暗闇に浮かぶ白い肢体。  
その滑らかな肌はオレの理性を失わせる。  
獣のように、本能のままにアイツの体を貫くオレ自身。  
アイツの嬌声が薄暗い部屋の中にこだまする。  
そしてオレは精を放った――  
 
 
…自分の射精感に驚いて目が覚めた。  
最悪だ。夢精なんて何年ぶりだろう。  
しかも相手がマリアだなんて。  
もう、アイツと別れてから何年も会っていないのに…  
なんで今更マリアが夢の中に出てくるのか。  
オレは自己嫌悪と虚しさに襲われながら、自分のモノを片付けた。  
 
ライジンオーに最後に乗ってから13年――  
オレ達は25歳になっていた。  
 
中学に入って、マリアとオレは付き合うようになった。  
けど、所詮は子供の恋だったのだろう。  
中学の時はマリアがどうしても嫌だと言い、キス止まりだったオレ達の関係。  
オレとマリアが初めて体を重ねたのは中学を卒業した春休みのことだった。  
その時は、この幸せがずっと続くと信じて疑わなかった。  
ところが、別々の高校に進学してから、お互いのクラブやバイトが忙しくなり、  
だんだん会話が合わなくなっていって、最後は結局喧嘩別れになってしまった  
オレの16歳の誕生日。  
それから、マリアと顔を合わせたことは数えるほどしかない。  
 
オレはというと、高校を出て一旦就職はしたものの、親父が体を壊して倒れた  
こともあり、今は家業の酒屋を手伝っている。(タイダーは五次元に帰っていった)  
たぶん、防衛組の中で一番適当に生きているのがオレじゃないかと思う。  
学生の頃は無茶な夢も持っていたけど、結局サッカーも空手も大した実力はなく、  
仕事も続けられずに親の元で暮らす日々。  
篠田先生には、地元の少年サッカーのコーチを頼まれたこともあったけど、  
やる気が起きなくて断ってしまった。正直、ひきこもり寸前かもしれない。  
 
防衛組の奴らもみんなそれぞれの道を進み、ばらばらになっていった。  
あきらやヨッパーとは高校も同じところに行って、それなりに楽しくやっていたけど、  
それも高校を出てからはヨッパーは情報系、あきらは音楽系の専門学校に進んで  
一緒につるむことも少なくなっていた。  
たまに、正月や盆に誰かが「飲み会をしよう」と言えば数人で集まる程度の関係。  
別れてから数年は、防衛組の連中はオレ達のことをかなり意識して、敢えて二人が顔を  
合わさないようにしてくれていた。風の噂にアイツが美大に受かって  
東京に行ったらしいということを聞いてもうすぐ7年になる。  
 
近所に住んでいた奴らも多くが引越したりして、既に結婚したヤツもいる。  
きららなんか、19歳で双子の母親になってて、あの時は本気でビックリした。  
実家で子供を産むために帰ってきていたらしく、うちの店にでっかいベビーカーを  
押して知らない男と買い物に来たのだ。デキ婚の割には幸せそうだった。  
最近でも顔を合わせるのは、オレと同じく実家の居酒屋を手伝っているときえと  
腐れ縁のヨッパーくらいか。あきらはミュージシャンを目指してあちこちのライブハウスを  
はしごしたり、オーディションを受けたりと忙しく、しばらく会っていない。  
飛鳥もマリアと同じように東京の大学に進み、そのまま向こうで就職したらしい。  
吼児は…アイツも最近どうしてるんだろう。小説でも書いているんだろうか。  
 
篠田先生と姫木先生は、オレ達が高校に入った年にやっと結婚。  
二人とも今は別の小学校で働いている。二人の間に産まれた子供もだいぶ大きくなった。  
陽昇小学校の校長も替わり、ヤギもいなくなり、ライジンオーはあのまま  
学校に眠っているけれど、今の子供達は何も知らない。  
だって、オレ達がライジンオーに乗っていた頃、今の小学生は生まれても  
いなかったのだから。メダルがなければロボット達が動き出すこともない。  
オレの記憶からも、あの頃の思い出はだいぶ薄れてきていた。  
そんな時に届いた一通の手紙。  
それは――大介とゆうの結婚式の招待状だった。  
 
はっきり言って、小学校からの恋がそのまま成就するなんてあり得ないと  
オレは思っていた。現に、オレとマリアも続かなかったわけだし。  
マリアと別れてから、オレも別の彼女がいた時期はあったけど、今はフリーだ。  
飛鳥を一番追っかけていたきららが防衛組の中で一番最初に結婚したのも、  
時代の流れなんだろう。れい子だって去年大学時代の先輩とかいうヤツと  
結婚してこの町を出て行った。  
アイツら本気で続いてたのか?と驚きと共に、何とも言えない懐かしさに襲われて、  
オレはがらにもなく昔のことを思い出していた。  
 
この二人が結婚するということは、防衛組の連中もほとんど来るだろう。  
みんなどうしているんだろう?勉は?ひでのりは?ラブは?  
懐かしい名前がどんどん思い出される。  
ひろしとクッキーは?まさかアイツらもまだ付き合ってるんじゃないだろうな。  
とりあえずオレは、今でも仲のよいヨッパーに電話をかけてみた。  
 
「おう仁!聞いたか〜大介とゆうが結婚するって」  
「来た来た〜招待状届いたってば」  
「いや〜まさか本当に結婚まで行くとは思わなかったぜ〜」  
「オレもビックリしたなぁ」  
「お前とマリアだって、そういう可能性はあったのによぉ…」  
「バカヤロー!そんな昔の話はやめろっての」  
「だって、マリアだって絶対来るだろ?そん時どうすんだよ?仁」  
「んなもん…別にどうってことねーよ。もう9年近く前の話」  
「…まぁ、お前がいいんならそれでいいんだけどさ」  
 
この時オレは本気でそう思っていた。9年も昔の恋なんてどうでもいいこと。  
アイツだって彼氏の一人や二人くらいいるだろう。もう25歳だぞ?  
何をバカなこと言ってるのかと、オレはヨッパーの言葉に呆れた。  
全く、これだから年齢=彼女いない歴の男は困る。絶対アイツ、エロゲのし過ぎだ。  
まぁとりあえず、当日は待ち合わせして一緒に行く約束をして、オレ達は電話を切った。  
この間の夢のことは、考えないようにしていた。  
 
そうこうしているうちに、今日は二人の結婚披露宴。  
会場は電車に乗って3駅向こうにあるホテルだ。  
ヨッパーとの待ち合わせの時間よりかなり早く駅に着いたオレは、改札を入る手前の  
喫煙コーナーで一服していた。店は休みではないけど、一日くらいなら両親だけでも大丈夫。  
一体何人くらい来るかなぁ…とぼーっと考えていたオレの前を、ピンクのドレスを着た  
女性が通り過ぎる。改札に向かうその女性の横顔を見て、オレは一瞬止まった。  
 
…マリアだ。髪もゴージャスにまとめているし、キレイに化粧もしているけど、間違いない。  
いつこっちに帰ってきたんだ?  
声をかけようとしたが、なぜか言葉が出ない。どうしたんだオレ?  
そんなオレに気づくことなく、アイツはオレの前を通り過ぎ、改札の中に消えていった。  
しばらく固まっていたオレを正気に戻したのは、遅れてきたヨッパーののん気な声だった。  
「ごめんごめーん!ちょっと遅れちまってよぉ。…ってオイ、仁!何ぼーっとしてんだ?」  
「…ん?あ、あぁ、ヨッパーか。おせーよお前!お陰で電車1本乗り遅れたじゃねーか」  
「まぁまぁ固いこと気にすんなって。まだ間に合うじゃん。今日は飲むぞー」  
「弱いくせに何言ってんだよ。酔い潰れても連れて帰らねーぞオレは」  
「うっせーなぁ!確かにお前よりは弱いけど、潰れたりしねーよ」  
「…どうだか。いっつも飲み屋からお前を運び出してやってるの、誰だと思ってんだよ」  
「…そ、それは…」  
「お前重いんだから大変なんだよ。今日くらいちゃんとしろよ」  
「…ご、ごめん…」  
「はいはい。とりあえず行くぞー」  
「お、おう!」  
さっき見たマリアの横顔が何故か忘れられなくて、オレは頭を軽く振った。  
久しぶりに見たアイツは…めちゃくちゃキレイになっていた。  
「ん?どうかしたか?」  
「べ、別に何にもねーよ」  
あんな格好で電車に乗るということは、どうせ向こうで会うんだろう。  
オレはなんとも言えない感情を押し殺して改札に向かった。  
 
会場に到着すると、既に何人かの知り合いが来ていた。  
受付は美紀とポテトだ。とは言っても、正直最初はポテトが誰かわからなかった。  
だってアイツがめちゃくちゃ痩せて美人になってたんだ!これは衝撃だ。  
そばにクッキーとひろしもいる。やっぱりアイツら続いてるのか?  
「おお!吼児じゃねーか!久しぶりだなぁお前、めちゃくちゃ背ぇ伸びてないか?」  
「あははー仁くんにヨッパー、久しぶりだねー!身長はねー、結局高校卒業する頃まで  
伸び続けてたかな?今は175くらいかなー」  
「マジで!?オレとあんまり変わんねーじゃん。ヨッパーなんて思いっきり見くだされて  
るよなー」  
「うるせー!せめて見おろすって言えよ!(泣)」  
「あっちに飛鳥くんときららとれい子がいるよー。れい子がおめでただってさ!!  
そう言えばマリアもさっき見かけたけど、どこにいったのかなぁ?」  
マリアの名前を聞いて、自分の脈拍が速くなるのを感じた。なんでだ?  
今更何をドキドキしてるんだ。アホらしい。今はただの元クラスメイトじゃねーか。  
隣にいるヨッパーの訝しげな視線を感じて、オレはふっと横を向いた。  
 
結局、見事に主役の二人を含めた防衛組18人全員が揃った披露宴。  
篠田先生夫妻まで子供を連れて参加している。  
オレとマリアが高校の時に別れたことを知っている大介の配慮なのか、  
ただの偶然なのか、オレとマリアの席は一番離れた場所にあった。  
両隣はヨッパーとあきら。あきらは披露宴でシンセサイザーの演奏をするらしい。  
さすがにお得意のベースでは場に合わないと感じたのか、バイトと音楽活動で忙しい中  
二人のために練習したのだそうな。  
普段はいい加減なのに、こういう所は妙に義理堅いあきららしい。  
 
式は滞りなく進んでいく。大介もゆうも本当に幸せそうだ。  
家が貧乏でいろいろ苦労した大介だったが、高校を出てすぐに就職し、地道に家族の  
家計を助けつつ結婚資金を貯めてきたらしい。ゆうも短大を卒業してOLとなり、  
5年間働いてキリがいいということで寿退社となったそうだ。  
二人とも背がでかいので、純白のドレス&タキシードはなかなかの迫力だ。  
大介は190近く、ゆうも170はあるだろう。衣装合わせは大変だったろうなぁ。  
まさか小学生の時には、二人がこんなことになるとは思いもしなかったけど(当然のことだ)  
今時本当に10年以上付き合って結婚するヤツらがいるんだな〜と妙に感動した。  
二人のなれそめが紹介される時に、ライジンオーの映像も出てきて、あまりの懐かしさに  
泣いている女子も何人かいた。オレもちょっと涙が出そうになった。  
 
きららは双子の息子を隣に座らせ、さらに去年産まれたらしい女の子を抱いている。  
飛鳥は相変わらずキザだけど、社会で揉まれつつも頑張っているようだ。  
吼児は学校の先生をしながら投稿雑誌などに小説を書いているらしい。  
インターネットでも作品を発表しているとか。オレはあんまりわからなかったけど、  
ヨッパーがいろいろと聞いていた。たぶんお前らのジャンルは違うと思うぞ…  
勉は大学院で勉強中とのこと。中学生の頃とあまり変わらないスタイルだったのには  
笑ってしまったけど、それもアイツらしい。昔、勉の見た目改造作戦をやったことが  
懐かしく思い出される。  
他にもアメリカに留学中のひでのりは、わざわざ親友の結婚式のために一時帰国した  
らしい。こいつも背が伸びていてビックリした。しかも吼児やオレより更にでかい。  
たぶん180くらいになってるんじゃねーか。  
結局、マリアの情報は今のところ何もない。何故か話すチャンスがなかったのだ。  
でも、隣に座るきららと楽しそうに話すアイツを時々ちらっと見て、改めてアイツがキレイに  
なったことを感じた。左手の薬指に指輪はないけれど、たぶん彼氏くらいいるだろう。  
同じテーブルの奴らと話をしながら、オレはマリアのことが気になって仕方なかった。  
 
主役の二人がお色直しのために席を立ったときに、我慢できないと言わんばかりに  
隣のヨッパーが話しかけてきた。  
「おい仁、お前さっきからマリアの方ばっかり見てるだろ?」  
「な、何言ってんだよ!んな訳ねーだろ」  
「バカヤローお前、オレらが気づいてないとでも思ってたのか?」  
「おいおい仁くん、もしかして復活愛とか〜?」  
あきらにもからかわれ、オレは顔を赤くする。なんてこった!!  
もうオレはマリアにそんな感情はないはず…と思いつつも、確かにマリアのことが  
気になってしまう自分の気持ちを持て余していた。  
そんなオレ達には気づかずに盛り上がる女子の席。どうやらもう一人、結婚間近の  
ヤツがいるようだ。誰だ?まさかマリアか?  
 
そんな中、再び主役の登場。水色のドレスとシルバーのタキシードは、背の高い  
二人をいっそう際立たせていた。どよめきと拍手の渦に包まれる会場。  
そしてキャンドルサービスが始まった。暗い会場を回る二人。  
あちこちで祝福とからかいの言葉をかけられながら、テーブルのろうそくに灯を  
ともしていく。ヨッパーに言われてから、マリアの方を見ないようにしていたが、  
どうしてもキャンドルを持って回る二人を追いかけるとマリアの席に目が行って  
しまった。その瞬間、今日初めてマリアと視線があった。  
なぜか意味ありげにウインクをしてすぐに違う方向を向いてしまったマリアに、  
オレはまたドキドキしてしまう。今のは何か意味があるのか?  
 
式も終わりに近づき、女どもが騒ぎ始めた。何でも、独身の女ばかりでリボンが  
付いたブーケを引っ張って、当てたヤツが次に結婚できるとか。  
マリアもその中に混じっている(きららはなんで参加してるんだ?)  
司会の合図に合わせて、いっせいにリボンが引かれる。当たったのは…  
マリアだ。本人も驚いた顔をしている。あまり嬉しそうではないのは何故だろう?  
一瞬、マリアがこっちを見たような気がしたが、すぐにまた別のヤツと話を  
始めてしまった。  
 
披露宴は無事に終わり、家庭や別の用事がある奴ら数人は退散したものの、  
10人ほどで主役の二人を連れて2次会のカラオケへとなだれ込む。  
案の定、ヨッパーは既に千鳥足だ。他の連中も顔が赤くなっている。  
オレはちょっとやそっとの酒じゃ酔わない自信があったし、実際マリアのことが  
気になって、あまり飲んでいなかった。  
防衛組のメンバーとこんな風にバカ騒ぎをするのは久しぶりで、とりあえず  
オレもマリアのことは気にせずに楽しもうと思ったその時。  
マリアがオレの方に近づいてきてスーツのポケットに何かねじ込んできた。メモだ。  
『二次会終わってからちょっと話さない?返事はメールでよろしく。  
xxxxxxx@xxx.ne.jp』  
他の連中はオレ達の様子に気づいていない。オレはまた心臓が高鳴るのを感じた。  
一体どういうつもりなんだ?オレをからかって遊んでるのか?  
結局カラオケも上の空だったオレだったが、周りのヤツらはやたらと盛り上がっていて、  
オレの様子がおかしいことに気づいた奴はいないようだった。  
 
トイレに行くついでに、マリアにメールをしてみた。  
『仁。別にオレは構わないけど』  
すぐに返事が来た。  
『ありがと。じゃあカラオケ終わったらさっきのホテルのラウンジで』  
ラウンジでオレとマリアが何を話すってんだ?全然わからない。  
オレが深く考えすぎなのか?  
ただ単に昔話をしたいだけなのか。他に何かあるのか。  
もうどうにでもなれ。万が一アイツがオレに気があるとしたらラッキーだろ。  
最近女を抱くこともなかった。アイツがその気なら受けて立ってやろうじゃねーか。  
酒のせいか、結婚式というイベントの魔力なのか、オレはたぶん正気じゃなかった。  
 

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