幼い頃、よく母が絵本を読んでくれた。  
 暖かな子供部屋で姉と共に母の膝元に座り込み、物語を読む母の優しい声音を聞くことが風は大好きだった。  
 母が読み聞かせてくれるお話は多岐に渡り、昔話や童話、時には教訓めいた結末のもとと様々だったが、中でも西洋の王子や姫君が織りなす物語が姉妹に強く印象を残した。  
 幼くても女の子。愛や恋に憧れた。  
 その多くは恋する二人が多くの困難を乗り超え、結ばれるというお話。とても幸せな、美しい結末。  
 そんなきれいなお話を、姉と二人でうっとりと耳を傾けていた。  
 でも、それはただのお話。現実にはないお伽話。  
 歳を重ね、成長するに連れ幼い頃聞いたお話は現実とは違うことを知る。  
 
 しかし  
 風の身の上に、それは起きてしまったから。  
 
 
 大きな、とても大きな窓からは見えるのは満点の星と満ちつつある月。  
 夜は青白く明るく、藍色の空に浮かぶ島がうっすらと見えた。  
 月明かりの照らす部屋には広いベッドがある。その上で風は背中をベッドに埋めながら−−−−男に組敷かれていた。  
 はだけた胸元を辿る指に風の吐息が色づいていく。二つの膨らみを大きな掌に包み、五指を使って揉まれ身悶えた。  
 潤んだ瞳の見上げた先には、緑色の髪を持つこの国の王子、フェリオ。  
 フェリオは風の足の間に自分の身体を強引に入れた。そして乱れた夜着を脱がせながら口づけ、侵入する舌が風のそれを探す。応えて差し出すと、強く吸われて絡んだ。激しいのに心地よくて身体の芯が熱く痺れていく。  
   
 ここはセフィーロ。精霊がいて精獣が暮らし魔法が存在する、緑と水に満ちた美しい異世界。  
 風は今は亡き姫君に召還され、異世界の王子と恋に落ちた。−−−−かつて読んでもらったおとぎ話の様に。  
 
 淡く色づく先端を指の腹で弄られ、舌で転がされ背が反らされる。飽くことない乳房への愛撫に、既に濡れた秘裂の奥がどうしようもなく疼いた。乳首を持ち上げる様に吸われ、離されると乳房は重くぷるぷる揺れる。  
 フェリオは膝裏に手をかけて風の脚を大きく開かせた。月明かりの元、濡れそぼった秘部がフェリオの眼前に晒され、白い内股が震える。  
 敏感なそこを生温い舌が這い、風は身体を震わせながら細い悲鳴を上げた。粘膜を舐め上げていたそれがぷっくり膨らんだ芽を捉えて、舌先を小刻みに動かされるとあられもない声が唇から零れた。腰が艶かしく動くのを止められない。  
 全てを見られ、触れられ、堪らなく恥ずかしいのに身体は確かに悦んでいて。  
 気を逸らしたくて視線を窓へと向けると、そこには風の生きる世界とは違った、文字通り別世界が広がる。まるで夢の中にいるような錯覚を覚えそうだ。  
 しかし、今は風にとってもこの世界は現実だ。囁かれる睦言。重なる体温。彼の鼓動。そして身体を熱く濡らす執拗な愛撫−−−−。それらが風にここも現実なんだと知らしめる。ただ一人、風の身体に触れる彼だけがもたらす快感によって。  
 軽く達して肩で息をしている風の耳元に寄り、フェリオは笑いを含みながら意地の悪い軽口を言う。ささやかな抗議を言おうとする唇にフェリオは啄むように口づけた。  
 
 身体の両脇に手をつき、熱く硬い強張りが粘膜の入り口にあてがわれると、風の胸は期待で高鳴った。自身を溢れる愛液で濡らしながら、フェリオがゆっくり中に侵入してくる。  
 それだけで気持ち良くて風は背を反らしてしまう。きつく温かな膣の感触に、フェリオも悩ましい吐息をついた。  
 完全に中に収まるとフェリオは徐々に腰を動かし始めた。深く浅く穿つそれは風の思考を一気に奪う。強い快感につい逃げてしまう腰を押さえ付け、フェリオは風が顕著に反応する場所に己を何度も何度も擦り付けた。間断無いその責めに鳴く声は彼を更に煽り奮い立たせる。  
 風の身体が悦べばそれだけ自分に快感が跳ね返ることをフェリオは知っている。軽く腰を動かしながら親指の腹で膨らんだ紅い芽を刺激してやると、甘い喘ぎと共に膣がきゅっとフェリオを締めた。柔らかな襞はフェリオに甘く絡んで離さない。  
 華奢な身体は突き上げられる度に不釣り合いな程大きい乳房を揺らした。大きく開かさせた脚が張りつめ、風は限界が近いことを知る。  
 シーツを握りしめていた手がフェリオの首に回し、そっと自分へ引き寄せた。フェリオの顔が風の首筋に埋まり、しっとりと汗ばんだ互いの肌が重なり合った。  
 首筋を舐め、フェリオの腰使いが深く激しくなる。脳を蕩けさせる容赦のない抽送に、我知らず風の腰も妖しく動いた。湿った卑猥な音が辺りに響いて、否が応でも二人を煽った。  
 息を継ぐのも難しい中、弱い所を責め続けられた膣が一際強くフェリオを締め上げた。極まった風が甘い声を上げて断続的に震え、それに誘われる様にフェリオは己を吐き出した。  
 
 ようやく行為の熱も冷めた頃、風はフェリオとベッドで微睡んでいた。  
 乱れたベッドの上、寝そべりながらフェリオは風を抱きしめ髪を梳いている。触れる素肌が温かく、気持ち良い。  
 本来なら触れることはおろか出会うこともない異世界の王子は、余韻に浸りつつ指先で風の髪を遊ばせていた。  
 フェリオの胸に顔を寄せながら風は思う。  
 清らかで美しいお伽話の姫君たち。彼女たちも恋しい者に毎夜抱かれているのだろうか。  
 男の腕の中で淫らに乱れ、腰を振って快楽を貪る。なんて嫌らしいんだろう。…しかし。  
 お伽話のようなこの世界でも、恋愛は綺麗なばかりではない。それはフェリオが教えてくれた。二つの世界は、結局何も変わりはなかった。  
 「何を考えている?」  
 低い、穏やかな声に視線を上げる。覗き込むフェリオの眼に自分を映して、風は微笑んだ。  
 答える代わりに温かな胸の小さな突起をぺろりと舐める。風の髪に絡んだ指がびくりと反応した。  
 「おい……」  
 掠れた声が嬉しくて何度も舌を伸ばすと、硬くなった彼の一部が風の下半身に触れた。半端な刺激に堪えられなくなったフェリオが、勢いよく身体を反転させ風に覆いかぶさる。  
 噛み付くような口付け。身体を乱暴にまさぐられ、風の中心も再び疼き潤っていく。  
 この温もりと快楽が、異世界と自分を繋ぐ証。  
 そして風は、愛しい人を迎え入れるため大きく脚を開いた。  
 
 美しく、嫌らしい姫君たちと同じように。  
 

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