何かにとり憑かれたように全員が正解を連発する様相は、もはや大魔導師や賢者の戦いを連想させる。  
知っている問題はもとより、よく分からない問題でも勘と読みで捻じ伏せる離れ業を、  
全員がやってのけた。  
クイズ勝負の基本は知識量だが、レベルが同程度なら回答の速さも要求され、  
それも同じレベルなら、あとは精神面の強さが鍵を握る。  
レオン、シャロン共に【絶対に負けたくない】と言う気持ちが全てに打ち勝ち、  
気迫で勘と運を引き寄せ、勝利を手繰り寄せる。  
全員の本気がぶつかり合い、コロシアムは魔力の波が微妙なバランスで積み重なっていき……  
決勝戦を闘うメンバー達にさらなる負荷を掛けた。  
 
「2番だ!!」  
「2番ですわ!」  
「えっと…2番!」  
 
4択問題をほぼ同時に答え、正解を叩き出したら次の問題へ。  
数をこなすうち、それぞれの額には汗が滲み、頬を伝って流れ落ちる。  
脳の回転は上がり、熱量は汗となって汗腺から放出され、身体を冷却する。  
女性陣の衣服は透明化の魔法が掛けられている為、汗がうかび上気した様子がはっきりと分かる。  
 
ただ一人、外から様子を見ていたサンダースが、シャロンとアロエの真剣ながら……  
いや、真剣であるが故に美しく、艶かしい肢体に脳髄を翻弄されていた。  
 
「落ち着け……落ち着け!私はこの世のトップとなる存在。トップ…そう、TOP……  
トップレスのシャロン女史……っく、何を考えている!!私の阿呆!!」  
激しい知識の応酬も、外面だけ見ると破廉恥極まりない絵面でしかなく……  
回答する度はげしく動くシャロンの胸が揺れ、アロエのツインテールと共にキャミソールが上下し、  
可愛らしいおへそが見え隠れする。加えて、前からは下着のリボンが、  
後ろからは下着のプリント柄である猫のイラストが見え、目が釘付けにされてしまう。  
サンダースにとっては、天国と地獄を同時に味わうが如き刺激だった。  
 
「うお……い、意識が……あと少しなのだ、我は耐えてみせるっ……」  
 
誘惑に負けまいと向き直ったサンダースの目に、アロエの苦悶する表情が見える。  
強さを増す魔力の奔流に、その小さな身体が悲鳴を上げていた。  
よく見れば、ほんの少しだけ……回答時間がずれて、微妙な点差が開いている。  
レオンとシャロンのまったく互角といっていい魔力に、じりじりとアロエが押されていた。  
しかし、一問のミスで即座に覆るくらいの点差であり。決定的なものでは無い。  
 
体力に劣りながらも決して諦めず、自分の全てをぶつけるアロエを見ていると、  
能力に任せっきりで、実力以上のものを常に出すほど自分は真剣だったか……  
そんな風にサンダースは反省させられた。  
「わたしに欠けていたものを、この者達は持っているのだな……これでは、落ちて当然だ」  
 
普段の彼に珍しい謙虚な気持ちが芽生えた時……最後の一問が出題され、  
全員が回答を終えた。またも答えは全員同じ。オールパーフェクトでのフィニッシュ。  
上級魔術師クラスにあるまじきレベルの高い攻防だった。  
 
「レオン君95.2、シャロンちゃん95.2、アロエちゃん……92.8で終了だよ!すっごーい♪」  
「見てるほうも疲れるような試合だったわね……みんな、よくやったわ」  
「でも、一応ルールだから……ごめんね、アロエちゃん……おまけしておくから勘弁ね。  
リリカル、マジカル……ディバイン・シューター!」  
 
マロン先生の言う【おまけ】が普段とどう違うのかは誰も知らないが……  
小さめの光球が4つほど浮かび、電撃を帯びながらアロエに向って突進した。  
 
「ひっ……きゃぁあぁぁっ!」  
激しい電撃と共にアロエのキャミソールが引き裂かれ……ほとんど膨らんでいない胸が露出した。  
「ひゃぁんっ……だ、だめぇっ……こんなの、恥ずかしいよぅ……」  
「ぐほぁうっ!!」  
アロエが両の手で胸を隠すと同時に、地響とともに何かが倒れる音がした。  
「あらら……サンダース君、リタイアね……可愛そう」  
ミランダ先生、のんきな事言わないで!!この出血で倒れたんだから危険ですよ」  
「はーい、まぁ、若いから命に別状は無いと思うけどね……保健室に運びますよっと。  
アメリア先生、あとの進行はよろしくねー」  
 
(進行って……ミランダ先生、最初から何もしてないんじゃ……)  
アメリア先生の頭にそんな疑問が浮かぶが、今は生徒の無事が一番なので突っ込むのは止めておいた。  
「さて…アロエちゃん。申し訳ないんだけど一つだけ教えてね……ぱんつ、賭けてもう一回行く?」  
質問されて、はじめて自分に続行の選択権があることを思い出す。  
だが、今の戦いを終えてアロエには自分の成すべき事が見えていた。  
 
「うぅ……ごめんなさい、降参しますぅ……」  
おそらく、今の自分は気迫でこの二人に遠く及ばない。  
優勝を賭けて争うのは、きっとこの二人が相応しいのだろうと確信できた。  
「そっか……お疲れ様。よく頑張ったわね。そして、はい。メダルをあげるわ…おめでとう」  
アメリア先生が自分のマントをアロエに掛けてやり、ブロンズメダルを進呈する。  
これで正式に3位が決まり、残るは優勝決定戦のみ。  
 
勝ち残った二人の気合が炎のように会場を奔る。  
どちらが勝つかという結果より、今はただこの勝負を見届けたい。  
会場にいる全員がそう考えながら、決勝ラウンドの開始を今や遅しと待ち構えていた。  
……ただし、一人を除いて。  
 
「うーん、リリカルリーフまであと1時間っ……ちゃっちゃと片付けないとね♪」  
 
 
 
■最終戦へつづく。  
 
 

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