あくる日、ひなた荘にちょっとした変化が起こった。カオラが朝食の時間になっても食堂に下りて来ず、しのぶも迎えに行こうとはしなかった。また、歳の割りには突っ込みの激しいサラ・マクドゥガルもそのことに触れない。  
賑やかさをやや欠いた食堂では、なるとみつねが少し不思議そうな顔をしながらサラダをつついている。その光景をよそに、素子はややうつむき加減に味噌汁を飲んでいた。その目は、ちらちらと景太郎の方を見ている。  
 
(昨夜、私は浦島と……それに、姉上も……)  
 
心の奥で微かに呟いただけで、素子は耳まで朱に染まった。それに比べて鶴子は平然たるもので、いつものように優雅な手付きで食事をしている。時折景太郎と当たり障りの無い会話をして顔色も変えない彼女を見ると、自分を姉と引き比べて劣等感を感じてしまう。  
が、その姉が景太郎に濡れた流し目を送りつつ話しかけ、その後で素子にクスリと笑いかけるのを見ると、別の感情が沸き起こってくる。  
 
(くっ……)  
 
負けたくない、と思った。つい数日前まで、姉と対等に張り合うことなど考えもしなかったが、今は燃えるような闘志がふつふつと湧き出してやまない。浦島に出会ったのは、私の方がずっと先なんだ……姉上には、渡さない。それに、他の誰にも……  
そう腹をくくると、急いで残りの朝食をかき込み食堂を出て露天風呂へ向かう。肌を磨いておこうと思った。姉が何と言おうと構わない、先手必勝、それが闘いと恋に勝つ道なのだと。今朝の素子は、明らかに昨日までの素子ではなかった。  
自分の武器として、剣だけでなく女を使うことを覚えていたのだ。廊下を急ぐ彼女の目に、ロビーから入ってきたはるかが見えた。目礼をして先を急ぐ。そんな素子の背中を、はるかはじっと見つめていた。  
 
「こりゃあ……やっぱり何かあるかもな」  
 
そう言って、はるかは目的地へと向かう。何かは分からないが、良くないことの前触れのようだ。そう思うと脳裏に警告灯が閃くのを感じ、自然と足並みは速くなっていた。急がなくてはならない、そんな気がしてならなかった。ふと、目の前を温泉ガメ「タマ」がすうっと横切る。  
そのまま通りすぎようとしたはるかは、すぐに何かを思いついたように立ち止まり、指を鳴らした。飛んでいたタマが寄ってきて肩に着地した。  
 
「……これも保険になるかね?」  
 
自分の予想が正しければ、今日の朝はひどいものになるだろう。  
 
 
「あの、鶴子さんって料理も上手なんですね。私、羨ましいです」  
「いいえ、しのぶちゃんかてその歳で大したモンやわあ」  
 
鶴子は、食後にしのぶと楽しそうに話しながら食器の後片付けを手伝っていた。常に「美人で頼りになる大人の女性」としての風貌を崩さない彼女は、同性からも憧れの対象になる。食事の後は、必然的に彼女を囲んでのお喋りが花を咲かせた。  
ロビーでお茶を飲みながら楽しく笑いさざめくなる達は、この麗人が自分達を見て舌なめずりしているとは考えもつかない。また、自分とその妹がこれからやろうとしていることも。  
 
(モトコはもう、大丈夫やな。あとは、この娘らの中から、良さげなんを見繕って……)  
 
景太郎とのことで、素子を妬かせたのは成功だった。自分が適度に挑発すれば、妹は自然とそれに乗ってきてくれる。さっきも食事の後露天風呂に向かったようだが、その後はどこへ行くつもりやら。素子のことが片付いたら、次の獲物を探すとしよう。  
そう、全ては新しい“ご主人様”の望みのままに……自分に憧憬の視線を送るなる達を眺めながら、鶴子は内心考えた。計画が完遂された時に、彼女達はどんな顔を見せてくれるのだろうか?  
 
 
急いで身体を洗った素子は、浴衣を着ると脱衣所を出た。姉はまだ来ていないだろうか?それだけが不安だった。要は、景太郎と二人きりの機会を持つことだ、と考える。そうすれば、私が優位に立てるに違いない。そう考え、彼女は管理人室へ辿り着く。  
まだ彼は来ていないかもしれない。それならここで待たせてもらおう……そう思ったが一応声を掛けてみると、中から返事が返ってきた。破顔して戸を開け、静かに中に入る。景太郎は、座卓の前に座っていた。一呼吸してから、素子は言った。  
 
「浦島……少し、頼みがあって来た」  
「いいよ。何?モトコちゃん」  
 
屈託の無い顔で問い返す景太郎に、素子は自分でも驚くほど自然にしなを作って言う。  
 
「私を、抱いてくれないか?」  
「抱くって……今はまだ昼、いや朝だよ?」  
「いいんだ……私が嫌いじゃないなら、今抱いてくれ……」  
 
そう言うと、素子は景太郎の胸にしなだれかかった。しばらく黙っていた彼は、やがて口を開いた。  
 
「いいよ。モトコちゃんが望むなら」  
「本当か……?」  
「うん。それにしても、モトコちゃんって見かけによらずエッチな娘なんだね」  
「言わないでくれ、浦島……」  
 
素子は手を離すと、肩をよじらせた。浴衣がずり落ち、みずみずしい乳房があらわになる。さらしは、無論つけていない。景太郎の首に腕を回すと、その唇に貪るように吸い付く。素子は、夢中で没頭した。  
やがて唇を離して膝に乗り、胸を彼の顔に押し付けるように座る。舌が肌の上を這い、甘い戦慄が身体を包んだ。  
 
「ああっ……浦島っ……好きだ……」  
 
荒い息遣いと悩ましげな呻き声が、部屋を満たし始めた。  
 
 
その頃はるかは、カオラの部屋にいた。部屋と言っても、まるでジャングルである。熱帯性の植物が室内所狭しと繁茂していて、ここだけがひなた荘の中で異空間のようだった。  
 
「それでスゥ、例の物は出来たか?」  
「お、出来たで〜。これが携帯式妖力探知機、『振り向けば奴がいる一号』や!」  
「お、おう……」  
 
そのネーミングと、一昔前の子供向け漫画的なデザインにげんなりしたはるかだったが、渡された品を手に取り、構えてみた。ガンタイプのヘアドライヤーの中身を抜いた本体に、カーナビを改造した小型液晶ディスプレイが縦に付いている。  
また、拳銃で言うところの安全装置が電源ボタン、グリップの弾倉部分がバッテリーパック、引き金を引くと対妖力レーダーの縮尺切り替えが選択可能という、一日で作ったとは思えない代物である。ただ、ぱっと見には幼稚園児の玩具としか思えない極彩色の代物であるが。  
 
「流石だな、スゥ。助かったよ」  
「えへへ、ウチはこういうの得意なんや。あ、それとな。他にも作っといたモノがあるで。まだ試作品やし、実用テストもしてへんけど」  
「ん?そうか……いやまあ、とりあえずはこれで十分だ。早めに片をつけなきゃならなそうなんでね」  
「そーか〜。ほな、ウチは最終調整をやっとくから、はるかも気ィつけてや」  
「ああ、分かった、ありがとう」  
 
そう言ってはるかはスゥの部屋を後にし、探知機の電源をオンにした。これからは、細心の注意と瞬時の決断力が問われるだろう。かつてあの発掘馬鹿と経験した波乱に満ちた日々の感覚が、鮮やかに甦ってきていた。  
 
 
素子は後ろから景太郎の膝の上で抱かれ、乳房を愛撫されている。まるで快感から逃れようとするかのように身悶えながら、実際にはより多くの快感を得ようとして自分の手で秘所を慰め、もう一方の手は声を殺すために指を咥えていた。  
 
「んむっ……むっ、んんっ!」  
「モトコちゃん、もう随分濡れてるみたいだね、ここ」  
「ひ……ひああ……」  
 
恥じらいつつも、その手の動きを止める事が出来ない素子を、景太郎は自由に弄んだ。掌に余りそうな乳房を鷲掴みに揉みしだき、苦痛を与えないようにほどほどのところで力を緩める。  
既にペン先ほどに硬くしこった乳首を指でつまみ、軽く弾いたりする。その度に、白い喉の奥から耐えかねたような喘ぎが起こった。  
 
「んふぅっ……はぁっ」  
 
花園のぬめりは素子の指から手を、また重ね合わされた景太郎の手を濡らした。彼がその指を彼女の口元へ持って来ると、素子は半ば濁った意識のままにそれを舐める。自分の淫らな、蜜の味がした。それが発端になったのかどうか、彼女は景太郎に向き直ると、切なげに哀願する。  
 
「お願いだ、浦島……また、昨日みたいに……」  
「挿れて、欲しいの?」  
「……うん」  
 
景太郎の表情に驚くほどの余裕があることが、素子には意外だった。今までの彼は自分を恐れる立場であると思っていたのに、いつからこれほど泰然とした風貌を備えるようになったのだろう?  
 
「……ダメだよ、モトコちゃん」  
「そんなっ!どうして!?」  
「……分からんかえ?」  
「うわぁっ!?」  
 
なんと、いつの間にか背後に鶴子がにじり寄っていた。あいも変わらず神出鬼没な姉である。  
 
「ええかモトコ、浦島はんが昨夜あんたを女にしてくれたんは、ウチが特別にご褒美として頼んだからや。また抱いて欲しかったら、相応のお願いの仕方っちゅうモンがありますがな」  
「まあ、そういうことだね」  
「え……それは?」  
 
二人はちらりと目を見交わすと、鶴子が薄く笑いながら素子に囁いた。  
 
「浦島はんに誓うんや、モトコ。ご主人様の奴隷になります、ってな」  
「───っ!?そ、それは、その……」  
「嫌なんか?それやったら、浦島はんのことは諦めるんやねえ。ウチが独り占めや」  
 
言葉に詰まった素子を尻目に、鶴子は景太郎の前に来て屈み込むとズボンのジッパーを歯で挟み、ゆっくりと降ろした。そして逞しく膨張した男根を指でしごくと、愛おしげに咥えてしゃぶる。  
長い黒髪を撫でられながら、一心不乱に景太郎の息子に奉仕する姉の姿に、素子は体がかっと熱くなるのを感じた。それが、怒りであったのか嫉妬であったのかは分からない。ただ確かなのは、気がついた時にはあらゆる理性が瞬時に吹き飛び、彼女にこう叫ばせていたことだった。  
 
「私、なります!浦島の、ど、奴隷に……だから……お願い……します……」  
「だってさ、お姉さん」  
「……ようやっと、素直になりはったなあ。ほな、可愛がってもらうとええわ。せやけど、その前に……」  
 
その白い指で、グッと素子のあごを摘まんで言う。  
 
「浦島、やのうてご主人様、やろ?口の利き方に気ィつけや」  
「ああっ……も、申し訳ありません、ご主人様……」  
「うんうん、分かればいいんだよ、モトコちゃん」  
 
許しを得た素子は、堪えかねたように肉棒にすがりつき、音を立ててそれを味わい始めた。この、奇妙で不可解な男の器官が自分に女の悦びを与えてくれる。今は何も考えず、この感覚に溺れ切ってしまいたい───  
そんな欲望が、彼女の五体を満たしている。一旦口に含むのを止めて柔らかに舌先で愛撫し出すと、姉が横から割り込んできた。  
 
「ふふふ……モトコ、二人の内どっちが巧くご主人様にご奉仕出来るか、勝負やで」  
「はいっ……姉上」  
 
競争心を煽られた素子は、指と舌を使って根元から亀頭まで、まんべんなく舐め回す。鶴子も、同様にして舌技の妙を競っている。二人の姉妹に跪いて奉仕される景太郎は、満足そうな息を吐き出しながらも、どこか微妙な雰囲気を漂わせていた。  
温厚な微笑の後ろから、ちらちらと見え隠れしているものは───不意に彼は腰を引き、名残惜しそうな表情の姉妹に目配せする。鶴子は頷き、素子の腿を両手で抱え、横に大きく開く。愛液まみれになった秘唇が、その支配者を迎え入れる歓喜に震えていた。  
 
「はっ、早く……下さい……ご主人様ぁ……」  
「ふふ、分かってるさ。これで、全ては成就するんだ……」  
 
 
「むっ!?反応が?」  
 
妖力探知機のディスプレイを見つめながら、ひなた荘の各所を回っていたはるかは、その画面に赤い輝点が瞬くのを見て取った。微弱な反応ながら、それは二十メートル圏内から発せられている。拡大モードに切り替えると、一階のどこかであることが分かる。  
彼女は走った。段々とその輝点は近づいてくる。そして、行き当たったのは───管理人室だった。中から、人の気配がする。  
 
「よし……!」  
 
深呼吸一回の後、勢い良く戸を引く。するとそこには、全裸の素子が姉に抱かれ、今にも景太郎のそれを受け入れようとしている姿が───突然の闖入者に、三人は一瞬硬直した。が、鶴子は素早く妹の体を離すと、はるかの前に立ち塞がる。  
景太郎も手を止め、薄ら笑いを浮かべてこちらを見ている。二人の眼に宿った、紅く危険な彩りを見て、全てを察する事が出来た。  
 
「素子!逃げろっ!」  
 
その叫びが合図だったかの様に、鶴子が飛び掛ってきた。首筋を襲う凄まじい手刀を片手でいなし、同時に右肘を胴に叩き込む。が、クリーンヒットしたその一撃に堪えた様子もなく、鶴子の間髪入れない後ろ回し蹴りが襲って来る。  
左腕で辛うじてブロックするも、神経が麻痺するほどに重い一撃が骨に響いた。はるかは再び叫んだ。  
 
「早く逃げろ!二人は、妖刀に取り憑かれているんだ!このままだと、お前までっ……くっ!」  
「えっ……?」  
「いらん事、妹に吹き込んでくれますなや、アンタ……!」  
 
呆然とする素子と二人の戦いをしばし見比べていた景太郎は、やがて立ち上がり、くるりと振り向いて言う。  
 
「モトコちゃん、ちょっと待っててね。はるかさんを大人しくさせるから」  
 
その凄惨な笑みと紅い瞳に、素子は愕然とする。そこに、何かが飛んで来て肩に止まる。それは彼女が最も苦手とする、温泉ガメ「タマ」。恐怖を刺激されて、理性が瞬時に甦った。  
私は、騙されていたのだ、と。じりじりと二人に近づく景太郎の後姿を見ながら、彼女はそっと距離を伺うと、脱兎の如く駆け出した。  
 
「……モトコっ!!」  
 
姉の怨嗟の声を背に受けながら、素子は振り返らずに自室を目指して駆けていく。その光景を横目に見ながら、はるかは僅かに隙が出来た鶴子の背後に神速的な足捌きで回りこみ、必殺の掌底を放つ。  
防御不能な背に渾身の一撃を受けた鶴子は、うめき声を上げて倒れ込んだ。勝った、とはるかが思ったその時───  
 
「……余計な事を」  
「んっ……!?ぐぅっ……!」  
 
はるかにもまた、隙があった。背後に忍び寄っていた景太郎の手が彼女の首に触れるや否や、感電したような痺れと共に身体の感覚が無くなった。二、三歩よろめいたはるかは、やがてがっくりと膝を突く。薄れかけた視界の隅に、景太郎の足が映った。  
 
「やれやれ……あともう一歩というところで、大魚を逸してしまったか。それも、貴様の要らざるお節介のせいでな。この責任は、貴様自身の身で償ってもらうぞ」  
 
その言葉は、景太郎のものでもあるようで、また別の何かのものでもあるように感じられた。はるかはようやく理解した。既に、何かが決定的に変わってしまっていたのだ、と。そして気を失った。その前方では、鶴子がよろよろと立ち上がっている。  
 
「くっ……ご主人様、申し訳ございません。このお詫びは……あうっ!」  
「鶴子……」  
 
その細首を、景太郎はがっしりと握り締める。喘ぐ鶴子を見ながら、彼は冷ややかに言い放った。  
 
「この首、今回限りはお前の胴体に預けておく。だが、二度目は無いと思えよ」  
「は、はいっ……」  
 
手を離されてむせ返る鶴子には一瞥もくれず、景太郎は廊下に出る。ひなた荘の裏側で、何かが飛び降りたような音が聞こえた。  
 
「奴め……遠からず、報いをくれてやらねばならんな」  
 
そう呟く声は、夏の風に乗っていずこともなく消えていった。  
 
 
「お、メシや昼メシや〜」  
「あれ?景太郎とモトコちゃんは?あとお姉さんも」  
「あ、センパイだったら、今日はちょっと用事があって要らないって言ってましたよ」  
「ふ〜ん、そうなんだ」  
 
昼になって、景太郎と青山姉妹、そしてカオラが食堂に現れないのを皆が不思議に思っていたなる達は、しのぶの言葉に一応は納得して食事を始めた。しかし、微妙な違和感が付きまとう。  
妙な儀式を受けさせられたと思ったら、カオラが部屋に篭って食事にも来ずに何かを作っているようであり、はるかがいつになくそわそわしていたり……ここのところ、何かが奇妙だった。一体、このひなた荘で何が起こっているのだろう?  
 
 
同時刻、素子の部屋でも昼食の時間だった。もっとも、少々特殊な、景太郎にとってのみの『食事の時間』である。  
 
「はぁっ!ああっ……け、景太郎、よせ……あぅんっ!」  
「うんうん、はるかさんのここもなかなか……鶴子さんといい勝負ですよ。ははは」  
「はるかはん、なかなかええ筋してまんなあ。ウチと同じで、これならすぐに立派な奴隷になれますやろ」  
 
服を脱がされ、腰を上げた格好で這いつくばるはるかを、景太郎は後ろから容赦なく犯していた。その下では、鶴子がはるかを抱きとめる様に横たわり、はるかの唇、首筋、乳房にかけて貪欲に舐め回している。  
妹を服従させるのに失敗したという汚名を、是が非でもここで返上しようという意気込みであろうか。自分の眼下で激しく絡み合う大人の女達を見て、景太郎は密やかな満足感を覚えた。少なくとも、鶴子は完全に自分に忠誠を誓ったようだ。  
素子を逃したのは残念だが、代わりにはるかを手中に収める事が出来た。後は、素子が余計な事をしない内にこの館を支配してしまえばいい……  
 
「ふふ。甥御はんに抱かれる気分ゆうのは、どないどす?」  
「ううっ……はぁんっ!あ、はあっ、いゃあんっ!あ、ああ……」  
「結構感度いいですよ。はるかさんは。やっぱり成熟した女の味って格別なものがありますねえ」  
 
はるかの腰をがっちりと押さえながら、景太郎はその秘唇の内奥を余すことなく堪能する。肉棒を差し込むと愛液が淫らな音を立てて迎え入れ、抜こうとすると軟質の肉襞がまとわりついて引き止めようとする。来る者は拒まず、去る者は追う。  
まるで膣そのものが主人の理性を無視して欲望に燃え、はるかを淫楽の淵に追い落とそうとしているかのようであった。彼女にはそれが信じられない。分別ある女だと自他共に認めていた自分が、まだ子供だと思っていた甥に犯されて快楽に身悶えている。  
例え、話に聞いた妖刀の魔力だとしても、その事実が何としても信じられなかった。しかし、現実に自分は景太郎の前に膝を折り、突き入れられる男根はその速さをますます増してくる。  
 
「はぁっ……うぁっ、だ、だめぇ……もう……」  
「我慢しないでいいんですよ、はるかさん。素直に僕の息子を受け入れれば、何も悩む事は無くなりますから」  
「あ、ああ……瀬田……たすけ…て……ひゃうっ」  
「瀬田さんの事は忘れた方がいいですよ。これからは僕が、はるかさんのご主人様ですからね」  
「そうやで……ウチも、旦那より浦島はんをご主人様に選んだんや。その方が、ずっとええ思いさしてもらえるさかい。はるかはんも、自分に素直になりいや」  
「そ、そん、な……ん、んあぅっ!、あ、い、いくぅ───っ!ああ───っ!!」  
 
絶頂に達してがっくりと力を抜いたはるかは、子宮の辺りに熱いものが注がれるのをおぼろげに感じる。その瞬間、何かが終わったと思った。この信じがたい現実をそのまま受け入れることは、彼女には不可能であり、その本能は別の出口を欲していた……  
 
「う、うう……」  
 
ややあって、脱力していたはるかは鶴子に抱き起こされた。朦朧とする視界の正面には、景太郎が胡坐をかいて座っている。その股間には、あれだけの淫事の後にもかかわらず、なお逞しく屹立している剛棒が。景太郎も鶴子も、何も言わない。  
だが、自分に何かを命じていることは明らかだった。しばらく焦点の定まらない瞳でその辺りを眺めていたはるかは、やがて磁石に吸い寄せられるようにそこに這い寄ると、跪いて自分を支配したそれを口で咥えた。  
考古学上、かつて結婚前の女が皆一度は娼婦となる儀式があった、とされる古代帝国が存在したと言われている。ここにいる自分、浦島はるかは昔の自分ではない。  
娼婦に成り代わった別の女だ、と、そう信じることによって彼女は精神の崩壊を防ぎ、現実を受け入れることが出来た。そういう慣習が、昔はあったのだという事実を知っていたことが、この際はるかにとっての救いとなった。  
そんな彼女を見て、景太郎と鶴子はゆっくりと微笑を交し合った。  
 

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