それは浦島景太郎と成瀬川なる、乙姫むつみの三人(通称ローニンズ)が東大に合格し、したと思った直後に足を骨折して休学する羽目になった景太郎の怪我が治ってからしばらく経った後の話である。  
季節は夏休み。景太郎を始めとするひなた荘の住人は、それぞれの休暇を楽しんでいた。  
 
「う〜ん、やっぱりお風呂は広いのがいいわよね〜」  
 
なるは、休日の昼下がりをひなた荘の露天風呂で満喫している。元旅館ならではの贅沢な時間。それは、なるを始めとするひなた荘の女子住人達にとって共通の娯楽でもあった。ちなみに、唯一の男性である景太郎は当然その恩恵にはあずかれない。  
 
「これで、あのバカのノゾキさえ無かったら最高なんだけどね」  
 
軽快に鼻歌などを歌いながら、なるが湯から出て身体を洗っていたその時。一階の管理人室ではある出来事が進行していた。  
 
「浦島君〜ちょっといいですか〜」  
 
戸を開けてよろよろと景太郎の部屋に入ってきたのは、むつみだった。いつもと変わらない能天気な表情で、部屋の中を見回している。景太郎はいなかった。  
手には、景太郎と一緒に食べるつもりで持ってきたスイカが四つほど抱えられている。二人で全部食べるつもりだったのだろうか……  
 
「あれれ、いないみたいですねえ……それじゃ、また後で」  
 
むつみが部屋から出て行こうとした、その時。  
 
「……ぅぅぉぉぉ……」  
「……浦島君?」  
 
低く唸るような声が、部屋の向こうから聞こえてきたような気がした。立ち止まって耳を澄ませるむつみ。すると、またさっきのかすれたような声。それはどうやら、押入れの中から発せられているようだった。  
 
「あらあら、そんな所でかくれんぼしてたんですか、浦島君♪」  
 
嬉しそうに笑うと、むつみは押入れに近づき、スイカがボロボロと落ちるのも構わずに取っ手に手を掛  
けた。戸を開けた瞬間、暗がりの中に紅い光が一筋、瞬いたような気がした……  
 
 
「ふう。いいお湯だったわ」  
 
風呂から上がったなるは、夏の暑さを凌ぐために浴衣に着替え、髪を整えて脱衣所を出た。パタパタとスリッパの音を響かせながら、廊下を行くなるの目に、管理人室から出てくるむつみの姿が映った。その右手に持っていたのは……  
 
「あれ?むつみさん、それ……」  
 
スイカ、ではなかった。時代劇などで見る日本刀。異様なのは、刀身が黒光りしている事だった。以前素子と景太郎を巻き込んで大騒動になった、あの妖しげな刀によく似ている。ぎょっとするなるに対し、むつみはにこにこしながら近づいてくる。  
 
「うふふ……なるさん、見つけましたよ……」  
「えっ、何……?」  
 
不意に、むつみの両眼が紅い彩りを帯びた。両腕はだらりと垂れ下がり、身体からは得体の知れない瘴気が漂っている。そして、その口から漏れるのは、底冷えするような響きの呪詛だった。  
 
「……兄が斃された。なぜだ?かつては、あの目障りな流派の者どもを全滅寸前にまで追い込んだというのに。宿業は血より出でる。ならば、私も血の命ずるところに従おう。そして再び、現世を我が刃の閃きによって朱に染めよう。復讐こそ我が意思。それは力である……」  
「って、ちょっと、きゃぁぁぁ───っ!?」  
 
機械人形のようなぎくしゃくとした足取りで、むつみは抜き身の刀を振り上げた。動転したなるは尻餅をついた姿勢のまま後ずさり、むつみはさらに距離を詰める。  
その動きはひどく緩慢で、冷静になって見れば歩いてでも逃げられる程度の速さなのだが、すっかり腰を抜かしてしまったなるには、落ち着いて考える余裕がない。もっとも、むつみに対してパニックを起こしているものが、この場にもう“一人”いた。  
 
(くっ……なんだ!?この女の身体は!?これが真っ当な人間の動きとは信じられん!遅すぎる!あの状況ではやむを得んが、とんだ貧乏くじを引かされたものだな……とは言え、このままではまずい。何とか、手を考えねば……)  
 
「やだっ……誰か助けて!」  
 
半泣きになりながら逃げようとするなるが廊下の角に差し掛かった時、左から不意に人が出てきて、出会い頭にぶつかった。  
 
「いてっ!」  
「きゃっ!……あ、け、景太郎!?助けて!むつみさんが変なの!」  
「いや、それはいつもの事じゃ……?って、うわあっ!」  
 
叫び声が聞こえたので不審に思って来てみた景太郎は、突然目の前を通り過ぎた刃風に縮み上がった。わずかに身をよじっていなければ、顔面を真っ二つにされていたことだろう。  
 
「あらあら、浦島君までこんな所に。それじゃ、えいっ♪」  
「ひいぃっ!」  
「いやぁっ!」  
 
慌てて刀を避ける二人。しかしなるに比べると、景太郎は幾分落ち着いていた。この場に、男は自分一人。俺がなんとかしないと……成瀬川にいいところを見せるチャンスだしね。  
と、この期に及んで意外と計算高い景太郎は、むつみが刀を振り上げた瞬間、彼女に向かって突進した。  
 
「ふっ……間合いが遠いわっ!」  
「えっ!?」  
「あら?」  
 
景太郎は、彼にあるまじきカッコいい台詞を吐いてむつみの腰にタックルをかけた。それは見事に命中し、二人は廊下を滑って倒れこんだ。ちゃっかりむつみの胸に顔を埋めていた景太郎は、その余韻を惜しみながらもすかさず起き上がり、振り向いた。  
身を挺してなるの危機を救った景太郎。二人はその瞬間、確かに目と目で通じ合った。そんな大技を成功させた彼は、心中ガッツポーズを作る。おめでとう、俺!今の俺は最高にキマってるぜ!  
が、しかし。むつみの手からすっぽ抜けた刀が、空中でくるくると回転して……落下した先は、景太郎の脳天だった。ぷすっ。  
 
「じゅあっぐっ!?」  
「きゃあっ!景太郎!?」  
 
親指を立てたポーズのまま、頭からぴゅーと血を流して倒れた景太郎に駆け寄ったなるは、肩を掴んでがくがくと揺らしてみた……へんじがない。ただのしかばねのようだ。  
 
「ふう……でも景太郎だったら大丈夫よね」  
 
何気にひでえ事を言ったなるは、ふと側に転がっている刀を見た。一体、この刀といいあの妖刀といい、なぜ人をこんな行動に駆り立てるのだろうか?なるは、そっとその刀の柄に触ってみた。  
 
「……っ!?」  
 
瞬間、指先から脳髄にかけて電流が走ったような痺れを感じ、慌てて手を引っ込める。よく分からないが、どうやらこの刀には触らない方がよさそうだ。むつみを抱き起こして揺さぶると、目がぱちりと開いた。  
景太郎も頭を押さえながらよろよろと立ち上がる。どうやら、二人とも別に怪我はしていないようだ(景太郎の怪我は怪我の内に入らないとの認識だった)。  
 
「……それじゃ、むつみさん。この刀は預かりますから」  
「はい。どうも、ご迷惑をお掛けしました〜」  
「まあ、よくあることって気もするけど……景太郎、行こ」  
 
むつみが大丈夫そうなのを確認したなるは、景太郎の腕を取って歩き出した。自分の部屋で一応手当てをしてあげるつもりだった。それと、身体を張って助けてくれた事に対するお礼の言葉も。  
普段は色々キツい事も言ってるけど、今ぐらいは優しくしてあげなきゃ……そう思ったなるだった。先に刀を景太郎の部屋の押入れにしまってから、二人はなるの部屋に向かった。  
 
「えっと、救急箱はどこだったかな……あ、あった。じゃ、そこに座って」  
「う、うん」  
 
なるは自分の部屋に入ると、景太郎の頭の傷を消毒し絆創膏を張った。まったく、いつもの事ながらこの頑丈さは呆れるほどである。冴えない男だが、この点だけはなるも素直に感心していた。  
 
「はい、これでよしっと」  
「ありがと、成瀬川」  
 
手当てが終わると、途端に会話が途切れた。しまった。なんだか改めて言いづらくなっちゃった……治療の時に、何気なく言えば良かったかな……二人きりの部屋の中で、なんとなく気恥ずかしくなってしまったなるだった。  
が、やはり言わないわけにもいかない。一つ咳払いをすると、切り出した。  
 
「あ、あのね……景太郎……」  
「ん、何?成瀬川」  
「うん……その、さっきの事なんだけど……うっ!?」  
 
ありがとう。そう言おうとしたなるの身体が凍りついた。頭から足の先まで、ぴくりとも動かない。視界に映る右手が、自分のものではないように感じられた。  
 
「ど、どうしたの、成瀬川?」  
 
景太郎から見たなるは彫像のように固まっており、その両眼は血のように紅い。ただならない気配を感じた景太郎が何か言おうとする前に、彼女は突然魔法が解けたように片手を下ろした。  
そして、しばらくうつむいていた顔を上げると、にっこりと笑いかける。それは彼が今まで見たこともないほどに妖艶で、そして鬼気迫るような笑みだった。が、その表情は景太郎が一瞬きする間に消え、彼女はゆっくりと口を開き、言った。  
 
「私、あなたにお礼を言いたくて。さっきは本当にありがとう」  
「えっ、いや、いいよ。そんな改めて言わなくてもさ」  
「ううん。私すごく嬉しかった。景太郎が私を守ってくれたから」  
「ハハハ……いや、何だか成瀬川にそう言われると、俺……」  
 
こめかみの汗を拭いながら照れる景太郎に、なるは妙に艶めいた声でささやいた。さっきの笑みから感じた、背筋がぞくっとするような感覚……あれは、なんだったのだろう。そんな彼の内心に構わず、なるは続ける。  
 
「それでね……言葉だけじゃなく、感謝の気持ちを形にして表したいの。私」  
「えっ?どういうこと?」  
「うん……それはね」  
 
なるはすっと膝を進めると、両手で景太郎の頬を押さえ唇にキスをした。何が起こったのか景太郎が理解する前に、彼女の舌は彼の口腔に滑り込んでいた。  
 
「ん……むっ……くちゅっ……」  
「あむ……んむ……」  
 
完全に塞がれた二つの唇の中で、舌の絡まり合う音が景太郎の脳内にこだまする。脳が麻痺したように働かず、なるの大胆すぎる行動に対し、ただなすがままになっている景太郎。唾液を十分に交換し合った後、不意になるが唇を離す。  
 
「ちゅっ……ぷはっ……うふふっ」  
「はむ……あ、な、なるせが……その……何を」  
「あ、お礼はまだまだ先があるから、安心して」  
 
「へ?安心って……ちょ、ちょっと!うわわ!」  
 
呆然とする景太郎を尻目に、何となるは涼しい顔で景太郎のジーンズのベルトに手を掛け、バックルを弄り始めた。押さえようとする暇も無くベルトが外され、ファスナーが下ろされる。  
両眼が眼鏡を突き破って飛び出すほど驚いている間に、下げられたトランクスの上から充血した海綿体が飛び出した。それを愛しげに細い指で包み込んだなるは、景太郎を見上げて含み笑いを浮かべた。  
 
「あら、随分元気じゃない。さっきのキスで、どんなこと想像してたの?教えてよ……ふふ」  
「いや、その、俺は……別に変な事は何も……じゃなくて!」  
「うん、分かってる。このままじゃ辛いもんね……私に任せて」  
「えっ、ちょっと……はうっ!?」  
 
両腕をカーネルおじさんのように突き出した姿勢のまま、景太郎は硬直した。なるが跪いて彼の男性自身をペロリと舐めたと思うと、そっと口に含んだのである。そしてしばらく先端を舌先でに転がしてから、裏筋から亀頭にかけてねっとりと舌を往復させた。  
呼吸が止まっていた景太郎の口から断続的に細い息が漏れ、上体が痙攣し出している。そんな様子を上目遣いに見ながら、なるはさらに膨張した海綿体を、楽しそうに弄び始める。  
人差し指でつつき回していた亀頭から、透明な分泌液がにじみ出て来た。それを舌で丹念に舐め取ると、そのまま男性自身をぱっくりと咥え込み、頭を前後に動かしながら激しくしゃぶり始めた。  
 
ちゅっ……ぺちゃっ……ちゅぱっ、じゅぷっ、じゅぱっ。  
 
待って。落ち着いて。話し合おう。そんな言葉の数々は、景太郎の口からか細い呻きとなって出ただけだった。彼の魂の叫びをよそに、股間への愛撫がもたらす快感はますます高まってくる。夏の日差しが差し込んでほの明るい部屋に、なるの唾液が立てる音だけが反響していた。  
 
「う……はっ……な、成瀬川……もう、だめ……だ」  
 
両腕を後ろに突いた姿勢で座っている景太郎の顔は真っ赤に染まり、上体が小刻みに揺れている。なるは、始まった時と同じようにそっと愛撫を止めた。  
 
「ん……ふうっ。あ、もう限界?いいのよ、このまま口の中に出しても。我慢しないで……」  
 
そう言うと、なるは唾液に濡れて光る男性自身を再び咥え込み、以前より激しい音を立ててしゃぶり出した。一旦静まったあの感覚がまた景太郎の脳髄に来襲する。暖かい口腔内で彼の愚息は爆発しそうに煮え立っている。忍耐の防波堤も、もう限界だった。  
 
「ううっ!な、成瀬川……で、出るっ!」  
 
次の瞬間、景太郎は解き放たれた欲望の塊をなるの口の中に放出した。  
ドクッ……ドクッ……ドクッ……脈打つ海綿体がその律動を止めてからしばらくして、ようやくなるは口を離した。口腔に残った精液を嚥下し、唇の周りを一舐めしてから言った。  
 
「いっぱい出たね、景太郎。そんなに溜まってたの?」  
「はあ……はあっ……な、なんで?」  
「なんでって、何が?」  
「いや、だから、なんでいきなりこんな事を……」  
「こんな事?あ、そういうこと言うんだ、ふーん。これだけじゃまだまだ満足できないって訳ね?いいわ。私もこの程度で終わらせるつもりはないから」  
 
そう言うなり、なるは立ち上がると着ていた浴衣をするりと脱ぎ捨てる。その下には何も着けておらず、あっという間に彼女は全裸になっていた。例によってアゴが外れたような顔をする景太郎の前に、なるはゆっくりと座り、脚を組んで艶然と微笑み、言った。  
 
「さあ、来てよ……景太郎」  
 
 
その少し前、青山素子は日課である昼の素振りを終え、自室に戻る途中だった。夏の暑い日差しと風が、思い切り体を動かした後の肌に心地良い。さて、一風呂浴びてさっぱりするか……と、露天風呂を目指して二階の廊下を渡っていた時のこと。  
 
「……むっ!?」  
 
突如として、背中に悪寒を感じた素子は立ち止まった。その気配は、このひなた荘のどこか、ごく近くから発せられているようだった。肌が泡立つような、きな臭く不快な感覚。そう、それはつい最近感じた事があるような……  
素子は無意識の内に木刀を握り締め、幾分腰を落としながらすり足で用心深く廊下を進み出していた。  
 
 
一方、なるの部屋では、ついに景太郎にとって決定的とも言える瞬間が訪れようとしている。仰向けに押し倒された彼の上に、全裸になったなるが勝ち誇ったような表情でマウントポジションを取り、景太郎の両手を握るようにして押さえつけていた。  
 
「あ、あのさ……今更言うのもなんだけど、やっぱりこういうことは、もっと色々時間をかけて……」  
「ぷっ。ほんとに今更ねぇ。なあに?さっきは口でああ言って、内心では楽しんでたくせに」  
 
思わず景太郎は絶句した。男性心理の最も痛い部分を突かれたのだ。そのため、肝心な問題を考える余裕を失った。なぜ、成瀬川は急にこんな性格に変わってしまったのだろう?いつもなら、胸を触っただけで素晴らしい鉄拳が飛んでくるはずなのに……  
 
「そ、そんなこと!……ないよ」  
「はいはい。まあ、男なんだから自然な事でしょ?安心して。二人だけの秘密だから。私に任せてくれればいいの」  
 
そう言い放つと、なるは議論はこれで終わりという様に、人差し指を景太郎の唇に当てた。そして彼が沈黙すると、そのそそり立った男根を右手で固定する。その先には、水飴を塗ったように濡れて光る彼女の花園がある。  
互いの位置を測りながら、なるは一旦上げた腰をゆっくりと落としていった。  
 
「……ううっ!」  
「んっ、ああっ……」  
 
お互い、挿入するのもされるのも始めての経験である。特に、女性のなるにとっては最初の一回は快感より苦痛を多く伴うはずであろう。しかし、今の彼女が感じていた得体の知れない感覚は、その身体から一切の痛みや不快感を消し去り、代わりに無制限の快楽を提供していた。  
 
「あんっ、あっ、んんっ、はあっ……」  
 
秘部が完全に結合されたのを見て取ったなるは、ゆっくりと腰の上下動を始めた。それはやがて速度が速まり、連続的に擦れ合う二人の陰唇と海綿体が、分泌液を介して淫靡な音を奏でている。景太郎の股間は燃えるように熱くなり、既に冷静な思考が出来る状態になかった。  
 
「うっ……あうっ……な、なるせが……」  
「あふっ……ダメ……景太郎。なるって……呼んで……ひあっ!」  
 
なるは床の上で泳いでいた景太郎の両手を息せき切って掴むと、自分の胸に押し当てる。そしてその上から自分の手を当て、揉むように動かし始めた。平均よりは上と言える大きさの乳房が、その形を変えて波打っている。  
なるの腰の動きはますます早くなり、全身が桜色に染まって上体が折れ曲がるほどに反り返っている。  
 
「はっ、はあっ……な、なるっ、も、もう、俺っ……」  
「あんっ!け、景太郎っ!い、イクっ!ああああんっ!!」  
 
その狂おしい叫び声は、部屋の外にまで響き渡ったことだろう。熱い吐息を漏らして力を抜いたなるが景太郎の上に倒れ込んだ時、戸が勢い良く開いて素子が入ってきた。  
 
「ここかっ!?……え?」  
 
素子の視界に飛び込んできたのは、全裸になって景太郎の胸に身体を預けているなると、その下で固まっている景太郎だった。  
 
「……あ」  
「あら、素子ちゃん」  
 
二人だけの秘密は、早くも秘密では無くなってしまった。なるの能天気な声に素子は言葉を失い、次いでわなわなと震え出す。  
 
「よ、よりによってこのひなた荘で、なる先輩に対してこんな……こんな破廉恥な真似をっ!浦島ぁっ!!」  
「いや、あのこれは違うんだ素子ちゃもががっ」  
 
苦しすぎる弁解を発しようとした景太郎の口が、なるによって塞がれた。腕を彼の首に回してのディープキス。どう見ても言い訳しようのないラブラブっぷりである。その時、素子の理性が音を立てて崩れ、先刻感じた邪悪な気配のことも忘れて、叫んだ!  
 
「神鳴流斬魔剣・弐の太刀!きぇぇぇぇいっ!!」  
 
陣風が唸りを上げ、なると景太郎は部屋の外まで吹き飛ばされた。稽古用の木刀だったのが幸いしたかもしれない。あの一件以来素子の手に渡った妖刀「ひな」は、普段は封印してある。あの刀だったら、部屋の中が目茶苦茶になるほどの被害が出ただろう。  
 
「きゃああっ!?」  
「何で俺が───っ!?」  
 
なると景太郎はコマのように回転しながら、露天風呂の水面に落下した。派手に上がった水しぶきが落ちてきてからしばらくして、動かなくなった二人がぷかりと浮上する。  
 
「……ふんっ!」  
 
その光景を二階から眺めていた素子は、不愉快そうに鼻を鳴らすと、足音高く自室に引き揚げていく。やがてピシャンと戸を閉める音が聞こえてきた頃、景太郎がもぞもぞと動き出した。  
 
「うう……いたたた。な、成瀬川、大丈夫……?」  
 
ぴくりとも動かないなるを心配してその手に触った景太郎だが、その瞬間「バチッ」という静電気に触れたような痛みを感じ、反射的に手を引っ込めた。  
 
「うわっ!?」  
 
慌てた景太郎は自分の手をしげしげと見つめたが、別にどうということは無いようだった。そっとなるの肩に触れてみたが、今度は何も感じない。ためらいがちに彼女を抱き起こすと、うっすらとその目が開いた。  
 
「げほっ、げほっ……う、ううん……」  
「あ、気付いた?成瀬川。大丈夫?怪我はない?」  
「……え、怪我って……きゃああ!?」  
 
なるは自分と景太郎の格好に気付くと、悲鳴を上げた。とっさにいつものカウンターブローを決めようとして拳を握り締めるが、彼の心から心配そうな表情を見て、戸惑った。  
景太郎の怪我の治療のために自分の部屋に連れて来て、救急箱を取り出したあたりからの記憶が……ない。思い出せない。私は、どうして今こんな所に裸でいるの?  
 
「え……うん、その、怪我は……大丈夫……だよ」  
「そうか、良かった……ゴメン、それじゃちょっと待ってて。今着る物取ってくるから」  
「あ、分かった……ありがとう」  
 
なるは呆然と、湯から上がって小走りに脱衣所に消えていく景太郎を見送っていた。何度思い返してみても、あれからの記憶がない。あるのは、やけに鈍痛がして重く感じられる頭と、ひりひりと痛む股間の感覚だけだった。  
景太郎が浴衣を手に戻ってくるのを見た彼女は、慌てて湯に顔まで浸かり、顔を真っ赤にした。  
 
 
それから、景太郎はなるを二階の部屋まで送ると、管理人室に戻った。むつみに襲われるなるを発見してからの出来事を自分なりに整理してみようとすると、恥ずかしさで心臓の鼓動が早くなる。一体、成瀬川はどういうつもりであんなことをしたのだろう……?  
嫌われているとは思っていなかったが、あんなことをしてくれるほどに好かれていたとも思えない。やっぱり、あの妙な刀に何か原因があるんじゃないだろうか。処分した方がいいのかな……  
そこまで考えた時、にわかに頭が霞がかったように曇り、意識がふっと遠のいた。猛烈な眠気に似た感覚が襲い、視界が暗黒に閉ざされる。座った姿勢のまま頭を垂れた彼の顔からは一切の表情が失われ、その口から自分の意図しない言葉が滑り出た。  
 
「……危ないところだったな」  
 
今や、彼の口は彼の意思とは無関係に動いている。  
 
「結局、目覚めたばかりの我の力では、人一人操るのが精一杯だったということか。忌々しいが、やむを得んな。  
しかもあの一撃、侮れん。かの一族の女を相手取るとなれば、秘めたる力を備えた強き依り代と、その手足となって動く忠実な従僕が要る……なろうことなら、我にとって十分な糧となり得るほどの、な」  
 
その時、廊下を軽い足音が駆けてきて、部屋の前で止まった。戸の外から、景太郎を呼ぶ声が聞こえる。と、不意に彼の意識が戻った。困惑して周囲を見渡していると、また声が聞こえた。  
 
「あの……センパイ、いませんか?」  
「え?ああ、いるよ。ちょっと待って」  
 
戸を開けると、そこには前原しのぶが立っていた。  
 
「あっセンパイ、今日の晩御飯、肉じゃがとお魚の煮物でいいですか?」  
「うん、それでいいよ。ありがとう、しのぶちゃん」  
「はい、分かりました。それじゃ、待っててくださいね」  
 
嬉しそうに食堂に戻っていくしのぶを見送ると、景太郎は静かに戸を閉め、座った。再び部屋に静寂が訪れる。時は静かに流れた。遠い蝉しぐれだけが、茜色に染まりかけた部屋にわずかに染み入っていた。  
やがて、景太郎は立ち上がった。その口元には、薄く酷薄な笑みが浮かんでいる。  
 
「……よし、こんなところか。意外と、この男は拾い物だったようだな」  
 
外に出た彼は、空を見上げるとさも可笑しそうに低く笑う。その眼鏡の奥の両眼は、夕日の色よりはるかに紅く染まっていた。  
 
 
「あ、しのぶ肉じゃがのお代わり頼むで〜」  
「ウチもお代わりや〜」  
「よく食うな……お前ら」  
 
食堂の時間。ひなた荘の住人達が楽しそうに夕食を摂っている中で、素子は微妙に不機嫌そうだった。  
それとなく景太郎となるの表情を伺うと、景太郎は何事も無かったような顔をして肉じゃがを頬張っている。  
一方、なるは景太郎と視線が合うと、そっと目を逸らして頬を赤くした。ピシッ。思わず、素子は箸を握り締める。  
(なる先輩もなる先輩だが、浦島のあの態度は何だ!?あんな事をしておきながら、涼しげな顔で食事をしているとは盗人猛々しい奴!)非難するような目で何度か景太郎を睨みつけたが、彼は平然とした素振りで意にも介さない。それどころか笑い顔で、  
 
「どうかしたの?素子ちゃん」  
 
と聞いてきたりする。それがまた癇に障った。自分では認めたくないことだが、心の奥底では素子も景太郎を憎からず想っている。なると景太郎の仲が友人から恋人へと進展していくのを見て、平静ではいられなかった。  
 
「ごちそうさま!」  
 
バンと音を立てて素子は立ち上がり、ポカンとする一同を残して足早に食堂を後にした。まったく、なってない!そもそも、昨今のこの国の性の乱れというものは……などと、ブツブツ呟きながらロビーに向かう彼女は、ふと足を止めた。  
そう言えば、あの時感じた嫌な感覚……あれは、二人のあのふしだらな行為によるものだったのだろうか?今まではそう思っていた。しかし、本当にそうだろうか。  
落ち着いて考えてみると、浦島はああいう光景を発見されて、その目撃者たる自分にああも図々しい態度を取れるほどに神経が太かっただろうか?……違う。良く分からないが、何かがおかしい。あれは、やはりあの妖刀騒動の時の……  
 
気が付くと、電話が置いてあるロビーまで来ていた。その電話をじっと見つめる素子。しばらく逡巡した後、彼女は思い切って受話器を取り、番号をダイヤルし始めた。  
 
 
翌日の夕方、にわか雨が上がった頃にひなた荘を訪れた人物がいる。その人物が玄関から入ってくると、澄み切った鈴の音がロビーに響いた。たまたま通りがかったカオラ・スゥは、見知ったその顔を見ると嬉しそうにジャンプして玄関先に着地した。  
 
「あ、モトコのねーちゃんや〜。また来たん?」  
「うふふ。ごきげんよう」  
 
素子の姉、青山鶴子は巫女袴に菅笠の出で立ちでこくりと頷いた。彼女は、優しく笑うとカオラに手を握られながらスリッパを履き、笠を取って歩き出した。  
 
「今日はどしたん?モトコに会いに来たんか?」  
「ええ、そうなんやわ。モトコはんは部屋におりますの?」  
「ん〜?多分おるんちゃう?こっちやで」  
 
三階の素子の部屋の前で、出てきた素子と二人は鉢合わせした。  
 
「あっ……姉上。今日はわざわざのご足労、ありがとうございます」  
「モトコはん、ごきげんよう。そんなに気ィ使わんでもええよ」  
 
頭を下げる素子に、鶴子は気さくに応じる。カオラは、二人は何やら大事な話があるらしいと感じ、この場は去ることにした。  
 
「そんなら、ウチはこれで行くで〜。また後でな!」  
「ご案内おおきに、スゥちゃん。また後でねぇ」  
「ありがとう、スゥ。それでは姉上、どうぞ」  
「はいはい」  
 
二人は部屋に入ると、素子がお茶を淹れた。それを上品な手付きで飲みながら、鶴子はちらりと部屋の隅に視線を移した。そこには、あの妖刀「ひな」が刀掛けに載せて置かれており、その前にはしめ縄が張られている。  
 
「もしや……また“あれ”ですやろか」  
「……はい」  
 
電話でもいくらか話し合ったことだが、素子改めてあの時感じた邪気と、目撃した景太郎となるの不自然な情事の模様について、時折顔を赤らめながら鶴子に話した。彼女は腕組みをして黙って聞いていたが、聞き終わると口を開いた。  
 
「……あきまへんな。どうやら、捕り逃したネズミがおるようどす」  
「それでは、やはり……」  
「そや。あのような妖刀は一振りだけではあらへんのや。他にも何振りか、妖が打ったとも言われてはる業物がおした。そないな刀に魅入られた者は、皆魂を乗っ取られた挙句に人外の化生に成り果ててしもうたんどす。  
ここにあの刀が有ったいうことは、別の妖刀が有ってもおかしくあらしまへん」  
「……なるほど。それで、どうしましょうか姉上」  
「ふむ……」  
 
鶴子は目をつぶり、何かを感じ取ろうとしているようだったが、やがて目を開くと、言った。  
 
「少なくとも今、このひなた荘から邪気は去っとるようおすな」  
「それでは……」  
「無論、今は息を潜めとるだけやわ。また目を覚ましたら、ただでは済みまへん。早い内にその刀を封印して、調伏せなあきまへんな」  
「分かりました。それでは、今すぐにでも。浦島の部屋にあるはずです」  
 
そう言って素子が腰を浮かしたところで、戸の外から紺野みつねの声が聞こえてきた。  
 
「お二人さん、晩飯やで〜」  
「……む、ああ、分かりましたキツネさん。今行きます」  
 
そう答えておいて、素子は姉の顔を窺う。鶴子は目顔で、今は夕食に向かった方がいい、と言っていた。  
 
「……怪しまれてはあきまへん。それに、調伏の前にすることがおますのや。今は、このまま、な」  
 
姉の囁く言葉に素子は頷き、二人で食堂に向かった。そこでは、皆がいつもと変わらぬ顔で和気合い合いと食事を楽しんでいる。客である鶴子の分ももちろん用意されていた。食卓についた素子は、食べながらそっと各々の顔を観察している。  
別段おかしな所は何もない。姉は、皆と話しながら楽しそうに笑っていた。こうしてみると、あの一件そのものが嘘だったようにさえ思えてくる。  
 
(しかし……姉上の話が本当だとすれば、何もないというはずがない)  
 
心に不安を抱えながら食事を終えた素子は、少しなる達と話があるので、一人で先に自室に戻っているように、さらに布団を敷いておいてくれとも言われた。奇妙な思いと不安感がない混ぜになり、得体の知れない焦燥感がどんどん膨らんでいく。  
布団を周りをうろうろしながら待つ内に、鶴子が戻ってきた。  
 
「お待たせや、モトコ。ネズミの習性、少しは掴めたようどす」  
「そうですか……それで、どうでした?姉上」  
「せやな……なかなか面倒そうやね」  
 
鶴子が言うには、かの二振り目の妖刀は「ひな」よりもはるかに狡猾で危険とのことだった。第一に、刀に直接触れなくとも、最初の“宿主”から伝染病のように人に乗り移るという点。第二に、その状態で気配を消し、潜伏することが可能だという点。  
いや、むしろ「そうなった」という点こそが最大の問題だということだった。  
 
「あの妖刀は、着実に進化しとるようおすな」  
「進化、ですか」  
「そうや。あんたの一撃を受けて身を隠したちゅうことは、人に害をなそうとする意思に、保身のための知恵も加わった証拠なんよ。今のところ誰に憑いとるのかは置いとこ。その騒ぎの後、いつどこで乗り移ったかも解らんしなあ。まずはやはり本体を封ずるのが先決やね」  
 
その後で、あるいは住人一人一人に退魔の護法を施し、妖を燻り出すことも必要になるかもしれない。  
いずれにしても、本体を封じてしまえばあとは作業のようなものだ、と鶴子は締めくくった。  
 
「そう言うわけで、モトコにも手伝いを頼みたいんやが……」  
「はいっ!何でも言って下さい、姉上!」  
 
目を輝かせる素子に対して、鶴子は珍しくためらったような表情を見せる。しかし、迷いを振り切るように頭を振ると、胸元から小瓶を取り出して、言った。  
 
「……モトコ。服を、脱いで欲しいんや」  
「はいっ……え?」  
 
儀式をする、という。鶴子が魔を打ち払う神水を自分に塗り、その身体でもって素子の身体に直にすり込む。それにより、妖の魔力に対抗できるようになるのだそうだ。完全に邪気を防げるわけではないが、それでも魔操術に簡単に堕ちることはなくなるはずだ、とのことだった。  
 
「そ……その……身体で、ですか……?」  
「そうや。でも安心しいモトコ。痛くも苦しくもあらへん。姉ちゃんに任しとき」  
「は、はい……お願い、します……」  
 
鶴子は裸になって小瓶の中身を手に垂らし、身体に塗り始めた。首から胸、腹部にかけて、じっくりと。さらに陰部に念入りに塗り込んでいるのを見て、素子は顔を真っ赤にしながらいそいそと服を脱ぐ。  
鶴子は電灯を消した。彼女の白磁のような裸身が、輝き出した半月の淡い光を受けて闇の中に浮かび上がっている。  
 
「ほな、始めるで……モトコ」  
「は、はい……」  
 
鶴子は、そっと素子の肩に手を掛けると、左耳の後ろから首筋にかけて縦になぞるように舌を這わせた。その舌使いがとてつもなく巧妙に思えたのは、素子の思い込みだけでは無かっただろう。  
 
「ひゃうっ……!」  
 
脳髄に甘い戦慄が走るのを感じた瞬間、鶴子に抱き抱えられた素子の身体はゆっくりと布団の上に倒されていった。横たえられた彼女の髪を結んでいた紐が、するりと解かれる。長い黒髪が、白い敷布の上に広がって映えた。  
その間に、鶴子の舌は胸の谷間から右の乳房へと旅をしている。そしてその頂上部へ辿り着くと、唇をすぼめて乳首を口に含み、やや吸ってからまた舌で転がし、また吸う。ゆっくりとだが、無駄がなく流れるような動作だった。その先は段々と固く尖ってくる。  
 
「あっ……ああっ!姉上っ……」  
「モトコ、気を散じたらあきまへん。臥床での流儀は、剣の道にも通ずるものや。雑念を払い、意識を集中して己を空の境地に置く。よう憶えとき」  
「で、でも……あっ!」  
 
鶴子の片手が自分の最も敏感な場所に触れたのを感じて、素子は背中を浮かせた。それは、上の充血した突起から花弁の外へ、さらにその内へと、木の葉が舞い落ちるような軌跡をゆっくりと描いている。と、その指先が彼女の深奥に入り込んでくる感覚。  
 
「あはっ!あ、姉上……そこは……んんっ」  
「おや、ここはまだあかんようやな。なんやったら、ウチが開いたってもええんやけど……まあ、モトコのええ人のために残しときましょ  
「そ、そんな、私はそんなこと……」  
 
少し涙ぐみながら恥じらう素子に対して、ふっと微笑んだ鶴子は返事の代わりに舌を出すと、燃えるような肉襞の周りをじっくりと舐め回す。やがてその繁みから蜜が流れ出し、それは鶴子の唾液と混じり合って、赤い花の咲き誇る池を造った。  
 
「ああんっ!あ、ああ……ダメ……っ」  
 
痙攣したように身体をよじらせる素子のそこを、鶴子は優しく、時には激しくついばみ、指で転がし、また舐めた。素子は飢えたけもののようにそれに応え、やがてその嗚咽が途絶えがちになってきた時、鶴子はすっと責めの手を止めた。  
 
「ひゃふっ…はっ……あね……う……え」  
「さあ……これからが本番やで。しっかりしい」  
 
その声を合図に、鶴子は素子の片脚を抱え込むように腕に抱き、自らの秘所を妹のそれに押し当てるような体勢を取る。そして素子の身体に覆い被さると、前後に激しくスライドさせ始めた。  
 
「んああっ!ダメ、そんな、ああっ!」  
「うっ……モトコ、耐えるんや……んんっ!」  
 
二人の姉妹の柔らかく豊かな乳房が、互いを呑み込もうとするかのように押し合いを艶じて歪み、擦り合わせられる花弁からは愛液が川となって流れ出る。二匹の美しいけものの闘争は加速度的にその激しさを増し、そして唐突に終わりは来た。  
 
「モトコ……っ、はあっ、ウチ、もうっ……!あかん!あうっ!」  
「んっ!あっ!あ、あねうえ───っ!ああああんっ!」  
 
力を失い、倒れ臥す二人。やがて、呼吸を整えた鶴子がそっと素子の髪を撫でると、そっと妹を抱き起こした。  
 
「モトコ……よう、頑張ったなあ」  
「あ……私……姉上……」  
 
鶴子の腕の中で放心したように佇む素子に、姉は儀式の完了を告げた。そして、自分はこれから妖刀の回収と調伏をする、その間、ここで「ひな」に変事がないかどうか監視していて欲しい、という。  
 
「万が一、二振りの妖刀が共振して暴れでもしたら面倒や。その時のために、あんたにこれを預けるわ」  
「こ……これは、姉上の愛刀“明鏡”!?しかし……姉上はどうするのですか?丸腰では……」  
「心配いらん、モトコ。ウチは大丈夫やから、こっちの妖刀の見張り、きっちりと頼むわ」  
「はい……分かりました、姉上。どうぞお気をつけて」  
「うん。それじゃ、待っててな」  
 
鶴子は着物を羽織ると、そっと部屋を出て行った。後には、素子と白鞘の名刀が残された。頭がまだぼおっとしてうまく働かなかった彼女は、自分が全裸である事に気付くと慌てて服を着、電気をつけて刀を手に「ひな」の側へ座り込んだ。  
 
「ふうっ……これで、私もまた少し強くなれたのかな……」  
 
強くなるということは、隙がないということだろうか。そう素子は漠然と考えている。たが、しかし。彼女には、隙があった。それも、大きな隙が。あの食事の席で感じた自分の違和感について、素子は姉に話すことを忘れていた。  
それは、自分が抱いていた嫉妬という感情を姉に知られたくない、という思いによる無意識から出たものだった。そしてそれは、彼女にとって悔やんでも悔やみきれない結果を残す事になるのを、今はまだ知るよしもなかった。  
 

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