その後、海と田崎には微妙な変化が顕れ始めた。  
海はレースクィーンやグラビアの仕事だけではなく、プライベートでも田崎と一緒に過ごす機会  
が多くなった。  
「いつもすいません。わたしの我侭に付き合ってもらっているみたいで……」  
夜の港近くに停まった田崎の高級車の中で、海は青い制服の胸元で結ばれたブライトイエロー  
のリボンを弄りながら言った。少女のその仕草はとても愛らしく、そして緊張をほぐすためのもの  
であるのが田崎にはすぐに解った。  
「あの、そろそろわたし帰らないと……学校から家に帰るところでここに来ちゃったから……」  
薄暗い車内の中で海は自分の顔が赤くなっているのを感じた。  
帰りたい、と言っているくせに田崎と別れる寂しさが心の中にある。こうして田崎と会う回数を重  
ねれば重ねるほど、海はその想いが強くなっていく。  
「……海ちゃん、隣の車見てごらん」  
海の言葉など意に介さないように、田崎はついさっき停まった左隣の車に視線を向けた。  
海の助手席の真横にあるその車は地震でもないのに激しく縦に揺れている。  
”あの車は何をしているのだろう?”と海は思った。目を凝らして隣の車の中を見てみると、女性  
が運転席のハンドルに身体ごと必死にしがみついていた。どうやら、同乗している男に真下か  
ら思い切り突き上げられているようだ。  
海は、その行為の意味を理解した。  
(……やだ…車の中で……してるの!?)  
女性の下半身は車のボディで見えないが、逆にそれが猥褻さを煽っているように海は思った。  
 
「海ちゃんも、ああいうことに憧れる歳なのかな?」  
海の右太股のストッキングに何かが這った。  
――田崎の左手だ。  
それはストッキングの繊維の滑らかさと、それに包まれているむっちりとした美脚の弾力を愉  
しむいやらしい動きだった。  
「また……そんな、じょ、冗談やめてください」  
海は短いスカートの中に進入してくる不埒な男の手を掴んで、禁断の領域から追い出そうと  
する。  
しかし、それは新たな獲物を彼に放り込んだに過ぎなかった。  
彼は白魚のような瑞々しさとしなやかさを兼ね備えた海の手を握る。  
「本物のお嬢様なんだね、海ちゃんは。この細くて綺麗な指を見ればわかる」  
本物のお嬢様――そう言われて海はとても恥ずかしい気分になった。彼の言葉が羞恥の針  
となって海のプライドの高い心をチクチクと刺していく。  
「あッ!?」  
明かりの無い車内で海の小さな悲鳴があがった。  
彼女のほっそりとした人差し指が、ぬるりとした触感をもたらしたからだ。  
何かを味わうようなチュチュッという音がした。  
彼が海の指を口に含んで舐め啜っていたのだ。  
「やめて!今なら、誰にも言わないから……こんなこと田崎さんらしくない……!」  
海は切れ長の澄んだ目で田崎を睨みつけた。  
そんなことなど構わず、人差し指に続き中指も餌食になってしまう。  
 
海の右手の二本の指は彼の唾液まみれになっていく。彼に指を広げられ、その付け根を舌  
でじっくりと愛撫されると、まるで自分の股ぐらを舐められている淫らな錯覚に陥ってしまう。  
「や……田崎さんのヘンタイ!こんなの……いや!」  
海の手は薬指、小指、親指の順にたっぷりとねぶられてしまった。海はようやく開放された自  
分の右手を見つめる。  
田崎に愛撫された指と指の間は唾液がべっとりとまとわりついていた。  
彼女は自分で気付いていないが、何度も左右の太股をもじもじさせつつ息を弾ませている。  
生まれて初めて目の前の男から”女”として見られているのだ。  
彼女は今まで撮影されて興奮したことはあっても、男性から直接アプローチを仕掛けられたこ  
とはなかった。  
行過ぎた気持ちの悪いファンならば押しのけてこの場から直ぐに逃げるだろう。  
しかし相手は真摯なマネージャーであり、海の間近にある顔も二枚目という部類である。  
皮肉にも今まで培った互いの信頼関係が海の心に逡巡をもたらしている。  
田崎はそういった”かけ引き”が異様に上手い――それもそのはずだ。こうして関係を迫って  
口説き落としたアイドルは、過去に星の数ほどいた。彼は人気グラビアアイドルを食い物にし  
て、公にできないほど高い地位についている者に売り渡す仲介人(バイヤー)だった。  
そんな彼の裏の顔を××歳の世間知らずなお嬢様が見抜けないのは当然だ。  
「いいよね……海ちゃん……」  
田崎のいやらしくまさぐる左手は海の太股の外側から内側へと移った。  
彼はもう片方の右手で海の肩口からシートベルトをガチリとかけてしまう。  
――それはいきなりのことだった。  
「…………ンッ!?」  
海は一瞬、息をできなかった。  
唇を塞がれた、ということに気付くまで一秒ほどの間があった。  
 

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