春休み。夏休み。秋休み。冬休み。そしてまた春休み。
もう何度目になるのだろうか。
私がアカデミーへ来てからもう何年経っただろうか。
変わる人、変わらない人。
色々いるけど、まだ暫くは同じ仲間たちと共に過ごせると思うと
少しだけ、頬が緩む。
「いや……しかしっ…・・・お………重い……です……
春休み……恒例の……教科書の……搬入………」
学生数百人分の教材の搬入………。
……なぜ……毎年…この時期・・・購買部……みなさん…誰もいないんですか…。
リエルです……毎年頑張って一人で搬入してますとです……。
みんなきっと実家帰りとか色々堪能してますとですよ……。
ぐすん……。
今日搬入すべき教材は計200箱。
これはニ○リのバイトよりキツイと思われるけれど…
真面目な私が逃げ出したい私を縛って仕事をし続ける。
性根が本当に真面目なのだと自分を呪いたくもなる。
でもソレを誇りに思う自分もいる。
いつもよりずっと人の少ない校舎。
殆んど誰とも擦れ違わない廊下。
永延と繰り返す作業。
何で私はこんな事しているんだろう。
そんな事を思いながら、ようやく50箱運び終える。
ここまでで一時間半……これを後3回………。
流石に私も気が滅入る。
購買部のほかにも資材の搬入で実験室、音楽室、図書室……
やっぱり人が居ない。誰も居ない。
挨拶してくれる人、お茶を入れてくれる先生…
誰も居ない。
とても…寂しい。
「あ、リエルさん」
だから知り合いを見掛けたらとても嬉しくなってしまった。
「……ユウ君」
教室に教材を運び込んだ時、一人で勉強しているユウ君を見つけた。
「荷物運ぶの大変だよね…ボクも何か手伝えたら…ってどうしたの?」
涙が出そうな寂しさの後に来たのは一人ではないという嬉しさ。
「…ぃ、いえ…ぐっ……なんでも…ないの……ですよ…
なんだか…ぅ…最近……涙もろくて……」
「人が少ないのが……寂しい?」
「ほんの……ちょっと……あ………」
「こうしていれば寂しくないよね」
無邪気な、優しい顔のまま私の手を握ってきた。
少しの時間、そのまま、年下の子の温もりに甘えていた。
窓の外は吹雪が美しく舞う。
『 今 は 春 休 み 』
少なくとも今のアカデミーの所在地では雪のシーズンはとっくに終わっている。
長い、春休みが始まる。この時既に、私はそんな予感がしていた。
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ちなみにその頃。
「イソギンチャクありそうだ………」
「えぇ……嫌な予感がします」
「「「………………………」」」
アカデミー会議室内、異変対策本部。
異常事態にも平然と寒いギャグをかますフランシスと
素でスルーするリディアに教師一同は頭を抱えているのであった。
「さて、本件の解決案についてじゃが………」
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ヒュゴォォォォォォォ!!!
「ということでーーーー!現在雪山で絶賛遭難中なのですよぉぉぉーーー!!」
コォォォォォォォォ!!
「リエルさーん!!雪山で叫んじゃだめだよぉー!」
「風上からの強い吹雪だからどうせ大丈夫ですーーー!!」
絶え間ない雪が私とユウ君を襲う。
防寒対策と魔法具で何とか凌いではいるけれど先の視界も分からない状態にある。
ヒュゥゴォォォォォォコォォォォォォォ
「こんなアクティブにサバイバルな賢者いーやーでーすー!!!!」
「体力の消耗は危険だよーー!!」
なんでこんな状況になったのかと言いますと以下の回想スタート。
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「ユウ君ありがとう。助かりました…」
「気にしないで。困ってたらお互い様だよ」
結局、手を握った翌日ユウ君に手伝って貰って作業を進める事に。
二人で話しながらなら辛くない。
「それに、ボクはリエルさん好きだし。
辛そうにしてるのに何もしないなんてできないよ」
え、笑顔で破壊力の高い台詞を!!
なんて健気な少年なのでしょう!!
その台詞に是非ともLikeじゃなくてLoveを込めて欲しい!!
ガシッ!!
「ありがとう…ありがとう…本当にユウ君は健気で可愛いですね…
お姉さん色々と持余してしまうのですよ」
思わず抱き締めてしまいした。
丁度いい感じに腕に入る温もりは最高だと思います。
「り……リエルさん……苦しい……」
「アツくていいわねー私にもそんな頃があったわ〜」
「いい子いい子いい子なのですよ〜♪」
なでなでなでなでなでなで
「は、恥かしいよぉ……」
「先生を無視しないでくれるとうれしいわ」
「どうしましたか、アメリア先生」
「……柔らかかった………」
ユウ君がぬぼーっとしている。
口には出しませんがそりゃぁ当ててましたから!
「今日も吹雪よね」
「そうですね」
「こんな本当なら三寒四温の時期におかしいと思わない?」
「おかしいですね」
「そろそろ桜見たいなんて思わない?」
「見たいですね」
「この吹雪止められるものなら止めてみたいと思わない?」
「止めたいですね」
「そこでちょーっとお願いがあるんだけd」
「だが断りますのですよ」
「そんな即答しなくても!!」
「無理っす」
「そこをなんとか!!」
「いやー、無理です」
「今学校に居る実力者はあなただけなのよ」
「それはどうも…」
「ぜぇ……ぜぇ………」
「でも無理です」
「ね…ねぇリエルさん。
何かわからないけど、ボクも一緒にやるから
先生のお願い聞いてあげようよ……困ってるよ…?」
「わかりました。詳しく三行でお願いします」
「不条理よぉぉぉーーー!!!」
「その顔が見たかったんです
すみません、餅をついたような女なもので」
「ぅぅ、酷い……」
「まぁ早く言えよです」
「('A`)」
二人の甘い(?)時間を邪魔する輩にはこんな扱いで十分です。
「えっと…この吹雪がまるで瘴気と同じような発生の仕方をしているの
発生源への調査をお願いしたいのだけれど…
詳しい事はフランシス先生から聞いてね」
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ヒュゴォォォォォォォオオオオオァァ
「ということですーーー!!」
「誰に向かって言ってるのリエルさぁーん!!」
ビュゴォォォォォォォォ!!!
風が強くなってきた。そろそろまた来る頃と感じる。
「来たよ!!芸能!!リエルさん任せたよー!」
「はいなのですよー!」
『2004年に公開された土井○泰監督 竹○結子,中村獅○主演の映画作品は
いま、○○○○○○○?』
「○いにゆきますーーー!!!」
ヒュゥゥゥゥゥゥ……
先ほどより少しだけ風が弱まる。
厄介な事にこの吹雪、本当に問題を出してくる。
一体どんな原理なのか知りたいけれど今はそれどころではない。
「リエルさん、あっちに山小屋があるみたいだよ」
「……ベタベタですけど日も落ちそう……
下山も無理ですね。あそこでなんとか凌ぎましょうです」
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一方その頃アカデミー寮、ミランダの部屋。
「生徒が優秀だと楽よね〜♪」
「寒い日はおでんに限るわ」
「私はガンモのある生活を選ぶわ!!」
「ん〜、お酒が美味しい♪」
この女教師らマジ駄目だーーーーーーーーーーーーー!!!!!!
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「あ、明朝明るくなり次第下山しましょう…明らかに装備が足りてません…」
「う、うん。とりあえずは耐え凌ぐ準備しようよっ」
ヒュゴォォォォ………
山小屋での遭難……ありきたりなシチュエーション。
「しかし実際にこんな状況に遭うなんて考えなかったよぉ……」
「先生が本当に賢者なのか疑問を持ちたくもなるのですよ」
数枚程度しかない木造の壁の外から聞こえる吹雪の音が
私の耳に現実を叩きつけて来る。
「テントや毛布はちゃんとありますね…」
二人でテキパキと組み立てていく。
山小屋の中だからと言って寒風が完全に遮断されるわけではないので
さらに中にテントを張る。
そしてテントを張り終え、肌を切る冷たい風が無くなった事で
気づきたくなかった事実に気づいてしまった。
冷たい…寒い…辛い………苦しい。
あれ、苦しい?
「あ……私……調子………悪い…ん……だ?」
ドサッ
「リエルさん!?」
ユウ君が駆け寄ってくる。
そういえば折角ユウ君と居るのに上手く気も使えていない事に気がついた。
勿体ない事をしたと今の状況に相応しくない事を思う。
「ちょ…と…さ……寒い……です……」
「り、リエルさん!?だいじょうぶ!?!?」
ユウ君が揺らしてくれるけど…
でも、寒気や吐き気がする……正直しんどい…。
「あぁ、最近の重労働で疲れちゃったせいかな……。
体調…崩したかも…しれないの…です……よ…」
テンションが高かったのはそのせいかも知れません。
「ま、待って!お願い寝ないで!!冗談じゃなくて本当に死んじゃうよ?!?」
「だいじょうぶ………ネタキャラは死なないもの……です…」
「リエルさんはネタなんかじゃないよ!!
人が嫌がる事を進んでやって!みんなに笑顔振りまいて!
人を助けて面倒見て!!」
本当に心が優しい少年なんだなと思う。
サツキちゃんに良く似ている。
そこまで見てくれていたなんて思うだけで幸せ。
「OK、大丈夫なのですよ……部屋に温度上昇の陣がひいてあります…
ユウ君も寝ても平気だよ…………」
既に起動は済ませてあり、食料もある。
マニュアル通り過ごす事が出来れば無理に下山できなくとも
発信機で救助を待つことが出来る。
「だいじょうぶ……」
「リエルお姉ちゃんっ……!!」
寝ると死ぬというのは実は迷信で、雪山でのビバーグは逆に眠れるなら寝た方が良いとされる。
この分なら間違いなく生存出来るだろう。
安心してしまったらもはや後は逆らえなかった。
気が遠くなっていく。
「そもそも何しにこんなところ…きたのでしたっけ……
あぁ、でも……おねえちゃん…いいひびき……」
「お姉ちゃん!!」
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手の中でリエルさんの力が抜ける。
気を失ってしまったようだった。
唇は紫で時折歯がガチガチ音を立てている。
温もりが少しずつ冷たくなっていく。
今この場に頼れるのは自分とそして……
『大丈夫。落ち着いて。本当は眠れるなら寝た方がいいの。
だから大丈夫……』
「そ、そうなの……?」
『そうなの。だから雪山における救助を待つためのセオリーに忠実に。
リエルの看病を、お願い…私は何も出来ないから』
賢者であった姉。
「…うん!!」
『お湯を沸かしながらリエルの予備の服を用意して』
「うん」
手早く動く。少しでもリエルさんが楽になるように。
『濡れた服を全部一度脱がせて残りの服を全部着せて』
「う…うん」
人の服を、ましてや女性の服を脱がせ、着せるという行為に
一瞬躊躇ったものの迷ったら迷っただけリエルさんの体温は下がる。
手早く行う。
『雪山だと脱水症状になりやすいから、
何とか意識朦朧でもいいからお湯を飲ませてあげて
それで………』
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「ん…………?」
虚ろな気分の中、目が覚める。
ここは……私の部屋。
「はーい。お目覚め?」
軽い頭痛のする頭を動かし、まず目に入ったのは
ふざけてんのかという位の巨乳だった。
「ミランダ先生………」
「意識失う前の事、どこまで覚えてる?」
「雪山で……遭難して……」
「そこまで覚えているなら十分ね。
ごめんなさい。解決を急いだあまりに
十分な編成も装備も整えずに
しかも疲れている状態で危険へ送り出してしまったこと。
謝っても謝りきれないわ」
非常に珍しいミランダ先生の心から反省している表情。
「いえ……大丈夫ですよ……それよりユウ君は?」
「貴女の左手を見て御覧なさいな」
言われて初めて気がついた。
左手には暖かな温もり太ももに少しの重み。
「…すー……すー…」
「救出されるまで寝ないで貴女を看てて、
しかも貴女が部屋に運び込まれてからもずっと横で看病してたのよ
遭難してたのはユウ君も同じだって言うのに聞かなかったのよ」
自分が助かったという喜びを微塵も感じず、
危険に巻き込んでしまった上に、看病までして貰った。
言葉がない。代わりに涙が溢れてくる。
「じゃぁ私はこれで失礼するわね。
後日アカデミーからの正式な謝罪もあるとは思うけど今は大事にしてね」
バタン…。
「ごめんなさい…ごめんなさい……ごめんなさい……」
華奢な小さな手のひらで私を守ってくれたかと思うと涙が溢れて止まらない。
ただユウ君の頭を抱いて謝る。
「ん……?」
寝惚けた顔で私の顔を覗き込んでくる。
瞳と瞳で見つめ合った瞬間、
目で「良かった…」と微笑んでくれた。
もう涙腺は止まらなかった。
「ごめんね?ごめんね…?ぅ…ぐ…ごめんね…」
「リエルさん……おはよう」
「ありがとう……」
それしか言葉が出なかった。
それだけじゃ気持ちが表しきれなくて。
「あ……」
「……ん」
泣いて惚けた頭は何も考えず、
ただ、そうしたいという理由で愛しい少年の唇を奪う。
柔らかい。暖かい。
鼻腔を擽る良い香り。…サツキちゃんと同じ香り。
「……あの…」
若干驚きつつも抵抗の無い少年に宣言する。
「恋しちゃったのですよ。責任取って下さい……」
(ERO書くには容量が足りませんでしたーー!!)