「ほ、本当にコレ…き、着なきゃだめ?」  
 ユウに手渡されたのは女子生徒用制服(非売品)。  
「残念ながら決定事項のようです…」  
「心から…お前で良かったと思うぜ……」  
「大丈夫大丈夫!きっと可愛いよ♪」  
 同情の視線を送って来たのはカイル。  
 思いっきり安堵しているのはレオン。  
 何の邪気も容赦も無く言うのはアロエ。  
 学生によくありがちな罰ゲームって奴だ。  
 
 一方セリオスは滴る鼻血を誰にも見られぬよう華麗に隠していた。  
 
 
 
 事の発端は色々問題はあるが簡単である。  
 例によって例の如く騒ぎ大好き我らがおっぱい先生ことミランダ先生。  
「暇だわ〜」  
「なら職員会議のプレゼン資料作成、手伝ってくれないかい?ミランダ先生」  
「暇だわ〜」  
「……そんなことだろうとは思ったけど」  
 イケメン半裸ナルシスト先生ことフランシス教員の頼みも全く聴こえて居ないようだ。  
「騒ぎが無ければ作ればいいじゃない!」  
 この台詞たるや事件を自分で作り出す駄目マスコミを彷彿とさせる。  
「せ、先生本当に教師なのかい……。あんまり騒ぐと後始末が大変なんd」  
「まーろーんーちゃーん!あなたのトコのホームルーム今日代わりに行かせて〜!」  
「うはwwwwwwおkwwwwww」  
「………もう好きにしてくれ………」  
 魔法少女は職場でヴァナディールと来た。もう駄目かもわからんね。  
 今回の後始末もきっとフランシスに回ってくるという切なさがある。  
 つまるところ、びっくりするほどトマス・モアな女性の気紛れであった。  
 南無。  
 
「と、言うわけで久しぶりに放課後ガチバトルを突発的にやるわよ〜!」  
 HRが始まるなり、自分たちの担任ではなくおっぱいが…じゃなくて  
 ミランダ教師が入ってくれば生徒たちは覚悟を決めるしか無い。  
 何せこの先生の機嫌を悪くしたら何がしかの教科の成績が2は下がる。  
 まさに外道。  
   
「ユウ、何アルかソレ」  
「僕も知らないなぁ…タイガさん知ってる?」  
「俺もや。プリキュアはどや?」  
「プリキュア言うな。あたしだって知らないよ?」  
 放課後ガチバトルと言ってもそもそも響きが懐かしすぎる。  
 何せゲームで言えば無印。第一期の頃の事である。  
 アロエの髪はセミロングで愛らしくカイルが若年寄の称号を欲しいままにしていた時代である。  
 当然、2期からの転校生たちは知る由もなく。  
 この単語を知らないプレイヤーが居たとしても断じておっぱい先生の責任ではない。  
「また懐かしいものを持ち出してきたもんだな、先生も」  
「あの頃のレオン君は居眠りしなくて良かったわ〜」  
 そりゃぁそうである。昇格と降格の間を緊張感たっぷりの綱渡り。  
 クラスメイトは放課後敵と化す!倒してでも奪い取れ!  
 普段からの勉強がモノを言う時代であった。  
 しかし、流石にギスギスした空気に見かねたのかロマノフのじっちゃんが勲章だか紋章だかを廃止した。  
「勲章も無いことだから王様ゲーム系の形を取るわ。  
 全員4回戦分の問題に答えて貰って得点や正解不正解は完全隠匿、順位は総得点で。  
 総合成績トップのみが知らされ、トップの人は順位の番号を予測してもらって命令をして貰うわ」  
「ミランダ先生にしてはマトモに聴こえますね…」  
 年末雑務の最中に飲み比べを始め女教師4人がぶっ倒れた。  
 そしてその余波で男性教師たちを修羅場に追い込むような人間だ。  
 それに比べれば罰ゲームなんて実に健全である。  
 
 初めは良かった。  
 昔の殺伐とした空気を知っている者も和気藹々と問題を解き、  
 罰ゲームの内容もやれ浜○を歌えK0T0K0を歌え  
 やれ新薬実験台になれやらどろり濃厚ジュースをイッキやら。  
 実にそれらしく、楽しかったのは間違いないだろう。  
 そのまま流れで週一回あるか無いかの突発イベントとして  
 段々日常化していった。  
 ちなみにどろり濃厚をイッキさせられたサンダースは病院送りだった。  
 何故か入院費用はラスクが負担した。流石ネタで金が出せる坊ちゃまである。  
 
 そんなこんなで第8回。  
 今回のトップであるマラリアの命令に一同は戦慄する……っ!  
「8位は………次回開催まで異性の制服を着て就学……。  
 異性の口調で喋りなさい…。  
 ついでに3位の事をお兄ちゃんもしくはお姉ちゃんという  
 シチュエーション設定とすること…」  
 戦友と借金取りは忘れた頃にやってくる!  
 なんというシチュエーションプレイ。  
 聞いただけで野郎どもは鳥肌を立ててしまった。  
 これは間違いなく拷問。  
「これは良い罰ゲームね!」  
 賛同すんな駄目教師。  
「それじゃぁ該当する順位の人を発表するわね。  
 3位セリオス君。8位は……良かったわね。ユウ君よ」  
「よ、よかった。俺じゃねぇ………」  
「男装だったら別に私でも良かったのに」  
「でもでも恥らうユウとか良いカンジじゃない?」  
 言いたい放題だ。  
 明らかに男子を狙った拷問。怖すぎる。  
 
 そして話は冒頭に戻るというわけである。  
 
 
 そして、翌日。女装当日である。セリオスはお兄ちゃん♪当日である。  
 HR前の段々と人が集まってくる時間。  
 遅刻ギリギリに飛び込んでくる者が居るのがいつもの光景だが  
 今日はいつもと同じ時間でありながら、いつもと違う朝なのだ。  
 普段から早めに居る者はいつも通りに。  
 遅刻常習犯すら昨日の犠牲者をニヤニヤするために早めに着いている。  
 そして主賓を出迎える用意をする。  
 
 ガラッ  
 
「お、おはようございます…」  
 挨拶しながら入ってくるのは罰ゲームの哀れな少年。ユウである。  
 しかし今のユウはいつもと違うユウである。  
 制服のリボンは男子にしては少し長めの髪や睫のパーツ、華奢な身体に良く似合う。  
 いつもと同じ少し内股気味の足はやけに丈の短いQMA制服のスカートのせいで  
 いつもと違う女の子らしい雰囲気を醸し出している。  
 声変わり前の可憐な声は……もはや間違うことなき女の子だ。超可愛い。  
 あまりの似合い具合に一同絶句。そして視姦。  
「あ、あの…」  
 ねっとりとじろじろとした視線を浴びながら何とか声を上げる。  
「えと…もう席へ行ってもいいよね…?」  
「「「「「どうぞどうぞ」」」」」  
 ここぞとばかりに普段無いチームワークを発揮するクラス。  
 絶望した。  
 絶 望 し た 。  
 さて、ユウの席であるが、マロン先生の粋な計らいにより  
 本日からしばらく「お兄ちゃん」であるセリオスの隣となっている。  
 それにしてもこの先生、ノリノリである。  
 ユウが席で鞄を下ろす。  
 一同、「お兄ちゃん」との初会話がどうなるか興味深々。  
 なんかこのクラス超静かねと思い覗き込んだトゥエットさんが  
 思いっきり退いたのはまた別のお話。  
 
「お……おはよう?お…兄ちゃん」  
「…おはよう。…ユウにしては遅かったな」  
「………恥ずかしくって……つい」  
「まぁ……なんだ。力を抜いた方がいいんじゃないか?」  
「あ、うん…。し、暫くよろしくね。おにいちゃん…」  
「……よろしく」  
 頬を仄かに紅く染めて、はにかんだように微笑み、  
 首を少し傾げる。その動作の自然さが恐ろしく可愛く感じる。  
「…僕…じゃなかった。私、へ、変だよね?ぅ、変な事に付き合わせちゃってごめんね?」  
 周りのねっとりと絡みつく視線に耐えながら言葉を紡ぐ。  
「……いや、よく似合ってるぞ。残念ながら」  
 自然に手が伸び頭を優しく撫でてしまった。  
 庇護欲をそそられる「妹」が正しくそこに居たのだ。  
 後ろでルキアとユリが「GJ!!超GJ!!!」と言いたげな顔で肩を組み  
 グッと親指を立てていた。殺意を持余す。  
 
 
 お昼にもなれば、そろそろ皆さん慣れて来る頃合である。  
「お兄ちゃん、ここ教えて欲しいな」  
「ん、人物は合ってるが記述の仕方が微妙なところだな」  
「どういうこと?」  
「イグナティウス・ロヨラなんだが、本によってはイグナチウスだったり  
 イグナティウエスだったりと区々だ。先生にどの記述に合わせるか聞くんだ」  
「はーい」  
 自然だ。自然すぎて突っ込めねぇ。  
 女性陣は弄り倒したくて仕方無さそうな空気があるが、  
 話してみたらあっさり仲良くなった二人は既に固有結界を作っていた。  
 割って入るような空気読めない行動なんてとても出来ない。  
 そもそもユウと言えば男の子なのか女の子なのか区別のつかない男の子である。  
 それで居ながら本人は意識してか知らずか、女の子らしい挙動を含んでいる。  
 内股で歩くわ、箒は横乗りだわで既に男女の境界線が曖昧になっているような、  
 それでもやはり男の子である。  
「……タ、タマラン('A`)」  
「ん?何か言ったか?セリオス」  
「いや、何でもない」  
 とんだHENTAIが居たもんだ。  
 
 3日目にもなれば、もはや落ち着いてしまう。  
 人間の適応力は凄まじい。  
「ユウ、昼は一緒に食べようか?」  
「うんっ。レポート出してくるから先に用意しててねお兄ちゃん」  
 ユウにその気が有ったのかは誰も分からないが、クラスの中では既に  
 「ぶっちゃけユウは男子だと思えなくて……」「女子より可愛い顔してるよね〜」  
 とか好き放題言われている。  
 パタパタ…  
「おまたせー。今日はつみれ作ってきたの。食べる?」  
「鍋じゃないのにつみれ…?……いやでも美味い。一から自分で作ったのか?」  
「町に良い材料が揃ってたから。良かったらお兄ちゃん放課後お買い物いこ?」  
「わかった」  
 髪の色と質が若干違うが輪郭が似ている二人は慎重の差と相成って  
 まるで本当の兄妹のように見えて微笑ましいことこの上無かった。  
「えへへ…♪」  
 口元を緩め向けられる笑み、サラサラと艶の良い髪を近くで見ると  
(ありがとう!マラリア!!)  
 と心の中で叫ばずには居られないセリオス君なのであった。  
(妹!!最高!!!!)  
 弟だってばさ。  
『私の役割もってかないでぇ〜…』  
 何か聞えたようだが今のセリオスは冒険の書が消えても笑顔を崩すことは無いだろう。  
 
 5日目にもなれば、初めから女子だったんじゃね?的扱いを受けるようになる。  
 悪ノリした教師たちにより体育にまで女子に回されるユウが居た。  
 ゆとり教育に過ぎる。日本はどうなってしまうのか。別にここは日本ではないが。  
「ユウッ!お願い!」  
「は、はい」  
 絶滅危惧種、ブルマをまさか自分が穿くことになるとは思わなかったユウが今臨んでいるのは  
 種目としてはよくある室内競技バスケットボールだ。  
 ところで皆さんご存知だろうか。身体能力の男女差というものは  
 一般的に野郎が想像している以上に大きい。  
 普段からレオンの強力なプッシュやサンダースの正確なシュートの被害にあっていれば  
 そりゃぁ、ねぇ。もう。並の身体能力があれば…。  
 ダンッ ダンッダンッ  
「ちょっとごめんねっ?」  
 腰が引き気味なクララを素通りし、マークしてくるヤンヤンをフェイントで抜き、  
 ジャンプしシュートするかと思いきやサイドのユリへパス。  
「ナイスッ」  
「いっけ〜!」  
 ユリのシュートはボール一個分飛距離が足りず、入らないだろう。  
 そう早くに判断したユウはボールの着弾位置へ向かう。  
 ダンッ!  
「ふぇ!?」  
 ユウはディフェンスとして役割を果たせそうにない  
 アロエが「同じ女子がこんなに跳べるモノなの!?」(男子だってば)  
 と驚愕しているのを横目で見ながらボールをキャッチ。レイアップ。  
 パサッ  
 うぉ、入った。  
 早い。ユウにボールが渡ってから時間にして凡そ8秒。  
「「「…………」」」  
 そりゃぁまぁ、女子は皆さんびっくりですよ。バスケ部も吃驚。  
「あ、あの〜」  
「「「…………」」」  
「やっぱり空気読めてないよ…ませんよね?」  
「だがそれが良い!!」  
 黄色い声でキャーキャー喜ばれたのは言うまでもない。  
 
「……また大変だったな」  
 そんなユウからの報告を聞きながらの夕飯のお買い物。  
 ついこの間まではアカデミーに関係の無い町や施設へは行く事も機会も無かったので  
 セリオスも柄には無いが買い物を楽しんでいた。  
 当然それだけではない。  
「おにいちゃーん。こっちの青果屋さんが安いんだよ〜!」  
「恥ずかしいからあんまり大声出さないでくれ…」  
「は〜いっ」  
 すっかり仲良くなったユウは学校では見せないような無邪気な顔を出すようになった。  
 値札を見て真剣に悩む顔、振りまく笑顔。裏の無い言葉。  
 そこがまたたまらなく可愛らしい。  
「今日はお夕飯作りにいくね!」  
「助かる。よろしく頼むよ」  
 そしてやはりセリオスは華麗に鼻血を隠すのであった。  
 妄想力たくましいな。  
 
『ユウ君、もう私の事はアウトオブ眼中かな…くすん』  
 やはり何か聴こえたようだが幸せ一杯夢一杯のセリオスに届くことはなかった。  
 
 7日目にもなると二人の仲は大進展♪を期待するクラスメイトの視線が痛い。  
 レオンは尋ねてくる。  
「で、どこまでいったんだ?」  
 セリオスは吹いた。滅多に吹くような人間では無いが吹いた。  
 流石レオン。空気嫁。  
 そう思ったせいかは分からないが後ろからルキアにぶん殴られていた。  
「何直球で聞いてんのよ!」  
「いいだろ別に!明らかに二人仲良すぎだろ!!」  
「こーゆーのは周りのニヤニヤ視線の元恥らう二人を観察するのが面白いのよ!」  
「恥ずかしい台詞を引き摺り出すのだって魅力満載だ!!」  
 どっちも駄目人間だった。  
「まぁまぁ…お二人とも落ち着いて。  
 進展も何も設定は兄妹なんですから……」  
「カイル!お前は知らないのか!?」  
「な、何をですか。ほらほら落ち着いて…」  
「「血の繋がった妹なんているわけないじゃない(か)!!」」  
 はっちゃけ過ぎてユリに殴り止められていた二人を横目に  
 ユウを見てみると…こともあろうか、顔を紅く染めながら  
「えへへ…ど、どうしようね?」  
 困ったような、嬉し恥ずかしのような顔をされながら言われると  
 こっちまで恥ずかしくなってしまう。  
 この様子は既に兄妹というよりも出来たてほやほやのカップルである。  
「えと、今日もご飯作りに行っていいよね?」  
「あ、あぁ…頼む」  
「既に通い妻プレイかよ!?セリオス大胆だなぁ!!」  
「あんたは空気を読めって言ってるでしょうが!!!」  
 ガシャーン!  
 
「か、通い妻……」  
「頼むからそこで照れないでくれないか…」  
 
 さてその日の夕飯のシーン。その時歴史が動いた。  
「よしっ、出来た。お兄ちゃんはハンバーグはイタリア風の方がいい?」  
「それは良いな。……それにしてもいつもそのエプロンなのか?」  
「やっぱり、へ、変かな?これは昔から使ってるんだけど…」  
 その前に今時料理の時にエプロンする男は珍しい。  
 それだけでも珍しいのになんでわざわざ、端っこが、若干、こう。ふりふりっ。  
 っとしているようなエプロンをしているのか…。そこを問いたい気分に駆られるセリオス。  
「い、いや。よく似合ってるよ」  
「…あ、ありがとう…。そ、それよりおかず運ぶから手伝ってね!」  
「あ、うん。分かった」  
 女の子らしい事を褒めると何故か照れながらも随分嬉しがるようだった。  
「よいっしょっと。…あっ!?」  
 足を引っ掛けたようだ。不安定な体勢で飛び込んでくる。  
「おっと」  
 セリオスは自分も転んだ事があるのか見事に片腕で抱きとめる。  
 片腕にあるスープは漏れていない。実に瀟洒だ。  
「ご、ごめんね……」  
 しかし何が問題かというと抱きとめたユウの体がとても華奢だ。  
 腕の中に上手い事納まり、そこから暖かな温もりを感じる。  
 そんな状況化で苦笑しながら見上げてくる妹の破壊力はもはや恐ろしい。  
「…お、お兄ちゃん………?」  
 トドメは今まで幾度と無く見てきた紅く染まった頬と上目遣い。  
 しかし今回は顔と顔が大接近。ふぇいすとぅふぇいす。……効果はばつぐんだ!  
 セリオスの理性が吹き飛んだ事を誰が責められようか。  
(男なのが惜しい?いや、違う)  
 セリオスの脳内裁判では悪魔が今まさに裁判長を懐柔する瞬間だった。  
(男だから、いい!!!)  
 
 そしてセリオスは無防備なユウの唇を  
 
「ん………」  
 暖かく柔らかい温もりが唇から伝わる。  
 時間が止まったような静かな一時。  
 どれだけ時間が経っただろう。どちらとも無く口を離した。  
 
「……っ……ヒック…ぐず…」  
 目を開けてみればユウは泣いていた。  
 セリオスは理性を取り戻し戦慄する。  
 まずい、このままでは明日の新聞部一面トップには  
 優等生セリオス、年下の少年に狼藉を働く!!等というタイトルの元、  
 よりどりみどりな大問題が出迎えてくれるだろう。  
 一言で言い表すなら、人生オワタ。  
「……ごめんね……お兄ちゃんごめんね………っ」  
 謝られても困る。明らかにセリオスの責任である。  
「僕もお兄ちゃん好きだけどぉ………男の子でごめんね……っ…ぅ」  
 ようやく理解する。相思相愛だとしても結局は男同士なのだ。  
 世の中の人間の9割が理解できない世界。  
 
 人間は自分が理解出来ないものは迫害し排斥しようとする。  
 理解しようと努力もせずに、だ。  
 
「………だめなんだよぉ……これじゃぁ……」  
 後ろ指を指されることの怖さは経験しないと分からない程、痛烈だ。  
 奇異の目、侮蔑の目、嘲笑の目………。  
 常識から逸するのがいけないのか。  
 変形こそしているが愛の何がいけないのか。  
「好きだから……お兄ちゃん好きだから……  
 心の無い人にあること無いこと言われたり……  
 お兄ちゃんが悲しくなるような事になって欲しくないよぉ……」  
 性欲を持て余すなどという程度で一線を越えようとした自分が恥ずかしくなる。  
 ユウは続ける。   
「……初めはプライドが高そうで…ちょっと冷たそうで近寄りづらかったけど…  
 ここ一週間、僕なんかじゃぁ追いつかない程頑張って勉強する姿とか  
 あんまり口に出さないけど優しく見守ってくれる目とか……  
 近くで見れば本当は沢山の表情を持ってて……とっても暖かい」  
 こっちを見ないでくれ。  
「……本当に、お兄ちゃんみたいで……でもちょっと違くて……  
 ……大好きで」  
 そんな涙を零しながら、とても哀しい笑顔でこっちを見ないで欲しい。  
「………だから」  
「ありがとう」  
 遮る。両手を自由にし抱きしめ直す。  
 離れないように、ぎゅっと。  
 
「だが………断る」  
 
 理性の戻った頭でどれだけ考え、検証しても気持ちは変わらなかった。  
 寧ろ、考えれば考える程に気持ちが強く増した。  
「………ホントに、いいの?……僕男の子だよ……?」  
 胸の中で尋ねてくる。  
 胸の内の嘘を確かめて行く。  
 可愛らしい?違う。愛おしかった。  
 確かに自分の偏った趣味のプラス補正はあった。  
 しかし、確かにユウを愛おしいと思う気持ちは独占欲でも  
 優越感でも愛玩の情でも無かった。  
「……ずっと隣に居て欲しい  
 例え雷がこの身を撃ったとしても、例え風が奪い去ろうとしても  
 この君を愛する心は、決して変わることは無いだろう」  
「……私の愛した樹木よ、お前は愛おしい…だね。  
 こんな所で凝らなくていいのに」  
 苦笑されてしまった。  
「……参ったな」  
「お兄ちゃんらしくていいよ。  
 お姉ちゃんが歌った事あるんだ……もう居ないけど」  
 自分に出来うる限りの力で守ってあげたい。  
 例えこれが許されざる想いで結ばれる事が無くても。  
 この気持ちに嘘は無い。  
「大好きだよ……セリオス…お兄ちゃん」  
 
『確かに生きてないけど死んでもないのよ〜?  
 ねぇ〜、ちょっと〜。聴いてる〜?……くすん…無視しないでよぉ…』   
 返事はない。ただのカップルのようだ。  
 
 
-諸事情につき詳しいことはここに書くことは出来ないが  
       この後アッー!な展開になったのは言うまでもない-  
 
 
 ようやく第9回目が開催され、セリオスとユウは任を解かれた。  
 しかしセリオスの事を依然ユウはお兄ちゃんと呼び仲睦まじい交流が続いている。  
 水平面下ではアヤシイ関係にあるのではと噂されるがここはセリオス。  
 華麗に見目も麗しくスルーするのであった。  
 
「もう二度と罰ゲームなんて受けたくないな………」   
 そうセリオスはコメントした。  
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 数週間後、其処にはクララをお嬢様と呼び奉仕する執事セリオスが!  
 
 ま た マ ラ リ ア か 。  
 以降マラリアには罰ゲームスナイパーの称号が付くことになる。  
 
「風紀が……乱れている………」  
(半裸のお前が言うんじゃねぇよ)  
 と全員心の中で突っ込まれるフランシスの手には始末書の束。  
 どうみても減給です。本当にありがとうございました。  
 
 完。  
 

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