初夏特有の爽やかさが心地好い今日この頃。  
 
 
マジックアカデミーのメンバーは、潮干狩に来ていた。  
 
 
最も理由は遊ぶ為であり、あさりの味噌汁やらが目当てではない。  
故に教師はおらず、生徒だけで来ている。  
波打ち際ではしゃぐ水着ないし薄着の少女たち、それを眺めて鼻の下を緩める一部男子、真面目に潮干狩を楽しむ低年齢のメンバー、そしてそれらを全て見守る二人。  
 
「ふむ。地上の海ではかような楽しみかたもあったのだな」  
「・・・・」  
「どうした。貴様も楽しめば良かろうに。監督など私一人いれば良いからな」  
「・・・・・」  
 
地上と言う未知の世界の海に来て、らしからずハイテンションなサンダースと、そのとなりでだんまりなルキア。  
また胸が育ったのか、スク水どころか昨年来ていたビキニさえ着れなかったルキアは、不本意ながらにサンダースと並んでいた。  
 
 
「だって、こんな格好で遊んで濡れちゃったら、帰りが大変じゃない?」  
 
むすっとした態度で、ルキアが不満を訴える。  
成程、ルキアの不満もよくわかる。  
 
「それはよくわかるな。私とて海に落ちた時、服が水分を含んで重くなり、非常に苦労した事がある」  
「そうじゃなくてさ。・・・ほら、ブラとか透けちゃうもん。そんなの恥ずかしいじゃない?」  
 
頬を染め、照れながらサンダースに不満を訴え続けるルキアを、サンダースが笑った。  
 
「ならば買いに行けば良い。まだ昼にもなっていないし、近くに服屋もあるだろう」  
「お金がないわよ」  
「貸してやる」  
 
どうやらルキアはサンダースに言い負けたらしい。  
仕方ないな、なんて呟きながら、しかし少しだけ優しいサンダースに触れられた気がして、ルキアは顔を綻ばせる。  
 
「では行くぞ。座りっぱなしでは体が鈍る」  
「うん、そうだね。じゃあ、行こっか!」  
 
ズボンに付いた砂を払いながら、ルキアはそういっていた。  
 
サンダースとルキアが杖で飛ぶこと十分、小さいがブティックが見付かった。  
ラッキーな事に、閉店間際の処分セールなどをやっている。  
二人は躊躇うことなくその店に入ったが。  
 
 
「ねぇ、サンダース?」  
「・・・・」  
「サンダースってば。似合うかどうかぐらい見てくれてもいいでしょ?」  
「・・・しかしだな。流石に露出が過ぎると思うのだが」  
 
頬を真っ赤にして顔を背けるサンダース。  
成程、ルキアが選んだ衣装は、彼女らしい動きやすい服だった。  
代わりに腕やらうなじやらの露出が激しく、袖が全くない様な真夏の為の服でもある。  
無論ルキアの豊かな胸にブラを着ければブラ自体が見えてしまうため、今はノーブラであるのがルキアだ。  
 
「貴様、見ろと言ったって無理に決まっているだろうが!」  
「なんでよぉ。ただ似合ってるかどうか確かめるだけじゃない?」  
「ろ、露出が過ぎるのだ!」  
「ははーん・・・」  
 
必死に顔を背けるサンダースだが、ルキアにはサンダースが何故そこまで必死なのか、逆に感付かれてしまったらしい。  
 
「サンダースってさ、キスしたことってある?」  
「ある訳がない!そんな事、戦いから身を引いた後とて出来るだろうが!」  
「・・・やっぱね」  
 
ルキアは小さく溜め息をついてみせる。  
結局サンダースは純粋過ぎるのだ。  
まぁ軍人だとかそんなんで厳しいのは分かるが、それにしたって腕や上乳が多少見える程度で慌てすぎだとは思う。  
 
試着を終わらせたルキアは、会計を済ませて、サンダースと二人で来た道を飛んで行く。  
サンダースと二人きり、なんて嫌がる娘も多いが、ルキアは其ほど嫌ではなかった。  
普段はツンツンしているが、今しがたのサンダースの姿と言ったら、もう。  
 
「サンダースってさ、可愛いよねぇ?」  
「なっ!?何を!?」  
「内緒内緒」  
 
わざと思わせ振りな態度のルキアに、サンダースは苦笑いをする。  
 
(この娘には、私の本来の姿が見抜かれているかも知れんな・・・)  
 
世界を支配するという夢は、きちんと意味があっての事だ。  
――つまりそれは、サンダースが世界を支配すれば、曲がりなりにも争いはなくなる。  
争いを食い物にしてきた自分が、今度は償う為にと賢者を目指している。  
しかし、やはりルキアという少女が賢者になって何を望むかは知らないし、知ろうとも思わない。  
 
二人が海岸に着いた時には、他の面々は皆昼食をとっており、遊び疲れた様子ながら談笑が絶えていなかった。  
 
「行け、君は彼処にいるべきだろう?」  
「・・・え?」  
「私は昼飯を持って来ていなかったのでな。――さぁ」  
 
ルキアの買った服が入った紙袋を彼女にトスし、サンダースは即座にターンする。  
そのまま全速で離脱したサンダースを、ルキアは呆然と見ていた。  
 
 
―――サンダースから、先にアカデミーに帰ると電話があったのは、その三十分程後の事だった。  
 
 
アカデミーに帰ったルキアは、何よりも先にサンダースの部屋に向かった。  
 
今日の潮干狩は、生徒達全員で楽しもうと約束していた。  
なのに一人だけ先に帰ってしまうなんて。  
電話だってアカデミーのミランダからあったものだ。  
 
―――理由は分からないけど、でもちゃんと理由を聞かないといけない気がする。  
 
それだけの理由で、ルキアはサンダースの部屋へと駆けた。  
 
 
 
サンダースの部屋の扉をノックすると、間も無くサンダースが中から出てきた。  
ルキアは今日彼と買った露出度の高い服を着ていたが、サンダースは寸分の動揺も見せはしなかった。  
まず、そこでルキアの思惑の第一段階は外れてしまった。  
 
運が良ければ、サンダースを動揺させて本音を聞くつもりでもあったのだが。  
 
「何の用だ?」  
「今日の事で、話があるの」  
「・・入れ」  
 
長話になると判断したのだろう。  
サンダースはルキアを自室に迎え入れた。  
 
「まず。何で勝手に先に帰っちゃったの?」  
 
サンダースがベッドの縁に座り、ルキアはサンダースの机の椅子に座り。  
ルキアはサンダースに声をかけた。  
 
「理由などない。あるとすれば―――いや、それも無意味な事に過ぎんな」  
「どういうこと?ぜんっぜん理解出来ないんだけどさ?」  
「君には関係のない事だ」  
「っ!」  
 
サンダースが冷たく突き放すが、しかしルキアはそれを想定はしていたらしい。  
一瞬の沈黙の後。  
 
「だけどね。みんな心配したんだよ?サンダースが体調を悪くしたのかとか、すっごく考えてたんだから」  
「貴様らに気を使われるとはな。私もナメられたものだ」  
「ナメられたとかじゃなくて!――私、サンダースが分からないよ?」  
 
ルキアの声色が変わる。  
小さくも儚い憂いが籠った声が、サンダースの心に刺さる。  
 
「―もう私に関わるな。貴様には他に友もいるだろう?」  
「そんなのダメ!」  
 
ルキアが今度は声を荒げる。  
 
「ずっとサンダースは一人ぼっちじゃない!?」  
「構わない。孤独には慣れている。多くの人と付き合うのは苦手なのだ」  
「――なら、私だけでも友達にしてよ!?」  
「断る」  
 
ルキアの熱意に、サンダースの心は、一瞬だが傾いた。  
しかし、ここで彼女の申し出を受ければ、きっと自分は弱くなってしまうとサンダースは感じていた。  
 
「貴様一人とて。甘える相手が出来てしまえば、私は壊れる。弱くなってしまう。一人で戦えなくなる。――温もりを求めてしまいかねない」  
「それでいいんじゃない!人は、絶対に、一人じゃあ生きられないんだよ!」  
 
ルキアが、サンダースを押し倒す。  
不意の出来事にサンダースは対処しきれず、ルキアにのしかかられてしまった。  
 
「貴様、何を・・・」  
「貴様じゃないもん、ルキアって呼んで?」  
「ふざけるな。何のつもりだ、これは!?」  
 
サンダースの一喝。  
だがルキアは全く動じない。  
 
「サンダースが心配なの!・・一人ぼっちで悲劇のヒーローみたくして、そんなのカッコ悪いよ!」  
「カッコ悪くても構わん」  
「それでも、私はサンダースの力になりたいの!友達じゃなくてもいい、恋人じゃなくてもいい・・・・」  
 
ルキアの声が止まる。  
よくみるとその翠の双眼から涙が溢れだしていた。  
 
「道具だってなんだっていい!ただ、今サンダースを見逃したら私が後悔しちゃうから!」  
 
ルキアの言葉が、涙で彩られていく。  
普段はひまわりの如く笑っていてばかりの少女の、サンダースが初めて見るくしゃくしゃの泣き顔。  
それを自分が作ってしまったと理解してしまったサンダースは、不意にルキアを抱き締めていた。  
 
「サン・・ダー・・・ス?」  
「きさ・・・ルキアは泣くな。お前は笑っていろ。――私などのために涙を流すな」  
「・・でも」  
「それにだ。道具でも良いと言ったが――それは私が許さん。微かながら、私に他人の温もりを教えたのはお前だ。ならば責任を取れ―添い遂げろ。今ならまだ見逃す。今なら私は、まだ、一人でいられる」  
 
サンダースが、指でそっとルキアの涙を拭う。  
舌に運んだそれは、限りなくしょっぱい味がした。  
 
「ううん、私も逃げない。サンダースが必要なら、私はサンダースの力になる――今は無理でも、愛してるって言い切れる様になってあげるから」  
「・・・後悔・・するぞ」  
「後悔させないで、ね?」  
 
ルキアの悪戯気なはにかみ笑顔が、サンダースの瞳に映る。  
幾らかの沈黙の後、二人は唇を重ねていた。  
 
唇を押し付けあうだけのプレッシャーキス。  
唇が触れ合った瞬間、サンダースはルキアの体を抱き締めていた――それも先程の非にならぬほどの強さで。  
それに呼応する様に、ルキアの両手がサンダースの頬に当てられる。  
十秒程のキスだが、唇が離れた時には、既にルキアは頬を真っ赤にして照れていた。  
 
「初めて、その、キスと言うモノをした」  
「私も、お父さんやお母さんみたいな家族以外とは、初めてだよ」  
「キスとは、こんなに心地好いものだったのか」  
「うん・・・ねぇ、もっとキスしよう?」  
 
ルキアのお願いに、サンダースは抱擁で答える。  
それから二人は、正に狂った様にキスに溺れていった。  
 
ルキアが自分の股間に二本ほどの指を這わせると、そこはしっとりと液体が漏れ出ていた。  
 
「うわ、私キスだけでヌレちゃったんだ・・」  
「・・・小便でも漏らしたか?」  
「違うよぉ」  
 
ルキアはぷぅっと頬を膨らませた。  
最も、それはすぐに終り、代わりに笑顔に戻るが」  
 
にこりと、いつもどおりの笑顔を見せるルキア。  
その笑顔は、とても綺麗で、サンダースには眩しいものだったから。  
 
「・・・分かった。ただし、痛ければ言え。苦しければ言え。・・君を犠牲にしてまで私は楽しみたくはない」  
「うん、アリガト!」  
 
やっぱり笑顔で、ルキアは頷いた。  
そしてそのままサンダースのズボンのチャックを開き、トランクスの中からペニスを取り出した。  
 
サンダースのペニスを見たルキアは、まず息を飲んだ。  
曲がりなりにもサンダースだって男だから、自身の意図しない所でペニスが勃起してしまっていた。  
 
「うわ、おっきい」  
「・・・凝視するな」  
「あはは、ごめんごめん。じゃあ、ホンバンやっちゃうねぇ?」  
 
サンダースのペニスを手に、もう片手では自分のスカートを摘み、ルキアはいざとばかりに腰を落とした――ノンストップで。  
 
 
刹那。  
なにかが破れる音が、ルキアの脳内に響いて。  
一瞬の間の後、少なくともルキアの今までの人生では知らなかった程の激痛が、彼女の臀部から脳髄に伝えられた。  
 
 
 
「いっ!?っっっっいたぁっっ!?」  
「な、どうしたのだ!?」  
「な・・・ん・・かね・・?びり・・て・・・きこえ・・」  
 
ルキアの声は絶え絶えになっていた。  
無理もない、処女膜の存在を知らなかったとは言え、躊躇いなく破ってしまったのだから。  
 
 
ルキアとサンダースの結合部から、ルキアの処女膜が破れた事を示す鮮血が溢れ出す。  
サンダースはそれに気付き、そして痛みに耐えるルキアを見て、何と無くではあるが現状を把握した。  
そして、今一番自分がすべきことはと考えて。  
 
「無理はするな。こんな状態の君を求める程私は浅ましくないつもりだ」  
 
静かに涙を流すルキアに、サンダースは優しく語りかけた。  
 
「一緒にいれば、また機会もあるだろう。今は、このまま君が落ち着くのを待とう」  
 
「サン・・・ダー・・ス・・・」  
「私は今日君と、こうやって近付けた。――それだけでいいだろう?また二人なら、君が苦しまずにホンバンをすることも出来るはずだ」  
「ゴメ・・・ン、あり・・がと・・・ね?」  
 
まだ言葉もロクに発せない程苦しむ少女を、サンダースは優しく抱き締めた。  
 
 
―――こうして、サンダースとルキアの初めては、大失敗に終わった。  
 
 
そして、その後の話。  
二人は必死に初体験時の痛みについて調べ回り、ミランダから処女膜の事を聞き教えられ、ようやく答えを得られた。  
だが初体験時のあの痛みはルキアには如何ともしがたいトラウマになっていたらしく、二人が真に結ばれるのはまだ先の事になりそうだった。  
 
 

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