その日、ユリはタイガにこう言いはなった。
「タイガ、『賢者プレイ』してみない?」
「…………」
「ちょ、ちょっと手をあてないでよ! 熱はないって!」
ベッドの中で裸のまま(すでに一回戦は終了)、どうでもいいやりとりをだらだら始める二人。
特に珍しくもない、いつものひとコマだ。
「せめてどういうのかくらいは聞いてよ!」
「……言うてみい」
「あのね、タイガが賢者って前提でセックスをするの」
「…………」
「なんで体温計を出すのよ! だから熱はないっての!」
上下に振って水銀を下げるタイガに、憤慨したようにユリが健康を主張する。
そこで一旦、素振りを止めたタイガだったが、それでも体温計自体は枕元に置いた。
隙あらば使うつもりらしい。
「ひっどーい! 人を勝手に病気あつかいしないでよ!」
「なら突然わけわからん事うっれしそうに言うなボケぇ。ええからとにかく最初から話せ、
それだけじゃ何もわからん」
まだ怒りの治まらないユリを軽くかわして、話の先を促す。
つき合いだしてから結構な月日を経た今、ユリの扱いに関してはかなりうまくなっていた。
そんな相手の態度に、ユリは少しの間ぶつぶつと何かを呟いていたが、やがて気を取り直して話し始めた。
こういった切り替えの速さは、ユリの長所のひとつだ。
「あのさ、いつも同じことばっかしてるとマンネリするっていうでしょ?」
「……正直、お前に飽きる俺が想像できん」
「え! なになに! そんなにわたしが好き?」
「いや、見てておもろい」
「ひどっ!? ペットみたいに言わないでよぉ!」
「ええから、それで?」
「あ、うん。つまりさ、イメクラプレイで変化をつけようってことなんだけど、普通のプレイじゃ
なんか物足りないっていうか……」
「そこで俺が賢者っつー話が出てくんのかい」
「そそ、タイガが賢者になって、ある日ある時わたしを呼び出したって設定にするの!
それでね……」
※ ※ ※
「きゃあぁっ!?」
ベッドに全身を叩きつけられ、スプリングが大きくきしむ。
起き上がろうとしたその前に、二本の太い腕がユリの肩を押さえつけた。
「いやっ! はなして……!」
「ええやん、こゆこと別に知らんわけやないやろ?」
拘束を逃れようと、暴れるユリをどこか勝ち誇ったような顔でタイガは見る。
ユリの姿をとらえるその瞳は、欲の炎で妖しく燃えていた。
「何をするの! はなしてよ!」
「……お前、可愛くなったなぁ」
「……!?」
「ええ思いさせたるで……」
悲鳴をあげようとしたその刹那、唇で唇を塞がれた。
「ひゃうぅっ!? ああっ! だめぇ…っ!!」
「しまりのないやっちゃのう。汁だくのぐちゃぐちゃやん」
ユリの両手を後ろで縛ったあと、そのまま背後から抱きかかえるようにしてショーツの中に手を忍ばせる。
必死で閉じようとする股を強引に押し開いて、秘唇を指でかき回した。
熱い蜜が骨ばった指に絡みつき、淫猥な水音を響かせる。
苦痛にも似た嬌声をあげながらユリは左右に身をよじらせるが、それもただ、自分を犯す男を無駄に
煽らせるだけだった。
「どれ、こっちも……」
右手で割れ目を嬲りながら、タイガはユリの上の服を限界までたくしあげて、
今度はむきだしになった白い胸を責める。ぐにゅぐにゅと絞るようにして柔らかいふくらみを
楽しんだあと、唐突に赤い乳首を摘まみあげた。
「きゃあ!? ああん…!!」
「ビンビンに固くなりおって……気持ちええか? ん?」
摘まんだ乳首を左右にコリコリと捻ねられて、背筋をゾクゾクした悪寒が走る。
逃れようと必死に体を振るも拘束はとけず、されるがままに愛撫を受け入れるだけだ。
「いやぁっ…!! クリクリしちゃだめぇっ……!!」
「ええ声でなくなあ。おら、もっとなけや」
そういうなり、まだ触れていないほうの乳首に強く吸い付いて、さらに膣口を弄っていない親指で
クリトリスを潰した。「あ――!」と鋭い嬌声をあげながら、ユリはビクビクと体をのけぞらせる。
「あああ……止めて……おねがい許してぇっ……!!!」
「アホいうな、俺がどんだけ我慢したと思てるねん。今夜はたっぷり可愛がったるからな……」
ごくりと生唾をのみこみながら、より一層、激しく責め立てるタイガ。
獣の腕の中で、ユリはただ淫らに暴れることしかできなかった……
※ ※ ※
「……ってこんな感じで、わたしをきつく追いつめるのー! きゃーっ! タイガのエッチエッチ!!」
「ほなお休み。また明日な」
「いやーっ!? 待ってー!!」
嬉々として語るユリの言葉を最後まで聞かずに、タイガはさっさと背を向けた。
今の話を聞かなかったことにするつもりらしい。だが、もちろんここで引き下がるユリではない。
「なによぉ! 話せっていったのタイガじゃん!」
「その話のどこに俺が賢者になる必要があるんじゃアホンダラぁっ! ちゅーか、賢者になって
最初にやることがセックスって聞いてるだけで悲しくなったわ! 俺らの最終目標を変なことに使うな!!」
「だってタイガが普通に強姦してもなんか違和感がないっていうか、だったら少し特別な変化が
欲しいっていうか……」
「ふざけんなあっ!! 人を勝手にレイプ犯にしといてその言い草はなんやごらぁっ!!
もうええ! 俺は寝るから起こすな!!」
「待ってってば! 寝たらジャージだけを残してタイガの服全部捨てるよ!!」
「地味にやな嫌がらせすんな!! ええかげんにせえ!!」
その後、ごたごたと言い合いごたごたと揉み合い、そしてそのままなんとなく2回戦が始まった。
― 2回戦終了から30分後 ―
「は〜いユリちゃん、カップ麺(1・5倍)ができましたよ〜」
「わーい、豚キムチー!」
戦闘(?)後、空腹を感じたユリの提案で、二人は腹ごなしをすることに決めた。
腹がへったと訴えるユリに対して特に何も言わずにカップ麺を作ったのは、これまたいつもの事だからだ。
もしかしたらいいように使われているだけなのかもしれないが、嫌な気分にはなりたくないので
タイガはひとまずその考えを振り払う。ユリに麺を渡した後、自分もバター醤油と書かれたフタを剥がし、
割り箸を割る。少しいびつな形で割れた。
「んー! キムチ最高ー!」
幸せそうに麺をすするユリを呆れたように見やりながら、タイガはスープを口に含む。
そしてユリと同じように、音をたてて麺をすすっていたが、ふと途中で箸を止めた。
「……おいユリ」
「ん? なに?」
麺から顔を離さず、言葉だけを返す。ユリにとって今はこれが一番大事らしい。
それでも特に失礼だとは思わず、タイガは先を続けた。
「さっきの……その、賢者プレイっちゅーやつ、どうしてもしたいか?」
「え? ひょっとして乗り気になった?」
パッと顔を明るくしながら、ようやくユリがふり向く。
自分の希望が叶うのなら、食事は中断してもいいらしい。かなりげんきんだ。
「乗り気っちゅーか……まあ……」
一度は怒鳴ってつっぱねたものの、それでもいつもと違う行為には興味があるらしい。
断った手前の気まずさからか、話す言葉が少しにごる。
「けど、お前の話した通りにはせんで」
「ええーっ!? なんでー!」
「ったりまえやボケぇっ! 呼び出して強姦なら賢者でなくともできるわ!
俺が賢者でなきゃならん理由まで考えろ!!」
「ぶぅ……じゃあどうすればいいの?」
「ええか? 俺は賢者になったんやから、当然、今までとはちゃうわけやろ?
多分、ごっつ忙しくなっとるやろし、クラスも違えばお前と会う機会だって減る。
俺とお前との距離も長くなる。そこでな……」
※ ※ ※
「ん……むぅ……」
ぴちゃぴちゃと唾液のかき混ざるような音。
男根の形をしたその道具を、ユリは一心不乱にしゃぶっていた。
両手を添えるようにそっと持ち、ちろちろと先端をなめる。
その後、亀頭にあたる部分をを飲み込むようにしてくわえ、まぶすように唾液を擦りつけた。
「…ふぅ……んむぅ……」
脳裏に浮かぶのは愛しいあの男。つい最近、彼は賢者になったばかりだ。
だがそれゆえに、彼に会える時間は格段に減少した。
「……タイガ……置いてかないで……」
昇級による離れた距離が、会えない切なさが、ユリをこのような行動へと駆り立てる。
本当はこんな歪んだ行為などしたくはないのに……
だけど、口にくわえたものをはなす気にはなれない。
「……うぅ……んぅっ……!」
あたかも本物のタイガのものであるかのように、ユリは口をすぼめて吸い上げる。
根元から先端までを、一本の線を引くようにつーっと舐め上げ、くびれたところをを軽く噛み、
カリの部分を執拗に責める。片方の手で上下に扱いてもみる。
……だけど、男の形だけしかしていない道具では、その材質以上の硬さになることなど決してないのだ。
「……は…ぁ……タイガ……」
本物が欲しい。こんな無機質な偽物では、満足できない。
あのビクビクと脈うつ生々しいものでこの口を塞いで欲しい。白濁した白い液体でこの口を汚して欲しい。
この淫らな心を思う存分、蹂躙して欲しい。
「……タイガ……タイガ……タイガタイガタイガタイガ……!」
熱に浮かされたように何度も名前を口にしながら、ユリは滑稽にも見える自慰行為を飽きるまで続けた……
※ ※ ※
「……と、まあこんな風にお前の俺への寂しさをも前提にしてだな……」
「ぷはー! ごちそうさまー!」
「聞けやアホぉっ!!」
「いたあっ!?」
最後の一滴までスープをすすったユリの後頭部に衝撃が襲い掛かる。
叩く時間がもう少し早ければ、スープを吹き出していたかもしれない。
「なにすんのよバカ!」
「こっちの台詞だボケぇっ!! どうすりゃええのか聞いときながら、
なに忘れてラーメンすすっとんねん! チャボかお前は!!」
涙目で抗議をするユリに、タイガも負けじとやり返す。
その拳は怒りでわなないていた。
「忘れてないもん! けどタイガなんか変な話しかしないし、だったらラーメンのほうが大事だし……」
「ふざけんなあぁっ!? 200円も出せばおつりがくるようなもんに負けたんか俺は!!
ちゅーか変な話ってなんや変な話って! 俺が先に賢者になったさいに起こりえる事態を
わかりやすく例えただけやろが!」
「変なこと言わないでよ! わたしそんな変態みたいな真似しないもん! 第一くわえるのなんて、
タイガのグロいのだけで精一杯なんだから!」
「おんどりゃああぁぁっっ!!? 人の大事なモンをグロいとは何事やあ!! 許さん!!
もうお前を許さん!! 口を開けろオラァっ! 口直しに俺のナニワをお前にしゃぶらせたるわっ!!」
「ぎゃ――っっ!!? 変態――っっ!!?」
その後、くわえるくわえない、噛む噛まないの話になり、そしてなぜか3回戦が始まった。
― 3回戦終了から15分後 ―
「あ、ねえねえタイガ」
「今度はなんや?」
使用済みのコンドームをゴミ箱に捨てていると、ベッドに腰掛けているユリが話しかけた。
放り込んでから、念のためにコンドームの箱の中身を確認すると、残りはあと数枚。
これで足りるかどうか少し悩みながらもユリの隣に座る。
余談だがこの二人、『彼らが使ったコンドームがもし魔法石に変わるのなら、一つや二つ軽く昇段している』
と影で噂されていた。
「さっきの話だけどさ……」
「……まだ続けんのかい」
しようもないやり取りを思い出して、タイガがげんなりと肩を落とす。
しかし、ユリは構わずさっさと先を続けた。
「二人の前提、合わせてみない?」
「……あ?」
「ちょ、ちょっと、だから熱はないってば!」
迷わず体温計を手に取ろうとした、タイガをユリが慌てて止める。
結局、今回も使われなかった体温計。使用頻度がコンドームとはまるで逆だ。
「あのさ、わたしたち、プレイにおいてお互いに求めてるものが違うじゃん?」
「……そもそも、『賢者プレイ』っつー時点でアレやけどな……」
「だからさ、いっそのこと二つまとめて一つの設定にしちゃうの。『寂しさに一人自慰をしていた
わたしにタイガが呼び出して擬似レイプ』みたいな」
「ああ、なるほど……ってプレイ内容濃っ!? んなに腰使って猿か俺らは!」
一瞬、頷きかけたものの、あまりにあまりな内容に気がついて思わず身震いをする。
だけど特に反対するつもりはないらしい。
「で、さっそく具体的な行動についてなんだけど……」
「取りあえず、始めは肝心やで。コレ手ぇ抜いたらみんな台無しになるからな」
なんだかんだで乗り気になりながら、タイガも話に参加する。
二人の話は、一番最初の場面設定から始まり、行動および状況、さらには細かいタイミングまでも綿密
に計算した。
そして話し合ってから30分、ついにプレイ内容が完成する。
※ ※ ※
スイッチをONへと切り替えると、すぐに男根の形をしたソレは細かく震え始めた。
ヴィ…ンと音をたてるその物体を膣口へと導く。
「うあ…っ! あああっ……!!」
充分に濡れていた秘唇は、偽の男をなんなく飲み込むことができた。
苦しみのような喜びの声をあげながら、ユリは夢中でソレを動かす。
「あああん!! ああっ! そんなに激しくしないでぇ……!!」
ぐちゅぐちゅとあふれる蜜をかきだすように、前後に激しく出しいれる。
今、彼女は想像の男に犯されていた。
「あ……タイガ……タイガぁっ……!」
口に出すその名は出会ったときから、ずっと心を捕らえてはなさいアカデミー生。
同じクラスだった時には、級友という接点があった。
何気ないことをおもしろおかしく話し合う、ただそれだけで幸せだった。
だが彼が上の組へといき、また所属する階級が上へとのぼったとき、級友は先輩へと変わってしまった。
道で会えば、前と同じように声をかけてはくれる。態度だって変わらない。
だけど圧倒的に……時間が少ないのだ。わずかな間話したら、もう彼は行ってしまう。
所属する組と階級が違うために、時間も場所もお互いにほとんど重ならなかった。
同じクラスの時でさえ、どんなに長く話していても物足りなく感じていたのに、この状態になってからは
毎日が苦しい。
その想いがユリをこのような形での性欲処理へと向かわせた。
会えない分、想像のこの男に、思う存分に犯されるのだ。たとえ自分の手による行為であっても、
ユリにとっては寂しさを埋める唯一の手段だ。
「ひゃああん!! そんなに突いたらわたし……だめぇっ……!!!」
奥の奥まで届かせるように、深く深くバイブを差し込む。
偽物とは知らない内壁が、収縮してソレをきつく締めつけた。それでも手は止まらない。
「はあんっ!! ああっ! お願いイかせて!! イかせてぇっ……!!
なんでも言うこときくからぁ……!!!」
どうやら想像の彼のお許しがでないらしく、苦しそうにユリは何度も首を振りながら悶える。
だがその苦痛の表情ですらどこか幸せそうだ。バイブを持っていないほうの手を服の上から乳房に
そえて、揉みしだく。
そしてやがて迎える絶頂。
「だめっ!! イく!! イっちゃう!! ―――あああああああぁぁぁっっっ!!!!??」
ドクンと奥が弾ける。
ユリはぶるりと体を大きく震わせ、膣から大量の熱を吐き出すと、そのままベットに沈み込んだ。
やがて荒い息の中で訪れる静寂、そしてやり切れないむなしさ。
「……タイガ……」
目を閉じ、暗闇の中で彼の幻影を追う。涙がほんのひとしずく、頬へと流れた。
「おう、ユリ」
「タイガ……!?」
久しぶりに声をかけられて、ユリの心が高く跳ねる。
嬉しさと高揚で声がうまくでてこない。
「なん? 人を化け物でも見るように……」
「え? あ、あはは、なんか久しぶりだったからさ……。それより……おめでとう、賢者になったんだよね」
「ん、おおきに。まあ俺にかかりゃ、ちょっろいもんやったけどなあ!」
豪快に笑うタイガから目が離せない。
ああ、自分はこんなにもタイガを求めていたのか……
あらためて、自分にとっての彼の存在の意味を思い知らされる。
「ところでユリ、お前、今ヒマあるか?」
「え…?」
突然、話題を変えられて、ユリは一瞬言葉をつまらせた。
慌てて思考回路を元に戻し、現在の展開を追う。
「よけりゃ俺の部屋に来ぃへん? なんや話足らへんねん」
……今、彼は何を言ってくれたのだろう?
それは願ってもないことだった。あれだけ焦がれていたタイガと、二人きりで話すことができるのだ。
場合によっては今まで以上に親密になれるかもしれない……!
「う、うん! いく!」
ちぎれるほどの勢いで首を上下に振り続けた。
「へえ……ここがタイガの……―――!?」
部屋に足を踏み入れた瞬間、ガチャりと鍵がかかる。
ほとんど反射的にふり向いたが、その時にはもうユリの体は二本の腕の中におさまっていた。
嬉しさよりも先に混乱が生じる。
「な、なに……んぅっ!?」
ろくに質問もさせてもらえないまま、いきなり唇を唇で塞がれた。
頭を引き寄せるようにして深く合わせ、無理やり舌を捻じ込ませる。
口内に侵入する、ぬめりを帯びた男の舌。その奇妙な感触に、ユリはぶるりと体を震わせた。
「…ふ……ぅん…むぅ……!!」
逃れようと喉の奥まで引っ込めた舌を巧みに誘い出され、からめとられる。
舌先を舌先でつつかれ、上あごをなぞられ、唇で挟むようにして舌をちゅっと吸い上げられ……
息苦しさに、肺が必要量の酸素を求め悲鳴をあげる。
「…ぷは…ぁ……きゃああっっ!?」
たっぷり時間をかけた後、ようやく解放してくれたが、今度は間髪いれずにベッドへと投げ出された。
異常な変化の速さに、息を整える暇すらすない。
「あ…タ、タイガ……?」
仰向けになったユリの腰の辺りをまたいで乗り、両肩を押さえつける。
その力強さに、格闘科のユリといえどもある種の戦慄を覚えた。
「昨夜はずいぶんとまあ、お楽しみやったようで……」
「――っ!?」
聞かれていた…! 人にはとても言えない行為を、一番に聞かれて欲しくない人に知られてしまった。
恥ずかしくて、すぐにでもこの場から消えたい。
だけど、それがどうしてこの行動に繋がるだろう……?
その答えはすぐに明らかになった。
「――誰や?」
「え…?」
「誰や! 昨日お前とヤりまくった野郎は誰や!! さっさと言えやあっっ!!!」
「……!」
「うかつやったわ! まさかお前に手ぇ出す男がいるなんてなあっっ!!!」
この言葉で、何もかもが解ける。
勘違いをしているのだ。彼はユリが他の男と行為に及んだと思い込んでいる。
そしてこの行動は嫉妬にかられてのものだったらしい。
「わ、わたし……!」
どうしようと、心が直面した問題の答えを必死に求める。
こんな風に妬いてくれてとても嬉しい、誤解を解いて自分の気持ちを伝えたい。
だけどあの事を言うのは……
「……言えへんか? ま、しゃーないわな、言うたらそいつどうなるかわからへんやろし……」
薄く笑うその瞳に垣間見える鋭さ。
今の自分の力と立場をよくわかっているのだろう。
何も言えないでいるユリの態度に、タイガは謝った推測を事実として捕らえる。
「――その代わり、たっぷりと楽しませてもらうわ……!」
両手でユリの服を乱暴につかむと、そのまま縦に引き裂いた。
繊維のちぎれる高い音が部屋に響く。
「いやああぁぁっっ!!? 止めて!! いやっ!! いやあっっ……!!!」
無我夢中で抵抗……をしたつもりだった。
だが腕も足も、倒されたときの定位置からまったく動かない。
知らないうちに魔法をかけられいたと気づいたときには、わずかな布を残してすべてをさらけだしていた。
「ええ体しとるやん……」
「い、いや! なにをするの!」
「ここまでされて気がつかんほどアホやないやろ?」
言いながら、胸元まで上げてあったファスナーを見せ付けるようにゆっくりと下ろすと、
ユリの手を片方取り、股間に息づいていたものを直接握らせた。
「あ…!」
生々しい感触に、ユリが一瞬怯えたように息をのむ。
生暖かいソレはすでに先端がぬるぬると湿っており、今にも爆発しそうに脈づいている。
ユリの手の中で、ソレは太さと硬度を増した。
「わかるか? お前のせいでこうなったんやで? 責任とってもらわんとなあ……」
卑下た笑いを浮かべながら、擦り付けるようにしてユリの手を動かす。
先走る液体が小さな手のひらを汚した。
(そんな……! 玩具でだってあんなに感じたのに、こんなのが挿れられたらわたしどうなるの……)
手の中のものは昨夜使ったバイブよりもずっと大きく、質量も違う。
あれほど求めていた本物なのに、今は恐怖の対象だ。
そう遠くはない未来の自分の犯される姿を想像して、思わず体がすくみあがる。
「昨日の男なんぞ比べ物にならんくらいええ思いさせたるからな!」
ろくに覚悟もできないまま、ユリの体に獣が襲い掛かった。
体中につけられた朱と、顔や腹に飛び散るねばねばした白い液体、襲われてから今の今まで、
ユリの秘唇は乾くことがなく、両の内股をてらてらと光らせている。
何度もイされたせいで、指一本動かす気力もなかった。
「…ぅ…あ……!」
「くう〜、たまらんわぁ、感度良好やん」
額の汗をぬぐいながら、タイガはぐったりとベッドに沈んでいるユリをおもしろそうに眺める。
あれだけユリを蹂躙したというのに、欲の炎が静まる気配は一向に見えない。
「さてと、体は充分に堪能したし……」
両の手で、ユリの足首をそれぞれに持ち、扇のように左右に開かせる。
「そろそろ本番にいくとするかのう」
「―――――!!?」
そのまま高く持ち上げると、両膝がユリの顔の横にくるくらい深く折り曲げた。
「あ…あ……!? いやあ…こんな格好……っ!?」
紙のように真ん中から折られたせいで、自分の性器が丸見えになる。
ひくつく、淫らに濡れた赤い割れ目。途端に自分が世界で一番卑猥な人間のように思えて、
ユリは顔を赤らませながら、否定するようにゆるく首を振る。
だがもちろん、拒んだところで行動を止めるようなタイガではない。
すぐに秘唇に昂ぶりを当てると、中へと押し込んだ。
「ハハっ! ええ眺めやあ!! おい見えるか? ユリちゃんの大事なとこに別の野郎のチンポが
入ってきとるんやでぇ!!」
「くぅぅ…っ!! ああっ……!! あああああっっ……―――!!!?」
ずぷずぷと粘着質特有の音をたてて、割れ目が剛直を飲み込む。
音が、視覚が、感触が、ほぼ全ての五感を通してユリが犯される。
「はあああんっっ!!! ああ、あ、あ!! いやあああっっ!!!」
「よう締まるのう…! なん? いやや言うときながらほんまは気持ちええんとちゃう?」
ぐちゅっ! ジュプッ! グジュジュプッ!!
ユリを追い詰める激しい律動。狭い膣内を何度も往復する膨張した雄が、ユリの雌の部分を刺激する。
高い声でなきながら、ユリはシーツを握り締めた。何かにつかまっていないと、自分を保っていられない。
だがそんなささやかな抵抗も、ここまでだった。
(あああ……気持ちいい……気持ちいいよお……!!)
苦しみや痛みだけではない何かが、ユリの中で芽生える。
この感覚は昨夜感じたあの……いや、あの時とは比べ物にならない。
圧倒的な官能が心と体を蝕み、淫らな雌の本能が解放される。
「……あああ……タイガぁ……!! いい! いいよおっっ…!!! もっと激しくしてぇ……!!!」
「ククッ……ええ顔しおって……!! ええで、望み通りに犯したるわ!!」
収縮する壁に、タイガもまた気持ちよさそうに顔を歪ませながら、ズンと根元まで幹を差し込む。
恥骨と恥骨を完全に合わせ、最奥をグリグリと擦ると、ユリの口から歓喜のような悲鳴があがった。
「あああんっっ!! 壊れる……壊れちゃうぅ……!!!」
「おら、言え! 俺に犯されて気持ちがいいて言うてみろや!!」
「ふあああんっっ!!! 気持ちいい!! タイガに犯されるの気持ちいいよおぉっっ……!!」
「ええ子やなあユリちゃんは……そんなええ子のユリちゃんにはご褒美あげんとな、
どこに出して欲しい?」
「な、中にっ…! 中に全部出して!! タイガの精子ちょうだぁいっっ……!!!!」
「ええでええで、この溜まった濃いモンを一滴残らずお前にくれてやるわ!!!」
押さえる足首を握り締め、タイガが一際強く腰を打った。
ユリの奥に熱い精子が勢いよく当たる。
「――――あああああああああぁぁぁぁっっっっ!!!!!?」
びゅくびゅくと飛び出す精子とユリ自身の熱とが混ざり合う。
長い射精が終わり引き抜くと、膣から飲みきれなかった白い液がごぽっと零れた。
「――なあ、ほんまに誰とヤった?」
行為が終わって少し経った頃、ベッドの中でユリを抱きしめながらタイガが尋ねた。
罪悪感を伴うような少し寂しい声に、ユリはさっきとは別の意味でどきりとする。
「……え?」
「俺な……賢者になったら、真っ先にお前に告ろう思てたねん。ずっとユリが好きやったって……」
静かな告白。胸の鼓動が速くなる。
あんなことをされたのに、彼への想いはまださめてはいなかった。
「それで昨日お前の部屋行ってみたら……なんや、もうお前、とっくに誰かのもんになってるやん、
へっこんだわ〜……」
「――!」
「なあ、お前の好きな奴、教えてくれ。そしたら俺は諦める……もう二度とこんなことはせんし、お前にも
近づかん……頼む、教えてくれや……」
「…………バカぁっ!!」
たまらず声を張り上げて、ユリは目の前の男の胸をドンと叩いた。
いきなりの変化に、タイガが狼狽する。
「勝手に決め付けて、勝手に諦めないでよ! わたしだってタイガのこと好きなんだから……!」
「……!? で、でもお前……!」
「ひとりでしてたの……タイガのことを考えながらひとりで……わたし、タイガに会えなくて寂しかった…
会いたかったよ……」
涙が一粒こぼれてしまうと、後はもう止めることはできなかった。
今しがた叩いたばかりの男の胸にすがりつくと、顔を埋めて泣きじゃくる。
「…もう……ひとりにしないでぇ……タイガのそばに置かせて……離れたくないよぉ……!」
「――アホやな、俺……お前の想像した俺に嫉妬してたんかい……賢者にまでなったのに、
どうしようもないアホや……」
閉じ込めるように、ユリを強く抱きしめた。
※ ※ ※
「………………」
「………………」
「………………ねえタイガ」
「………………なんや?」
「なんか……設定っていうよりか、シナリオみたいだね……」
「台詞まで決めて、誰に見せるっちゅーねん……アホやな、俺ら……」
結局、二人の力を合わせてできたものは、無駄にすごい妄想だった。
使える使えない以前に、そもそも作られた最初の目的がうまく思い出せない。
そのやるせなさに、タイガのテンションは一気に下がった。
「あ――! 止めや止め! もう止めんぞ! 無駄に時間潰しただけやん、ほんっまにもう!」
「あ、じゃあ今度がタイガが大賢者って設定で……」
「ええかげんせえっ!! 最初に戻るやろが!!」
疲れたように肩を落としながらも、ユリにつっこむことは忘れない。
とりあえず、彼女のほうはタイガほど疲れてはいないようだ。
「俺ら、こんなんで賢者になれるんかいな……」
ふと、タイガがぽつりともらす。
思っていたよりダメージが相当深かったのか、いつもの自信はどこかに去り、彼らしかぬ台詞が
口から出た。見かけによらず、意外とナイーブのなのだ。
「『なれる』んじゃなくて『なるの』! わたしとタイガ、二人一緒に!」
そんな情けない顔をしていると、ユリからの叱咤がきた。
したたかな彼女は、かえってやる気を出したようだ。
「……お前のそゆとこ、尊敬するわ」
「……なんかバカにしてない?」
素直に褒めることなど滅多にしないタイガを知っているユリは、言葉に隠れた裏の意味を的確に読み取る。
恐らく、楽天家だと言いたかったのだろう。本音を言い当てられて、タイガが少し苦笑する。
と、突然、タイガはユリの肩を抱いて引き寄せた。ぽすっとタイガの肩にユリの頭が乗る。
「うわ! な、なに……?」
「せやな、二人一緒に賢者にならんとな。でないと、かわいいユリちゃんが、
妄想の俺で慰めにゃならんはめになるし」
「ちょっと! それはさっきの話の中でのことでしょう! 実際にはしないっての!」
「いや、俺と離れたらするな絶対。なんなら俺の写真やろか? とっておきの秘蔵のやつ」
「バカー! わたしに何させようとしてるの……」
だが言葉を最後まで言い終えることなく、ユリは腕の中に閉じ込められた。
きつく何かを守る、鍵をかけるような抱擁。
「――安心せい、んなみじめな真似、お前にはさせん」
遠まわしに『離さない』と伝えると、腕の中の存在は小さく身じろいだ。
「……約束やぶったら、承知しないからね」
「心配すんな、俺かて命は惜しいからな」
「なによそれ!」
もちろんユリは本気で怒ったりなどしていない。ただ恥ずかしいだけだ。
そのまま数秒間、二人は互いを見つめ合うと、やがてどちらともなく唇を寄せる。
どさりと、ベッドが鈍いスプリングを響かせた。
4回戦、開始。
ドアの前に、ひとりの生徒が立っていた。
青い髪を後ろで束ね、物腰の柔らかい眼鏡をかけた少年……カイルだった。
うっかり作りすぎてしまった料理のおそわけにと、やって来たのだが……
「……どうしよう」
今、彼は途方にくれている。
※ ドアの中から聞こえてきた声。
『あああ…! だめえ…!! そんなところ舐めないでぇ……!!』
『けどごっつ濡れてるやん、体は正直やな』
『ん…! すごい……また大きくなってる……』
『うまくなったなあ、ユリ……もっと頼むわ……』
『きゃあああっ!! あん! ああん! やめてぇっ……!!!』
『ほれ、こうゆうのはどうや?』
『あああん!!! だめぇっ!! おかしくなっちゃううぅぅっっ!!!』
『おらぁっ!! 抜かずに3発いくぞごらあぁっっ!!!』
『ひゃあああんっっ!! そんなの……タイガだって持たな……ああああっっ!!?』
『ハッ! 俺を甘くみんな!! 俺は抜かずの三冠王やあぁっっ!!!』
『やああああんっっ!! タイガのディープインパクトぉぉぉっっっ!!!!!!』
「……………………盛り上がってるなあ……」
もはやこれしか感想がない。
鍋の中身はとっくに冷めていたが、なんだかどうでもよくなった。
引きつる顔にはいつものあの笑顔はない。
「まだ始めていないと思ったんだけどな……」
腕時計の文字盤は、やっと午後9時をまわったところだった。
いつから二人は始めていたのか定かではないが、それでもかなり非常識な時間ヤり続けているのは
間違いないだろう。
「僕、帰ったほうがいいのかな……?」
もちろん、それが最良の選択なのだろうが、今さら冷めた鍋をひとりで食す気にはとてもなれない。
今日に限ってこの二人以外の皆は食事を済ませてしまっていて、料理を渡すことができなかった。
ここは去りたい、だけど鍋の中身は減らしたい、板ばさみな状態にカイルはひとり頭を悩ませる。
他に誰かいなかったかと、脳内のリスト懸命にをめくってみる。
『ああああっっ!! いいっ!! 気持ちいいのぉっっ!!!!』
『この淫猥がぁ!! 潰れるまで犯したるでぇ!!!』
部屋の中では、外に誰がいることなどまるで考えもせず、二人は夢中で共同作業に没頭している。
余談だが、これでも彼らの戦いは『まだ』始まったばかりだった……