それはある日のこと。  
 
「……なあ、ええか?」  
「まだ早くない? 焼けてないよ」  
「誰がメシの話しとるっちゅーねん」  
ヘラでお好み焼きをひっくり返しながら応えたら、いきなり否定された。  
いや、それだけじゃわかんないっての。  
 
それでも大した話じゃないだろうと軽く考えた私は意識をお好み焼きにもどす。  
今、店の中にいるお客は私とタイガの二人だけ。  
お昼からだいぶ遅い時刻と(授業は午前中に終わって、それから少し遊んだ)  
お店に大した特徴がないのと(他に安い店があったけど、混んでいた)何より人通りの少ない場所に  
たっている(次来るときまでちゃんと営業しているか心配になるほど人がいない)おかげで、待たされる  
ことも急かされることもなく、ゆっくりと食事ができた。  
 
畳を敷いた席でブーツを脱いだ足をくずしながら、鉄板とにらめっこ。出来上がりまであと数分。  
あー……まだかなまだかな? 焼けたらソースをたっぷり塗って青海苔かけて鰹節も……  
 
「聞けや人の話」  
「いたぁっ!?」  
いつの間にか私の隣に移動していたタイガがメニューで私の頭を叩いた。  
って何で角で叩くわけ!  
 
「ばかぁっ! けっこう硬いんだから平らな部分使ってよ!」  
「叩かなきゃならんほど夢中になってたのは誰やねん。ほんっまに食い意地のはったやっちゃの……」  
文句を言ったら、心底あきれた口調で馬鹿にした。  
うあー! ムカつくムカつく! ぜっったい後で骨がきしむほど間接かける!  
だけどそんな私の復讐心などにはまるで気づかず、タイガは器用にお好み焼きをひっくり返していた。  
取りあえず、気を取り直して話をきくことにする。  
 
「で、わざわざこっち側に来てまでなんの話?」  
「んー……いや、まあそろそろ……」  
……なんか決まり悪そう。  
顔はこっち向いてるけど、視線は斜め下のあっちの方、態度もはっきりしない。  
推測しようにもそろそろだけじゃ……ん? そろそろ? ……まさか!  
 
「や、やだ待って! 籍を入れるのならもう少し先……」  
「ちゃうわ! 定職にも就いとらん学生が結婚できっかアホ!」  
 
あれ? 不正解?  
 
「……違うの?」  
「んなわけあるか」  
「じゃあなに?」  
「…………」  
やっぱり気まずそうな顔。  
しかもよく見るとどこか罪悪感がありそうな……ん? 罪悪感?  
……まさか!  
 
「いやぁっ! なにしたかわかんないけど罪を犯したんならちゃんと償ってえっ!」  
「しとらんわぁっ!」  
「もう止めて! 嘘つかないで! 私待ってる! 何年でも待ってるから自首して!」  
「……ぃいかげんにせいやぁぁっっ!!」  
 
ゴッ!  
 
……今度はメニューの代わりに拳骨がきた。後頭部が痛い、ひどい……  
 
「ばかぁっ! けっこう痛いんだから平手にしてよ!」  
「……ええけどダメージ変わらんで」  
さっき以上に呆れた口調で私にツッコんだうえに、駄目押しと言わんばかりの大げさなため息。  
うああーー!! ムカつくムカつくムカつくムカつく!!  
もう間接だけじゃおさまんない! こうなったら休憩なしの3ラウンドで……  
 
「……ス……」  
「え?」  
宣戦布告を突きつけようとしたその矢先、タイガの口が動いた。  
決して滑舌が悪いわけじゃないのに、声が小さくて聞き取れない。もちろん聞き返す。  
 
「なに?」  
「いやだから……『そろそろセックスええか?』って……」  
……絶句ってこういうときに使うんだと思う。  
なまじ言ってることが理解できただけに、対応する言葉がなにも浮かんでこなかった。  
セックス? 私とタイガで? それボケ?  
 
「おい、聞いてるか?」  
「は、はいぃっ!?」  
人工的な金縛りをかけた張本人に声をかけられて、やっと拘束が解ける。  
変な声で変な言葉が出た。  
 
「――俺ら、つき合い始めてそろそろ二ヶ月くらいになるやん」  
私の意識がタイガのほうに向けられていることがわかると、今度はちゃんと聞こえる声で話を始めた。  
うん、取りあえず、話の前提は理解した。  
 
「で、その間にしたことは、キス、ハグ、手をつなぐ、この3つな」  
「それがどうしたの?」  
話が見えず、適当に当たり障りのない相槌を打つ。  
――その瞬間、タイガが握り拳でテーブルを叩いた。  
 
「……何でやねん」  
「……え?」  
「な・ん・で二ヶ月も経ってここまでしか進んどらへんねん!」  
声を張り上げて、再びテーブルをバン。これで殴られたら痛いだろうなってくらい、タイガの拳は  
かたく握り締められている。っていうかなになに? なんなの? タイガがご乱心?  
 
「俺の予定じゃんなもんとっくに済ませたうえに、『ねえ、タイガ今日もいい?  
ダメって言っても行っちゃう』ってな具合に俺を困らせとるはずなんやぞ! なのに現実は  
ちゅーまでしかしとらんやん! ほんっっま何でやねん!」  
うん乱心だ。  
いつもは誰に対してもツッコミ役のタイガだけど、たま〜に明後日の方向にキレると、  
こんな風にはっちゃける。え〜と今回の原因は欲求不満?  
 
「もう俺は我慢ならん、つーか我慢できん! 明日俺の部屋こいや!」  
「あーもうわかったわかっ……えぇっ!? なに言ってんのよバカ!」  
「バカぁ? いつかは辿る道が明日になっただけやろが! 文句言わずに来い!  
部屋が嫌ならホテルでも何でも俺が好きなとこへ連れてったるわ!」  
 
うわあ……目が完全にイッちゃってるよ……  
多分なにか言っても聞いてくれないだろうな……  
っていうか何でこんなにせっぱ詰まってるんだろ? 私なにかしたかなぁ……?  
 
 
告白された時:  
 
「なあ、キスだけじゃ治まりつかへんから、よければこのまま……」  
「な、なに言ってんのよバカ! いくら何でも飛びすぎ! ちゃんと段階は踏んでよ!」  
 
 
三回目のデートの時:  
 
「なあ、その……今日は俺の部屋泊まってかへん?」  
「え……! ご、ごめん、まだちょっと心の準備が……」  
 
 
連休前:  
 
「なあ、明日休みやし、つき合うて結構たつしそろそろ……」  
「……ごめん、今日から生理……(嘘)」  
 
 
あ、3回も断ってた……  
 
 
「おい、聞いてんのか!」  
「は、はいぃっ!?」  
怒鳴られて強制的に意識が蘇生、再び変な声で返答する。  
もうこいつがガラの悪い体育教師かヤクザにしか見えないよ……  
 
「そ、そんなの突然言われても……」  
「お前いつもハラハラドキドキワクワクするようなことしたいって言っとるやん、  
なんでセックスごときで怖気づくねん?」  
……セックスだから恐いんだっての。  
ハラハラドキドキの種類は違うし、興味もないことはないけどやっぱり不安のほうが大きいし、  
第一よくよく考えてみたらワクワクしてるのタイガじゃんか!  
 
「……ねえ、明日じゃないとダメ? まだ心の準備がさ……」  
「あかん」  
譲歩しようとしたら、一言で切り捨てられた。  
 
「『近いうちに必ず』なんて言うのなしな。問題先送りにしようったってそうはいかんで」  
その上、言おうとした台詞と目的まで封じられた。  
だめだ、今のこいつに勝てる気しないよ。私このまま犯られちゃうのかな……?  
 
「おい、なに望まぬ契りを交わすはめになった町娘のような顔しとんねん?」  
「……だってその通りだし……」  
「……ぁあっ! 体やのうて俺の心が目当てでつき合っとったんかお前はぁっ!!」  
「それが普通でしょーっ!?」  
 
やばっ! またキレ始めたよ! しかもボケ!?  
 
「あ? 彼女の裸みたいちゅー俺がそんなに変か? 欲情したらあかんのか?  
俺はなあ…………お・ま・え・のパンツすら見たことないんやぞぉごるぅあぁっ!!」  
「いやーっ!? 大声で変なこと言わないでよバカーっ!!?」  
もう何を言ったらいいのかわかんない。下手なことを言ったら火に油を注ぐような気がして何も言えない。  
でもこのままだとタイガの暴走は止まらないだろうから、思い切って声をかけた。  
……不覚にも、その言葉が油だった。  
 
「ね、ねえタイガ、取りあえずお好み焼き食べちゃおうよ? 焦げちゃうし……」  
「お好み焼き? ……人が大事な話しとる時に、お前はお好み焼きに気ぃとられてたんか?」  
「え……いやそういうわけじゃ……」  
いきなり声が低音になって、選んだ言葉が失敗だったことに気づく。  
慌ててフォローしようと頭をフル回転。だけど間に合わず、タイガはいきなり私に抱きついて、  
そのまま後ろに押し倒し……ってええーーっっ!!?  
 
「いやあぁぁっ!? なに考えてんのよバカバカバカ!!! お店の中でしょーっっ!!!?」  
「知るかぁ!! 俺のこと以外はなにも考えられんようにしたるわあ!!!」  
「やだやだ放して……! きゃああっ!? お尻さわんないでよーーっ!!?」  
「んー? いいケツしとるのぉ? どれどれ、ユリちゃんの今日のパンツの色はと……」  
「止めてー!! めくらないでーーっ!! いやぁお好み焼きが見てるーー!!」  
「はっ! ちょうどええわ! お前の心奪ったモンにこの女は誰のもんか見せつけたるわ!!」  
 
突如、午後1時のドラマになった店内に、私とタイガの声が二重奏になって響いた。  
私たち以外にお客はいないから、当然誰も止めてくれない、助けてもくれない。  
けどこんな形で処女喪失なんて絶対いやぁっ!! 誰かー! 誰か助けてーー!!  
 
ふと気がつくと、厨房の入り口で店主らしき人がうな垂れていた。  
……たぶん久しぶりに来た客がこんなんだったからだと思う。  
 
 
* * *  
 
 
で、時間が経過して今は問題の日の夜、タイガの部屋。もっと正確にいうとタイガのベッドの上。  
雀よろしく二人仲良く並んでお座り。だけど部屋に入ってから、お互いにひと言も言葉を交わしていない。  
 
お好み焼き屋でのお戯れ事件のあと、私は約束を結ぶことで何とかタイガの暴挙を治めた。  
絶対条件として提言したのは、無茶なことはしないことと、避妊はすること。  
……ってこれはわざわざ条件に出さなくてもしなきゃいけないことなんだろうけど……まあ、いいや。  
 
それよりもこの無言、無言、無言。  
正直、私とタイガが一緒にいてこの静寂はありえない。でも現実にお互いの口から言葉は出ない。  
なぜ会話がないのか? ――むろん、会話の切り出しが『始まり』になることがわかっているからだ。  
 
「…………」  
 
たぶん30分は経ったと思う、だけど沈黙はいぜんとして変わらず。  
ってなんで何もしゃべらないのよ! 誘ったのはあんたでしょーが!  
こっちはあんたのために恥を忍んでルキアに必要なことを教えてもらって(もうとっくに済ませていたもの  
と思っていたらしく、意外そうな顔をされた)、昼食が5回は食べられる下着も買って(ルキアは15回分  
だそうだ)、その……行為の最中のこととか男の子の体のこととか教えてもらったり……  
あー! いいから何かしゃんべりなさいよお!  
 
「――おい」  
「は、はいぃっ!?」  
いやーっ!? 急にしゃべんないでよー!? びっくりしたあ……!  
 
「あらためて聞くけど……ほんまにええか……?」  
「……?」  
「その……俺あんなこと言うたけど……お前が本気で嫌なら別に……」  
確認≠ゥら始まった台詞の、その二言目は譲歩≠セった。  
普段からきつそうに見える瞳が微かに揺れている。タイガとつき合い始めてから数えればまだ日は浅いけど、  
知り合ってからなら結構経つ。だからわかる事だって当然ある。  
その一つは、こうやって逃げ道を作ること。相手にはもちろん自分にも。  
 
もちろん、そんなのはタイガだけじゃないってことぐらい知っている。  
だけどタイガの場合それが少し敏感で、どんなに些細な出来事でも、それがなにかしらの取り返しの  
つかなくなりそうな事態を孕んでいるのなら、(しかも相手にも影響が及ぶ可能性があるのなら)  
すぐに嗅ぎつけて予防線を張っている。まるで防犯のセキュリティが作動するときみたいに。  
 
(ああ見えて、結構デリケートなんだよね……)  
『怖そうに見える人ほど繊細だ』なんて言葉があるけど、タイガは間違いなく申し分のない例の  
ひとつになると思う。  
 
「……俺かて無理はさせたないし……万が一があるかもしれんし……」  
まだタイガは言い訳みたいな台詞をぶつぶつと続けている。当然、目は合わせない。私が聞いている  
かどうかの確認なんて多分していない。……私が聞いてなきゃ、ただの大きな独り言だっての。  
私はタイガの顎をつかむと無理やり自分の方へと向かせた。  
 
「……つまり何が言いたいかというと――ぐおっ!?」  
不意をつかれた時にふさわしい声をあげて、タイガと私の目が合う。いや、正確には合わせる。  
逸らされないよう注ぐ視線に力を込めると、私の狙い通り、タイガの目線は私の瞳の延長線上に留まった。  
 
「お、おい……」  
「……なんで急にそんなことを言い出すわけ?」  
「え……いや……?」  
「マジで嫌なら部屋なんか来ないっての」  
バカバカ本当にバカ。気を使うんなら、するしないの選択肢を私に選ばせるんじゃなくて、  
怖くないから大丈夫≠チてそれくらいドンと構えて安心させてよ。  
お好み焼き屋で変な風に誘われたけど、求めてくれて嬉しかったんだからさ……  
 
ほんの一瞬、タイガの瞳孔が奥に小さくなってすぐに元に戻る。同時に全身の緊張もとけたようだった。  
今度の沈黙は非常に短い時間で済んだ。  
 
「……まあなんだ……シャワー浴びるか?」  
「うん」  
やっと見せてくれたタイガらしさに、私は思わずほころぶ。  
 
「じゃあ先に浴びてくるね」  
「おう」  
声をかけて浴場へと向かう。取りあえず、事態は一歩前進かな?  
 
15分後  
 
「ちょっとー!? なんで下着しかないのよ!?  私の服はーっ!!?」  
「隠しといた。俺が浴びている間に逃げ出さんための逃亡策な」  
「なに誘拐犯みたいなことしてるのよ!」  
「ちなみにクローゼットに鍵かけといたから俺の服着ることもできんで。じゃ、シャワー浴びてくるわ」  
「いやー!? 待ってー!?」  
取り返しのつかない事態に対して気を使うタイガは、一旦行動を決めると容赦しない。  
……あれ? 私、選択まちがえた……?  
 
結局、下着姿で待つはめになった。特に恥ずかしいと思わなかったのは、タイガだから安心できるので  
あって、決して恥じらいがないわけじゃないと信じたい。  
 
 
* * *  
 
 
私以上にたっぷり時間をかけて、やっとタイガが浴場から出てきた。  
なんで女の私よりも時間が、かかってるんだろ? たんなる綺麗好き?   
私が横着で体をろくに洗ってないから? それとも逃げ出せない事がわかってるゆえの余裕?  
……最初の理由以外やだな。  
 
「…………」  
「な、なによ……」  
出てきたなり、濡れた髪をタオルで拭きながら、無言で私を見つめてくる。  
上半身裸の下は黒のストレートスウェット、いつもは後ろにかきあげている前髪は今は水分を含んで額に  
落ちている。それをタオルですくい上げてゴシゴシ。  
あれ? もしかしなくても前髪おろしてるタイガ見たのこれが初めて? ちょっと可愛いかも……  
と、見とれていたのもつかの間。  
 
「――!」  
無口のまま立っていたタイガが、いきなり歩きだした。目的地はもちろん私。  
声をかける間もなく、いきなり左肩をつかまれる。  
 
え? え? なに? まさかもう始めるの!?  
ぎゃー!? ちょ、ちょっと待って! 普通こういう時ってなにか前置きみたいなものがあるでしょー!?  
「してもいいか?」みたいな台詞はないわけ!? なんの合図もなくいきなり開始だなんて、あんた武道の  
世界じゃ無礼者……って顔ちかづけないでー!? イヤーイヤー!? ぎゃぼー!!?  
 
「……っ!」  
数秒先の未来の予想にこらえきれず、目をつぶる。すぐそばの気配が徐々に濃くなる。  
そのまま、唇が熱くなったような気がして……  
 
「……ぶっ!」  
突然、吹き出す声が響いた。誰かが部屋に入ってきたわけでもないから間違いなくタイガだ。  
不審に思って目を開けると、タイガの顔は私の真正面ではなく、頭一つ分ずれた左側にあった。  
ん? 左? そういやさっきから左肩をつかまれているような……  
え? なに? 左肩になにかあるの?  
 
「…………」  
 
あった。……値札が。  
 
「嘘ぉ! ありえないぃっ!!」  
「お前にしちゃずいぶん値の張るの買うたなぁ? どれ? 昼食3回分ぐらいか?」  
「5回だもん! そんなに驚くほど高くないでしょーが!」  
「それでも少ないやん、俺かてこの値段ぶん使い切るには確実に8回はいくわ。  
でもまあ、ええか。俺のためにわざわざ可愛い下着新調してくれるユリちゃんはほんまにええ子やのう」  
「バカー! 別にタイガのためだけじゃないんだからあ!」  
「わーったわーった。んーよう似合っとるでー」  
 
……最悪だ……。ごく単純なミスのせいで、この場と流れの主導権は完全にタイガのものだ。  
なにを言ってもツンデレに変換されて言いくるめられる。  
なんだか今ならシャロンと深いところで語り合えるような気がするよ……  
 
「あー幸せすぎて俺とけそう……」  
「勝手にとけててよバカ!」  
さっきまでの張り詰めた空気はどこへやら、この砕けた空気はいつものそれだ。  
……でも、ちょっと助かったかも。あんな気を張った雰囲気よりも、こんな風にギャーギャー  
騒ぎあっているほうが断然いい。だからといって初行為のときまでこの調子じゃ困るけどさ……  
 
「ほれ、いいかげん機嫌なおさんかい」  
いつまでもむくれている私に、タイガが子どもをあやすように抱きしめてきた。ついでに頭も撫でられる。  
ふーんだ、こんなんじゃ誤魔化されないんだからね!  
……と、言いたいところだけど、やばっ、ちょっとドキドキする……  
 
私は下着、こいつは上半身の裸。肝心な部分は隠してあるけど、それ以外は何も布がないから、  
結果、大部分が素肌と素肌でぴったんこ。俗にいう心臓に一番近い距離≠ナいいのかな?  
あ、何だかんだ言って、やっぱこいつ筋肉ある……細く見えるのに羨ましい……暖かくて気持ちいい……  
……もうちょっとこのまま……ん?  
 
「きゃっ!?」  
柔らかい幸せに浸っていたその刹那、タイガのとんでもない行動で中断される。  
なんでお尻をさわるのよ!  
 
「た・い・が〜……」  
「相変わらずいいケツしとるのう……」  
もろオヤジみたいなことを言いながら、背中に回した手を下にずらしてサワサワ。  
いやサワサワじゃないって。もう! せっかくの甘い空気が台無し! よーし、これ以上ふざけるのなら、  
取って置きのユリスペシャルを……  
 
「――――――ッ!?」  
 
ぞくりとしたものが背筋を通り抜けた。  
 
「えっ……!? や、やだ……!?」  
「おー、やっぱ生は違うな」  
いつの間にか、するりとショーツの中に手が差し入れられていた。  
お尻の表面を、直接タイガの手がすべる。丸く撫で回し、太腿のつけ根付近にまで深く潜らせたあと、  
ひと息に上まですべらせる。再び悪寒。  
 
「この弾力がまた……ええもん持っとるわお前」  
「ちょ……やめてよ!?」  
しまいにはつかむように揉みだして、思わず突き飛ばし、離れる。  
ドクドクと鳴る心音が異常なほど速い。だけどそれは、嬉しいときに感じる、あの高揚感を煽るような  
ものじゃなくて、もっとずっと危険が迫ったときの警告音のような嫌な音。  
戸惑いながらタイガの顔を見据える。――困った顔をしていた。  
 
「……やっぱ止めとくか?」  
申し訳なさそうな声、申し訳なさそうな顔、その二つを合わせた答えはタイガの後悔。  
ああ、『始めよう』としていたのか……  
それも私が緊張しないよう、できるだけ自然な流れにしようとして。  
理由がわかって、胸の警告音がすこし緩くなる。  
 
どうしよう……  
嫌なら部屋には来ないといった手前(実際、恐怖があるだけで嫌じゃない)、私はなにが  
なんでもやり遂げるつもりだった。いつも、いつかは『あげたい』って考えてた。  
この機会を逃せば、次はもっとずっと後になることだってわかっていた。  
 
だけど怖い……身体的な心配はもちろん、なんだか取り返しがつかなく≠ネりそうで怖い。  
逃げ道作ったタイガのことなんて笑えないよ……私が一番、臆病だ……  
 
「無理せんでええから、な?」  
何も言わなくなった私にタイガが気をつかう。肩を抱いてそばへと引き寄せられる。  
……暖かい……嬉しい……優しい………………泣きたい。  
こんなに自分が情けないって思ったことはなかった。  
 
「……て…」  
「ん?」  
「……して……平気……さっきは、びっくりしただけ……」  
「いや、でもな……」  
「大丈夫……私は大丈夫だから……」  
「お、おい、待て……! 少し落ち着け……」  
「…………―――――大丈夫って言ってんでしょおっっ!!!!!」  
 
さっさと始めなさいよこのバカ!!! 私は平気! ぜっっっっっったいに平気!!!!!!  
体力には自信があるし、痛いことにはなれっこだし、だいたいセックスくらい私の敵じゃないっての!!  
気合をこめてタイガを睨むと、ほんの数秒間だけ呆けたように私を見つめた。そして……  
 
「……ぶっ!」  
吹き出した。毎度お馴染みのあの笑顔で。  
 
「さよか」  
納得したように頷いて、さっきのように正面から抱きしめてきた。  
ちょ、ちょっと、今度はいきなりお尻さわらないでよね!  
 
「そうそうするかボケ」  
やっぱりお馴染みの憎まれ口を叩きながら――私にキスをした。  
 
 
* * *  
 
 
「…………っ……!」  
「おー♪ やっわらかいのー!」  
あお向けに寝かされながら、ぐにゅぐにゅと、タイガが私のおっぱいを揉みしだく。  
ホックをはずしたブラジャーを上へとずりあげたまま(タイガいわく、脱がすのはもったいないそうだ)、  
手のひら全体を使ってこね回している。タイガの手のひらで、乳房はおもしろいように形を変えていた。  
 
「わかっちゃいたけど、結構でかいな……クイズに正解するたんびにこう揺れて……」  
「ちょ、ちょっと……遊ばないでよ……!」  
下からすくい上げるようにして、たぷたぷと故意に揺らし始める。  
そんな風にされると自分の胸が、なんだかとてつもなく卑猥なものに見えて恥ずかしい。  
 
「……!」  
「少し固くなったか……?」  
不意にタイガが指が乳首をぎゅっと摘まみあげた。  
さっきのあの嫌な悪寒が背中に走って、思わずあげそうになった声を必死に抑える。  
指はそのまま、乳房の中に乳首を埋めるようにぐりぐりと押し付けだした。  
 
「コリコリしてきたな……なら、もうちょっと重点的に……」  
「……んっ……!」  
「おら、声我慢すんな」  
「あっ!」  
クリクリと乳首をひねっていた指で、右の突起をピンと弾かれて、とうとう私は声をあげた。  
恥ずかしくて無理やり口を閉じたけど、出た声がもどるはずはない。  
もう一度、タイガが乳首を弾く。今度は両方同時に。今よりも高い声がでる。  
 
「…あっあっ……やぁ…!」  
「ん? 指でこねるよりもこうやって弾いたほうがええか?」  
両の乳首の上に添えるように置かれたタイガのひとさし指が、箒で掃く時みたいに前後に擦るように  
素早く動かす。ぷるぷると指に合わせて乳首が上下に揺れた。弄ばれ、乳首が完全に固くなる。  
 
「もうビンビンやん……どれ、少し味見したろ」  
「やっ…!?」  
止める間もなく、左の乳首がタイガの口の中に隠れる。  
びりっとした刺激が頭からつま先までを一直線に駆け抜けた。  
 
「んー、美味いでぇユリちゃんの乳首」  
「んんっ! んっ! うぅ……駄目ぇっ!」  
突起にねっとりとしたものが絡みつく。まんべんなく嬲られたあときつく吸い、吸いながら舌で突起の  
先端を舐め、そして歯で軽く噛む。舌や歯で突起がつぶされるたびに、出したくない声が喉から絞りでた。  
……あそこが熱い……じくじくする……  
 
「ああんっ!? それやだ! 嫌ぁっ……!!」  
上と下の歯で軽く挟んで固定した乳首、それをチロチロと舌で舐められて、たまらず私は抵抗した。  
タイガの髪の毛をつかんで、胸から頭部を引き剥がそうと力をいれる。  
だけど、私を押さえ込んでいるタイガのほうが圧倒的に有利でびくともしない。  
抵抗の無意味さをわからせるかのように、愛撫はずっと続いた。  
 
「ひっ…んぅ……止めて……止めてよぅ……!」  
「おーおー、まだおっぱいしか触っとらんのに感じまくっとるのう」  
「…言わないで……! も、止めて……」  
「アホか、まだ片方残ってんやん」  
「や、やだ! やだぁ……!」  
私の懇願をあっさり無視して、タイガが反対側の乳房に吸い付いた。  
今しがたしゃぶっていた胸を手で弄りながら、反対側の乳首をさっきと同じ手順で嬲る。  
暴れても声をだしても、タイガの行為は止まなかった。  
 
「――きゃっ!?」  
「少し湿ってんな」  
胸への愛撫に気をとられたその不意をついて、ショーツにタイガの指が這う。  
股に挟まれた布の辺りを擦りだした。布越しとはいえ割れ目に与えられる刺激が膣に響く。  
 
「どれ、そろそろユリちゃんの大事な部分でも……」  
「――!」  
ショーツの端にタイガの指がひっかかる。そのまま、下へと――  
 
「駄目!!」  
瞬間、私は振り払うようにして体をひっくり返し、腹ばいになった。  
脱がされないよう、ショーツもしっかり握る。  
 
「駄目、ぜったい駄目! 見ないで!」  
「ちょ、ちょっと待てや……」  
私の突然の豹変に、タイガはうろたえているらしい。  
その戸惑った様子に罪悪感がちくりと心を刺すけど、それでも私はタイガのほうに体を向けることが  
できない。だって、恥ずかしい……  
 
「おいユリ……」  
「恥ずかしいの! タイガに見られるなんて恥ずかしい!」  
「ア、アホか!? 俺はそこが一番見たいちゅーねん!」  
「う……でも駄目! 見ないで……!」  
必死に抵抗、ショーツを握る力をますます込めて女性≠フ部分をしっかりと守る。  
ここを使うんだから拒んでいたんじゃ意味がない、だけど私の心のどこかにある貞操みたいな部分が、  
行動に強い歯止めをかけていた。  
自分には女の子らしいとこなんて無いって思ってたのに、何かを思い知らされた気分……  
 
「…………」  
しばらく、無言になったタイガが不意にベッドから立ち上がった。  
怒ったの……? タイガの何気ない行動で不安になる。だけどすぐに答えが出た。  
――明かりが消えたのだ。  
 
「おら、これで我慢しろ」  
ベッドのそばの淡く弱いライトだけをつけて、タイガが耳元で呟いた。  
またしても譲歩、今度は何もいわずに私の気持ちを汲み取って。  
 
「……ありがと」  
「世話かけおって」  
一番いいのは真っ暗闇だけど、それでも充分に光を落としてくれただけで、ずいぶん気が楽になった。  
ゆっくりと体を戻すとすかさずタイガが覆いかぶさる。  
スルリと、ショーツが体から離れた。  
 
 
 
 
 
水音が響く、息もひどく乱れる。  
 
「ふぅっ……あっ……はぁんっ!」  
「いーい具合になってんのう……」  
少し開いた足の間にタイガが手を差し入れて、膣口を弄る。  
自分でもろくに知らない部分を、指が前後に往復するように滑る。触れられる時はまだ  
少し怖かったけど、今はもうそんな余裕すらない。何かにすがりつかないと意識すら乱れそうで、  
私はシーツをぎゅっと握りしめた。  
 
「えっ!? あ……待って! 指いれないで……!!」  
言い終える前に指は中へと侵入してきた。  
もう一段階進んだ行為に、体が全身で拒絶する。だけど指はそんなことはお構いなしに辺りをそろそろ  
と探る。ぐちゅりと、水の音が大きく乱れた。  
 
「ふああん!! やだっ! ああんっ!!」  
「我慢せい、あとで指よか凄いもん挿れるんやぞ」  
何となく自信ありげな口調でしゃべっていたけど、こっちはそれどころじゃない。  
ゆっくりと中をかき回すように、指を出し入れする。痺れが指の先や足の先にまで広がった。  
 
「どれ? ここも……」  
空いていた手で、タイガが私のなにかを摘まむ。ドクッと心臓が高く打つ。  
 
「――ひっ…!?」  
「やっぱ、クリは感じるか? さっきとは反応がケタ違いやん」  
「バ、バカ! 変なこと言わないでよ……!」  
「バカぁ? ……んな口の悪いユリちゃんにはお仕置きしたろ。こう皮をむいて……」  
不機嫌そうに眉根を寄せ、タイガがクリの皮をむく。  
そしてむきだしになったソレをいきなり責め始めた。  
 
「きゃうっ!? 駄目ぇっっ!!!」  
さっき乳首にしたように、タイガがピンとクリを弾く。だけど、衝撃は乳首の比じゃない。  
ビリッと苦しいくらいの痺れが膣に直接響く。  
 
「あああっ!! 嫌ぁっ!! 嫌ぁぁっ……!!!!」  
「どうした? もう威勢のいい口は……って、聞いとらんか……」  
「はぁん!! 止めて……もう止めて……お願いだからぁ……!!!」  
「ええ顔するなあ。ほれ、こういうのはどうや?」  
「ひゃうっ!? ああっ! ああああんっっ!!!」  
片方の指がクリを摘まんで引っ張って、グリグリとつぶし、同時にもう片方が膣の中をかき回す。  
膣からあふれだす液の量が増えていることに、気づいてまた声をあげる。  
苦しさよりも、熱のような昂ぶりのほうが強すぎて、自分の身になにが起こっているかわからなかった。  
 
「……ま、こんだけ濡れてればええわな」  
声が枯れるほど喘いで、やっと解放してくれた。  
タイガの声は耳に届いたけど、返す気力はない。指一本、動かすのもおっくうだ。  
ほてった熱が少し治まって、私は大きな深呼吸をする。だけど、平穏はここまでだった。  
 
「すまんが休むの後な、もう少し精だせや」  
「――あっ……!?」  
何をと問い返す暇もなく、足を開かれ、アノ部分に何かが押し当たる。  
何か≠ノ思い当たって、私は思わず腰を引いた。……無駄な抵抗でしかなかった。  
 
「――俺もう我慢できんわ」  
言いながら、タイガがひと息に腰を打ち付ける。  
狭い膣に、激しい衝撃。  
 
「――――――――――――――――っっ!!!!?」  
 
『痛い痛い痛い』と本能が悲鳴をあげた。  
真ん中から割けるような痛みと内部を圧迫する苦しみ、たぶんこれが初めてだと思えるほどの痛覚が、  
ぼやけていた意識を無理やり元に戻す。  
 
「ひぐっ!? うあっ……!?」  
「あかん……! むっちゃええ……!」  
耐え切れず引こうとする私、さらに奥へ挿れようとするタイガ、やろうとする行動はお互いに全く逆だ。  
 
「あっ……痛っ! ……痛い…よぉっ……!!」  
初めて≠ヘ痛いものだと聞いてはいた。わかっていたけど経験は想像よりもずっと辛かった。  
無茶なところに無茶なものを無理やり詰める行為……言い表すのなら、これが一番ちかい。  
本音を言うとただ静止をしているこの状態でもかなりきつかった。  
だけど……  
 
「おいユリ、平気か?」  
よほど辛い顔をしてたんだろう、これで何度目かになるタイガの心配顔は今までの中で  
一番心配そうに見えた。私は頷く。  
 
「…痛い……けど、平気……」  
「でもな……」  
「…平気だから……止めないで……せっかく、ここまできたのに……止めないでぇ……!」  
この言葉で察してくれたらしい。それ以上タイガはなにも言わず、覆いかぶさるようにして体が前に傾く。  
「つかまれ」の合図に私は腕をタイガの首に巻きつける。肌がじっとりと汗ばんでいる。  
 
「……動くぞ」  
そう言ったときにはもう、タイガの腰は下がっていた。  
下げた距離から一気に上へと打ちつける。  
 
「――――…………っ!!!?」  
『裂かれる』って意味が初めてわかったような気がする。  
ズキズキとかそんな程度のことじゃなくて、まとまった打撃を一箇所に受けた時のような度の過ぎた痛み。  
力いっぱい奥歯を噛む、耐える、目もつぶる。  
 
「…ふっ……っ……!」  
タイガの息が荒い。ほとんど空気の音しかしないかすれた声。  
それでも休むことも止まることもなく、一定の速度の往復を繰り返している。  
 
「はあんっ! んうっ! ああっ……!」  
思いがけず自分の口から甘い声が出て、驚く。耐えるので精一杯だったこの行為に、粘液をかき回す音を  
聞く余裕ができてさらに驚く。そして痛み以外の感覚が湧いて出て、うろたえるほど驚いた。  
 
「ふああっ!? や、やだっ……なんか変っ……!!?」  
体の奥からじわりと侵食していくような奇妙な興奮。  
まだ痛みはあったけど、それよりも後から現れた感覚のほうが次第に占めていく。  
よくわからないこの感覚は、ひとつのある実感を改めて私に教えた。  
 
――私、本当にタイガとセックスしてるんだ……  
 
「ああんっ! あ、ああっ……!! はああん!!!」  
タイガの動きが激しくなる。私の悲鳴も音量、数がともに増えてくる。  
体が完全にあの奇妙さに支配される。どっちがどっちを求めているかなんて区別のつけようがなかった。  
 
「……ぐっ…!? ……すまん、そろそろ……」  
言われるまでもなく、私は前触れ≠予感していた。  
今はもう、取り返しのつかなくなる事よりも、早く先へ進みたい気持ちでいっぱいだった。  
タイガの首に回した腕をきつく締める、その分だけタイガの顔が近づく、目が合って唇をふさがれた。  
 
「………………――――――――――――――――――っっっ!!!!?」  
 
唇を重ねたまま、奥が弾ける。  
なんとなく奇妙な興奮の正体がわかったような気がする。たぶんこれが『快感』なんだろう……  
 
 
* * *  
 
 
翌日、朝というには遅く、昼にはまだ早いそんな中途半端な時間、私たちはあのお好み焼き屋にいた。  
休日だというのに、またしても客は私たちだけ。……なんか、本当に次来たときにはつぶれてそう……  
 
それよりも  
 
「…………」  
 
さっきからタイガが無言。  
私との初セックスの気まずさからかというと、そうじゃない。そうだったらどんなにいいか……  
とにかく、こんな沈黙をいつまでも続けられてちゃたまんないので、思い切って声をかける。  
火に油を注がないよう慎重に言葉を選んで。  
……だけど、今のタイガにはどんな言葉も油だったようだ。  
 
「ね、ねえタイガ……」  
「……あ?」  
怖っ!? 目がすわってるよ! ねえ、それ恋人を見る目じゃないよね!  
 
「……そんなにスネることないじゃん……」  
「……ヤリ終わった後すぐ爆睡、まあ初めてやし、しゃーないかと思うてたら、  
今朝起きていの一番に言った台詞が「恥ずかしい」でも「おはよう」でもなく「腹へった」。  
……なめとんのかお前は」  
うぅ、タイガの嫌味が爆発だ……  
だって仕方ないじゃん! 終わったら、なんかほっとして眠くなっちゃったし、あんだけ動いたんだから  
お腹だってへるし……でもそんな事いったら嫌味だけじゃ済まされなさそう……  
 
「いや、だからさ……」  
「そうかそうか、俺への愛しさよりも空腹のほうが大事か、お好み焼きと俺を天秤にかけたら、お好み焼き  
のほうを傾けるか、……なんでお前に欲情したのかほんまに不思議やわ」  
「!? ちょっと……!」  
さすがにこの言葉にはカチンときた。怒ってるのはわかるけど、そこまで言うことないじゃない!  
ひと言、文句を言ってやろうと私は腰を上げ……  
 
「いっ……!?」  
 
……すぐに下ろした。き、昨日のダメージがぁ……!?  
快感を感じたと思ったけど、やっぱり痛みのほうが強かっいーたーいー!!?  
この私が敵を目の前にして……あれ?  
 
「――大丈夫か?」  
いつの間にか、タイガが隣に来て、私の腰をさすっていた。  
さっきまでのあの厳しい顔は全部ふっ飛んで、これが同一人物かと思わせるくらいの心配げな優しい顔。  
……そんな顔されたら文句言えないじゃん……別にいいけどさ……  
 
「あ……う、うん」  
「……まあ取りあえず、お前がアホなのはいつもの事やからこのさいええ」  
大丈夫と見て取ると、タイガはおもむろに話し始めた。……ってアホおっ!?  
この期におよんでまだ言うか!  
 
「……ごっつよかった」  
「……ふぇ?」  
「……俺の我がまま聞いてくれておおきに」  
え? なに? お礼をしてるの? いつもアホって言ってる(今も言われた)私に?  
何かを言おうとしたけどその前に、タイガが私の肩を抱いて引き寄せた。  
私の半身がタイガの半身に触れる。  
 
「あ……」  
暖かい。昨日と同じあの温もり。たぶん忘れることなんてできないあの……  
 
「…………」  
今度は私が無言になって、その身に体をまかせる。  
タイガもなにも言わない、だけど別に構わなかった、だって気持ちは私と同じだったろうから。  
 
行為の最中、お互いに「好き」なんて言わなかったけど、わかっていた。  
同じ時に今みたいな気持ちを持っていたんだって。好きなんていう言葉じゃ伝えきれなかったって。  
 
――心に熱が広がっていく。  
 
なんだか温度に直したら、火傷するくらい高い熱が心に……って熱?  
そういえば、お好み焼きはどうなってるんだろ? 焦げてない? あ、大丈夫大丈夫、ぜんぜん平気だ。  
へっへ〜♪ 焼けたらソースをたっぷりと塗って、青海苔をかけて鰹節も……  
 
「いたぁっ!?」  
後頭部に衝撃、またしてもメニューの角。  
ちょっと! だから叩くんなら平らな部分を……あれ? タイガが戦国武将みたいな顔をしてるよ……?  
 
「……タイガ?」  
「……俺、今むっちゃ大事なこと言うたんやけど、聞いてたか?」  
 
え!? 嘘!? 何かしゃべってたの! そんなに大事な言葉だった!?  
 
「え……あの……」  
「そーかそーか、れいによってお好み焼きに夢中やったか。そんなら可愛いユリちゃんのために  
特別サービスでもう一度言うたげような」  
 
 
「『彼女がお前でほんまによかった、愛しとる』」  
 
 
……………………むちゃくちゃ大事な台詞だ。  
たぶん言うか言うまいか、何度も自問自答したであろう高レベルに位置しそうな……  
 
「あ、あはは……その、肩を抱かれて安心してたっていうか……」  
もはや戦国武将どころか、先祖が武田信玄だったのか思えるくらいの厳しい顔になったタイガに、  
説得というよりかは時間稼ぎにちかい言い訳を始めてみる。  
だけど、そんな私の拙い策が通用するはずもなく、タイガは私を真正面から抱きしめ、  
そのまま私を後ろに押し倒し……ってええーーっっ!!?  
 
「いやあぁぁっ!? 昨日したばっかでしょーっっ!!!?」  
「知るかぁ!! お前の食欲より先に俺の性欲を満たせやぁっ!!!」  
「やだやだ放して……! きゃああっ!? どこさわってんのよーっっ!!!?」  
「どれどれ、昨日はあんま見れなかったユリちゃんの大事な部分はと……」  
「止めてー!! いやあ豚玉が見てるーっっ!!!」  
「はっ! ちょうどええわ! この女がどんな顔で喘いでいたか見せつけたるわ!!!」  
 
突如、レディコミになった店内に、またしても私とタイガの二重奏が響いた。  
人がいなくて救助と制止がないところも前回と一緒だ。  
……ってこんなところで羞恥プレイなんて絶対いやぁっ!! 誰かー! 誰か助けてーー!!  
 
 
ふと気がつくと、厨房の入り口で店主らしき人が頭を抱えていた。  
……たぶん、この前と同じ客が来たからだと思う。  
 
 

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