もう未来は決まったのだ。  
窓の外を見ながら心に呟く。  
 
窓の外には夜の景色があった。  
あと数時間もすれば、目に映る全てが日差しを受けて輝くのだろう。  
翳りこそあれ、まだこの世界は美しいと言えた。  
――やがては太陽さえも失われるのだろうが。  
 
部屋に視線を巡らせる。  
広いベッドは、半身を起こした彼と、その傍らに横たわる女を優しく受け止めていた。  
女を見下ろす。  
透明とも言える白い肌、長い漆黒の髪。豊満な肢体。  
激しい情事の後ではあったが、眠ってはいなかった。  
 
婉然と微笑んで、女が声をかける。  
「何をお考えですの、ザガート様?」  
艶やかな声。  
歌うような抑揚。  
慈悲深いまでに情感のこもった声。  
 
化粧をしていない顔は、いつもよりもどこか優しげで。  
佳い女だ。  
恋愛対象というより、性行為の対象としての。  
 
彼はようやく口を開いた。  
「夜明けまで、まだ時間がある」  
 
男は理解している。  
目の前の女が、情事の続きを期待していると。  
ほのかに色づくその表情に、彼自身、自分の中で何かが上昇するのを感じた。  
 
何の準備もなく、そのまま女の膝を開いた。  
乱れたままの秘所に自らを押し込む。  
 
「あ、ああっ!」  
苦痛の声か、快楽故の叫びか。女が高い声をあげた。  
そこは熱く溶けていたが、意外なほど狭く、彼を押し返すようだった。  
その抵抗を無視して勢いのまま奥まで突き刺した。  
 
達するまで動いてしまおうかとも思ったが、奥に当たった状態で一度動きを止めた。  
 
酸素を求める魚のように、女が呼吸している。  
眉根を寄せ、瞳を潤ませ。  
その顔は苦しげでありながら、艶めかしかった。  
 
半開きの唇を吸う。  
柔らかな感触だが、それをゆっくり味わうような真似はしない。  
欲求のままに、奪うだけだ。  
そのまま中に舌を差し入れ、気の済むまで蹂躙していく。  
女の舌がそっと差し出される。  
わざとゆるゆるとそれを噛んだ。  
下半身の、繋がった場所がさらにきつく締め付ける。  
もし獣が口づけを交わすとしたら、こんな感じだろうか。  
 
たまらなくなって、唇を離す。  
濡れた唇がどこまでも淫靡だった。  
勢いを付けて、腰を引いた。  
抜けそうな程の勢いに、女が高い声を上げた。  
 
いい女だ。強く絡み付いてくる。  
 
見下ろすと、彼が自らを突き刺しているそこは、既に熱く溶けていた。  
溢れている蜜は、既に水のように柔らかい質感に変わっていた。  
すぐに果てそうだ。女も、自分も。  
 
女の白い脚を左側に揃えさせるようにして、横向きにした。  
横顔も美しいな、と一瞬思う。  
向きが変わったことで、感触が変わったそこを楽しむ。  
少し余裕があるのか、女の口からは吐息混じりの、先程より少し低い声が零れた。  
 
さらに左向きに身体を倒して俯せにし、震える膝を立てさせた。  
その体勢で女が振り向いた。  
そのはしたない姿を罰するように、小さな花芯を指先で摘んだ。  
「ひっ、ああぁっ」  
すっかり溶けて自分と馴染んだ肉が、震えるのを感じた。  
 
脱力した女の身体を容赦なく突き上げる。  
嬌声なのか呼吸音なのかも判別が突かない声が聞こえ、彼を煽った。  
自ら動くのと同時に、捉えた女の腰を前後に動かし、激しく抜き差しを繰り返す。  
抜く時は絡まり、刺す時は締め付けるそこは、彼を少しずつ上昇させる。  
 
自分の中の何かが灼き切れる。  
もう何も考えられない。  
そもそも行為の最中に何か考えることこそ、愚かしいのだ。  
もう一人の自分が、彼に低く囁く。  
 
その声を振り切るように、彼は腰を強く打ち付けた。  
もう動けないのだろう、女はその動きに揺さぶられ続けていた。  
動きに合わせて、掠れた短い悲鳴が聞こえている。  
 
ランプの明かりが、淡い影を壁に作っている。  
獣のように交わる男女。卑猥な影絵だ。  
女の影。彼に操られているような動き。  
迫力すら感じる豊かな乳房が揺れている。  
悪くない。  
 
いや。  
 
最高だ。  
 
影から目を離し、女の腰を力任せに引き寄せた。  
最奥に突き刺した状態で、彼は自分の熱を放った。  
 
 
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目を覚ますと、あたりは既に明るくなっていた。  
もう朝が世界を支配していた。  
 
こんな時にも、世界は朝を迎えるのだ。  
 
愛しい姫君がどれだけ自分を愛しても。  
その想い故に、自らを閉じこめても。  
その愛が叶わなくとも。  
彼が、姫の魔導師を抱いても。  
 
緩慢な動作で、支度を済ませた。  
ベッドの上には、女の姿があった。  
 
この女が自分をどれだけ愛しても。  
その想い故に、魔法騎士と戦っても。  
その愛が叶わなくても。  
彼が、女を抱いても。  
 
全ては、定まった方向にしか動かないのだ。  
姫は、消滅を免れないだろう。  
最後の瞬間まで、セフィーロのことだけを思い続けたまま。  
 
眠る女の裸体に乱れたシーツを被せて。  
 
彼は眩しい外へとドアを開いた。  
愛しき姫が、それでも創り続ける、光の中へと。  
 
 
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男はついに知ることがなかった。  
 
姫が最後の一瞬、愛しい男のために祈ることが出来たことを。  
 
彼の予想と、未来が違ったことを。  
 
 
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