―満ちると溢れる。  
 欠けると零れる。  
 
 
お昼。ユウくんは、またいつものように購買部を訪れました。  
サツキのことを聞かれても、ちゃんと答えられる自信があります。  
 
「いらっしゃいませ〜」  
 
元気な声に、自然と顔がほころびます。  
リエルに泣き顔は見せていないのですが、変に思われていないかと心配していたので一安心。  
相手は営業スマイルなのですが、そんなことは気にせずほっと一息。…よかった。  
しかし、ユウは気付くべきでした。リエルの目が、きらーんと光ったことに…  
 
 
それは、数十分前のことです。  
「…ダメかしら?」  
「ですから、今日はそういう日ではありますけど…いくらなんでも私の信用にかかわりますよ」  
マラリヤが、リエルに絡んでいます。いつもより眼光も鋭いです。  
エイプリルフールのポイント稼ぎに購買部を利用しようとは、マラリヤも悪どいですね。  
「大丈夫、この瓶を見ても誰もアナタがやったとは思わない」  
「でもですね、見るからに毒々しい色彩の飴が入ってて、  
しかもドクロのラベルが貼ってある瓶なんて…普通に考えて置きたくないです。  
というかマラリヤさんの持ってる瓶ってみーんなドクロラベルじゃないですか!」  
 
「もしそれが本物の毒だったりしたら、私リストラですよ!  
胸おさわりだけが取り柄の娼婦になっちゃいます!」  
「大丈夫。同じように見えてこのドクロ、一つ一つ微妙に違うから」  
「おそ松くんじゃないんですから…」  
客の顔をちゃんと覚えなければやっていけない購買部、その程度ではダマされません。  
ラベルが全部手描きで、しかもカラーコピーのように全く同じ絵柄であることは分かります。  
「で、それをどうしようというんですか?」  
「体にいいモノができたから、毒と偽って飲ませる」  
「…それは確かに飲んだ人は大慌てだとは思いますけど…」  
マラリヤの計画はこうです。瓶の中身は色がキツイだけの滋養強壮効果を持った飴。  
まずそれを購買部に来た人に渡し、口に入れたところでリエルが瓶を見せる。  
そして慌てた所に颯爽とマラリヤが登場し、「四月バカ」と華麗に決めゼリフ。  
リエルは部署違いなのでお咎めなし、マラリヤもポイントゲットでウハウハ。  
「…ってそれ私に共犯になれってことじゃないですか!」  
「いいじゃない、売上は下がったりしないでしょう?」  
「間違いなく下がります!右肩下がりです!直滑降です!もう大暴落です!」  
 
リエルの正論ラッシュにも、マラリヤはどこ吹く風。それどころか思わせぶりに妖しく微笑み…  
「それに、別にアナタにも利益がないわけではない」  
「今度は取引ですか…」  
たかが成績アップのための策略に、取引もへったくれもないような気がします。  
そう思って呆れるリエルを横目に、マラリヤは懐から一枚の写真を取り出しまして…  
「今ならユウの極秘激写写真を」  
「わかりましたぜひやらせてください」  
…おいおい。  
 
とまあそんなこんなでリエルは意外にあっさりと買収されてしまい、  
今回起こる事件の片棒を担ぐことになってしまったのです。  
 
 
「これ、サービスしておきますね」  
ユウが注文した品物を出しながら、さりげなく瓶から飴を一個取り出して添えます。  
マラリヤの陰謀の第一歩…果たして結果はいかに?  
「わぁ、きれい…ありがとう!」  
ユウは何の疑いもなくそれを受け取り、そのまま購買部を出ていってしまいました。  
 
( ゚д゚)…  
 
( ゚д゚ )  
 
こっち見るなw  
それはともかく、購買部は売るのが仕事。その場で食べるかどうかは運まかせ。  
二人ともそれを失念していたようです。いきなり暗雲が立ち込めてきました。  
 
さて、そのユウはというと。  
「お姉ちゃん、見て見て!ほら!」  
「綺麗ね。これ本当に飴なのかしら?」  
見た目は完璧な立方体です。しかも内側から淡く蒼い光を放っています。  
手の中でも軟らかくならないのを見れば、確かにサツキのように疑うのも無理はありません。  
ただ、そこはなんでもゴザレの購買部。それが購買部クオリティ。  
なので、サツキもそれ以上突っ込んで疑ったりはしませんでした。  
「食後になめてみようかな…」  
「袋とかなかったの?」  
「うん、直接手渡しだったよ」  
「あそう…。そうだ。シャロンちゃんのでポイントは稼げたし、午後は自主トレしない?」  
「そうだね。こういう時間はあんまりないし」  
「じゃあ、それで決まりね」  
 
 
「はぁ……」  
図書室。リディア先生は、今日何度目になるか分からないため息をつきました。  
顔も少し熱っぽくなっています。季節の変わり目で風邪を引いてしまったのでしょうか?  
「どうしよう…どうしても体が熱くなっちゃうよぉ…」  
実はそうではありません。春は、冬の陰の気が一気に薄れる季節。  
その落差に後押しされ、冬の間抑制されていた諸々の欲が…要するに発情してしまうのです。  
 
年中発情しているに等しい人間と違い、彼女はエルフ。その辺りの名残なのでしょう。  
ちなみにガルーダ先生は精神の修養を積んでいるため何の問題もないのだとか。  
彼女も人前で抑えることには慣れていますが、やはり一人になるとぶり返してきます。  
「少なくとも…夜になるまでは耐えないと。"動き出したら"大変だわ」  
図書室ですから、持ち出し禁止や生徒閲覧禁止の本も少なからず収められています。  
そういう本は大抵魔力が封じ込められているため、目を離すと勝手に動き出すことがあります。  
それらから生徒を守るのも、リディア先生の仕事の一つでありまして。  
ガルーダ先生の例もあるので、そうそうさぼるわけにもいきません。  
でも、春の初めに限ってはどうしてもうまく抑えが利かないようです。  
果たしてこんな調子で夜まで保つのだろうか。…今度のため息は、本当に嘆息でした。  
 
 
「よっ、と…」  
昼ご飯を食べ終え、ユウとサツキは箒飛行の自主トレを開始しました。  
飴のせいかは分かりませんが、結構うまくできているようです。  
「いつもより上手じゃない。頑張ってるわね」  
「えへへ…」  
空中で箒に跨がりながら頭をなでなでされるなんてのは、ユウとサツキだからこそ。  
 
周りにはあまり見えないので、人前ではできませんが。  
「でも、飴のおかげだったりするのかなぁ…購買部のだから」  
「そんなことない。それはユウの実力だよ。  
まぐれだろうとそうじゃなかろうと、出せる力は実力って言うの。  
胸を張って実力って自分で言えるようになるまでは、ちゃんと練習しないとダメだけどね」  
「うん!」  
さすがはサツキ、人の奮い立たせ方を心得ていらっしゃる。  
その日のトレーニングは、首尾よく終了しました。  
 
 
「結局、今日来たのはユウくんだけでしたね」  
「そうね…」  
ずずず、とすする音。どこから取り出したのか急須に湯飲み茶碗、お茶受けまであります。  
「ユウくん、何かトラブったりしてないでしょうか…」  
「さすがにそこまではワタシも分からない」  
「無責任なこと言わないでください!…あとで様子を見てこよう…」  
「…………」  
ずずず、とすする音。つられてリエルもすすりますが、熱いのかすぐにやめました。  
「ところで、滋養強壮って具体的にはどんな効果が?」  
「読んで字の如く」  
「それだけ?」  
「…それだけ」  
何だかすごく胸騒ぎがして仕方ないリエルなのでした。  
そしてそれが正しかったことを、彼女は今夜身を以て思い知ることになります。  
 
「…ダメだ」  
皆が寝静まった、草木も眠る丑三つ時。  
ユウは、サツキに添い寝されながらも一人眠れずにいました。  
目が妙に冴えています。体も疲れておらず、むしろいつもより感覚が冴え渡っているほど。  
目の前には、サツキの幸せそうな寝顔。いつもなら見ているだけで安心して眠れるのですが…  
「むー…」  
今日はどうもダメです。睡魔の気配すらありません。何か変なものを食べたりは…  
「…あ」  
していました。そう、あの飴です。他に食べたものはいつもと同じだったから、  
原因はそれ以外に考えられません。しかし、どうしたものか。  
この分だと徹夜しても大丈夫そうなのですが、することがありません。  
サツキを起こすのも悪いですし。  
「ん〜…っ」  
サツキを起こさないように、ゆっくり慎重にベッドから脱け出ようとします。…が。  
「んぅ…ユウ?どうしたの?」  
いきなり失敗。ユウが動き出すのと同時にサツキも目を覚ましてしまいました。  
二人で一人な今の状態では、特にサツキを置いてユウが行動するのはかなり難しいのです。  
「いや、何か眠れなくて。眠くもならないし…どうしようかなって」  
「そう…じゃあ、ちょっと散歩でもする?」  
「いいの?」  
 
ちょっと迷ったように聞き返したユウに、サツキはふわりと笑って頷きました。  
安心したように笑うユウ…やっぱり真っ暗な中一人でというのは恐いのでしょう。  
そんなわけで、二人は夜中のアカデミーに繰り出しました。  
 
「明かりが点いてないと、こんなに雰囲気違うんだ…」  
廊下も真っ暗。頼りは淡く光るサツキと、窓から差し込む月明り。今日は満月のようです。  
普段は暖色の廊下が、今は寒色。月明りもあいまって、神秘的な印象を抱かせます。  
昼は騒がしいくらいなので、静まり返っている外の風景もまた新鮮な感覚です。  
「そっか、ユウは初めてだもんね。わたしはよくこの景色を眺めたりしてるから…」  
「そうなの?」  
蒼白の月明りを受けて、サツキの髪も不思議な色を見せています。  
青くて、しかも夜空の青に溶け込まないその色は、景色に負けず劣らず綺麗でした。  
「?」  
「…綺麗だよ、お姉ちゃん」  
「ふふっ、ありがとう」  
自然と口から言葉がこぼれます。  
サツキも、ユウの笑顔が見られて幸せそうです。  
「ねえ、せっかくだから外に出てみない?」  
「いいのかなぁ…」  
「大丈夫よ。それに窓から見てるだけじゃ面白くないじゃない」  
「うーん…」  
 
珍しく興奮しています。綺麗だとユウに言ってもらえたのがよほど嬉しかったようです。  
「ここ、見回りとかっていないの?」  
「確かに言われてみればいないわね…他の生徒さんとすれ違うことはたまにあるけど」  
「そっか…」  
 
―耳に違和感。  
 
「!?」  
「どうしたの?」  
「ごめんお姉ちゃん、ちょっと静かにして」  
音になりきれない、微妙な空気の振動が、何故か今のユウには聞こえました。  
「今の…どっちだ?」  
誰かの叫び声を思い切りぼかしたような弱い音。  
聞こえて来たのは右から。今の自分の向きに対して右にあるのは…  
「図書室、かな」  
「ねえ、どうしたの急に?」  
心配そうに問うサツキに、ユウは落ち着いた表情で答えます。  
「今、誰かが叫んだような気がしたんだ。どこからなのかは分からないけど…」  
それが誰なのか、何に叫んだのかは分かりません。でも、ユウは確信していました。  
頭ではなく直感が、体が告げていたのです。今の声は…  
「きっと、助けを呼んでる」  
一回死線をさまよっているユウは、もともとそういうものに対して敏感です。  
だから、こういうことを言うのは珍しいことではありませんでした。  
サツキが驚いたのは、ユウがいつになく落ち着いた顔でそう言ったことです。  
 
そして言うが速いか、ユウは右向け右をして走り出してしまいました。  
「あっ、ちょっと待って!」  
サツキは半ば引きずられるような格好で後を追います。いつもと構図が丸っきり逆です。  
「…どこだ…?」  
意識を集中させながら、ユウは自分が凄い勢いで走っていることに気付きました。  
霊体であるサツキがやっとついてこれるというスピードは、尋常ではありません。  
「今日は、本当にどうしたんだろう…僕の体、何か変だ」  
疑問に思いますが、今はそれよりもするべきことがあります。  
あまりの速さにぼやけた視界の中にも、目的地ははっきりありました。  
「うわっ、とっ、とと」  
勢いを殺しきれず、ユウは半ば突っ込むように図書室に入ります。  
生温い空気が、ユウと遅れて入ってきたサツキを出迎えました。  
 
「これは…何?何でこんな粘ついた魔力が…」  
「…きもちわるい」  
ユウは微かな吐き気に口元を抑え、サツキは顔をしかめます。  
明らかに、そこには何者かの人との接触を拒む意志が感じられました。  
「リディア先生は?」  
「分からない。でも…ここにいないのは絶対変だよ」  
明かりが点いているのに、図書室には誰もいません。扉にも鍵はかかっていませんでした。  
 
「ちょっと探してみようよ」  
「何かあったのかしら…」  
明らかに不自然な状況に首を傾げながら、二人はリディア先生を探します。  
しかし、広さが広さなだけになかなか回りきれません。そのうえ、先生も見つかりません。  
「はぁ…ここ…何でこんなに、広いの…?」  
「すごいよね…初めてあちこち回ったかも」  
疲れ切った様子のサツキ。ユウも息を切らしていますが、まだ動けそうです。  
「…お姉ちゃん、大丈夫?」  
「寝起きで、いきなり走らされ、ちゃったから、ち、ょっとキツい、かも…」  
本当にダメそうな姉を見て、ユウは表情を曇らせます。…しかし。  
「じゃあ、ここで休んでて。僕、もうちょっと奥に行ってみる」  
「え?…ダメよ!何があるか分からないっていうのに!」  
ユウの予想外の一言に、サツキは血相を変えました。  
自分が目を離した隙に何かあったら、と思うのは当然です。その結果が今なのですから。  
しかしユウは、表情を変えないまま言い切りました。  
「今なら、一人でもできそうな気がするんだ」―と。  
 
 
うなじがジリジリするのを感じながら、ユウは慎重に奥に足を踏み入れていきます。  
空気がこもっているせいか、先へ進むほど少しずつ暑くなっていくような気がします。  
 
さっきは微かだった吐き気も、今ではちょっとキツいレベルに。  
いつの間にか慣れていたようで、手を口から離しても平気でしたが、不快感は消えません。  
「司書室…こんな奥にあったんだ…」  
そんな中で、彼は扉に突き当たりました。生徒の中でもどこにあるか謎だった司書室の扉です。  
「開けられるのかな…」  
試しにドアノブをひねって押してみます。開く気配はありません。もう一度。やっぱり開きません。  
「鍵がかかってるのかなぁ…」  
もう一回。今度はさっきより注意深く押してみます。  
「?」  
何となく、押し返される感触。何かでドアが抑えられているような感じでした。  
 
「だれか…こ…いるんです…ぁ?」  
 
そしてドアの向こうから微かな声。何かフィルターを通しているようにボケてはいましたが、  
間違いなくリディア先生の声です。ユウは、ドア越しにも聞こえるように声を強めます。  
「リディア先生、何かありましたかぁ?」  
「ちょっと……ぱ…し…ここからで…れなく……ちゃ………」  
よく聞き取れませんが、どうやら何らかの理由で中に閉じ込められてしまったようです。  
司書室の扉はユウ側から押して開けるもの。ということは…  
 
「扉の前に本が積み重なっちゃったか…中が魔力で飽和しているか…」  
吐き気から考えると後者が有力です。ですが、前者の可能性もないことはありません。  
逡巡は一瞬。ユウは普段からは想像もつかない速さで決断すると、一歩扉から下がります。  
「本よりも、人の方が大事だから!…せーのっ!!」  
ユウの一撃は、扉を蝶番ごと軽々と吹き飛ばしました。  
 
 
「!?」  
リディア先生の目の前を、何か巨大な長方形をしたものが吹っ飛んでいきます。  
それは軌道上にあった棚に激突し、大音響と共に床に転がりました。  
「え…とび、ら?」  
リディア先生、目を白黒。普段のんびりしているだけに、貴重な光景かも知れません。  
「あれ?吹っ飛んで…る?」  
一方のユウも、扉の残骸とリディア先生とを交互に見比べて絶句しています。  
彼からすれば、ただ破るつもりで扉に体当たりしたのに、扉が吹っ飛んでしまったわけです。  
自分が全く予期していない結果になってしまったら、思考が停止するのも無理はないでしょう。  
「リディア先生…その…大丈夫、ですか?」  
それでも、ギリギリ残っていた機能で無理矢理口を動かします。  
 
それがスイッチとなり、リディア先生の状況を把握しようとユウの体が駆動を始めました。  
「あんまり、大丈夫じゃない、かなぁ…はうぅっ…」  
上気した顔、潤んだ瞳。汗で服(布)は体に張り付き、いやらしいラインを作っています。  
しどけなく棚にもたれ、表情は蕩けていて…  
「…あれ?」  
―顔がほてるのではなく、体が一気に加熱する感覚。そして、  
 
どくんっ!  
 
「んっ!?」  
心臓が跳ね上がるような衝撃を感じ、ユウはたまらずその場に膝を突きます。  
何かが体の中で暴れ回っているような、堤防が決壊したような、そんな感覚でした。  
痛くも苦しくもないのですが、放っておくと体から何かが溢れてきそうです。  
「なに、これ…」  
さっきからずっと暑かったのは、周りではなく自分自身だったのか。  
しかし、それを言葉にすることはかないませんでした。  
リディア先生の体に触れようと勝手に動く腕を抑えるのに必死だったからです。  
次第にユウは震え出します。体が自分の制御から離れていきそうな恐怖からです。  
『なんで?僕の体に、何が起こってるの?』  
泣きそうな声で搾り出した問いに、リディア先生は優しく答えます。  
 
「ユウくんの魔力が、オーバーフローしているんですよ。暴走を始めちゃっているんです」  
『どうしよう。僕、このままだと何か変になっちゃいそうだよぉ』  
「怖がらなくても大丈夫。オーバーフローした分は勝手に外に出て行きますし…  
私も、手助けしてあげます」  
体を抱き寄せられ、リディア先生を下にして寝転びます。驚きで我に返りますが手遅れ。  
『え、あの、ちょっと…先生?何をして…』  
「私も、今ちょっと変なんです。だから…」  
抜け出そうとしますが、きゅっと抱き締められてしまっていて、身じろぎするのがやっとです。  
ユウの気が動転している間に、リディア先生はユウの顔に手をやり、ゆっくり引き寄せて…  
「だから、ギブアンドテイクで…ね?」  
ユウの唇を奪ってしまいました。何がギブアンドテイクなのか、全く分からないままでした。  
 
 
「ふ、んむ…」  
「んぁ…はむ」  
体を重ね、激しく舌を絡ませる二人。  
ユウの舌は惰性で動いているようなもので、ほぼリディア先生の一方的な愛撫と化しています。  
しかしリディア先生も、自分がなんでこんなことをしているかは理解できていません。  
ただ、それが心地よくてその行為に溺れているだけです。  
 
発情しているのも理由ですが、最大の原因はユウです。  
彼の魔力が暴走しかかっていることは前述の通りですが、  
今彼の全身は、それを防ごうとフルに活動しています。  
つまり、ありとあらゆる手段で魔力を体の外に放出しようとしているのです。  
発汗しているのもそうだし、さっきからユウの声が変に響いているのもそれに起因します。  
魔力の乗った声が言霊として働き、リディア先生の思考を塗り潰しているのです。  
いくら先生でも、魔力をだだ漏れさせるくらいまで発情していては言霊を防げません。  
そのうえさっきの扉を吹き飛ばした一撃の衝撃でリディア先生の魔力は霧散、  
代わりに今はユウの魔力が部屋から溢れ出さんばかりという有様。  
不幸な偶然が織り重なってしまった哀れなユウ少年に合掌。  
…ある意味、幸せと言えないこともないのですが。  
『んっぷ…ぁ、はぅ…せ、せんせ…っ』  
「あつぅい…もうとけちゃいそうなくらい…」  
リディア先生は本当に暑いのか、手で体をあおぎながら体に纏った服をするりと脱ぎます。  
いつも講義の時たゆんたゆんしている胸が、ユウの眼前にさらけ出されました。  
『ぁ、ぁぅ…』  
 
かなり大きいのに、崩れることなく形を保っています。美乳という形容が相応しい胸です。  
乳首は限界近くまで勃っており、リディア先生が既にかなり発情していたことを伺わせました。  
しかし、ユウにそんなことを考える余裕はありません。倒れ込むように、胸に顔を埋めます。  
「きゃん♪もう…いきなりそこなのぉ?」  
『もう…ぼく、僕…我慢できない…!』  
「ふふっ…」  
リディア先生はとろけきった顔でユウの頭に手をやり、軽く引き寄せて押し付けます。  
「いいですよ。好きなだけ、触ってください」  
香水を付けているわけでもないのに、谷間からは不思議な匂いが漂ってきます。  
ユウはその匂いにくらくらしながら、両手をゆっくりと両胸に伸ばしました。  
「あっ、くぅん」  
軽く触れただけでリディア先生の体は跳ねてしまいます。かなり敏感になっているようです。  
初めは遠慮がちに、やがて大胆に。どういじると嬌声があがるのかをつかみ、それを反復。  
「あん、あ、胸、いじめられちゃってるぅ」  
ぐにぐにと揉んだり、乳首を指先で弄んだり。  
意識していないが故にものすごくいやらしい手つきになっています。  
「上手です、よ…もっと…ふぁあああん」  
 
胸に吸い付くと、リディア先生はたまらず体を反らせます。  
(こういうの、感じてるって言うんだっけ…)  
自身の魔力に溺れてぼうっとした頭でそう考えながら、ユウは胸の愛撫を強めました。  
今度は意識しているせいかさっきより幾分か拙い手つきになってしまいましたが、  
その不規則な変化がリディア先生をさらによがらせます。  
「ひぁっ、あ、んぁ、ユウくんはげしぃ…っ」  
そして、胸に違和感。弄られる快感とはまた違う、何かが胸に集まっていくような感覚。そして…  
「あれ、うそぉ…でる、やん、なにかでちゃう…でちゃうよぉぉぉ」  
『っ!?』  
ぷしゅっ。…両の乳首から、何かが噴き出しました。  
片方の乳首を口に含んでいたユウは、噴出を舌で受け止めます。  
(あ、あれ…?)  
戸惑いながら飲み下すと、甘い香りが口の中に広がりました。  
「はぁ、はぁっ…でちゃっ、たぁ…」  
ユウは乳首から口を離して、喘ぐリディア先生の顔を覗き込みます。  
『先生って…母乳、出たの…?』  
「うーん…今までは、出てなかったけど…どうなんでしょう?」  
これだけよがった後でも、首を傾げて答える表情はやはりリディア先生です。  
「あん…っ!」  
『…じゃあ、いっぱいしぼってあげる…』  
 
「いい、ですよ…わたしのおっぱいみるく、いっぱい、だしてくださいぃ…!」  
そして再び胸を掴んだユウのとんでもない一言に、リディア先生は体をくねらせました。  
例によってユウ本人は、何故そんなことを平気で言えたのか分かっていません。  
ただ、無意識に口を衝いて出た一言がそれだっただけです。  
でも、その言葉にさらに酔ったリディア先生はそれに従い、ユウに胸を押し付けます。  
魔力と快感に溺れた今の二人に、正常な判断などできるわけがありませんでした。  
ユウはさっきと同じように片方の乳首にしゃぶりつき、もう片方を手でやわやわと弄りながら、  
今度は空いた手を下へと伸ばしていきます。二人とも夢中で気付いていませんでしたが、  
リディア先生の秘所からは愛液がしとどに溢れており、既に下着は役割を果たしていません。  
そっと指を挿し入れますが、何の抵抗もなく受け入れてきます。  
むしろ、ユウの指を逃がすまいとするかのように絡み付いてきます。  
ユウは未知の感覚に驚きながら、本能の命ずるままにリディア先生を愛撫しました。  
「あっ、きゃぁん…そんなめちゃくちゃに、らめれすよぉ…」  
 
一回出て通じが良くなったのか、軽く吸うだけでもどくどくと母乳が溢れてきます。  
もう片方は、出るか出ないかという限界で焦らされっぱなし。  
今度は下の責めまで追加され、リディア先生はまともに呂律が回らなくなっています。  
そんな中でも、彼女は手をユウの下腹部に伸ばします。  
『んっ…!』  
「はぁんっ…」  
刺激にユウの手元が狂い、乳首をつねってしまいます。  
それで母乳が噴き出し、彼女はその快感にまた悶えました。  
『せん、っ、せい…』  
「わたしばっかり、ふこうへいですよ…」  
そっとズボンの上から優しく触れただけで、ユウはびくりと体を震わせます。  
「わたしにも、さわらせてください」  
『先生のすけべ…』  
「ユウくんだって、わたしをこんなにしちゃって、いやらしい」  
『う…』  
「ふふっ。それに…こっちはすごくつらそうですよぉ…?」  
指先で布越しに触れる。ただそれだけ。しかしリディア先生の指の動きは絶妙で、  
ユウのモノはすぐに勃ち上がり、シルエットをはっきりとさせていきます。  
『先生…』  
「ユウ、くん…」  
互いの名前を呼ぶ声は、既に深い口づけを促す媚薬にしかならないようでした。  
 

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