――今日も来てくれたようだ。  
なんとなく、わかった。  
これがセフィーロの人々がよく言う、「気配がわかる」ということだろうか。  
きっと、彼女はどこよりも先にここへ来てくれるだろう。  
いつものように。  
だが今日はいつもと違い、彼の親友であるランティスが不在だ。  
彼女にしてみれば、残念なことこの上ないだろう。  
猫耳を倒してしゅんとするその表情は、彼の想像だが、触れられそうな程に確かに浮かぶ。  
 
部屋と呼べるかどうかわからない場所。  
森林浴を目的とした公園に近い。  
奥行きはかなりあるが、横幅があまりない。  
奥の方に石造りの階段が数段ある。  
その上は床が石でできていて、その上にベッドが置かれている。  
彼――イーグルはそこに座っていた。  
精神エネルギーを使い過ぎた彼は、セフィーロ到着後すぐに眠りについた。  
最初は本当に眠っているだけだった。  
しかし次第に周囲の声に反応し始め、心を通して会話が出来るようになり、最近ついに目を覚ました。  
現在では、少し城の中を歩きまわる程度にまで回復している。  
それが、光には嬉しくて仕方がないようだ。  
彼女が喜んでくれて彼も嬉しい。  
彼はオートザム軍を利用して、私的な願いのためにセフィーロに侵攻した。  
セフィーロや彼の部下は、「イーグル・ビジョンは戦闘中に病で倒れ、講和が成立したセフィーロで療養中」とだけオートザムに報告してくれた。  
彼が何のために闘ったかはオートザムに伝えられていない。  
そのため、形式的には、彼には何の罪もないことになる。  
それどころか、病にもかかわらず、国家のために闘った英雄と思われている。  
しかし、罪悪感が彼を苛むのだ。  
彼が穏やかに生きていられるのは、彼の回復を願い、喜んでくれる人がいるからこそである。  
 
「…来ましたね」  
一人ごちる。  
 
予感通り、数秒後にドアが開いて彼女が入って来た。  
「イーグル、こんにちは!」  
「こんにちは、ヒカル」  
いつも通りの挨拶。  
光が声をかける。  
「隣に座ってもいい?」  
「どうぞ」  
笑って手を取り、隣に座らせる。  
このような紳士的な扱いには慣れないのか、くすぐったそうに光が笑う。  
そんな光を見て、イーグルが何かに気づいたような顔をした。  
その表情に、光が頭に疑問符を浮かべる。  
「いつもと何か違うと思ったら…」  
そう言いながら、イーグルは左手を光の右頬にあてた。  
その親指で、軽く光の唇に触れる。  
薄いピンクの、透明なグロス。  
「あ、海ちゃんがくれたんだ。自分は使わないからって…」  
「よく似合ってますよ」  
実際そのグロスは、初々しい女の子らしさを醸し出していて、光によく似合っていた。  
「そっ、そんなことないよ!海ちゃんの方がよく似合うんだけど、海ちゃんは甘いもの嫌いだからこれ苦手なんだって、それで…」  
似合っていると褒められ、気恥ずかしいらしい。  
赤くなって慌てる様が可愛い。  
くすくす笑いながら問う。  
「で、どうして甘いもの嫌いだとそれが苦手なんです?」  
甘いものと化粧品には、関連性はないように思える。  
「これ、苺の…えっと私達の世界の甘い果物の味なんだよ」  
「果物の味の化粧品とは、面白いですね」  
「うん」  
そっと光を横抱きにして、自分の膝の上に乗せた。  
 
「えっ…?」  
目をぱちくりして、驚いているようだ。  
横向きに座らせた彼女の、耳元で囁く。  
「ランティスがいなくて、寂しいですか?」  
その言葉に、彼女の顔が見事に赤く染まる。  
小さく頷いた後、イーグルが口を開く前に、遮るように言った。  
「でっ、でも…っ」  
「…でも、何ですか?」  
その問いに、光は一瞬の沈黙の後に顔を上げ、笑って言った。  
「イーグルに会えて嬉しいよ」  
「ありがとう」  
そう言って、優しく抱きしめた。  
しかし心中は複雑だ。  
ランティスと光に幸せになってもらいたい、という願い。  
光が自分とランティスを平等に扱ってくれることを、嬉しく思う気持ち。  
それでも、捨てきれない独占欲。  
矛盾だらけだが、どれも自分の正直な感情である。  
 
整理出来ない思いをそのままに、彼は少女の名を呼んだ。  
「…ヒカル…」  
光が、何?と、笑ってこちらを向く。  
薄くグロスが光っている。  
濡れたようなその小さな唇を、彼は自分のそれで塞いだ。  
かすかにグロスの甘い味がした。  
イチゴという果物は、こんな味がするのかと思いながら光を見る。  
光は一瞬、何が起きたかわからないという顔をしていたが、状況を把握すると赤くなって手で口をおさえた。  
声も出ないし固まっているが、内心慌てているのがわかる。  
すっかり茹であがったような頬にも口づけようとしたが、彼女が言った。  
「ちょ、ちょっと待って」  
 
止めようとしたのだろうか?  
おとなしく次の言葉を待っていると、彼女が制服のスカートのポケットを探り出した。  
ハンカチを取り出し、彼の唇にあてる。  
何をやっているのかと思ったら、彼女は赤くなったままで言った。  
「あ…えっと…ついちゃってたから…」  
グロスがついてしまったのを拭ってくれたのだと、ようやく理解する。  
「…ありがとう」  
気遣いに対して礼を言う。  
しかし……  
「どうして、怒らないんですか?」  
ファーストキスを突然奪われたのに、どうして怒らない?  
「初めてだったんでしょう?」  
「でもでもっ、イーグルが…してくれたから…」  
意味が分からない。  
「キ、キスって、好きな人にするって、だがら…っ、イーグルがしてくれたから、嬉しいな、って…」  
…文章になっていない。  
要するに「キスは好きな人にするものだから、イーグルが自分にしてくれたということは、彼が自分のことを好きでいてくれたということで、それを考えると嬉しい」  
――と、いうことだろうか。  
頭の中でそう翻訳する。  
彼女が考えているものと自分の「好き」は違うような気がするが、好かれて嬉しいと言われ、悪い気はしない。  
――悪い気はしないが…自分の彼女に対する「好き」の意味と重さを知らせたいとも思う。  
 
もう一度、彼女を横抱きにする。  
そっとベッドに横たえ、言った。  
「では、別のこともしましょうか」  
「別のこと…?」  
 
少し呆然としているように見える。  
まだ少し赤みがかっている頬に、唇で触れた。  
制服のリボンを解き、ブラウスのボタンを手際よく外していく。  
そこまでされて、やっと彼の言う「別のこと」が何か気づいたらしい。  
「あ、あのっ…イーグル…!?」  
顔を見なくても、焦っているのがわかる。  
彼の方へ腕を伸ばしたが、抵抗するわけではないようだ。  
彼の腕にすがりつくように、両手で彼の両袖をつかんでいた。  
……いたのだが。  
ボタンを外し終えた時点で、彼女は慌てて胸を隠した。  
「脱がせるのは許してくれても、見るのは駄目なんですか?」  
からかうように言ってみる。  
「だ、だって!私…胸、ないから…」  
最後は消え入りそうな声になっている。  
茹であがっていた頬は、すでに燃えてしまっていた。  
思わず笑ってしまう。  
胸を隠すその手を、やや強引にどける。  
白い、リボンがついた可愛いブラが見えた。  
確かに胸は、彼女が言う通り、小さい。  
だが、なめらかな肌がやけに魅力的だった。  
胸元をそっと撫でる。  
「ちゃんと綺麗ですよ、ヒカル」  
恥ずかしがって何かを言おうとした唇に、もう一度キスをする。  
ついていたはずのグロスは、ほとんどついていない。  
「…せっかく塗っていたのに、とれてしまいましたね…」  
「あ、ううん。塗り直せるから大丈夫だよ」  
光がスカートのポケットから、グロスを取り出す。  
話が色気のない方向へ逸れ、思わず彼は苦笑した。  
グロスの細い容器を、優しい動作で取り上げる。  
取り返そうとして起きあがった光を、抱きとめて上着とブラウスを脱がせた。  
 
「イーグル!」  
珍しく、少し怒っている。  
悪ふざけが過ぎたようだ。  
その言葉を無視し――内心はともかく――、彼はグロスの容器を手に乗せて、光に見せながら問う。  
「これ、どうやって塗るんです?」  
混乱する頭で、光が極力胸を隠しながら、キャップを開けた。  
キャップに繋がっているチップをイーグルに見せる。  
チップを唇にあて、塗る動作をする。  
「こうやって塗るんだよ」  
上半身は下着姿、下半身は来た時と同じ。  
胸を隠すためだろう、三角座りをしている。  
その手からグロスとキャップを、もう一度奪い取る。  
「塗ってあげますよ」  
「えっ…自分で塗れるから大丈夫だよ」  
一瞬、小さな容器を取り合う形になってしまった。  
イーグルがそれに気づき、手を離したが、光も同時に離していた。  
容器は三角座りをしていた光の膝の上に落ち、ベッドの上に転がり落ちる直前、イーグルの手に受け止められた。  
少し、中身がこぼれてしまったようだ。  
「すみません…」  
謝って容器を光に差し出しながら、シーツを見た。  
そこにはほとんどこぼれていない。  
光の膝の上にこぼれていた。  
わたわたと光が慌てている。  
彼女の膝から内腿へと、透明ピンクの蜜が伝うのが見えた。  
彼の目にはその様子が、ひどく扇情的なものに映った。  
黙って彼女を押し倒す。  
「…え…?」  
驚いている彼女から、スカートが取り払われた。  
「んん…っ」  
キスで言葉を封じる。  
 
下着越しに、胸を触る。  
光がとっさに、両手でブラの中央を覆う。  
外されるのが怖くてとった行動だろう。  
しかし、そこから外せばいいことを彼に教える結果になった。  
ホックの外し方がわからず、また光が身動きするため、内心少し苦労したが、外れた。  
光が慌てて胸を隠した。  
フロントホックのブラをつけていたことを、心の中で後悔していたかも知れない。  
「隠しちゃだめですよ」  
胸と、それを守る細い腕との間に、手を割り込ませた。  
揉む、というより、強めの力で撫でるような動作。  
無理に揉むと痛いだろうと考えてのことだ。  
光は声こそ上げないが、呼吸を荒げている。  
啄むようなキス。  
少しずつ深くしていった。  
先程服を脱がせた時と同じように、彼にしがみつく。  
彼女の手が震えているのを感じた。  
額、頬、首筋、胸元にもキスをしてから、桜色をした胸の先端を軽く吸った。  
「ひゃぁ…っ…」  
反応の良さに満足し、彼は行為を続けた。  
その先端を口に含んだまま、舌で転がすように舐め、吸う。  
「…イーグル…くすぐったい…」  
しかしそのまま続けていると、彼女の反応が変わっていった。  
「…ん…ふぅ…」  
時々、鼻にかかったような声が漏れる。  
それを聞いて、彼は胸から唇を離した。  
「ヒカル…」  
囁く。  
 
もしかしたら、声を漏らさないように、息を止めていたのかも知れない。  
光はずいぶん苦しげに見えた。  
「大丈夫ですか?」  
「だいじょぶ…」  
まだ、彼の肩にしがみついている。  
汗ばんだ額を、前髪を掻きあげるようにそっと撫でる。  
リボンが解けそうになっている三つ編みにふと気づき、解いた。  
編んでいたせいで、ウエーブのかかった髪を梳く。  
荒い息、紅潮する顔、激しいキスとグロスで濡れた唇、ふわふわと顔を飾る髪。  
意外に色っぽいかも知れないな、と思った。  
頬にキスを一つ落として、細いウエストをくすぐるように撫でた。  
くすぐったいのか、光が身動きした。  
そのまま、手を下へ下ろしていく。  
適度に筋肉のついた、華奢な脚が視界に入った。  
膝から内股へと流れ落ちたピンク色のグロスが、彼女が膝を立てずに横たわっていたため、シーツに流れていた。  
中心へ、手を這わせる。  
彼女は脚を閉じて抵抗しようとしたが、彼の手が到達する方が早かった。  
下着の上から触れたそこは、すでに濡れた感触を彼に伝えた。  
中に指を忍ばせ、割れ目をなぞる。  
「…っ!」  
もしかして、怖がっているのだろうか?身体がこわばっている。  
そんな気がして、先程よりも優しく指を動かす。  
「ん…く…」  
濡れた指で、花芽を弄ぶ。  
「ひぁ…あっ…」  
子犬が鳴くような高い声で、光が啼く。  
ぎゅっと左手で彼女を抱きしめ、動きを封じてから最後の一枚を脱がせた。  
ばたばたと脚を動かして隠そうとしたが、入り口に指を押しあてると静まった。  
 
やはり怖いのだろうか。  
大丈夫だと言う代わりに、そのまま奥に指を進めた。  
「んん…っ…」  
光は初めて感じる異物感に、歯を食いしばって耐えている。  
いったん指を引き抜き、今度は二本、挿れた。  
「!…あっ…あ…」  
その声は快感のせいか、痛みのせいか。  
ゆっくりと動かす。  
グロスとは違う、透明な蜜が溢れてくる。  
声と、表情と、指を強く締め付ける感触。  
まだ幼い少女が与える感覚に、彼自身がすっかり狂わされてしまう。  
素早く衣服を脱ぎ捨て、壊れそうに小さな身体を抱きしめた。  
何をされるか、さすがにここまで来れば理解しているように見えた。  
――そこに至るまでの経緯はほとんど知らなかったようだが。  
ぎゅ、と抱きつかれた。  
「可愛いですね、ヒカルは」  
首を左右に振る光の髪を、指に絡めるようにして梳く。  
「可愛いですよ。だから、ここまでしてしまうんです」  
卑怯かとも思った。自分の行為の責任を彼女に押しつけるようで。  
――だが。  
「…イーグル…」  
彼の名を呼んで、光は抱きつく力を強くした。  
「手を、離さないでくださいね」  
そう言って、熱を持って彼女を求める自身を、彼女の中へと分け入らせた。  
「っ、あ、あああああっ!!」  
苦痛に光が叫んだ。  
 
「…ヒカル…ゆっくり、息をして…」  
呼吸で身体が動くことで余計に痛むため、なかなか言われた通りに出来ない。  
光が痛がるのを宥めつつ、彼女の腰の下にクッションをあてがった。  
次第に呼吸が安定してくるのを感じ、息を吐くタイミングに合わせて中に進む。  
一センチ進んでは止まり、止まってはまた進み…を、時間をかけて繰り返して、ある程度奥まで入った。  
もう一度止まり、頬を撫でる。  
痛いとは言わず、同じように撫でてくれる姿が、痛々しくて、そして愛しい。  
もう一度抱きしめ、ゆっくり動き出した。  
「あっ…ああ…んっ…はぁ…」  
彼が動く衝撃に声を上げる。  
彼にしても、指二本で精一杯だと思うぐらいに狭い場所に入っているのだ、楽とは言えない。  
疲れたためかも知れないが、少しずつ、光の身体の強ばりが解けてきた。  
少し、彼が動きやすくなり、動くスピードを上げた。  
かなり痛いのか、彼女はほとんど声さえ出せずに彼に揺さぶられている。  
強く締め付けられる、ほんの少し痛みの混じった快感。  
限界が近付いてきたのを感じる。  
譫言のように、名前を呼ぶ。  
「…ヒカル…」  
涙に濡れた瞳がこちらを見た瞬間、彼は彼女を解放した。  
突然の動きに声を上げた彼女の脚の付け根あたりに、熱い白濁がかかった。  
 
「ヒカル、大丈夫ですか?」  
「…だいじょうぶ…」  
しかしぐったりしている。  
隣に横になっている光を引き寄せ、背中を撫でる。  
「…すみません…あんな、乱暴にしてしまって…」  
「そんなことないよ!イーグル、優しくしてくれたじゃないか!」  
痛いだろうに、ぱっと起きあがって言う。  
優しい、とはどういう意味だろう。  
「貴方に痛い思いをさせたのは、僕ですよ?」  
「でも、リップグロスが制服に付かないようにしてくれたし、何度も撫でてくれたし、名前も呼んでくれたし!」  
そっと腕を伸ばし、光をもう一度抱き寄せる。  
乱れてしまった髪を梳く。  
そうしているうちに、疲れ切っていた彼女の瞼が少しずつ落ちてきた。  
「ありがとう、ずっとこうしていたいほど幸せですよ」  
寝息をたて始めた少女の耳元に、そっと囁いた。  
 
 
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