「ちょっとルキア、また大きくなったんじゃないの?」  
「えーっやだ、そんな事ないよ」  
 そう言いつつも、満更でもなさそうなルキア。  
 水泳の授業も終わり、ここ女子更衣室では年頃の娘たちの賑やかな声が飛び交っていた。  
 そのような中、シャロンはご自慢のスレンダーなボディ―――一部ご自慢ではない部分があることをご了承ください―――を惜しげもなく晒しつつ水着を脱ぎ、これまたご自慢のレース入りの黒の下着をつけ終わったところだった。  
 ふと気付く。クララがまだ水着のままだ。  
 他の女生徒はあらかた着替え終わり、既に更衣室から出始めているというのに、クララはいまだ、紺色のスクール水着を着たまま、もじもじと突っ立っている。  
「あらクララさん、どうしましたの?」  
「うぅ……シャロンさん……」  
 クララが小さな声で訴える。  
「私、今日は水泳だからって、制服の下に水着を着て来たんですよ……そしたら」  
 泣きそうな声。  
「ぱんつ忘れてきちゃいました……」  
 ふぅ、と溜息をつくシャロン。  
「いい年して、そんなお子様みたいな事をするからですわ。堂々と着替えればいいのに」  
「だって、恥ずかしいんですもの……」  
 どこが恥ずかしいんですの。シャロンはそう思ったが、口には出さなかった。  
 シャロンから見れば、自分よりクララの方が胸も大きいし、腰周りの肉付きもよい。  
 それだけなら全体的にふくよかなだけだが、クララの場合は腰がしっかり引き締まっている。  
 思えば、マラリヤが転入し、ユリが格闘学科からこちらの授業にちょくちょく顔を出すようになるまでは、シャロンにとってクララは「あちら側」―――胸の大きい側の人間だった。  
 以前のシャロンはクラスメイトと頻繁に言葉を交わすことのない、どちらかと言えば孤立していた生徒だったのだが、上記二名がクラスに訪れるようになってから何となくクララに声を掛け始め、今では友達と呼んで差し支えのない存在になっていた。  
「―――ともかく」シャロンは自分の中に浮かんだ考えを打ち消して言った。「誰かにブルマでも借りるしかありませんわね。―――とは言え、わたくしも水泳なのでブルマは持って来てませんし……」  
 ちょっと待ってらっしゃい、とクララに言い、シャロンはまだ更衣室に残っている女生徒達に声を掛け始めた。  
「ねえごめんなさい、ブルマをお持ちじゃないかしら? おなかが冷えてしまって」  
 シャロンに声を掛けられた女生徒は、シャロンの顔をまじまじと見て言った。  
「あら大丈夫? シャロン、いつも重そうだもんね」  
「違います」  
 
 体育が水泳だった今日、ブルマを持ってきている女生徒がいるかどうかは分の悪い賭けだったが、それでもどうにか一人の女生徒がブルマを貸してくれる事になった。それをクララに渡すシャロン。  
「あ、ありがとうございますっ」  
「お気になさらないで。困った時はお互い様ですわ」  
「でも……」シャロンから手渡されたブルマを広げるクララ。「これ、ちょっと小さいような気が……」  
「そうかもしれませんわね……。なにしろアロエさんのですから」  
「えっ」クララは絶句した。道理で小さいわけだ。  
―――本当に穿けるのだろうか。  
「伸縮性がありますし、きっと大丈夫ですわ」とシャロン。  
「それとも家に帰るまで、下着なしで過ごしますの?」  
「うぅ……」それは嫌だ。  
 自分の為にせっかくブルマを探してくれたシャロンの手前もある。  
 クララはおずおずとスクール水着を脱ぐと、シャロンから手渡された紺の衣類を広げ、脚を通した。  
「うぅ……なんかきついです……それに恥ずかしいし……」  
「我慢なさい」  
 ブルマはその伸縮性を遺憾なく発揮し、クララでもどうにか穿くことができたが、それでも尻のあたりから肉が大胆にはみ出している。  
「スカートもありますし、その姿で歩き回るわけじゃありませんでしょ」  
―――文句があるならその肉を寄越しなさい。  
 わたくしの胸に。  
 
 水泳の次の授業は薬学だった。  
「今日は課外実習で薬草を集めます」  
 眼鏡に三角帽の女教師、アメリアの引率のもと、生徒たちは校舎から徒歩十数分ほどの距離にある、薬草の採集場所へ向かって歩いていた。  
 現地に着いてからの課外実習は二人一組で行なう事になっている。クララと組むのは、教室の席の並びの通り、レオンと決まっていた。  
 内気なクララにとって、自分にないものを持つレオンは、少し意識している男子生徒だったが、その性格ゆえ今まで積極的に言葉を交わした事はなかった。  
 今日はこれから二人で森の中を歩き回って薬草採集、ということになる。本当なら少しはときめいてもいい状況だったが……。  
「なあクララ、なんか顔が赤くないか?」  
「え、だ、大丈夫ですよ!?」  
 慌てて応えるクララ。  
「ほんとに? ならいいけどさ……」  
 レオンに指摘された通り、クララの頬は少し赤みを帯びていた。  
(うぅ、ブルマきつい……)  
 最初はきついだけのブルマだったが、歩く度に、クララのデリケートな部分を刺激してくるような気がする。  
 一度意識してしまうと、次第に気になり始め、忘れようとしても忘れられなくなってくる。  
 
(はやく着かないかな……)  
 そうすれば、しばらくはこの感触から解放されるだろう。  
(なんか、だんだん食い込んでくるような……)  
 少し立ち止まってブルマを指で直したいのだが、男子、それもレオンの手前、なかなか出来る事ではない。  
 いや、クララのことだから、この場に誰もいなくても、建物の外でスカートの中の衣類を直すなどはできなかったかもしれない。  
「なあクララ、ほんとに大丈夫か?」  
 先程よりも顔が赤くなっているクララが気になり、レオンはもう一度問いただす。  
「すみません、大丈夫で」クララの返事が途切れる。レオンが立ち止まり、クララの額に掌を当てたからだ。  
「あ……」  
「ほら、お前やっぱり熱あるって。先生に言って保健室で休ませてもらおうぜ」  
「ほんとに大丈夫ですよぉ……たぶん……」  
「なんだよ多分って。てかお前、さっきから足がふらついてるぞ」  
 先程からブルマの食い込みを最小限に抑えようとし、ぎこちない歩きになっていたクララだったが、それがレオンにはふらついているように見えたらしい。  
―――クララは体調が悪いのに、くそまじめにも授業を受けようとしている。  
 レオンはそう解釈した。  
「はーい、みなさん揃ってますかー」  
 アメリアの声が響く。先頭は目的地に到着したらしい。  
「先生ー!」  
 レオンが勢いよく手を上げる。  
「どうしたの? レオンさん」  
「クララが熱があるみたいで、学校に帰した方がいいと思うんっすけど」  
「えっ、どれどれ」  
 アメリアはクララの前まで歩き、そのままクララの額に手をやる。  
「うーん……熱いといえば熱いような……」  
「さっきから歩き方もフラフラなんっすよ」  
 ブルマの食い込みが気になって普通に歩けなかった、などとは考えが及ぶはずもない。  
「まあ、大変じゃない。それじゃ一人で帰すわけにもいかないわね。レオン君、クララさんをミランダ先生の所まで連れて行ってもらえるかしら?」  
「オッケー!」  
「はい、でいいです。じゃあお願いね。それと」  
 アメリアは念を押すように言った。  
「クララさんを送ったらすぐに戻ってくるのよ。サボったりなんかしたら……」  
 どこに持っていたのか、アメリアは特大の杖を取り出した。先端の辺りで青白いスパークがパチパチと音を立てている。  
「わ、わかってますよ」  
 ちぇ、図星ですよ。先生。  
 
 レオンとクララは、先程まで歩いてきた道を、今度は逆に辿り始めた。  
(うぅ……着いたらちょっとはじっとできると思ったのに……)  
 あいかわらず、歩く度にブルマが股間に食い込んでくる。食い込む力は最初と変わらないはずだが、クララにはずっと刺激されつづけた股間がだんだん熱を帯びてくるように感じられた。  
「なあお前、どうしたんだよ急に……変な病気じゃないだろうな」  
「だ、大丈夫です……」  
 クララは気丈にもそう言うが、レオンはクララの事を本気で心配していた。歩き方も最初と比べてかなりフラフラだし、ただ歩いているだけなのに呼吸も荒くなっている。  
 レオンは立ち止まると、クララに背を向けて膝をかがめて言った。  
「おぶってやる」  
「ええっ、そんな……ほんとに大丈夫ですから」  
 病気でもないのに、いくらなんでもそこまでしてもらっては悪い。そう思って断ったクララだったが。  
「駄目だ。いいか、クララ」体勢をそのままに、レオンは強く言った。  
「これは命令だ。乗・り・な・さ・い」  
 そこまで強く押されては、クララには断れなかった。  
「は、はいぃ……すみません……」  
 レオンの背中に負ぶさるクララ。  
 しかし、これによって、クララにとって状況は一挙に悪化した。  
 自分で歩いているうちは、ブルマの締め付けのリズムも自分が歩くタイミングに合わせてのものだったので、まだ意識して我慢する事が出来た。  
 しかし、今はレオンの背中に負われ、レオンのリズムで締め付けられる。  
 負ぶわれているので、脚は当然開いた状態になる。クララは、締め付けを我慢する為に脚を閉じていたかった。それがレオンにとってはふらつくような歩き方に見えてしまったのだが。  
 レオンの背中に股間を押しつけられる、という最悪の事態にまでは至っていないが、それでも内腿のかなり股間に近い部分を、レオンの背中やクララ自身のスカートによって刺激されつづける。  
 おまけに乳房までもが、レオンの背中に押し付けられ、レオンの歩くリズムによって刺激されている。  
(うぅ……どうしよう、このままだと……)  
 息がだんだんと荒くなりつつあるのが、自分でも分かる。  
 クララの息が上がり始めたのを受け、レオンが焦り始める。  
「クララ、ちょっと急ぐぞ」  
「ううっ」  
 レオンの歩みが速まる。  
 それに合わせ、クララの体への刺激のリズムも速くなる。  
 揺れも激しくなる。  
 乳房が押し付けられる。  
 太腿の内側が擦られる。  
 ブルマがクララの一番敏感な部分を擦り続ける。  
 そして、股間がレオンの背中に当たる。  
「んぅ……ふ……はぁ……」  
 クララの息遣いに、ついにかすかな声がまぎれ始めた。  
 
「レオン君、駄目……です……止まって……」  
「もう何分かだ。もうちょっとだから頑張れ」  
「だって、だってもう……」  
(も……もう……我慢できな……い……っ)  
 体の内側がじんじんと熱くなってくる、というより、内側から熱が沸いてくるような感触に支配されるクララ。レオンにしがみ付く腕に、思わず力が入る。  
「ちょっ、クララ、苦し……っ」  
 それでもレオンは早歩きを止めなかった。  
(もう駄目っ、絶対無理っ!!)  
「うぅ……うぁ……ああぁぁぁ……っっ」  
 突如クララが小刻みに震えたかと思うと、全身から力が抜け、重心が後ろに移動する。  
「のわあっ!」  
 咄嗟にバランスを立て直そうとしたレオンだったが、却って前のめりに倒れてしまった。  
 幸いにも草地であり、それほど痛くはなかった。  
(重……)  
 背中に乗っているクララを傷つけないよう、ゆっくりと体を起こすレオン。  
「おいクララ、大丈夫か……」  
 地面に仰向けになっているクララは、先程までの苦しそうな呼吸とは違い、ゆっくりと、しかし大きく、息をついていた。  
 ずれた眼鏡越しに見える閉じた瞼からは、涙の筋が耳の方へ向かって残っている。  
(これは……)  
 夕べ観た、タイガ秘蔵DVDのワンシーンを思い出す。制服姿の童顔の女優が絶頂を迎えた後、こんな表情で息をついていた。そして男優が女優の顔面に……。  
―――眼鏡っ娘ものだった。  
 タイガはこんな趣味なのか? と訝りつつも、しっかり利用したレオンだった。  
 クララがこんな表情をするなど今までまったく思いも寄らなかったが、今、レオンの前で息をついているクララは、普段の清純なクララと確かに同一人物だったが、考えられないほど色っぽかった。  
(いや、色っぽいなんてもんじゃない。―――エロい)  
 クララの全身に目をやると、その呼吸に合わせて胸のふくらみが上下している。  
 まくれ上がったスカートからは、白い太腿が露になっている。  
 レオンが身を起こすと、スカートの奥の暗がりに紺色の衣類を穿いているのがはっきりと見えた。  
―――パンツじゃないのか。  
 どこか頭の隅に「残念」という言葉が浮かんだが、よく見ると普段の女子のブルマ姿とは少し違った。  
 体にぴっちりとへばり付いている。というより、そのブルマはクララの体を締め付けているように思えた。  
 普段まじまじと見つめる事のできない、女子のあの部分に食い込んでいるブルマは、クララのその部分の形そのままをレオンに見せつけた。  
 そして、食い込んでいる部分に沿って布地が変色していた。  
―――濡れている。  
 クラスメートの女子、それもクララに、はっきりとした性欲を感じたのは、レオンにとってはこれが初めてだった。  
 クララのスカートの中へ向かって、レオンの手が恐る恐る伸びてゆく。  
 あと30センチ……あと20センチ……あと10センチ……。  
 もう、ちょっとだ……。  
「うおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」  
 レオンは雄叫びを上げた。  
―――何やってんだ、俺は!  
 ぐったりしているクララを抱えあげたレオンは、そのまま校舎へ向かって走り出した。  
 
(終)  
 
 

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