて、三人が同時に一人の苦手ジャンルを選んだらどうなるか?
自分が得点を伸ばすより、時としてそちらの方が有効な場合もありえる。
はじめのうちは自分の実力が全て、と思っていたレオンだが、クラスが上がって実力が拮抗してくると、
そういう些細な戦略が勝敗を分けると言う事を身をもって知り、戦略面も勉強するようになった。
(シャロンは確実に、雑学で俺を落としに来るよな……だが、もう一人はアロエだ。
あの子はおそらく生き残りを考えて得意ジャンルの学問系で来るはず。
雑学と学問が出題されるなら……多分、数値的にはこんな感じだろうな)
■←有利 アロエ>>>シャロン>>>>>>俺 不利→■
得意ジャンルのスポーツで差を詰めても、おそらく自分の最下位は変わらない。
世間知らずなシャロンが比較的苦手とするのは雑学だが、レオン自身も得意ではないので効果は薄い。
上級魔術師ともなると、それぞれがある程度弱点をカバーしているため、効果は僅かな物になるからだ。
アニメ&ゲームで攻めるという手もあるが、アロエが圧倒的有利になる。
どう考えても、有効な戦略が存在しなかった。
(他人の弱点を責めるのは性に合わねぇ!!こうなったらせめて負けても後悔しない得意ジャンルで……
いや待て!?賢者がそんな考え方でいいとは思えねぇ……)
逆転勝ちを至上の喜びとするレオンにとって、こういう状況は嫌いではなかった。
クラスメイトの悩ましげな姿は一旦置いといて高速で脳を回転させる。
(そうだ……一部、賭けになるが成功したら一気にいける!これでいこう!!)
わずか10秒にも満たないジャンルセレクトの時間だが、上級者クラスはこういうものだ。
そして、発表された勝負内容を聞き、一番驚いたのはシャロンだった。
「雑学×2に、学問ですって!?……アロエが雑学を選ぶって事は無いから……まさか!?」
普通に考えれば、レオンの圧倒的不利。しかし、わざわざ負けるためにジャンルを選ぶとも思えない。
「……何か、あるわね……」
そして、この戦略が及ぼす勝敗により、後の闘い方も大きく変わることになる。
いざ、3位決定戦が始まると、皆の予想を覆す事態が起きた。
レオンが驚くべきスピードで正解を連発。アロエが圧倒的有利になるはずが、
蓋を開けてみれば不思議とレオンが他の二人を引き離していた。
(どういう……事ですの!?)
レオンを落とすべく狙った雑学だが、計算を完璧に狂わされたシャロン。
その動揺が、ほんの少しではあるが彼女の判断力を奪っていた。
「……あっ!?」
4文字言葉クイズでのタイプミスは、修正不可能。
正解数で並ぶ場合は早さが勝負の鍵となるため、意外と上級者戦でも時間を気にしてのミスは多い。
最初はただの自爆だが、今回は戦略面でレオンの罠に落ちた。
そして、そのミスは残りの問題でもフォローしきれず……
「っしゃあ!!」
一回戦目はレオンがトップで勝ち抜け、シャロンが点数2倍以上の差で大敗北を喫した。
「そんなっ……どうして……」
目の前の罰ゲームより、この敗北自体に納得がいかないシャロンだが、その原因が分かる事も無く。
「んっふっふ〜……今回から、ちょっと罰ゲームの内容が変わるよ♪」
生徒達の思惑を知ってか知らずか。マロン先生が物騒な魔法の詠唱をはじめた。
その魔力に、ミランダ先生を除く一同が何事かと息を呑む。
『飛んでけーっ!ディバイン………バスターっ!!』
「っきゃあぁあぁぁぁー!?」
普段のお仕置きより数段上の魔力放出。
マロン先生の身体ほどはあろうかという幅の光が、レーザー状のエネルギーとなって、
シャロンに向って放たれた。その迫力は、殺す気と言っても過言ではない。
「マロン先生っ……生徒に何て事を!?」
「アメリア先生、教師が騙されてどうするんですか……幻術ですよ、幻術」
「ほぇ!?」
ミランダ先生になだめられてよく見ると、確かにシャロンは生きているし、怪我をした様子も無い。
その代わり、膝から上のストッキングが引き裂かれ、純白のショーツが丸見えになっている。
「あぁっ……神聖なコロシアムで、このようなはしたない姿をっ……」
他人によって無理やり脱がされたようなその様子は、普通の下着姿より段違いにいやらしく、
レオンとサンダースの雄としての劣情が嫌でも出てきてしまう。
「い、いやぁ……ショーツ、完全に見えちゃって……っ……」
さすがにシャロン自身も恥ずかしさを隠せないらしく、右手でブラジャーを、
左手でショーツを隠しながら、真っ赤になってうつむいていた。
「安心してね♪破れたように見えるだけで、実際はちゃんと感触あるでしょ?
魔法で模擬戦闘をする時は、こんな風に幻術を併用したりするんだよー」
「そんな事するのは、マロン先生だけだと思うんですけど……」
アメリア先生が突っ込むが、彼女は『それが当然』という顔で切り返す。
「大丈夫!わたしがエクセリオンバスターACSを習得した時よりも手加減してるから」
「だから、マロン先生を基準に考えないで下さいっ!!」
純粋な魔法攻撃力ならロマノフ先生に次ぎ、魔力量(マジックポイント)ならアカデミーの教師で一番。
反面、戦闘系と変身系のみに特化しバリエーションの少ないのがこの小さな先生の特徴だった。
「時間も無いしサクサク行くよー、次は学問。一問多答式クイズGO!」
「……今は集中だ。まだまだ安心できねぇ……気を抜くなよ、俺……」
不得意と思われるジャンルで得点を稼ぎ、シャロンの動揺を誘うこの作戦。
半分は運任せだったがどうやら現状では上手く行ってるらしい。
雑学1を制したことで次の雑学2に向けて大きな精神的優位を保ったまま進めるし、
今回の学問勝負に関しては、アロエ有利な点はいつもどおりだが、シャロンとレオンでは
実力差は少しだけしか変わらない(いつもはシャロンが若干有利)
もし、ここでレオンが勝てば勝負の流れは一気に彼に傾き、
シャロンが負けるようなことがあれば、ブラジャーを剥ぎ取られた上に彼女も崖っぷちに立たされる。
針の穴を抜けるような逆転のシナリオだったが、不可能とも言えない作戦だった。
実力が拮抗している場合、勝負は流れを制したものが勝つ。
球技、格闘技などは特にその傾向が強く、単体での能力に劣っていても、
流れを制する事に長けたものが勝利を手にする事が多い。
レオンは上級魔術師クラスまで成長した事で、理屈ぬきに身体でそれを知っていた。
そして、幸いにも予習していた問題も多く出た事により引き離される事も無く……
最後の一問こそアロエに譲ったものの、レオンは僅差での2位を守りきり、またも生き残った。
「……はぁっ、はぁ……どうだ、こんちきしょうめ!」
「………くっ……ま、また……負けてしまうなんてっ……」
2位通過とはいえ、今、勝負の流れはレオンが握っている。
シャロンは己の作戦が完璧に裏をかかれたことを知り、愛用のハンカチを引き裂かんばかりに悔しがった。
が、悔しがってばかりもいられない状況がすぐにやってくる事も知っている。
隣で物騒な詠唱が、今度はやけに長く聴こえてくるからなおさらだ。
『さあ、罰ゲーム……おしおきだべ〜♪最大出力、スターライト……ブレイカー!!』
マロン先生の頭上に、バスケットボール大の魔力球が浮かび上がる。
魔力の集積度合いの高さは、まさに彼女の部屋にある漫画コレクションの格闘漫画の一つに出てくる
【元気玉】と呼べるものにそっくりだった。
その迫力とエネルギーに、幻術と分かっていようと身体がすくむ。
アメリア先生は、どうしてこの人は無駄に凄いところに力を入れるのだろうと思いつつ、
たかがブラジャー一枚を脱がす(幻術だが)ために放たれる極太レーザーを見て、
この人だけは学院長にしてはいけないと確信した。
「あ、あぁっ……わたくしの胸……誰にも見せた事なんて無かったのにっ……」
幻術とはいえ、レベルの高い魔力に晒されたためかその破れ具合はリアルそのものであった。
下着の感触こそ残っているが、控えめな乳房と、綺麗な形をした乳首が白日の下に晒される。
肌の手入れは行き届いていて、下着同様絹のようになめらかで、
羞恥に身体全体を赤く染める様は、育ちの良さと歳相応の可愛らしさを同時に現している。
胸こそ標準より薄いものの、流れるような金髪に、細くしなやかな身体つきは、
モデルやアイドルと言っても決して疑われないほどに魅力的で、
当然の事ながらその裸体も、男の欲望を掻き立てるに十分な威力を持っていた。
しかし………
「どうしよう……恥ずかしくてまともに問題に集中できないっ……」
その美しさに反して、シャロンの心は今にも折れそうなほど羞恥に呑まれていた。
余裕を持ってレオンを追い落とすつもりが、見事に裏を書かれての逆転劇。
想定外の事態と、唯一コンプレックスを持っている小さめの胸を晒す羞恥心。
彼女の中での弱い心が、今すぐにでもギブアップを宣言しろと何度も要求する。
ライバルとはいえ、自分のみを心配してくれるアロエと、
鼻血の水溜りを作りながら血液不足と闘うサンダースが視界に入る。
そんな中、一人だけただまっすぐに自分を見つめているレオンが気になった。
「レオン……何ですのその目は。余計な気を使わず、笑いたいなら笑いなさい!
いつもからかうように、この貧しい胸を、この無様な格好を笑いなさいな!?」
叫びながら、自分でもただの難癖だと分かっていた。それでも止められなかった。
周りを攻撃してでも自分を奮い立たせないと、恥ずかしさに負けて泣き出してしまいそうだったから。
売り言葉に買い言葉で、笑ってくれればいい。馬鹿にしてくれればいい。
喧嘩すれば少しはいつもの自分を取り戻せる。そう思っての八つ当たりだった。
しかし、返ってきた言葉は全然別のもので……
「笑うわけねぇだろ!!むしろすっげー綺麗で、もっと見たい!!」
「………」
「な!?……」
「……レオンお兄ちゃん、凄い事言ってる……」
「うわぁ……レオン君、ちょっとカッコいいわね……」
「うんうん。今、ぴろりろーん♪って、好感度ポイントが上がった音が聞こえたわね」
レオンの発言に、コロシアム全体の時間が止まった。
「でもな……【今の】お前のハダカは見たくない。俺は男だから、女子が裸を見せるのが
どれくらい精神的にキツいことかは知らない。だけど、今のお前は恥ずかしさだけじゃねぇ!
暗くて、絶望的なカオしてて……似合わないったらありゃしねぇ!!
俺は親父のような大賢者になるって決めたんだから、絶対手は抜かねぇぞ。
だから、パンツ一枚になった今が丁度いい機会だ。さっさと降参して舞台から降りちまえ!
今のお前を倒す事に、意味は無ぇ!」
顔を真っ赤に染めながら叫ぶレオンに、嘘や誤魔化しの感情は一切無かった。
その瞳は何処までも真っ直ぐで、何かに押し潰されそうなシャロンの心を正面から捉え、
激しく、しかし心地良いばかりに打ち据えた。
「………」
下着一枚という扇情的な姿で、雷に打たれたようにシャロンが立ち尽くしている。
コロシアムの時間が、レオンからシャロンへ時間の中心軸を移し、ゆっくりと回り始めた。
「……確かに、貴方の言うとおりですわね先程のわたくしはどうかしていました……」
俯いた顔をゆっくり上げ、同時に胸を隠していた両手はまっすぐ下へ。
シャロンの胸が完全に露出し、ささやかながらも綺麗なふくらみと、まだ色も薄いが、
形も整い、ほんのり桜色に染まる乳首が……気のせいか誇らしげに見えた。
先程までの表情とは違い、恥ずかしさは残しつつ3度の敗北と自分の体型を認め……
コロシアムにショーツ一枚の半裸を晒してはいるが、それが神々しいまでに美しい。
「このわたくしの肌……誰にでもほいほい見せていいとは思えませんが、
今の貴方と全力で闘うためなら、ショーツを脱ぐことくらいに躊躇はありませんわよ。
逆にあっけなくミスしたりなんてしたら……本気で怒りますわよ」
本来、相手のミスは喜ぶべきものだが……どうやらシャロンの性格上それは余計な事らしい。
「マロン先生……最後の一枚、賭けさせていただきます。
その事で先生を恨んだり、糾弾したりもしません……ですから、お願いします……
彼と……彼らと、全力で闘わせてください!!」
「ん……OK。野次馬に覗かせたりマジックペットに記録させたりとかは絶対させないから、
思う存分いっちゃいなさいっ!アメリア先生、ヨロシク♪」
「はいはい……ちゃんとやってますよ、さっきから。シャロンちゃん……頑張って!」
「ふふ……ありがとうございます。最高の勝負を御覧に入れますわ」
「アロエちゃんとレオン君もね。悔いの残らない決勝戦にしなさい」
「はぁい!」
「ッス!!」
「さーて盛り上がってきたよ!二人はチェックメイトが掛かってるから気をつけてねー♪
最後の雑学2で、誰かが落ちるか、それとも全員がけっぷちか〜GOGO!」
「……絶対、状況を楽しんでるわね……この人」
ノリノリのマロン先生とは対照的に、アメリア先生は魔法障壁でMPを使い、元気が無くなっていく。
出場者全員が羞恥と緊張に耐える中……最後のターンがはじまった。
魔法少女リリカルリーフの放送まで、あと1時間半の出来事だった。
■つづく。