「>>1乙チンカラホイ!」  
 男子生徒の詠唱がクララの耳に入る。  
 咄嗟にスカートの裾を押さえ、周囲を見回す。  
 ―――前から!? それとも後ろから!?  
「やるやんか、クララ」  
 前の物陰から現れたのはタイガだった。  
「タイガさん……」クララは驚きと、なかば呆れの混じった声で言った。  
「まさか魔術まで使ってくるなんて」  
 タイガにスカートをめくられそうになったことは何度かあったが、その都度、ある種の偶然によってクララのショーツはタイガの目線に触れるのを拒否してきた。  
 だが、さっきの魔術はたしかに効いていた。スカートを手で押さえなければ、恐らく見られていただろう。  
 目的が達成できなかったにもかかわらず、タイガは不敵に笑む。  
「おう。俺のテクニックが通用せんかったのはあんただけやしな。ちと本気出させてもろうたわ。……クララ!」  
 タイガはクララにびしっ! とばかりに指先を突きつける。  
「あんたのパンティー、今日こそ見せてもらうさかい、覚悟しいや」  
「ぱん……てぃーって……」クララの額から汗が流れ落ちる。今時ロマノフ先生だってそんな言葉は使わない。  
「そんな、困ります……そんな事しても、みんなが悲しむだけですよっ……!」  
「え、ほんまに?」頬を掻くタイガ。  
「女子ってスカートめくられたら嬉しいもん違うん?」  
 クララはたじろいだ。―――この人は本気だ……!  
「……とか、……とか喜んでてんけどなあ」  
 タイガは数名の女子生徒の名前を挙げたが、クララは聞いていなかった。  
 覚悟を決めたクララ。制服から短い棒杖を取り出すと、起動言語を唱える。  
「リテラル・マジカル!」  
 棒杖は一瞬で不思議な形状の杖に変化する。二又に分かれた先端の間には、赤い球体がにぶい輝きを放っている。  
 杖を構え、その先端をタイガに向ける。  
「タイガさん、通してください」クララは凛とした声で言った。「今は困るんです」  
 タイガの、今までの余裕綽々といった表情にわずかな綻びが生じる。  
「私は乱暴は嫌いです。けど……」  
 タイガはたじろいだ。―――こいつ、本気や……!  
 
 その日その時、クララは必死だった。  
 なぜなら、はいていなかったから。  
 

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