狙われた館〜ひなた荘2〜素子  
 
 
「はぁはぁはぁはぁ」  
暗闇。  
暗闇の中、女は走っていた。  
前後左右どちらを見ても暗闇だ。  
 
「はっ、はっ、はっ…」  
いったいどれほどの時間走ってきたのだろう。息が切れる。苦しい。  
「ひっひっひひひひ」  
後ろから、誰かが追いかけてきている。  
気味の悪い笑い声。何人も、いや何十人もいる!  
(逃げなきゃ)  
気力と体力を振り絞る。  
 
ズルっ、ドシン!  
足を滑らし、派手に転んでしまった。  
見ると、いつの間にかに湿地帯に入ってしまったようだ。ぬかるんだ地面に滑ってしまい、立ちあがる事すらできない。  
(早く、早く逃げなきゃ)  
やっとの思いで立ちあがり再び走り出そうとしたら、今度は足が泥に埋まった。  
「!?」  
あれよあれよと言う間に、ぬかるみはひどくなっていく。  
気がつけば、足下は泥沼と化していた。一歩踏み出すたびに膝まで埋まってしまう。  
「はぁ、はっ、はぁ」  
それでも必死に足を動かす女のすぐ後ろから、ぞっとする声が聞こえてきた。  
「待ってよ素子ちゃーん」  
「うわあぁぁ!」  
一気に血の気が失せる。  
思わず腕を振り回し……ふと、自分が手にしているものに気づいた。  
ーー止水。  
(そうだ、私は止水を持っていたんだ。これで奴等を切り捨ててやる!)  
 
ギュッと鞘を握る手に力をこめる。  
足を止め、振り向きざまに一閃!!……しようとして、できなかった。  
「…………!?」  
刀が、抜けない。  
「そんな馬鹿な!」  
ぐぐっ、と力をこめる。  
抜けない!  
いくら力をこめようと、刀が抜けてくれない!  
「…………」  
止水が抜けない。女は呆然と立ちすくんだ。  
 
「っ!」  
後ろから腕がのびてきた腕を、間一髪かわす。  
慌てて振り向いて、また愕然とした。いつのまにか、まわりは男達でうめ尽されていた。  
「あっひゃひゃひゃひゃ」  
「ひっひっひいっひっひ」  
男達は気味の悪い声をあげながら、じりじりと輪を狭めてくる。  
「……!」  
抜けないでも、鞘のままでもいいから刀を構えようとしたが……今度は腕が動かない!  
見ると、草が両の腕に絡み付いていた。ふりほどこうともがくと、ますます絡まってくる。  
ぴと……  
肩に、誰かの手が触れた。  
「い……」  
顔が引きつる。  
「いやあああああ!!」  
 
 
 
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…………」  
……………………?  
気がつくと、そこは暗闇ではなかった。  
明るい光が満ち満ちている。  
 
素子は、布団でうつ伏せに寝ている自分に気が付いた。  
「……ゆ、ゆめ……?」  
素子の目に、いつも使っている枕がうつる。  
顔をめぐらせば、床の間に止水が置いてあるのが見えた。  
「…………」  
荒いでいた呼吸が落ち着いてくる。  
夢。全ては夢だったのだ。  
(よかった……)  
「ふうぅぅぅ」  
素子は深い安堵の溜息をついた。  
 
素子が夢でうなされるのは珍しい事ではない。  
巨大な亀や恐ろしい姉に追いかけられる夢を見て、跳ね起きた事は何度もある。  
しかし、今回のような夢を見たのは初めてだった。  
(なぜあんな夢を……)  
つつっ、と汗が額から流れ落ちた。夜着が汗でぐっしょりと濡れて肌に張り付いている。  
とにかく着替えなければならない。そう思いながら、素子は身を起こそうとした。  
 
「……?」  
なにかがおかしい。  
腕が、動かない。  
「…!?」  
そう、両腕が、動かない。後ろにまわされて……固定されている?  
「な、なに?」  
力をこめると、ギッ、と革が軋む音が聞こえた。  
頭が痛む。思い出してはいけない事があるような気がした。  
再び息が荒くなり、冷や汗が吹き出てくる。  
 
「おはよう素子ちゃん」  
急にかけられた声に、素子の心臓は跳ね上がった。  
(だ、誰?)  
頭を回転させ、恐る恐る見てみる。  
すると……  
そこに、男がいた。昨日初めて会った、男がいた。  
「…………ぁ」  
その男は、まるで夢に出てきた男達のような下卑た笑みを浮かべている。  
「うなされてたね。怖い夢でもみたかい?」  
「…………」  
素子は答える事ができない。顔が青ざめていくのが自分でも分かった。  
「なに呆けているの?僕のこと忘れちゃったの?」  
「…………」  
忘れるわけがない。いや、忘れられるはずがなかった。  
昨夜起こった出来事が、怒涛のように頭をよぎってゆく。  
「冷たいなぁ。昨日はあんなに愛し合ったのに」  
「…………っ!」  
とんでもない一言に、頭に血がのぼった。  
「だ、だ、だ、誰が愛し合った!」  
「えー、やっぱり忘れちゃったのー?」  
激昂する様子を見てにやつきながら、男はずいっと素子の方ににじり寄った。  
「よ、よるな!」  
縛られた体を必死に動かし、素子は逃げようとする。  
しかし慌てているからだろう、ジタバタとただもがいているようにしか見えない。  
 
「いっぱい愛し合ったじゃないか。素子ちゃんも最初は痛がっていたけど、最後は気持ちいい、気持ちいいって…」  
「ば、はかな!そ、そんなこと、私が言う訳ないっ!!」  
「えー、言ってたよ?上の口で言わなくても、下の口で」  
「……!?」  
「俺のチンポを、痛いくらいにギュウギュウしめつけてくれたよね」  
「な……っ!?」  
「色っぽい声でアンアン喘ぎながらさ。一回いくたびに、堪らない気持ち良さで締めつけてくれたの、覚えてないの?」  
「い、う、あ………!?」  
顔がどんどん赤くなっていく。  
反論して罵倒してやりたいのだが、混乱した頭が追いつかない。  
「素子ちゃん初めてだったのに。Hだったんだねぇ」  
「な、き、さま……!」  
「昨日は素子ちゃんの処女をもらった後、なるちゃんと、きつねさんと、はるかさんと、しのぶちゃんのアソコにもチンポ入れたんだ。でも今日は1日中素子ちゃんとしかしないからね」  
はっ、と素子が息をのむ。  
 
「…………き、きさま、この期に及んでまだ私達を……!?」  
昨日散々弄んだだけでは飽き足らず、今日も犯すつもりなのか!?  
素子は、谷底に突き落とされるような衝撃をおぼえた。  
「この期に及んで、って?俺は素子ちゃんが一番気に入っているんだけど、やっぱり他の娘のマ○コも味わいたいからさぁ」  
「そ、そんな事、許さないぞ!」  
「えー?」  
ずいっと男がにじり寄る。  
「う、よ、よるな……」  
素子も体をくねらせ、ズリズリと男から遠ざかる。  
「ちなみに昨日セックスした中では、素子ちゃんが一番気持ちよかったよ」  
ずいっ。さらに男が進んでくる。  
「な、何を……!」  
怒りに顔を紅潮させながら、ズリズリ、と素子もさらに後退する。  
「いや、他の娘もさいっこうに気持ちいいマ○コだったよ。それぞれに味があって、甲乙つけがたかったんだけどね」ずいっ  
「そ、そんな事言うな!」ズリズリ  
「俺は、素子ちゃんが一番好みだった」ずいっ  
「うう……」ズリズリ  
「素子ちゃんて、体鍛えあげてるよね」ずいっ  
「く、来るな……」ズリズリ  
「あんなきれいに引き締まった体、俺初めて見たよ」ずいっ  
「来るな!」ズリズリ  
「でもそれなのに、触るとむにゅむにゅしてて柔らかいんだよねー」ずいっ  
「そ、それ以上近づいたら、ただじゃおかないぞ貴様!」ズリズリズリ  
「もう一回見せてくれない?」ずずいっ  
「だ、だめに決まってるだろう!」ズリズリズリ  
「お願い!」ずずずいっ!  
「い、いやだ……!」ズリズリズリズリ……  
素子は必死に男を留めようとするが、男は構わずどんどん進んでくる。  
さらに後ずさろうとした素子の頭が、何か硬いものにぶちあたった。  
 
「っ」  
驚いた顔をして振り返る素子。…………壁だった。  
そう、狭い部屋の中、どこまでも逃げられるわけがないのだ。  
「あ……」  
愕然として男の方に顔を戻す。  
「もう、逃げられないよ……」  
「!!」  
男は、目の前にまで迫っていた。  
「こ、こ、来ないでくれ……!」  
そのかすれた声も、男の行動を止める事はできない。  
横に逃げようにも、体が硬直して上手く動かない。  
ガッ  
男は、はいずって逃げようとする女の足を捕えた。  
そのまま立ち上がり、もがく素子を布団の方に引きずっていく。  
「や、やめ、やめてくれ!」  
布団までの距離は短かった。  
あっという間に布団の上に組ふされてしまう。  
「や、やぁ、め、て……」  
 
男――名前は蛭村という――は、素子の両肩をつかみまじかに顔を見つめた。  
すらりと整ったきれいな顔だ、と思う。  
必死に睨み付けてこようとしているが、カタカタとふるえる肩は隠しようがない。  
目の端に浮かんだ涙が堪らなく色っぽい事を、本人は気付いているのだろうか?  
こうやって直に触れていると、思ったよりもきしゃな体つきをしている事が分かる。  
視線を下げると、寝汗で濡れた寝巻きが肌に張り付き、意外なほど豊かな胸をしていることが見てとれた。  
乱れた襟元からは白く、しっとりとした肌が覗いている。  
(ホントにいい女だ……)  
あらためてそう思う。  
これほどいい女は、例えテレビででもめったに見れない。  
ましてやアダルトビデオや、蛭村がこれまで知り合ってきた女たちとは比べ物にならなかった。  
まさに高嶺の花と言って良いだろう。  
しかし、そんな美少女が、今自分の腕の中にいる。  
必死にもがいているが、所詮は少女の力、かわいいものだ。  
いや、もし縛られていなかったなら自分などあっという間にぶちのめされていただろう。  
その事実が蛭村をますます興奮させるのだった。  
「ふっ、ふっ、ふっ、へへへへ…」  
 
さらに嬉しそうになる男の顔に、素子は恐怖を抱かずにはいられなかった。  
「は、離せ!ほどけ!」  
必死に暴れてみるものの、しっかりと抱きしめらておりいかんともしがたい。  
男は見た目以上にがっしりとした筋肉をしており、意外なほど力強かった。  
「素子ちゃんは俺のこと知らなかったろうけど、俺は前から素子ちゃんのこと知っていたんだよ」  
「なに…?」  
「橋の上で、ナンパ男を吹き飛ばした事あったよね」  
「…………」  
橋の上で……覚えがあった。  
「あの時から素子ちゃんに目をつけてたんだよ」  
「う……」  
「あの凛々しい素子ちゃんとこんな事できるなんて……、あああああ」  
「う、よ、よせ…」  
「あああああ!」  
突然男が騒いだと思うと、寝巻きの襟が一気にはだけられた!  
「い、いやぁ!」  
豊かな胸がぷるん、とまろびでる。  
寝巻きは、革手錠で縛られた裸身の上から着せられていただけだった。簡単に脱がす事ができたのだ。  
「も、もういやだ、やめてくれ……!」  
素子の脳裏に、昨日のことがよみがえる。  
皆を人質に取られ、やむなく捕らわれの身となった。  
生まれて初めて男に胸を揉まれてしまった。  
男にあんなキスをされたのも初めてだった。  
そして、あんなにじっくりと裸を見られたのも初めての事だった。  
そして、そして、その後…………!  
(見ず知らずの男に、しかも、浦島の目の前で……!)  
なすすべなく犯されてしまった所を浦島に見られた。  
その事を思うだけで、素子は体がさいなまれるかのような激情に身をもだえた。  
 
「ん、んんん!?」  
突然、男の顔が覆い被さってきた。気がついた時には、唇を奪われていた。  
「んんんプハ!」  
素子は顔を必死にそらせて抗議の声をあげる。逃げられた男は、しかし構わずに柔らかい黒髪をくしけずりつつ、顔中をなめまわしてくる。  
「う、い、や、だ……」  
限界まで首をねじって避けようとするが、男は唇にこだわらず柔らかいほおや首筋を唾液れにしていく。  
(いや……!)  
なんとか逃れようとしていると、突然おとがいをクイッとつかまれた。  
「ん、んン、んもぁ…!」  
がっちりと顎を捕らえられ、再び唇を奪われた。今度は逃げる事もできない。  
上唇を、下唇を、舐めまくってくる。  
それどころか、抗議の為に開いた唇の隙間からヌルリとした舌が入りこんできた。  
「ンンぅ!?」  
不法な侵入者は、不可侵なはずの口内を縦横無尽に暴れまわる。  
ゾロリと口内を舐めまわされたかと思えば舌をグリグリこねられ、かと思えば唇の裏側から歯茎を丹念に舐めしゃぶられる。  
ゾクゾク…と背筋に悪寒が走った。  
ナメクジのような物体が堪らなく気持ち悪い。  
 
(こんな屈辱……!)  
硬く閉じられた素子の目から涙があふれた。  
こんな辱めを受けるくらいなら、いっそいちかばちか……  
(噛みきってやる!)  
素子の目がカッと開く。  
ガギ!  
鈍い、歯と歯が打ち合わされる音が聞こえた。  
「…!?」  
……舌をおさえて、悲鳴をあげているはずの男……が、気味の悪い笑みを浮かべてじっと見つめてきている。  
噛みつこうとして噛めなかったのだ。一瞬早く舌を引き抜かれてしまったのだ。  
「う……」  
「何するつもりだったの、素子ちゃん……」  
「く…!」  
素子は思わず歯を食いしめ蛭村を睨みつけた。  
自分だけでなく他の皆も拘束されているであろうこの状況。逃れるためには、この男を倒してなんとか手錠を解きチャンスを覗うしかなかったのだ。  
それなのに、一瞬噛むことを躊躇してしまった。  
自分の甘さに唇を噛む。  
 

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