分岐 B
「はぁーっ」
薄紅の光が、部屋の中を満たす夕刻。
景太郎が、紅い夕日を、その目を細めながら見つめている。
「やっぱ俺、誘い過ぎなのかなあ」
彼は、ほぼ毎晩なるの部屋に通い詰め、とうとう一昨日には彼女の方から拒否されてしまったのだ。
その後、お互いに気恥ずかしくなってしまったのか、昨日も、今日も、一日中ほとんど会話ができなかった。
…考えてもみれば、初体験を果たしてからというもの、景太郎は夢中でなるの体を求め、
猿のように一方的に欲望をふるっては、部屋へと帰っていく毎日であった。
「駄目だな〜、頭じゃ分かってるのに…」
そういえば、今までなるの方から自分を誘ってきた事なんてあっただろうか?
自分の事しか考えずに、毎晩部屋に通っていた自分を、本当に受け入れてくれていたのだろうか?
ネガティブな感情が、頭の中で右往左往する。
「…ちょっと、気分転換しよう」
景太郎は、『今日は夕食は要らない』と伝言板に書くと、沈んだ気持ちの中、
既に足元の暗い階段を、一歩ずつ下りていった。
「あがっ!? …ぶべっ!!」
うっかり足元を踏み外すと、お約束のように転がり落ちる景太郎。
《あー、何回やっただろう、これ。明日確実に腰痛いなー》
普通の人間なら死すら覚悟する、こんな急な階段でも慣れた物である。
落ち方を上手くダメージの少ないようにコントロールしながら、なすがままに転がっていく。
他人が見たら、至極異様な光景に見えるに違いない。
「きゃっ!?」
中間の踊り場まであと数段といった所で、誰かの声がしたかと思うと、
次の瞬間に鈍い音とナンセンスな叫び声が上がった。
「ぐぼあっ!!」
誰かに思いっきり肘撃ちを喰らったらしい。左側頭部がズキズキする。
痛みを必死にこらえながら、恐る恐る顔を見上げると、そこにはなるの呆れ顔があった。
「…ったく、もう少しで直撃喰らう所だったじゃない!」
「っあ、ご、ごめん、わざとじゃ…」
二発目の鉄拳を覚悟して、景太郎は思わず体を丸めた。
…だが、いつまで待っても、何も飛んで来ない。
恐る恐る目を開けると、なるは「バカ」等と軽くつぶやきながら、体をもじつかせている。
「な…る?」
彼女は、何よ、といった感じでこちらを見る。
「いや、その…ゴメンな、何だか毎晩俺の勝手な我侭に付き合せてたみたいで…」
景太郎は、軽く泥を払うと、ゆっくり話し出した。
黙って聞いているなるに対して、景太郎はあれこれ思案しながら謝罪の言葉をひねり出している。
「だから、あのさ…これからは、俺よりお前の意見を尊重したいっていうかさ…」
その言葉に反応したのか、なるは、景太郎の目を、じっと見つめた。
そして意地悪く笑うと、景太郎の肩にそっと手をあてる。
「…じゃあ、私が今後、して欲しい事があったら、全部聞いてくれるんだね?」
景太郎が、その言葉の意味を理解する間もなく、なるは景太郎の腕をとって、町へと引きずりだした。
「なっ…なる…?」
ひなた市街地にある、一軒のラブホテル。シャワー室から出てきたなるの格好を見て、景太郎はその目を疑った。
…まず目にとまったのが、髪型。後ろ髪をぐるりと捻る様に二本に結わえ、背中に垂らしたもの――所謂『三つ編み』。
更に視線を降ろしていったその先には、なんと、紺色の競泳用水着に食い込んだなるのふくよかな乳房があり、
そしてそれは、なるの形の良い臀部にも、きっちりと食い込んでいる。
なるは、豊満な笑みを浮かべて、景太郎に歩み寄ってくる。
「ちょっと…何キョロキョロしてんのよ?」
景太郎は、目のやり場にも、身のやりようにも困って、ただ辺りを見回している。
…今まで、いつも誘っていたのは自分の方だったし、ましてや、こんな格好で迫られるとは。
あれこれと考えているうちに、景太郎の体は、なるによって、近くのベッドに静かにダイブしていた。
「景太郎…じゃあ、コレ飲んでねっ」
「ん、んむっ!?」
なるは、口に何か黒い球を含むと、滑り込ませるように、景太郎の口内に舌を挿入していった。
景太郎の喉を異物が通過したような感触が走るが、そんな事を考える余裕も無く、
口の中、外、全てに満遍なく舌を絡ませるなるの愛撫に、彼は痺れさせられていった。
何時の間にか、景太郎は全裸でなるの肌に体を擦り付けていた。
…自分で脱いだのか、それとも脱がされたのか。いや、そんな事はどうでも良い。
二人はキスに夢中になりながら、ベッド中を転がりまわった。
「ぷはっ」
自然とお互いの唇が離れ、丁度その時上になっていたなるが、景太郎を見下ろす形となった。
「…どう? 犯される感想は」
「いや、感想って、言われても…気持ち、良かったけど」
なるは、つまらなさそうに軽く頬を膨らました。
「…ふうん。それじゃ、この格好の感想は?」
景太郎は一瞬言葉に詰まったが、『かわいい』と漏らすと、なるは満足げに笑った。
何時の間にか、なるの水着の秘部の箇所のみが、紺から黒に変色しだし、
既に限界まで膨れ上がった景太郎の男性器からは、透明な水滴がこぼれ始めている。
それを見たなるは、意地悪げに笑うと、景太郎の下腹部に舌を這わせた。
「…ひぁっ! な、なる…?」
なるは、男性器の周りを、円を描くように舐め始めた。
景太郎は、思わず体を「く」の字に曲げようとするが、しっかりなるの体で足と胴体を押さえつけられている。
因みに、未だになるは景太郎にフェラチオなる物を施した事が無い。
景太郎の中で、嫌が上にも期待が高まる。
やがて、なるは舌の動きを止めると、天井に向かって大きくそそり立つ一物に見入った。
時折吹きかけられるなるの吐息が、妙にエロティックに感じられる。
ちゅ。
なるが、景太郎自身に、軽くキスをした。待ちわびた瞬間。歓喜にも似た衝動に、全身を震わせて反応する。
なるの舌は、ちろちろと景太郎の体の先端をとらえ、更に唾液を絶え間なく注ぐ。
垂れて来た唾液と先走り液が、景太郎の男性器をびちょびちょにしていく。
「ね、けーふぁろ、わたひにも、頂戴っ」
なるは、既に液体が止め処なくほとばしり、水着が食い込んで、既に背徳感極まる状態に陥った尻を、景太郎の方向に向けた。
景太郎は、指でちょうど窪みのある部分をなぞって刺激する。それに合わせて、なるは気持ち良さそうに背筋を反らす。
やがて、どんどん膨張して加熱していくそこに、触っているだけでは満足出来なくなった景太郎は、
水着を横にずらすと、隙間から覗いた深い割れ目にむしゃぶりついた。
なるの方も、次第に大胆になり、根元から景太郎自信をくわえ込もうと、必死に口を上下させ始めた。
ふたりは夢中になって、お互いに愛撫を送り込み、作業に没頭していった。
「んっ、ぷはっ……うっ」
「あ、あははぁ…ひゃぁぁ」
景太郎が、凄まじい射精感に耐え切れなくなり、一瞬、全身の力を緩めた。
その瞬間、尿道からは大量の精液が吹き出し、噴水の様に、なるの顔を汚していく。
そして、目を細めて惚けるなるの顔から垂れたミルクが、紺色の水着を、じわじわと染めていった。