甘い紅茶の香りが“エテルナ”を包み込む。  
いい匂いなのだが、それはまるで別の匂いを隠すように店内に充満していた。  
「 匂い、しないよね? 」  
 さきほどから、しきりに海は鼻を“クンクン”させている。  
「 いい匂いしかしないよ 」  
 答える翔の視線は“チラチラ”と海の下半身を見ていた。本人はさりげなく見ているつもりなのだが、 
思春期の女の子は自分の身体に向けられる視線に特に鋭い。  
「 どこ見てしゃべってんのよ! 」  
 そう言って声を荒げるが、真っ赤なのは怒ってるからだけじゃないだろう。  
“モジモジ”と太股をすり合わせる姿が可愛いい。ケダモノの入っている翔は、少し強引にスレンダーな身体を引き寄せた。  
「 あ… 」  
 翔の腕の中で海は身体を硬くして不安な顔で見上げてくる。安心させるように微笑むと、少女の甘い匂いを吸い込みながら耳元で囁いた。  
「 海ちゃんは…身体中からいい匂いがするね… 」  
 キザを通り越してクサイ翔のセリフにも、沈静化されたはずの感覚がくすぐったさを装って海の背筋を  
這い上がってくる。  
「 海ちゃん… 」  
 呼びかけると“ハッ”と我に返えり翔に顔を向けた。無言で見つめ合うが、熱ぽい視線に静かに瞼を閉じ、おとがいを反らした。  
 
二人の顔が近づき、唇がふれようとした瞬間、  
“カランッ”  
“ドンッ”  
「 ぐえっ 」  
 最初の音がドアの開く音、次が海が突き飛ばした音、そして最後がテーブルにぶつかった翔の苦悶の声。  
「 ただいま〜〜 て、なにしてるの翔君? 」  
 翔は腰をさすりながら恨めしそうな視線を送ると身を起こす。見られているのは海も感じているが、赤い顔であさっての方向を向き、そしらぬ顔を決め込んでいた。  
「 いや、プレセアさんが帰ってきたから嬉しくて… 」  
 そのセリフに自分と二人きりは嬉しくないのかと言わんばかりの“ムッ”とした海の視線を感じるが、 
ややこしくなるのでそれは無視。  
「 あ、ありがとう でも転げまわって出迎えなくてもいいからね 」  
「 俺も勘弁してもらいたいです… 」  
 “チラッ”と海を見ると、お返しとばかりに無視してくる。その子供みたいな反応に苦笑すると、すごい目で睨まれた。  
「 ごめんね、海… なにかお土産買ってこようと思ったんだけど… 」  
 店番をさせて機嫌が悪いと勘違いしたプレセアがそう言うと、海はあわてて顔の前で手を振る。  
「 え、べ、別にいいわよ。それにほら、紅茶のお茶受けだったら甘いものだし… 」  
「 海は作るの専門だもんね 」  
 そんな海の様子にプレセアの表情も和らぐ。しかし翔には一つの疑問が……  
 
「 海ちゃん、作れるの? 」  
「 どういう意味よ… 」  
 海の右の眉が“ピクリッ”と上がる。少しご立腹のようだ。  
「 いや、甘いもの嫌いなんだよね 」  
「 そうよ 」  
「 味見は? 」  
 嫌いなものじゃあ、いくら上手くできても美味しいかどうかわからないのでは?  
「 ん? 光とか風とか、あとプレセアも味見するわよ 」  
「 それて、じっけ…… 」  
「 翔君! それ以上はダメ… 」  
 喉まで出かかった本音を、プレセアが皆まで言わせなかった。  
「 どうも…… 」  
「 うぅん それより翔君もお手製ケーキ食べさせてもらったら! ね、海!! 」  
 凍りかけた場を盛り上げるように、ワザとらしいぐらいプレセアは声を弾ませて、海に話を振る。  
効果はテキメンだったようで、海の頬に朱が散った。  
「 そうね… できないて思われちゃあシャクだし…て、なんで目を逸らす!! 」  
「 ソンナ…コト……ナイヨ…… 」  
「 あたまきた! 絶対美味しいて言わせてみせる!! 」  
 ノリはほとんど料理の鉄人だ。こうして龍咲家の訪問は来週の土曜に決まった。  
 
 
“チャポン”  
 湯船いっぱいにはられたお湯に、ゆっくりと吸い込まれるように柔らかい身体が沈んでいく。  
「 いたッ 」  
 お湯が“女の子”にふれるとピリッとした痛みが走る。傷つけられてから、まだ一日しか経ってない。  
その痛みを感じるたびに、ほんのりと顔が上気するのは、お湯に浸かってる為だけじゃないだろう。  
「 風さん たまには一緒に入らない? 」  
 風がうっとりと、痛みのはこんでくる幸せに浸っていると、空がそう言って入ってきた。  
「 お姉様!? 」  
 湯煙の中に立つ空の豊かで艶めかしい裸身は、同姓すら目を奪われるような色気が漂っている。  
妹も例外ではなく、姉の裸身から目が離せなかった。  
「 風さん そんなに見られたら恥ずかしいわ 」  
「 あ!? す、すいません 」  
 あわてて目を逸らす。男の子もこんな気持ちなんだろうか? “ふっ”とそんなことを考えた。  
「 で、どのくらいの仲なの? 」  
 流し湯をすませ、空もゆっくりと湯船に身を浸す。鳳凰寺家の湯船は二人が入っても十分な広さがある。 
タオルできれいにまとめた髪、濡れた後れ毛のはりついたうなじが妙に色っぽい。  
「 どのくらい? 」  
 突然言われて風は戸惑った。姉と話していて戸惑うのはいつもの事だが…  
「 翔さんよ♪ なんにもない、てことはないでしょ♪ 」  
 風の“女の子”を見ながら楽しそうに言う。  
「 あ… 」  
 真っ赤な顔は、お湯ではなく言葉によりのぼせる一歩手前だ。  
 
「 でも男は、特にあの年頃の男はケダモノだから気をつけないと 」  
「 ケダモノ? 」  
「 そうよ♪ 女の子と見ればてあたりしだいなんだから♪ 」  
 妹を心配する姉の顔は楽しそうだ。  
「 まさか… 」  
 その後は、『翔さんにかぎって』と続けそうになってしまう。  
「 ん〜〜〜 でも見ちゃったのよねぇ 翔さんが… 」  
「 翔さんが… 」  
 思わず身を乗り出す風、それを見て“にやりっ”と微笑む空。  
「 髪の長〜〜い モデル見た〜〜いな女の子と歩ってたわよ♪ 」  
「 ……………… 」  
「 まあ、一緒に歩ってたって彼女とはかぎらないけど… 」  
 そこで言葉を切って風を窺うと、  
「 ……………… 」  
 赤かった顔は青くなっていた。さすがに悪ふざけ(本人は愛情表現だと思ってる)がすぎたと思ったのか、  
「 でも大丈夫♪ 風さんにはケダモノ君が飛びつく武器がちゃんとあるから♪ 」  
「 ……はあ 」  
 気のない返事をする風の前で人差し指を立てると、  
 
「 顔はタイプの違いはあるけど互角、なら決めるのは… 」  
 指が“すぅ〜〜”と近づき、急激に沈んだ。  
「 あんッ 」  
 乳首を直撃した指を押し込みながら空は言葉を続ける。  
「 この超中学生級のオッパイを使わないと損よぉ♪ 」  
「 わかりましたから、指を…!! 」  
「 ほんとにわかってる♪ 」  
 空の指は“くりくり”と乳首をからかうように刺激してくる。  
「 ほんと…んッ…です… 」  
「 じゃあねぇ♪ 」  
 妹の乳首を弄りながら、姉は耳元で囁いた。  
「 え!? そんなことを… 」  
「 やってみなさい きっとケダモノ君、喜ぶわよ♪ 」  
 ケダモノ君=翔さんが喜ぶ。姉の恥ずかしい入れ知恵がお風呂を出た後もあたまから離れなかった。  
 
 
「 それじゃあ、風さん… いってみましょうか♪ 」  
 はい!と、ばかりに突き出される携帯電話。お風呂からあがり、姉に肩を押されながら部屋に戻って第一声がこれだ。  
携帯電話をしげしげと見て、次いで姉の顔を見る。……楽しそうだ、心底。  
「 ほら、ね♪ 」  
「 ね♪て、言われても… 」  
 姉のペースに乗せられないように、つとめて冷静に切り返す。  
「 翔さんに…か・け・て、きゃッ♪ 」  
 そう言って、姉は恥ずかしそうに頬に手をあてるが、そのポーズが相応しいのは妹のほうだ。  
翔の名前が姉の口から出ただけで、条件反射的に顔が赤くなる。内容は十分赤面モノだが…  
「 いってみよう♪ 」  
 はい!と、再度突き出される携帯電話。  
「 い、いまですか? 」  
「 間をおくと、決心が鈍るわよん♪ 」  
 いつもは、わりと大人びた雰囲気を持つ風も、こういうことに関しては年相応の可愛い女の子だ。  
自分がアドバイスせねばと、妹に対する愛情と妙な義務感、……そして多少の趣味も入ってる。  
こうすれば、ああなる。優等生な妹のわかりやすい反応が可愛くて堪らない。  
「 ぐずぐずしてると、髪の長い子に取られちゃうわよ♪ 」  
「 !? 」  
 空は、携帯電話を見つめたままフリーズしている風にとどめの言葉を刺した。空は可哀そうだと思ったが、恋愛関係で勢いをつけるには、対抗意識と嫉妬が一番手っ取り早い。  
すごい目で、風が携帯電話を見つめる。気合十分だ。  
 
「 さあ♪ 」  
 まるで毒リンゴを受け取る白雪姫のようだ。  
ゆっくりとリンゴに手を伸ばし……“ブ〜〜〜ン”震えた。  
「「 !? 」」  
思わず見つめあう鳳凰寺姉妹。すばやく空は着信を確認する。“にったり”笑うと…  
「 なかなか愛されてるわねぇ♪ 」  
 表示はいうまでもなく、『獅堂 翔』と出ている。  
「 はい♪ 」  
 押し付けられた携帯を両手で包み込み、“ふぅ〜〜”一つ息を吐く。  
「 も、もしもし鳳凰寺ですが 」  
 恋する乙女の顔で目を閉じる妹。“可愛い”どこかのお嬢様みたいにビデオを回したくなる誘惑にかられる。  
「 はい…はい…大丈夫です……え?…あ…い…いきます…… 」  
 どうやら空の教えを実践する日にちが決まったみたいだ。  
会話をしながら想像しているのか、初々しい中学生にしか出せない背徳的な色気を放つ。  
 ……わたしが男だったら絶対押し倒して、あんなことやこんなことするわね……  
 想像する妹を見ながら、あぶない妄想をする姉。空のあたまの中で、ものすごい事をされそうになったとき、  
「 はい…それではまた……お待ちしてます…… 」  
 名残惜しいそうに電話を切り“ふぅ〜〜”一つ息を吐く。顔は幸せ一杯といった感じで“にこにこ”だ。  
「 で、どっち? 」  
「 どっち? 」  
「 翔さんの家に行くの、それともウチに呼ぶの? 呼ぶんだったら夜まで空けるけど? 」  
「 わ、わたしが行きます…… 」  
 この間の抜けた質問に、幸せボケの風は素直に答える。  
「 がんばってね♪ 」  
「 がんばりっ!?……ます… 」  
 姉の言ってる意味を途中で理解したが、真っ赤な顔で恥ずかしい宣言をした。  
 
 
 翔は急いでいた。どのくらい急いでいるかというと、階段を四段抜きするほど急いでいる。  
待ち合わせの時間は、もうカウントダウンを開始していた。風の性格から考えて、すでに来ているだろう。  
階段を疾風の勢いで駆け抜け、赤信号を気をつけて渡ると、いた!  
ベンチに“ちょこん”と座り、何度も時計を見ている。ちょっと不安そうにしているのが可愛らしい。  
まだ待ち合わせの時間はギリギリ過ぎてはいない。ホッとして声を掛けようとするが、なれなれしく隣に座り、話かけているオトコは誰だ?  
「 ネッ ほんと、ちょっとの間だけ! 」  
「 いやです♪ 」  
 時計から顔を上げた風は笑顔だが、丁重に“キッパリ”お断りする。  
「 えっと…そ、そんなこと言わないでさぁ 」  
「 いやです♪ 」  
 どこかで、それもつい最近、同じような事があったような? だが決定的に違うのは、オトコに多少なりとも同情したことだ。だんだんと、風の笑顔が冷気を帯びてくる。  
風をナンパしやがって、という思いもあるが、同じオトコとしてちょっぴり可哀そうになった翔は、オトコに助け舟を出した。  
「 まった 」  
「 あっ!? 」  
 掛けられた声に、風が弾かれたように翔に顔を向ける。  
「 なんだ、オトコ付きなん……あ!? 」  
 肩を落として振り向いたその顔は、予想はしていたが、やっぱり海をナンパしたオトコだった。  
「 あれ? カレシ、この間と女の子がちが…… 」  
 助けてやったというのに、恩知らずのオトコに、素人に向けるには大人気ないぐらいの殺気がふくれあがる。  
 
さすがに鈍いオトコも翔のただならぬ雰囲気と視線に気づいたのか、訳もわからず“コクコク”頷いた。  
オトコを黙らせて、ゆっくりと風のほうを見ると、“すぅッ”目をそらす。  
怒ってるのかどうかはわからないが、それが怖い。  
気まずい空気が流れる。……誰も動かない、動いたら負けだ状態になっていた。  
“ゴクッ”唾を飲む音が聞こえる。この異様な空気に、やはり一番最初に音を上げたのはナンパ君だった。  
「 あ、あのさ…もういっても…いいかな? 」  
 声は氷川きよしばりに高いトーンを出している。こぶしの利いたいい声だ。  
「 ん、ああ、いいよ 」  
 翔の了解を得ると、オトコは脱兎の如く逃げ出す。その背中を見送りながら、“チラッ”と横目で風を窺うと  
“ぷるぷる”と肩が震えていた。  
「 あの〜〜 風さん? 」  
 触らぬ神に…と言うが、触らないわけにもいかない。恐る恐る声を掛けると、  
「 くッ…くッくッくッ………あはははははは……… 」  
 どうやらオトコの声がツボにはまったようだ。  
必死に堪えていたようだが、一度あふれた笑いはなかなか止まってはくれない。  
目元にうっすらと涙を浮かべて笑っていた。  
「 は、はははははは…… 」  
 場の空気を和ますため、とりあえず翔も笑う。  
が、翔が愛想笑いを始めると、風の笑い声が“ピタッ”と止まる。にっこり微笑むと、  
「 じゃあ、いきましょうか… 」  
「 い、いくって? 」  
「 翔さんのお家です 」  
 そう言って、翔の手を取って歩き出す。風の積極的な行動にどぎまぎして繋がれた手を見つめる。  
だから気づかなかった。そっと、すばやく目元を拭ったのを………  
 
「 どうぞ 」  
 翔が獅堂家に風を招きいれる。ちなみに手は繋いだままだ。恥ずかしさはあったが、手を離そうとする度に“きゅっ”風が握り返してくるので離しそびれてしまった。なんだかそれが可愛らしく、途中からはわざと手の力を緩めたりして、翔もまんざらでもない。  
“ガラ〜〜”  
「 ここが俺の部屋、汚いとこだけど 」  
「 おじゃまします 」  
 部屋に入った風は、さりげなく室内を見回す。本棚と机、それにちゃぶ台しかない。  
部屋はちらかってはいないが、押入れが多少ふくれているのが微笑ましかった。  
「 そのへんに座って、いまお茶持ってくるから 」  
 言って手を見る。まだ握ったままだ。  
「 すぐ、戻ってくるから 」  
「 お、おかまいなく…… 」  
 赤い顔で手を離す。風は自分がひどく子供っぽい事をしている気がして、なんだか情けなくなった。  
「 ふぅ〜〜 」  
 一人残された風は思わずため息をついてしまう。最近はため息をつく回数が多くなった。  
  ……きっと、ため息をつくのは、翔さんの所為ですね……  
 そんな事を考えながら、真っ赤な顔で部屋を改めて見回す。やはり気になるのは押入れだが、まさか勝手に開ける訳にはいかない。本棚を見る。どんな本を読んでいるのか、背表紙を見るくらいはいいだろう。  
そう思って立ち上がろうとすると、ちゃぶ台の上に置いてあった翔の携帯が“光と影を抱きしめながら”の  
メロディを奏でる。  
「 !? 」  
 金縛りにあったように動けない。風の目は釘付けになる。見たい。だがもちろんそれはダメだ。でも見たい。  
しばらく葛藤があったが、携帯を見てしまったら、翔の顔はまっすぐ見れないだろう。  
「 ふぅ〜〜 」  
 またまた翔の所為でため息をつくとガックリとうなだれた。それを見届けたようにメロディが消える。  
 
「 なかなか茶葉が見つかんなくて〜て、 ん? どうしたの 」  
 顔を上げると、お盆にきゅうすと湯のみを載せた翔が立っていた。盆を置きながら、心配そうに顔を  
見つめてくるが、いまはその気遣いが心を苦しくさせる。  
「 なんかあった? 」  
「 あの……メール…… 」  
 言ってしまってから気づく、そんな事を言っては見ないわけにはいかないではないか。  
無意識に探るような事をしてしまい、ますます落ち込む。  
「 メール? 」  
 携帯に、何気なくのばす翔の手を、風の震える手がつかんだ。  
「 うん? 」  
「 ごめんなさい…… 」  
 なにがごめんなさいなのかわからず、覗き込むように顔を近づけると、風は潤んだ瞳で唇を押し付けてくる。  
いつもならこちらからのキスを待っている風のほうからしてきて、翔はいささか面食らった。  
「 ごめんなさい…… 」  
 唇を離し、紅く頬を染めながら、風はつぶやくと、また貪るように翔の口唇を求めてくる。  
“ぬぬッ” 歯を押し割って、翔の口中に風の舌が入り込んできた。  
技術もなにもない。思いを抑えきれない……ただそれだけで、翔の舌を吸い、からめてくる。  
風の腕が、翔の首の後ろにまわされ、ぐいぐいと身体ごと押し付けて、いつしか押し倒す形になっていた。  
「 プハァッ ハアッハアッ 」  
 息苦しさに顔を上げた風の瞳は、切なさと興奮で爛々と輝いている。  
「 動かなくて…いいですから…… 」  
 そう言って、シャツのボタンに手を掛けるが、指が震えてなかなか外せない。何度も何度もトライする。  
  ……がんばれ!……がんばれ!………  
 翔は心の中で声援を送っていた。苦労してボタンを外し終わると、風はシャツの前をはだける。  
筋骨隆々ではないが、無駄な肉がついてない引き締まった身体を前にして、風の喉が“ゴクリッ”と鳴った。  
今度は自分のブラウスのボタンを外していく。  
 
この日の為につけてきた上下お揃いの淡いピンクのブラジャー。  
そこに包まれた丸い零れ落ちそうな大きな乳房は、翔の視線を浴びすでに火照っていた。  
“ちゅッ” 音を立てて首筋から胸板にキスの雨を降らせる。徐々に風の口唇は下がっていき、ヘソに達すると舌をのばし子犬のようにペロペロと舐める。  
くすぐったさと興奮で翔の“男性自身”は痛いくらいに大きくなっていた。  
それを見て風は、今日何度目かわからない生唾を飲み込む。  
シャツのときもそうだったが、人を脱がすという行為はこんなにも緊張するものだろうか。シャツのときより倍以上の時間をかけて、硬直してる“男性自身”を取り出し、愛しげに手で包んだ。  
まだ二回しか触れた事がないのに、絶妙の力加減で上下にしごく。魅入られたかのように一所懸命に手首を  
動かしている。  
ただでさえ、はちきれそうな“男性自身”は、もうそれだけで熱いものが込み上げて来そうだった。  
カリの辺りに引っかかる指先がどんどん快感を引き出していく。  
「 痛くないですか? 」  
「 うん… いい感じ…… 」  
 どうしたら喜んでもらえるか、風はいちいち翔の反応をうかがってるようだ。  
「 あの…… 目をつぶってもらえますか…… 」  
「 うん? 」  
「 してみたい事があるんです…… 」  
「 わかった 」  
 大人しく目をつぶると、パチッとブラのホックを外す音が聞こえる。  
  ……ぐわぁ〜〜!……すぅんげぇ〜〜目開けたい〜〜!!……  
「 絶対に……開けちゃダメですよ…… 」  
 翔の心の叫びが聞こえたのか釘を刺す。しばしの間をおいて、ふんわりと“男性自身”がなにかに包まれた。  
大体予想はついてるがどうしても見たい。  
そっと様子をうかがうと、風はぎこちなく左右の胸を寄せて“男性自身”を挟み込んでいた。  
 
「 あッ!?……見ちゃ……だめです…… 」  
「 すごい…いいかも…… 」  
 こわばりの大部分は柔らかな肉の狭間に没し、先っぽだけがかろうじて頭を出している。恥ずかしげに  
目を伏せながらも、風は上半身をゆっくりと上下に動かしはじめた。  
口とも膣ともちがう、柔らかいがぬめりのない感触。さんざん風の口唇に焦らされた翔の身体は、  
この単調な動きにも昂ぶり、亀頭からは透明な粘液を出して風を助ける。  
「 もっと…強いほうがいいですか…… 」  
「 うん…… 」  
 確かに気持ちいい、視覚的には圧倒的だ。でもなにかもどかしい。  
「 言ってください…… 」  
「 口でも……して…… 」  
「 はい…… 」  
 舌をチロリッと出すと、翔を見上げながら亀頭を舐める。  
刺激的な動きは無いものの、愛しいものへの思いが伝わってくるような、ひたすら優しい舌使い……  
「 んッ……んンッ…どうですか…… 」  
「 あ、ああ……気持ちいい…… 」  
 風の懸命さによって、熱いものは徐々に競り上がり、翔は股間に広がる熱さに負けそうになる。  
「 ちょっと…クッ……タンマ! 」  
「 よく…ないですか…… 」  
 待ったをかけると、途端に風の顔が泣きそうになるが、“男性自身”はすでにピクピクと脈うっていた。  
「 いや、出そう 」  
「 出してください…… 」  
「 中に…風ちゃんの中に出したい…… 」  
「 あ……はい……来てください…… 」  
 翔は身体を起こすと、女の子座りしている風のスカートに手を差し込む。  
ショーツの脇から“女の子”の部分に指先が触れると、そこはもう、しっとりと濡れていた。  
小さな突起を上から押し包むように愛撫すると、秘裂から愛液が溢れ出し指に絡みつく。  
 
「 ひッ、うッ……うぁッ!…… 」  
 中指を立てて、熱い肉壁にかきまわすと、風の身体は気持ちよさそうにビクビクと震える。  
「 脱がすよ… 」  
 恥ずかしげに顔を伏せた風に口づけてショーツを取り払った。  
内股になった膝頭をつかむと、意図を察した風の身体が一瞬“ピクッ”となるが力を抜くと  
潤んだ瞳で足が開いていくのを見つめる。“女の子”はテラテラと濡れ光り、誘うように口を開けていた。  
「 膝もってて… 」  
「 ああッ…… 」  
 隠す事は許されず、翔にすべてを見られている風は、悩ましげなため息をもらす。もうちょっと風の痴態を楽しみたいが、翔にもそんな余裕はない。  
秘裂に“男性自身”をあてがい少しだけ先端を差し込むと、風の身体が緊張するのがわかる。  
まだ二回目、やはり怖いのかもしれない。  
「 力抜いて 」  
 ゆっくり……翔のモノが風の中に飲み込まれていく。  
健気に膝をつかんだままガクガクと身体を震わせる風を抱きしめ、“男性自身”はより深い場所に突き進んだ。  
「 んンッ!……くッ…うぁッ……ああッ!…… 」  
 快感と苦悶の入り混じった声を上げ、風は全身を大きく震わせる。  
「 ハッ……あッ……あふぁッ!…… 」  
 じゅむッ・じゅむッ・じゅむッ  
 優しく突き入れていた翔も、扇情的な声に煽られ、腰の動きは荒々しいものに変わっていた。  
 
「 だ、だめです…そん…ひぅッ…なに…うぁッ…激しくしたら…… 」  
 風は入れられるは痛いだけだと思っていた。  
それでも翔が喜んでくれればいい、それだけだったが、いまは荒々しい抽送に翻弄されて、絶頂への階段を  
急速に駆け昇っていく。  
翔のほうも身体の中に溜まりきった熱いものが、今にも噴出しそうになっていた。  
「 風ちゃん、出していい… 」  
「 は…はい…ああッ…出してくだ……んンッ…さい…… 」  
 亀頭が抜けてしまうほどまでゆっくりと腰を引き、それから一気に根元まで貫く。  
 びゅッ・びちゅッ!  
「 あぁッ……ひッ!?……んあぁッ!! 」  
 風のもっとも深い場所で翔の“男性自身”が爆ぜると、風は白い喉を無防備にさらして仰け反った。  
力の抜けた翔が豊かな胸元に倒れこむ。目眩がしそうなほどの快感の中、翔のあたまを撫でて…  
 
   ……お姉様…ケダモノになるのは、オトコの方だけとは、限らないみたいです……  
 
 
                                       風編その三 終わり  
 

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