「うーん……上級魔術師クラスになると、なかなか勝負もつかないね……
今日は魔法少女リリカルリーフの再放送があるから、早く帰りたいんだけどなー」
マロン先生の少々不謹慎な発言とは裏腹に、生徒達の表情は真剣そのものだ。
今回の決勝戦は、間違いなくアカデミーの歴史に残る名勝負になるであろう。
4人全て正解数は同じ。早さも同じ……達人の域に近付くと、紙一重の差が勝負を分けるというが、
今回集まった4人も、そんな才能の片鱗を見せていた。
レオン、サンダース、シャロン、そしてアロエ。
予選を勝ち抜き多少疲れているはずなのに、それを感じさせないほどの勢い。
担当教官であるマロン先生とミランダ先生は、教え子の成長を喜び、同時にこの素晴らしい決勝戦で
司会進行役を務める事に、教員としての生き甲斐を感じていた。
……はずなのだが、3度の飯より大好きな魔法少女アニメの放映がもうすぐとあっては話は別。
延長戦で再試合というのはまっぴらごめんというのがマロン先生の信条であった。
加えて、ざっくばらんで開放的な性格のミランダ先生が加われば、事態は暴走してくれと言ってる様な物。
マロン先生の何か企んだ表情を、ミランダ先生が見逃すはずは無かった。
「ねぇ、ミランダ先生……今回は、特別ルールの決勝戦でいこっか?」
「……また何か企みましたね、マロン先生…………ふむ、ふむふむ……
うん、面白そうじゃないですか。乗りましょ、そのお話」
「おっけー!じゃ、アメリア先生が会場の許可を取って戻ってくる前にはじめましょー」
言うが早いか、マロン先生が女性特有の丸文字で決勝戦のタイトルを決めた。
愛用のステッキで書かれたその特別決勝戦のタイトルは……
『うれし恥ずかし、羞恥心とプレッシャーに打ち勝て!脱衣クイズ杯♪』
会場の使用許可を取ってきたアメリア先生が目を点にするのはそれから5分後。
……すなわち、決勝戦の開催が決定してからの事だった。
「一体、どう言う事ですかっ!!」
アメリア先生とシャロンの甲高い声が会場に響き渡る。
「だからー、上級魔術師クラスともなれば、実力が拮抗してくるでしょ?つまり、
純粋な知力だけじゃなくって、プレッシャーとかいろんな条件下での実力を養うカリキュラムなの」
「……」
となりでミランダ先生が『よくもまぁ、ここまで口先三寸を……』と内心思い、肩をすくめる。
が、自他共に認めるお祭り好きであり、若いうちは色事の一つや二つ経験するべきという信条の
彼女だからこそ通った計画であり、決勝戦でもあった。
この状態の二人を止める術は……多分、いや、おそらく無い。
アメリア先生は、せめてロマノフ先生に見つかりませんように、と心から願うしかなかった……
「じゃ、ルールを説明するね。予習と同じ6問形式で1ラウンド終了。得点が一番低い子が罰ゲーム。
男の子は今まで獲得したメダルを、女の子は今着ている服を一つづつ没シュートしちゃいまーす!」
「ちょっと待てよ!俺達はメダル取られるの?不公平じゃね?」
「ふふーん、分かってないねレオン君。それくらい大事なものを賭けての闘いじゃないと、
気合が入らないじゃない?男の子が脱いでも面白くないしー」
「そうよ。女の子からすれば、メダルを取られる方がマシだと思うけどなー」
「ぐ……そ、そりゃそうだけどさ」
正面切ってマロン先生とミランダ先生に説得され、レオンは了承せざるを得なかった。
「ふむ、そう言われては引き下がるわけにはいかん。どのみち優勝はわたしが貰うのだから」
サンダースの反応はいつもと変わらない。
「じ、上等ですわ!……このわたくしが肌を人前に晒すというリスク…確かにメダルより価値があります。
それに、負けなければ一枚も脱がずに特別メダルをこの手に出来る……断る理由はありませんわ」
「うー……どうしてもやらなきゃダメなら、仕方ないけど……恥ずかしいなぁ……
負けたらお嫁にいけなくなっちゃうよぅ……」
まかせて、とばかりにマロン先生は胸を張って説明を続ける。
「その辺は大丈夫。倫理的な規定もあるし、男の子はメダル4つまで。
女の子は最後の一枚になったらギブアップの権利を認めるわ。
ギブアップが出た時点で最下位が確定。以下、3位、2位と決まっていくサドンデス形式。OK?」
「あの……せめて女子はプラジャーを脱ぐ時点でギブアップの権利を与えた方が……」
アメリア先生が少しでも暴走を止めようとするが、残念ながら焼け石に水にしかならない。
「それだと、メダルを没収するリスクが減るし、ブラを付けてないアロエちゃんが不利でしょう?」
「!?」
保健担当でもあるミランダ先生は、当然ながら生徒達の身体情報も把握している。
言われて真っ赤になるアロエを見ると、どうやら真実のようだ。
「それと、靴とかリボンとか、小物の脱衣は認めません、シャロンが有利になるからね」
「……の、のぞむところですわ!負けなければどうと言う事はありませんっ!」
どんどん悪化する事態を、指をくわえてみていることしか出来ない自分がもどかしい。
隣にいるのがせめてリディア先生だったら……いや、あの人は天然だから流されちゃう。
なら、ガルーダ先生なら……いやいや、勝負と名が付けばあの人は大抵のことは認めてしまう。
アメリア先生は再び、せめてロマノフ先生だけには見つかりませんように、と心の底から星に願った。
もし見つかったら、始末書+減俸処分という事態が、水晶玉無しでもイメージできるから。
「さーて、みんながドコまでプレッシャーに耐えられるか、訓練だよ!決勝戦、はじめ!」
そうして、【違う意味で】アカデミーの歴史に残る決勝戦がはじまった……
■本編へつづく。