『Innocent Jealousy』  
 
「ねぇ」  
私は、机越しに目の前に座っているセリオスに向かって声を掛ける。  
辞典に目を通しながら、羊皮紙に一心不乱に羽根ペンを走らせていた彼がゆっくり顔をあげる。  
「何だい、マラリヤ? 何かわからない所でも?」  
涼しげなブルーグリーンの瞳を私に向ける。  
「違うわよ」  
私は席を立ち、彼の傍に寄り添う。  
「…少し、休まない?」  
彼の銀髪に手を掛けて梳きながら、精一杯シナを作ってみる。  
「………」  
若干の間をおいて、彼がペンを置いて軽く息をつく。  
「どうしたんだい、まだ大して復習も済んでないのに…」  
不可解そうな表情の彼の唇を唇で塞ぐ。  
「ん……」  
私は(自分では)愛おしげに貪ろうとする。  
でも、彼はそれを拒むようにゆっくりと、でも力を込めてきっぱりと唇と私の顔を離す。  
「待ってくれ。 今はそれどころじゃないだろう?」  
諭すような口調が、何故か気に入らない。  
「『私と』じゃ、嫌になったの?」  
『私と』の部分に多分に毒を込めて、私は詰るような口調で返す。  
「違うよ、今は来週の本試験に集中したいだけさ。 大事な局面だからね。 マラリヤ、君だってそうだろう?」  
言っている意味はわかる。  
来週の試験の出来如何で、彼も私も、大魔道士に昇格するかどうかが決まる。  
私だって、こんなことで勉強をおろそかにするつもりは毛頭ない。 でも…  
「この間の言い訳も『勉学に集中したい』だったわね」  
そう。 ここのところ、彼は素っ気無い。  
別に、他の子たちみたいに四六時中べったり寄り添っていたいわけじゃない(柄でもないし)けど、  
この2週間ほど、日々このように顔を合わせての勉強会はするけども、いわゆる『恋人同士の時間』はない。  
「…やめてくれよ、そう責めるのは」  
セリオスの表情に困惑の色が浮かぶ。  
「その勉強だって、さっさと切り上げて帰ってしまって…どういうことかしら?」  
私はなおも言い募る。  
「………」  
彼は複雑な表情で黙ってしまった。 −何か、嫌なものが私の心を引っ掻く。  
「………他の娘が好きになったのね…?」  
言いたくない科白が口をつく。  
彼の表情が少し険しくなる。  
「馬鹿を言わないでくれよ、マラリヤ、そんなわけがない…」  
珍しく気色ばんだ彼の科白を、携帯の着信音が遮る。  
「…はい、僕だよ」  
私の抗議の表情を視線で制して、彼は電話に出る。  
「…ああ、わかった。 ……うん、…時だね、わかったよ」  
少し話した後、電話を切って、セリオスは『この話は一旦終了』とばかりに身支度を始める。  
「待って…話はまだ済んでないわよ…」  
「ごめん、急ぎだ。 −また明日ね」  
なおも言い募ろうとする私を強引に遮って、彼は私の頬に軽くキスをして私の部屋を出て行く。  
「待ちなさい!」  
私の制止はドアの音にかき消された。  
私の不安は確信へと近づく。 −携帯から漏れ聞こえた声は、まぎれもなく「女」の声。  
 
「カイルお兄ちゃん、ここわかんないんだけど…」  
「どれどれ…あぁ、この映画はですね…」  
次の日。  
私が図書室に入ると、やはり試験前で何人かの先客があった。  
幼さを多分に残した質問の声の主は、飛び級の天才少年のラスク。  
丁寧に応じているのは、同期の中でも成績はほぼ首席のカイル。  
その隣には、同じく女子生徒の中でも優秀な成績を誇るクララもいる。  
どうやら、フランシス先生の専科である芸能の予習・復習をしているらしい。  
私は離れの空いた席に座り、辞典を開く。  
「…あー、何でこう大人の映画ってワケわかんないんだよぉ…」  
ラスクのボヤきが聞こえる。  
「確かにそうですね、ラスク君にはまだ早い内容のものも多いですし」  
「えー、お兄ちゃんたちはわかるのー? 何でこの2人、ケンカしといていきなり裸になるの、とかさー?」  
「えっ!? いや、そういう質問はちょっと…」  
カイルが顔を赤らめてまごつくのが見える。 隣のクララも耳まで赤くなりながら顔を伏せている。  
「お兄ちゃんたちもこの人たちみたいなコトしてるのー?」  
「そ、そんなことは…」  
マセた質問に、初心な二人が慌てふためいているのがわかる。  
「ねー、どーなのー?」  
「ほ、ほら、ラスク君、そんな事より、ちゃんと勉強しないと、勝負に負けちゃいますよ」  
「う…はーい」  
カイルの切り返しは辛うじて成功したみたいで、ラスクはまた大人しくペンを走らせる。  
静かになったのを合図に私はまた復習に集中する。  
今日は珍しく、一人で勉強となった。  
セリオスは授業が終わると同時に教室を出て、示し合わせる余地もなかったのだ。  
彼と付き合いだしてから、毎日二人で勉強していたから、若干の違和感はある。  
一人でも何とでもなる内容だから、別に構わないのだけれど。  
………何なの、頭の隅がチリチリ灼けるような、この感じ。  
「…ふぅ」  
復習が一段落したので、私は辞典を本棚に戻して、図書室を出ることにした。  
机の上を整理していると、静かにドアが開く気配がする。  
…誰も入ってくることなく、ドアがまた閉じる。  
怪訝に思う間もなく、ドアの向こうから声がかすかに聞こえる。  
『ねー、お兄ちゃん、どーして……のー?』  
『………しよう…』  
片方は聞き慣れた舌足らずな高い声だ。  
『お兄ちゃん』と呼びかけていたのは、ラスクと同じく飛び級を果たした少女のアロエだ。  
制服があまりに大きく、上着だけをワンピース風に着こなして(?)いる、猫耳リボンが特徴の娘。  
皆によく可愛がられる(その手の嗜好の一部男子には違う意味で人気だが)天真爛漫さが魅力だ。  
一緒にいた『お兄ちゃん』の声は小さくてよくわからないが、恐らく、彼女を妹のように世話しているサンダースだろう。  
ドアが開いた時、私からは死角になっていて姿は見えなかったから、そう見当をつけて、丁度彼らを追うような形で図書室を出る。  
………すぐに、私の見当は全く間違っていた事を思い知らされる。  
図書室から寮へ向かう長くまっすぐな廊下の遥か先に二人が見える。  
アロエが嬉しそうに寄り添って歩いている相手は、銀髪の少年。  
…サンダースとは違う、サラサラの長髪。  
紛れも無く、セリオスだ。  
二人の姿が廊下を折れて見えなくなっても、私はしばらく立ち尽くしていた…  
…また、さっきより激しく頭の奥ががチリチリ灼ける。  
 
コンコン。  
低いノックが聞こえる。 訊かなくても、誰だかはわかる。  
ドアを開けると、当然のように銀髪の少年が立っている。  
「…何?」  
「…いや、今日は…ごめん…」  
余程、私の言葉が鋭かったのか、セリオスは決まり悪そうに謝る。  
「何の事かしら?」  
何ら表情を変えず、私は問い返す。  
「だから、勉強会をすっぽかして…」  
「別に。 今までだって独りでしてきた事よ。 こんな時間にそんな事を言いに来たの?」  
頭の奥が燻るような感覚に内心イライラしている。 でも、とりあえず冷静に言葉は紡げている。  
「……ごめん」  
また謝られる。  
「それだけ? じゃあ、お休み」  
それだけ言ってドアを閉じようとする。  
「待ってくれ」  
セリオスが遮る。  
「別にそんなに話す事はないわ」  
「…話を聞いてくれないか」  
「他の娘を当たったら?」  
「…!」  
私の言葉に、彼の貌が珍しく強張る。  
「…一体何の話だよ。 マラリヤ、少し変じゃないか…?」  
「変? 図書室のドアを開けたと思ったらすぐ閉めて出て行く人よりは、まだまともよ」  
「………!」  
狼狽。 彼の表情にはそう書いてある。 滅多に表情を変えない彼にしては珍しい状況。  
…ダメ。 これ以上は言い募ってはいけない。  
でも。  
「気付いていないとでも思ったの? …まあ、見た時は目を疑ったけど」  
私の口は抑揚もなく科白を紡ぐ。  
「…」  
「堂々とすりゃいいじゃない。 疚しい所があるのかしら?」  
「…」  
「それとも、自分の『趣味』をさらけ出すのがイヤだったのかしら?」  
「いい加減にしてくれ!」  
セリオスが私の科白を遮る。 自分でも思ってもいない声量だったのか、慌てて周囲を見回している。  
「マラリヤ、そんな訳がないだろう! 何故そんな話になるんだ! 浮気だとか、心変わりだとかそんな事じゃない!」  
声のトーンは落としているけど、語気を鋭くして彼が気色ばむ。  
「じゃあ、何? ただの『お勉強』には思えないけど」  
もう、いい。 黙るのよ、黙りなさい、マラリヤ。  
「それは…だね…とりあえず部屋で話さないか?」  
「ここで、一言で言えば済むでしょう?」  
だから、一旦間を取って落ち着かなくては。  
「…無闇に他人に聞かれたくないんだ…」  
しばらくの沈黙。 −私は軽く溜息をついて、  
「……わかったわ…じゃ、入っ…」  
「お兄ちゃん、何してるの? …あ…」  
この時間、この場所に場違いな不協和音。 私の頭に再度血が昇る。 でも、異常なほど頭は冷えている。  
「…もう『私』が聞く必要はないわね。 さようなら」  
「待て、マラリヤ!」  
セリオスの制止を、今度は私の方からドアで遮る。  
…一瞬、突然現れたアロエの瞳が『お姉ちゃん、ごめんなさい』と謝っていたのは気のせいかしら…  
 
独りでコーヒーが飲みたくなり、私は授業をすっぽかしてカフェに入る。  
カフェには人は殆どいない。 いつも座る植木の陰の席に腰掛けて、熱いブラックコーヒーをゆっくり啜る。  
―あの後、2度、3度と彼からの携帯が鳴ったけど、全て無視して早々にベッドに入った。  
なかなか寝付けなかった。  
…想像もしていなかった。 こんな形で彼を奪われるとは。  
しかも、相手がまさかアロエとは。  
正直まだまだ子供だし、恋の相手になるなどとは考えた事もなかっただけに、私には衝撃だった。  
…彼、幼女趣味でもあったのかしら? だとしたら、今までの時間は一体、何?  
などと、答えも出口もない馬鹿な自問で頭を焦がせているうちに一旦眠りに落ちたのだけど。  
さて、いくらかコーヒーを飲んでいくうちに、頭も少し冴えてきた。  
………どうしようかしら?  
面と向かって彼を罵倒する? それとも、ただ笑って二人を見守る?  
…どちらも、違うわね…  
やっぱり、最後のディナーで毒入りスープを二人で啜って、一緒に逝こうかしら?  
…どこかのOLシンガーの歌詞じゃあるまいし。  
…などと勝手に別れの予感を描くうちに、ふと思い当たる。  
私、今までセリオスにここまで想いを寄せて、何かをした事があったかしら?  
人と喋るのははっきり言って苦手で、感情表現も下手。  
それに託けて、付き合う前と大して変わらない態度を取り続けて。  
もちろん、彼を愛してる。 でも、「愛してる」「好き」のたぐいの言葉を今まで1回でも私は伝えたの?  
付き合い出して3日後に初めてのデートをして、1ヶ月後の3度目のデートにはキスも経験し、  
丁度10回目のデートの後に初めてのセックス。  
…全部、彼のリードで。  
もちろん、OKの意味を込めて、私はされるがままだったのだけど、それって、甘えじゃない?  
自分の感情表現の拙さと浅薄さに今さらながらに腹が立つ。  
同時に、あの娘―アロエと彼が仲睦まじく歩く図が頭に浮かび、私は胸が苦くなった。  
―妬いているの、私?  
頭を焦がすあのイライラ感。 そして胸にこみあげる苦さ。  
私は、生まれて初めて「嫉妬」が形作られるのを自覚した。  
…少し離れた背後の席がガラン、と音を立て、荒々しく着席する音に苛立ち混じりに意識を戻す。  
睨めつけるように後ろを振り返ると、私の同級生で、喧しさでは人後に落ちない2人がいる。 レオンとタイガだ。  
彼らからは、植木がジャマで、私の姿は見えない。 ―今は見られたくないから都合がいい。  
「―で、お前ら、最近変わったコトしてへんのか?」  
「何がだよ?」  
「何って、そら、ナニの事に決まっとるやろ」  
「……昼間っから何言ってんだお前は。 つーか声でけぇよ」  
「ええやんけ、こう言うのも『情報交換』ってのが大事やしな」  
…彼ら(というよりタイガ)お得意の猥談だ。 全く、カフェで何を始めているのか…  
無視して、さっさと出てしまおう。  
「…じゃ、言いだしっぺのお前から言えよ」  
「俺か? …『剃毛』やな」  
「て、ていもー? 何だよそれ?」  
「自分も声デカいがな。 …そのまんまや、おケケ剃るんや。 普段と違うフインキでえぇで」  
「…ただのロリ趣味な変態プレイじゃねぇか…しかもそんな剃るほど生えてんのかよ?」  
得意気なタイガと呆れるしかない風情のレオン。  
「大体、ドジってケガさせたら、ソレどころじゃねぇだろ。 よくユリがそんなの許すな?」  
「せやから、ホンマにカミソリ入れるんはほんの少しや。 後はクリームとかで溶かすんや。 そしたら大事なトコもケガさせんで済むし」  
「………そーかよ…」  
………。  
………彼らの話はまだ続いてるけど、私は静かに席を立ち、気付かれないよう反対側のドアからカフェを出た。  
 
「いらっしゃいませぇ! …えーと、これって…あ、いえ、合計10マジカになりまーす! …ありがとうございましたー!」  
レジを打ち終え、客が一通り購買を出たのを見計らって、リエルがこぼす。  
「…マラリヤさん、あんなの何に使うんだろ? …ってまさか、ね」  
 
電話を切る。  
もう数分もしないうちに、セリオスは私の部屋に来る…はず。  
私はベッドに横になってシーツを被り彼を待つ。 ―何だか、ひどく落ち着かない。  
彼との事もあるけど、要因はそんな所ではなく別にあって。  
違和感。  
一言で言えばそうなるかしら。  
ベッドから何となく自分の部屋を見回す。  
…あ。  
サイドボードの上にカミソリを置いたままだ。 昼に購買部で買ったものだ。  
…そういえば、購買部の娘…リエルといったかしら…怪訝そうだったわね…  
まあ、そのままにしておこう。  
ベッドに横になり、天井を眺めていると、予想よりも早くドアがノックされる。  
「…入って…」  
私は通信魔法で声を飛ばして入室を促す。  
「入るよ…」  
セリオスが入ってくる。   
「ん? …マラリヤ、どこだい?」  
「………こっちよ…来て…」  
入り口あたりで逡巡している彼に私は少しの間を置いて声を掛ける。  
「……どうしたんだい、マラリヤ? 体調でも悪いの? 授業も休んでいたし…」  
寝室に入ってきた彼は、ベッドに横になっている私を見て心配そうに問いかける。  
「違うわよ…」  
私は顔を彼へ向けて返事をする。  
「あの、マラリヤ、………!」  
不安げな表情の彼の視線がある一点で止まった瞬間、彼の表情が一変してひどく強張る。  
「馬鹿な……! …どういうことだ、マラリヤ!」  
彼は激しく詰め寄ると、サイドボードのカミソリを掴み、即座にゴミ箱に叩き込む。  
「何でそんな事を考えるんだ! 早まるな!」  
険しい表情で私を責める。  
…え?  
思わずキョトンとしてしまい、事態が飲み込めない。  
「な、何よ…?」  
「僕は認めないぞ! 君がそんな真似をするなんて…!」  
…あ。  
カミソリ。 横たわる私。 この数日のすれ違い。 そして昨日の喧嘩。  
瞬間、一つの線につながる。  
「ち、違うわよ、セリオス! 落ち着いてよ!」  
私は思わず動揺して声が震える。 ―明らかに、手首を切ると勘違いしてるわ、彼。  
「これが落ち着いていられるか! 君がいなければ、僕は…! ………まさか!」  
「キャッ!? ま、待ってよ、セリオス!」  
彼が乱暴にシーツをめくる。  
…彼の動きが止まる。 目の前の私を呆然と見ている。  
ま、それもそうだとは思うわ。 ある意味、私もそれを狙っていたから。  
私は、裸でベッドに横になっていた。 さっきからの違和感の理由の一つ。  
でも、彼が呆然としているのはそこではない事は、視線の先を追えばわかる。  
もう一つの違和感の理由。  
もちろん、手首なんかじゃない。  
彼の視線は、私のむき出しの下腹部に注がれている。  
…本来、あるべきものが存在していない下腹部を。  
そう、私はヘアを剃り落としていたのだ。  
 
「………マ、マラリヤ………?」  
たっぷり間をおいて、ようやくセリオスが口を開く。  
流石に衝撃が強かったのか、全く理解が追いついていないみたいね。  
「一体、何の真似なんだ…?」  
「…気分転換」  
「…にしたって、これは…」  
彼は右手を額に当てて困惑しきっている。  
「………こういうのが好きなんでしょ?」  
私は顔を彼から反らして囁く。  
「え…?」  
「それとも、体も幼くなきゃダメなのかしら?」  
「………アロエの事を言っているのか?」  
「さあ、どうかしら?」  
しばらく、沈黙が流れる。 私は彼から顔を背けたまま、彼の反応を待つ。  
やがて、深い溜息とともに、セリオスが口を開く。  
「…違うんだよ、マラリヤ。 あれは、彼女の試験勉強に付き合っていたんだ」  
「…どうだか」  
「勘弁してくれ。 理由があるんだ、聞いてくれ」  
「言うだけ言ってみたら?」  
私はまた顔を彼に向ける。 もう一度深い溜息をついて、彼が話し出す。  
「どうも、アロエは、ラスクと賭けをしているらしい。 今度の芸能の試験で成績のいい方が好きな場所に遊びに行くっていう、ね」  
「…で?」  
「で、芸能の苦手なラスクはカイルたちに応援を頼んで勉強しているそうだ。  
アロエも同じようにカイルに頼むつもりだったらしいけど、先を越されてしまって、僕の所に来たんだ」  
先日の図書館の光景を思い出す。 やけに熱心だな、と思ったら…  
「………じゃ、何故コソコソするのよ?」  
「僕も引き受けるつもりじゃなかった。 でも、彼女にあることを楯にせがまれてしまって、断れなかったんだ」  
「何があったの?」  
あの無邪気なアロエが、何かのネタを種にしてセリオスに言う事を聞かせるとは俄かに信じがたい。  
少しの躊躇いの後、セリオスが続ける。  
「…少し前、僕は図書館に忘れ物をしたんだ。 すぐにアロエが気付いて届けてくれたんだけど、中身を見られて、ね…」  
「…何を見られたの?」  
「…日記帳だ。 もちろん、大方は普通の事しか書いてないけど、その…君との事もいくつか書いていてね。  
君との事は周りには内緒にしてるだろ? ところがそれでアロエは気付いてしまってね」  
「…協力しなきゃ、皆にバラす、と言われたのね?」  
「ま、似たようなものさ。 で、結局、僕は彼女の勉強の面倒を見ていた、ってわけさ」  
私への気持ちを楯にするアロエに半ば舌を巻いた。 …やるわね、あの娘。  
そして、昨日のあの瞳の意味にも気付いた。 あの娘なりに気が咎めているのだろう。  
「…別にバラされても良かったのに」  
正直、ヤイヤイ言われたくはないけど、別に隠すほどの事でもない。  
「…騒がれるのはイヤなんだ。 僕たちの大事な時間を邪魔されるのは、さ」  
「…!」  
最後の言葉は先程よりかなり小さい。 彼の照れくさそうな声は初めてだ。  
「な、何を言ってるのよ…」  
思わず、素っ気無く言葉を返して、また顔を背ける。  
でも、気付かれるわね。 自分でも頬が赤くなるのがわかるもの。  
 
「マラリヤ…」  
顔を背けた私に、セリオスがまた声を掛ける。  
「本当にごめん。 最初からそう言っておけば済む話だったんだけど…」  
「馬鹿ね…本当に…」  
謝る彼に、また憎まれ口を叩いてしまう。  
「うん…本当に些細な事だったかもしれないけど、黙ってて、辛かった。 君がそこまで思い詰める事になるなんて…」  
「ち、違うわよ、別にそんなことじゃ…」  
慌てて私は体を起こして言い返す。 顔は見られたくないから背けたまま。  
「いいんだ、ごめん。 でも、マラリヤ」  
彼の手が私の顔にかかり、ゆっくりと向けられる。  
端正な顔に、少しいたずらっ気のある笑みが浮かんでいる。  
「ひょっとして…妬いてくれたのかい?」  
「…! そ、そうじゃないわよ!」  
面と向かってそう言われて、私は口では思いっきり否定する。  
「けど、わざわざこんな事までして…」  
彼の視線が再び私の下半身に落ちる。  
今更だけど、気恥ずかしくなり、両腿を強く閉じながら、  
「だから、これは、気分転換だって…」  
「でも、『こういうのが好きでしょ』なんて問いかけたのは誰だい?」  
「そ、それは…」  
と返事する間もなくゆっくり押し倒される。 反射的に、右手が下半身に伸びてその部分を覆い隠す。  
「…こんな事言うと、また君は怒るだろうけど、嬉しいよ」  
「だから、違うったら!」  
もう、ムキになって否定するしか、私の抵抗方法はない。   
でも、彼は、また優しい表情になり、  
「…本当、僕が悪いのに…嬉しいんだ。 わざわざ僕なんかのためにこんな無茶な事をして…」  
私の右手をそっと退けて、ヘアの全くなくなった私の恥丘をそっと撫ぜる。  
「…ケガしたらどうするんだい」  
…実際、剃り落とすつもりで買った剃刀は殆ど使っていない。 ケガが怖いし、実際剃りにくい。  
結局、長く生え揃った部分を鋏で切り落とし、残りは除毛クリームで対処したのだけど。  
でも、こんな頭の悪い方法で、そこまでしたのは…  
「…だって、あの娘に、いえ、他の娘にもあなたを奪られたくないもの…」  
私はついに本音を口にする。  
「………ありがとう、マラリヤ。 僕も、君を離したりしたくないよ」  
あ、ダメ。 これ以上は、やめて。 だって、これ以上、そんな事を囁かれたら…  
「他の誰でもなく、君の事が好きだ、マラリヤ」  
…もう、ダメ。  
「………私も、好きよ……愛してる…」  
瞳が潤む。  
「マラリヤ…」  
彼の手が私の体を抱き起こし、私を包む。 私は甘い束縛感に瞳を閉じる。  
そして、ゆっくり顔が近づき―私は自分から彼の唇を貪るように合わせる。  
しばらくぶりの感触に、私はまた頭の中が白くなる。  
そのまま、舌を挿し込み、舌を絡ませる。  
彼の唾液が甘く感じる。 そう感じる間もなく、彼の舌が逆に私の腔内(なか)に潜り込み、上顎を撫ぜる。  
「ん……ふぅ…」  
くすぐったい快感に、私は湿った吐息を漏らす。  
彼の唇が離れる。 名残を惜しむように、混ざり合った唾液が一筋の橋を作り、消える。  
「…いいかい…?」  
彼が問いかける。  
私はゆっくりと体をベッドに投げ出し、軽く頷く。  
「…お願い、来て…」  
その言葉に、彼は手早く服を脱いで肌着だけになり、同じベッドに寄り添う。  
私は両手を伸ばして、彼の両頬を撫ぜる。  
―もう一度、お互いの唇が触れ合う。  
 
「はぁ…んぅ……」  
私の口からは、甘い吐息だけが漏れる。  
セリオスの唇が首筋から鎖骨へと滑り降り、その度に愛おしそうに吸い付かれる。  
そして、その跡には、鈍く赤い愛の証が刻まれる。  
「ん…マラリヤ…」  
唇での愛撫の合間に、彼の声が聞こえる。 私はされるがまま、そっと彼の頭に手を添える。  
「ああ…いいわ…」  
甘いような、くすぐったいような、しばらくぶりの感触。  
まだ、肝心な部分に触れられてもいないのに、彼の愛撫は私の官能をくすぐり、秘めやかに燃え立たせる。  
彼の唇が一旦離れ、両手が私の乳房にそっと乗せられる。  
「…ここ、敏感だったよね、マラリヤ」  
私の応えを待つことなく、彼の掌は優しく強く私の乳房を揉みしだく。  
「やあっ…んぅ…」  
彼の掌の中で、私の乳房は形をその都度変え、それに合わせて声を漏らしてしまう。  
「…声、出していいからね」  
彼は愛撫を続けながらそう囁く。  
そして、その指が、固く尖った乳首に触れる。  
瞬間、激しく電流のような快感が体を疾り、ビクリと体が跳ねてしまう。  
「ああっ!」  
鋭く高い声を発して、私は快感に身をよじらせる。  
「もっと、声聞かせて」  
また、優しくそう囁かれる。  
「え……えぇ…んぅ…」  
素直に言うのが少し恥ずかしくて、私は瞳を伏せて途切れ途切れに応える。  
でも、体の中に生じた快楽はとても素直で。  
「あああんっ! 気持ち…いいのっ…!」  
彼の唇が右の乳首を咥え、吸い上げられた途端、私は憚ることなく快感を訴える。  
こんなに感度良かったかしら、私?  
でも、彼の唇と舌が、私の乳首を甘く噛むように咥え、転がされると、  
「いい…わっ!」  
その度に、痺れるような快感に支配される。  
同じように、左の乳首も丁寧に転がされる。  
彼のくぐもった吐息と、粘る唾液の音が、私の嬌声と混ざり、部屋全体に甘い結界を張る。  
「すごい…もう、こんなに感じてるんだね…」  
「い、言わないで…んん…」  
「我慢しないで。 もっと、愛してあげるから…」  
そう。  
こんなに感じるのは、あなたに愛されている実感があるから。  
そして、私も愛しているから。 …壊れそうな程。  
「あああっ!」  
再び、強く乳首に吸いつかれ、私は高い嬌声をあげて仰け反る。  
「お、お願い………も、もっと…」  
「もっと…何だい?」  
表情を変えずに彼が囁く。 意地悪ね。  
―もっとも、彼の顔も上気していて、燃え上がっているのがわかるけど。  
私は、乳房に置かれた彼の右手をそっと掴み、下へと導く。  
「……こっちも、お願い…」  
そうおねだりする私の表情は、恐らく淫らなものになっているだろう。  
固唾を飲み込む彼の喉が鳴っている。  
「…わかった、じゃ…」  
彼の体が私の視界を下に滑るように動く。  
 
「………」  
恥丘に置かれたセリオスの右手が、その感触を確かめるようにそっと滑るように往復する。  
…くすぐったい。  
普段なら、そこは恥毛に覆われていて―元々薄いけど、念のため―固い感触を感じるのだけど。  
ツルリとしたそこは、いざ触られると奇妙な感じ。  
「全く、こんな無茶して…」  
彼がこぼす。  
「だって……こうでもしなきゃ、と思ったから…」  
「…突飛すぎるよ。 でも、そんな所もあったんだ」  
「イヤだったかしら…?」  
「…先刻も言ったはずだよ、僕なんかのために、しなくてもいい事をしてくれるのは…」  
彼の手が恥丘から中心部へと滑り降りる。  
「…嬉しいに決まってる」  
彼の指が、既に熱く潤んだ私のラビアに触れる。  
甘く鼻を鳴らして、私は体を震わせる。  
「…すごい、もうこんなに濡れてる」  
「…だって、それは…ああんっ!」  
彼の言葉に力ない抵抗を試みるけど、彼の指が軽くクリトリスに触れた瞬間、もう抗議は続けられない。  
「…いつもより敏感になってない…?」  
不思議そうに彼が呟く。  
言いながら、指をクレバスの先端から反対側の先端までを柔らかく往復させる。  
「…んん…ふぅ…」  
私は軽く身をよじりながらも、緩やかな愛撫を受け入れている。  
熱く潤んだクレバスから、次々と蜜が溢れてくるのがわかる。  
「…ダメだ」  
不意に彼がそう呟くと、クレバスから指を離して、私の両脚を担ぐように押し開く。  
「あ、ダメ!」  
と言った時にはもう彼の顔が私の股間に潜り込んでいた。  
「…我慢できないよ」  
そして、前触れもなく、彼の舌がクレバスを割って、ヴァギナの奥に挿し込まれる。  
ゾクリとくる不意打ちに、一瞬両脚に力が入り、彼の頭を挟み込む恰好になる。  
「あ…っ! …大丈…夫…ん…」  
「いいよ、気にしないで」  
謝る私に軽くそう返して、彼は丹念に舌を使って私を攻める。  
「あん、ああ、い、いいわっ!」  
私ははしたなく嬌声を挙げて、彼の愛撫を歓迎する。  
彼の舌が一旦ヴァギナから引き抜かれ、充血しているラビアに沿って啜るように動く。  
その度に粘った水音が耳に届き、私の頭を激しく掻き回す。  
「セ、セリオス…あっ、そ、そんなの…」  
「…嫌なのかい?」  
愛撫の合間にそう囁かれる。  
「…も、もっと、気持ちよく…してぇっ…!」  
頭で考えるより先にそう口走る。 そう、もっと、もっと彼に犯されたい。 彼に、愛されたい。  
彼の舌が『了解』とばかりに、再び私を苛む。 その度に、私のヴァギナはぬかるんだ歓喜の音を立てる。  
そして、彼の唇がクリトリスを捉える。  
「……やあぁん!」  
私の腰が跳ね上がり、彼の顔に押し付ける。 考えるよりも先に、体がねだる。  
充血してむき出しになった私のクリトリスを彼が唇で強く噛み、舌先で激しく擦り上げる。  
私の頭の中が、一息に白く染まる感覚。  
「ああああっ! も、もう…ダメ…!」  
体にも痙攣が疾り、絶頂の到来を待ち侘びる。  
………?  
不意に、彼が愛撫を止めて、こちらを見る。  
「…お願い、もう、イカせて…」  
焦らされたわけでも、言わされるでもなく、私はそうねだる。  
「…うん、でも、もう僕も我慢できないんだ…挿れるね…」  
「…お願い、来て」  
そう言うと同時に、彼に向かって大きく両脚を開く。  
 
熱く猛ったセリオスのペニスが入り口に当てられる。  
その熱だけで、私の背筋を快感が疾り、息を乱す。  
「…いくよ」  
「ええ、は、早く…ちょうだい…!」  
私の恥ずかしい絶叫に呼応して、彼のペニスが一息に私の奥に飲み込まれる。  
「あああっ、ふ、深いぃぃっ…!」  
待ち望んだ刺激に私はまた絶叫し、彼の背中に腕を廻し、強く爪を立てる。  
「ううっ、マラリヤ…凄いよ…」  
彼の甘い呻き声が届く。 少しの間、深く繋がったまま彼を抱き締め、彼を感じる。  
私のヴァギナも、同じように彼のペニスを襞を震わせながら存在を確かめる。  
「…そんなに締め付けないで…」  
彼が快感に顔を顰めながら懇願する。  
「だ、だって…あっ…い、いいんだもん」  
私も顔を蕩けさせて彼に返す。  
彼は大きく深呼吸をして、大きく動き出す。  
「ああああんっ!」  
深く突き上げられて、私は体をよじらせながら喘ぐ。  
先程までの愛撫で、もう絶頂の寸前だった私は、ほんの2、3度受け入れただけで達してしまいそう。  
不意に、体が激しくブルリ、と震える。  
「セ、セリオス…! …あああっ!」  
ヴァギナの中ほどのスポットを抉られた瞬間、私はあっさりと達してしまった。  
「………大丈夫?」  
焦点を失った私の瞳に、彼の顔が映る。 心配そうな、少し満足そうな、―愛しげな表情。  
「ごめんなさい…私だけ…先に…」  
「いいよ、嬉しいから…マラリヤが、僕で感じてくれた証だから…」  
「…恥ずかしいから、やめて…」  
嘘ばっかり。 愛してるから、すぐに達したくせに。  
「いいや、何度だって言ってあげるよ…愛してるよ、マラリヤ…」  
…ダメ、その言葉だけで、またイってしまいそう。  
「………私もよ、セリオス…」  
自分でもぎこちなくそう言ってしまう。  
「…ありがとう」  
言って、彼は私を優しく抱き締めたまま、再び体重を掛ける。  
「ま、待って…」  
「まだ、きついかい?」  
「ううん…そうじゃないの…その…少し痛むの…」  
そう。 実は一つ快感を邪魔する要因がある。  
「え、激しすぎたのかい?」  
「違うの…」  
実はこれ、言うのがすごく恥ずかしい。 でも、言わなきゃ伝わらないし…  
「その…擦れて……痛いの…」  
そう。 ヘアを剃り落とした影響で、恥丘が摩擦されて痛むのだ。 ほんの数回突かれただけで、肌が少し赤くなっている。  
彼がクスリ、と微笑む。  
「わ、笑わないでよ!」  
「ごめん、でも、そうなるんだね、あの毛にそんな役目もあったなんて…」  
「もう、やめて!」  
私は拗ねて顔を背ける。  
「ごめんね。 …じゃ、こうしようか」  
彼は私の体を起こし、繋がったまま向かい合って座る。  
「これなら、どう?」  
…少し身をよじってみる。 まだ擦れるけど、そんなには気にならない。  
「…さっきよりは、んっ…大丈夫…」  
私は腰を少しくねらせ、催促する。  
「じゃ、行くね…」  
彼はそう言って、私の頭を抱き寄せ、キスを落とす。  
 
「ああ…あ…はああん…」  
私の口はだらしなく快感を訴える。  
座って向き合ったままセリオスに貫かれ、抱き締められて、でも、私自身も彼を貪っている。  
「ううっ…マラリヤ…」  
嘆息するような彼の声も、私の官能を刺激する。  
彼の両腕が、私の腰に回り、私をゆっくりと揺さぶる。  
その度に、彼のペニスは私の襞を浅く、深く抉り、そこからジワリと新たな快感を生み出す。  
「いい…わぁ…セリオスぅ…」  
私はされるがまま、快感に溺れる。  
「…っ、マラリヤ…凄くエッチな表情してる…でも、綺麗」  
「だ、だってぇ…貴方と、あんっ…してる、から…」  
痴態を指摘されて、すごく恥ずかしいけれど、でも、こんな表情(かお)、貴方にしか見せないわ。  
彼が私の腰を強く引き寄せる。  
私の奥がゴリゴリと強く刺激されて、私は歓喜の悲鳴をあげる。  
「セ、セリオスぅ! そ、そこ、いいのぉ!」  
腰を震わせ、彼を強く抱き寄せる。  
「くっ、じゃ、もっとするね…」  
彼は強く押し付ける動きに捏ね上げる動きをつけて私の奥を貫く。  
「ああん、それ、もっとぉ…!」  
私はさらに腰をくねらせて、はしたなくねだる。  
深く繋がった私のヴァギナの奥から、とめどなく新たな蜜が流れ、くぐもった水音を立てる。  
「凄いよ…すごく、気持ちいい…」  
彼も腰をせり出しながら、陶然とした表情で喘ぐ。  
「あああっ、そ、そこぉっ! ゴリゴリ当たってる…のぉ…!」  
私はストレートに快楽の言葉を発してしがみつく。  
ふと、彼が動きを緩めて体を横たえる。 私が彼に騎乗する形になる。  
「…これで動いてみて…多分、もっと痛くはないはず…」  
…もう、痛みなんか快感に呑まれて忘れてたんだけど。 でも、その気遣いもまた、嬉しくて。  
私はのろのろと膝を立て、彼の体に両手を添える。  
そして、好物を貪るように、激しく腰を上下させながら、彼のペニスを呑み込む。  
「…す、凄い…!」  
彼の表情が快感で歪むのがわかる。 その顔が愛おしくて、私はさらに深く彼を貪る。  
「ああ、セリオスの…深いぃ…」  
「マラリヤも…暖かくて…溶けそうだ…くっ」  
彼の両手が伸び、私の腰にかかる。 そして、彼も下から不規則に腰を突き上げる。  
「ああああっ、そこ、突かないでぇ!」  
私の襞の特に敏感な箇所を突かれて、私は体を仰け反らせて快感を訴える。  
「そんなの…無理…もう我慢できないよ…」  
彼の動きが早くなる。  
再び、頭の中に靄がかかる。  
私は腰を動かしながら上体を彼に預けるように傾ける。  
「わ、私…また…イ…ク…!」  
「ぼ、僕も…!」  
お互いに絶頂の到来を感じて、同時に呻く。  
彼が私の頭を引き寄せ、激しく唇を貪る。  
「……………!」  
瞬間、お互いを深く打ち付け合い、激しい衝撃が全身を甘く貫く。  
「………!」  
私は彼の口の奥に、絶頂の言葉を告げて達する。 同時に、私の奥に、彼の熱いものがとめどなく注がれる。  
………ああ、熱い……好きよ、セリオス。 離さないから…  
彼の体に私の体を力なく預けて、遠い意識で、そう思った…。  
 
「ねえねえ、ラスクくん、次はあれに乗ろうよ!」  
「うん、行こ、アロエちゃん!」  
「ほらほら、二人とも、そんなに走ったらこけてケガしますよ」  
試験後の休日。  
遊園地に明るい声がこだまする。  
私とセリオスは離れのベンチに腰掛けて、ジュースを飲んでいる。  
「…無邪気って、いいわね…」  
「まあ、ああいうのが楽しい年頃なんだ、昔は君もそうだったろう?」  
「…どうかしら」  
無事、試験も終わり、皆で遊園地に来ている。  
私たちは、無事昇格。 他の子たちもそれぞれ満足のいく結果だったようだ。  
…結局、ラスクとアロエの勝負は引き分けとなり、カイルの計らいで、それぞれの希望を叶える形となったようだ。  
私たちも、彼らを手伝った(あの後、結局私も協力した)兼ね合いで、一緒に来ている。  
「騒がせてしまったね」  
セリオスがこぼす。  
「もういいわ…あの娘からもちゃんと話を聞けたし…」  
溜息混じりにわたしは返す。  
「…で、セリオス。 先刻からジロジロ見てどうしたの?」  
「いや、マラリヤの白い服、っていうのも珍しい、と思ってさ…」  
「…まだ言ってるの?」  
「どういう心境だい?」  
「…気分転換」  
素っ気無く返す。 ―彼の顔がまたあの表情になる。 いたずらっ気のある笑みだ。  
「…また、突飛なことするのかい? ひょっとして…」  
「ば、馬鹿言わないでよ…」  
思わず顔を背ける。  
「…白い服、似合ってるよ、綺麗だよ、マラリヤ」  
「………!」  
顔が火照るのがわかる。 でも。  
「…ありがとう」  
彼の手に、私の手を重ねて。 …もう、離さないから。  
 
― Fin. ―  
 

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